歯が痛くなると、「虫歯かもしれない」と思う方は多いかもしれません。しかし、歯が痛くなる原因は、虫歯以外にもさまざまなものがあるのをご存知でしょうか。今回は、歯が痛いと感じる方のために、歯が痛い時の原因や対処法について解説します。また、健康的な口内環境をキープして歯が痛くなる疾患を予防する方法についても触れていますので、ぜひ参考にしてください。
歯が痛い時のメカニズム
歯が痛くなる理由としては、2つのパターンがあります。
1つ目は、歯の痛みです。歯は、エナメル質・象牙質・セメント質という硬い組織からできており、その中心部には神経(歯髄)が通っています。歯由来の痛みは、神経が直接的あるいは間接的に刺激を受けたり、炎症を起こしたりすることにより生じます。
直接的な刺激とは、神経に直接触るような虫歯や炎症などによるもの、間接的な刺激とは、近くにある象牙質の損傷などのことです。象牙質は、エナメル質に比べて柔らかく、傷つきやすいという特徴があります。
2つ目は歯茎の痛みです。歯を包み込む歯茎は、粘膜で覆われています。歯茎と歯のすきまにある歯周ポケットは、汚れが溜まることで炎症を起こしやすい部位です。歯茎の痛みは、主に歯茎の炎症や粘膜病変などによって引き起こされます。
歯が痛い時の具体的な原因
歯が痛い時の原因には、どのようなものがあるのでしょうか。考えられる主な原因をご紹介します。
虫歯
虫歯とは、口内に存在するミュータンス菌により、歯が溶けた状態のことです。ミュータンス菌は、口内に残った糖分を栄養にして酸をつくり出し、歯の表面のエナメル質をゆっくりと溶かします(脱灰)。一方で、唾液中のカルシウムとリンは、溶けた歯を元に戻そうとする働きもあります(再石灰化)。このバランスが崩れた時にできるのが、虫歯です。
虫歯になった時に出る症状は、歯がしみる、歯が痛いなどです。特に、虫歯が進行している場合は、耐えられないほどの痛みが生じます。虫歯による痛みは、歯由来のものといえるでしょう。
虫歯は、ごく初期であれば再石灰化により自然修復できる可能性もありますが、穴が開いてしまっている場合には治療が必要です。乳歯や生えたばかりの永久歯は、特に虫歯になりやすいといわれています。
歯髄炎
歯髄で起こる炎症を歯髄炎といいます。歯髄炎の原因として多いのは、虫歯や外傷などです。虫歯の場合は、炎症が進行して歯髄まで及ぶことにより起こります。
歯髄炎になると、歯に強い痛みを感じます。炎症が軽度の場合は治療が効けば影響が残ることはありませんが、重度の場合には歯髄が壊死してしまうことがあります。歯髄が壊死してしまうと痛みがなくなりますが、治ったわけではありません。そのままにしておくと、さらに病状が進行して歯髄が腐敗したり、歯の根元付近の骨や歯茎に炎症を及ぼす内部的な歯周炎を起こしたりするケースもあるため注意が必要です。
歯肉炎
歯肉炎は、歯肉に炎症が起きて赤く腫れた状態のことをいいます。腫れた歯肉は、やや丸みを帯びたような状態となり、歯磨きをすると出血しやすくなります。原因となるのは、口内の不衛生な状態が続くことです。歯磨きによって取り除けなかったプラークはやがて唾液中に含まれるカルシウムやリン酸と混じり合い歯石になりますこの歯垢や歯石の細菌が歯肉に炎症を起こすことによって、歯肉炎となるのです。
歯肉炎を放置することによって起こるのが、歯周炎です。歯周炎は、細菌が歯茎のさらに奥にまで入り込んで炎症を起こすことで、白い膿が出たり歯がグラグラしたりといった症状が出ます。歯肉炎と歯周炎を総称したものが歯周病といわれています。
つまり、歯肉炎は歯周病の初期段階。歯肉炎は、軽度であれば痛みを感じないこともありますが、歯周炎や、歯肉が壊死する急性壊死性潰瘍性歯肉炎などを起こす可能性があるため、放置するのはおすすめできません。急性壊死性潰瘍性歯肉炎は、潰瘍を生じて歯茎由来の痛みを引き起こします。
萌出性・智歯周囲炎
智歯(親知らず)の生え方の異常により形成された歯肉の溝に細菌が感染し、周囲に炎症が起こることを智歯周囲炎といいます。智歯周囲は歯肉の発赤・腫れ・痛み(歯茎由来)などの症状があり、ひどくなると膿が出たり、口を開きにくくなったりします。
智歯は、すべての歯のなかで最後に、そして最も後方に萌出(ほうしゅつ)する歯です。萌出スペースが狭く、歯が手前に倒れてしまう、真横に生えてしまうなど、萌出方向の異常が起きやすいのが特徴です。
また、智歯の頭部分が完全に萌出せず、部分的に歯肉に覆われてしまう場合もあります。これらの異常があると、きれいに歯磨きできないため口内の衛生状態を保ちにくくなり、智歯周囲炎が起きやすくなるのです。
知覚過敏
知覚過敏は、歯磨きをした時や冷たいもの・熱いものなどを食べたり飲んだりした時に、歯が痛む・しみるなどの症状が出ます。この時の痛みは、歯の神経(歯髄)由来のものです。知覚過敏の原因として挙げられるのは、摩耗により歯の中の神経と食べた冷たい物や熱い物の距離が近くなり症状が表れやすくなります。
エナメル質が摩耗してしまう理由として最も多いのは、誤った歯磨きの方法であるといわれています。本来、歯茎に隠れている歯の根元部分には、エナメル質がなくすべて象牙質でてきています。そのため、加齢によって歯茎が後退すると、歯の中の神経(歯髄)との距離が近くなり痛みが出るのです。
歯の破折
歯が折れたり割れたりすると、歯がしみたり噛んだ時に痛みを感じたりするといった症状が見られます。また、破折した部分から細菌が入り込み、炎症が起こって痛むというケースも少なくありません。歯の破折は、主に外傷や歯ぎしりなどによって起こります。神経が生きている場合は歯の神経の痛みであり。歯の神経が生きていない場合で起こる時は歯の周りの歯茎や骨に炎症が伝わった痛みとなります。
歯が痛い時に自分でできる応急処置は?
歯が痛い時は歯医者に行くのが理想ですが、忙しくしているとすぐに受診できないこともあるでしょう。ここでは、そんな時に自分でできる応急処置についてご紹介します。
まずは口内を清潔にすることが大切!
歯が痛い時には、まず口内を清潔にすることが大切です。歯磨きのポイントは、歯ブラシの毛先を歯だけでなく、歯と歯茎の境目や歯間にきちんと当てることです。毛先が広がらないくらい軽い力で、小刻みに動かして磨きましょう。
歯磨きのあとにフロスや歯間ブラシなどを使ってケアをすると、汚れをよりきれいにできます。フロスと歯間ブラシでは、用途が違うことをご存知でしょうか。フロスは歯と歯の間、歯間ブラシは主に歯と歯茎の間の汚れを除去するものです。両方を使い分けることで、口内を清潔に保てます。
痛いところを冷やす
痛いところを冷やすのも、ひとつの手です。氷や保冷剤などをくるんだタオルや冷却シートなど外部から冷やすことがおすすめです。血液の流れを抑えて神経の圧迫を一時的にゆるめることができるため、痛みが和らぐでしょう。
ただし、これは痛みの原因が虫歯である場合にのみ使える方法です。歯肉炎や知覚過敏などの場合には、冷やすことで痛みが増してしまうケースもあります。
痛み止めで対処する
痛みのある歯をご自身で無理やり触ったりしないようにしましょう。歯科に行くまでの間、あまりに痛みがひどいようでしたら鎮痛剤を服用し、痛みを止めるようにしましょう。
歯が痛い時に避けたいことをチェック
歯の痛みを和らげるだろうと考えてやったことが、かえって痛みを悪化させてしまう可能性もあります。ここでは、歯が痛い時に避けたいことをご紹介します。
刺激を与えないようにする
痛い時に取りがちなのが、ついつい触って刺激を与えてしまう行動です。触れるたびに刺激を与えることになるため、痛みが増してしまいます。舌で触るのも手で触るのも、おすすめできません。手で触ると、手についている菌によって感染症が起こってしまう可能性もあります。歯磨きをする際は、歯の周りの汚れをきれいにする程度にとどめておきましょう。
飲酒を控える
飲酒することで、歯の痛みを紛らわせようと考える方もいらっしゃるかもしれません。確かに、アルコールは中枢を麻痺させて、痛みを忘れさせてくれるでしょう。しかし、これは一時的な効果にすぎないどころか、痛みをさらに強くしてしまう可能性があります。アルコールは血行を促進するため、血流により神経が圧迫されてしまうのです。そのため、歯が痛い時は、飲酒を控えましょう。
入浴や激しい運動は避ける
入浴も、血行が促進されて神経が圧迫されるため、痛みが強くなってしまいます。熱い温度での入浴は、特に避けたいところです。
運動についても、同じことがいえます。毎日身体を動かしている方は、運動できない期間があるとウズウズしてしまいがちです。しかし、激しい運動をしてしまうと血行が促進されて痛みが強くなるため、安静にして過ごしましょう。
歯が痛い時は放置しない
歯が痛いのをそのまま放置してしまうと、症状が悪化したり全身に影響が及んだりとさまざまなデメリットがあります。放置した際に起こりうることを見ていきましょう。
歯が痛いのを放置するとどうなる?
歯が痛いのを放置してしまうと、症状が進行する可能性があります。虫歯であれば、残せるはずだった歯が残せない状態になってしまう、他の歯まで虫歯になってしまうといったことが考えられます。歯肉炎の場合には、進行すれば歯を支える骨まで溶け、歯を失うという結果につながりかねません。
歯が痛いのを放置することで影響が及ぶのは、口内だけではありません。痛みを避けるために痛くない方ばかりで噛んでいると、噛み合わせが悪くなって筋肉が緊張状態となり、頭痛が出ることがあります。
また、感染が顎の骨にまで及んで顎が痛くなることもあります。噛みにくいために消化不良となる、痛みによるストレスで精神的に不安定になるなどの現象も、放置することによる影響だといえるでしょう。
また、虫歯の原因となる細菌が血管に侵入して全身をめぐると、心筋梗塞・脳梗塞・脳腫瘍などの重篤な疾患につながることもあります。近年、歯周病菌により、心疾患・骨粗しょう症などを発症するリスクや、糖尿病が悪化するリスクが高くなることがわかってきています。つまり、歯が痛いのを放置してしまうと、生命に関わる可能性があるということなのです。
放置せずに歯医者に行こう!
「歯医者が苦手」「この痛みならまだ我慢できる」などと放置してしまうと、歯の痛みが悪化する可能性があるだけでなく、さまざまなところに影響が出てきます。歯が痛い時、まずご自身で応急処置をするのももちろん良いですが、そのあとはできるだけ早い段階で必ず歯医者へ行きましょう。歯医者では、痛みの原因を突き止めて、治療方針を提示してくれるでしょう。
歯が痛くなる前に!予防策としてできること
歯の痛みに対処するだけでなく、歯が痛くならないように予防していくことも重要です。歯が痛くなる前に、日ごろからできる予防策をご紹介します。
歯磨きは日々丁寧に行う
口内に残っている歯垢(プラーク)は、細菌が繁殖する原因となります。実際に、虫歯や歯周病などの歯科疾患は、口内の細菌が原因となり発症・進行するとされています。そのため、歯の健康を維持するためには、歯垢をコントロールして口内を清潔に保つことが欠かせません。歯垢のコントロールには、物理的・化学的の2つの方法があります。
物理的コントロール
物理的コントロールとは、歯ブラシ・フロス・歯間ブラシなどを用いて歯垢を物理的に除去する方法のことです。歯磨きは、前述のポイントを意識し、歯並びに合わせて1ヵ所を20回以上磨きます。また、歯ブラシの交換時期にも目を向けてみましょう。交換の目安は、一般的に1ヵ月であるとされています。そして、歯磨きだけでは、歯と歯の間、歯と歯茎の間の歯垢をしっかりきれいにすることができません。フロスや歯間ブラシを歯ブラシと併用しましょう。
化学的コントロール
化学的コントロールとは、歯磨き粉やデンタルリンスに含まれる薬剤の働きによって歯垢の形成を防止することをいいます。その代表となる薬剤が、フッ化物クロルヘキシジンです。フッ化物は、虫歯を引き起こす細菌に対する抗菌作用があり、歯の強化や再石灰化を促進してくれます。また、クロルヘキシジンは、歯垢が形成されるのを抑制し、歯肉炎を改善する働きが確認されている薬剤です。
歯が痛くなってしまう前に、歯ブラシ・フロス・歯間ブラシや歯磨き粉などを用いて歯磨きをしっかり行うことが大切です。
食生活にも気を配る
食生活に気を配ることも必要です。虫歯菌とも呼ばれるミュータンス菌は、ショ糖やブドウ糖、果糖などの存在により、高い威力を発揮します。甘いものを食べた口内は、ミュータンス菌の働きによって酸性に傾き、虫歯ができやすくなります。つまり、甘いものを減らすことが虫歯の予防につながるのです。
よく噛んで食べることも大切です。しっかり噛むことは唾液の分泌を促し、口内に残った食べかすを流したり歯の表面を保護したりすることにつながります。他にも、酸性になった口内を中和したり再石灰化を促進したりする働きもあります。
定期的に歯医者に行く
紹介した2つの予防策を講じながら、定期的に歯医者に行くことも大切です。もし虫歯や歯周病になったとしても、早期に発見できれば抜歯をせずに治療をすることが可能です。また、定期的なクリーニングにより口内を清潔に保てます。受診間隔は、口内の状態にもよりますが、3ヵ月~6ヵ月に1回程度がおすすめです。
おわりに
歯が痛い時は虫歯と結び付けて考えがちですが、歯肉炎や歯髄炎、知覚過敏など、他の疾患が原因となっている可能性もあります。しかし、ご自身でその原因を突き止めることはできません。そのため、痛みを感じたら、応急処置のみで終わるのではなく必ず歯医者に行きましょう。歯医者では、原因を突き止めて状態に合わせた治療をしてくれます。
歯が痛いと、日常生活に影響が出てしまうこともあります。そのため、痛みに対処するだけでなく、予防していくことも重要です。日々のケアや食生活を見直し、定期受診をして、健康的な口内環境をキープしていきましょう。