住宅を建てる際に重要とされるのが、建物を支える地盤の強度です。この強度が低いと地盤沈下が発生し、最悪の場合建物が倒壊する可能性があります。このようなことを防ぐために、地盤が弱い土地には地盤改良工事が必要です。そこで今回は、地盤改良工事の基礎や工法、具体的なメリット・デメリットについてご紹介します。これから新築一戸建てを建てる方、実際に地盤改良工事を行う予定の方はぜひ参考にしてみてください。
地盤改良工事の基礎知識
まずは地盤改良工事の基礎について解説しましょう。また地盤調査とは何が違うのか、地盤改良工事が必要な土地がどんな土地なのか、行わないとどうなるのかについても説明します。
地盤改良工事の概要
地盤改良工事とは、調査の結果、地盤が弱いと判断された土地の地盤を強化する工事です。重量がある建物を支えるためには、強固な地盤が必要不可欠です。地盤改良工事にはさまざまな種類がありますが、建てる家の構造や大きさ、地盤の状態によって最適な方法が異なります。
注文住宅を建設する際の地盤調査や地盤改良工事を行うタイミングとしては、土地の契約と引き渡し終了後が一般的です。場合によっては、ハウスメーカーを決定する前(土地契約前)に地盤調査ができる可能性もあります。
契約前に地盤調査をする主なメリットは、住宅完成までの予算が組みやすくなる点です。地盤改良工事費を確定させておくことで、予算のズレを少なくすることができます。
地盤改良工事の前に行う地盤調査
地盤調査は、建物を支えるための地盤の状態を確認する作業です。地盤調査で地盤が軟弱だと判断された場合は、地盤改良工事を行ってから家を建てます。
昔は地盤調査をすることなく住宅の建設が可能でしたが、調査を行わず軟弱な地盤に建設した結果、不同沈下(地面が沈むこと)や液状化が起こるなどの問題が起きました。その後2009年に住宅瑕疵担保履行法がスタートしたことで、住宅建設の専門会社は住宅瑕疵担保責任保険への加入が義務化されました。保険の申し込みの際に地盤調査が必要になったため、住宅を新たに建築する場合は必ず地盤調査が行われるようになりました。
一戸建ての地盤調査で用いられる方法として多いのは、スクリューウエイト貫入試験です。JISの改訂でスウェーデン式サウンディング試験から改称となりました。3階以上の重量のある家を建てる場合やさらに詳しく地質を調べたいときはボーリング調査を行います。地盤の強度はN値で表され、一般的な一戸建てであればN値が3以上あれば合格ですが、理想としては5以上あるとより安心です。
参照元:株式会社レフトハウジング「支持層とは?支持地盤の確認方法、N値の目安をわかりやすく解説!」
【調査方法】
・スクリューウエイト貫入試験(旧スウェーデン式サウンディング試験)
スクリューウエイト貫入試験では、建物を建てる予定の四隅と中央の計5ヵ所に、先端がスクリュー状になった鉄の棒を地面に立て、棒の上に重りを乗せながらねじ込んでいきます。25cm貫通させるのにかかった回転数や重りの重量から地盤の強度を測ることが可能です。
・ボーリング調査
ボーリング調査では、支持層と呼ばれる硬い地層に達するまで地面をくり抜いてN値を測り、地盤の強度を調査することができます。強度を測りつつ、地中数十mもの地層サンプルも採取でき、地層の深さごとに土の種類や質を調査することも可能です。地盤強度に加えて地盤がどれだけ動くのか、地下水がどこを流れているのかも分かるので、スクリューウエイト貫入試験より詳しく地層の状態を調べることができます。
地盤改良工事が必要な土地の例
地盤の強さは目視では判断できないため、強い土地をあらかじめ見つけることは容易ではありません。そのため、地盤改良工事が必要かどうかは、土地周辺の情報と地盤調査の結果を踏まえて判断する必要があります。しかし、建設予定地と参考とする土地が比較的近距離でも、地盤の性質が変わっている可能性がある点には注意が必要です。
土地購入前に売主の許可を得て地盤調査を行うことが可能であれば、事前に対策の要否と工法を検討できます。売主の意向を確認しておくとよいでしょう。
参考として、地盤改良工事が必要とされる事例は次のようなものがあります。
- 地盤調査にて軟弱な地盤と判断された場合(地耐力20~30KN/平方m以下)
- 敷地や周辺が盛り土で作られた、あるいは埋め立て地の場合
- 過去に陥没があった土地である場合
- 不同沈下や液状化の可能性がある場合
土地を買って家を建てる場合は購入後に地盤調査と地盤改良が必要となることがあります。これらの必要な費用をあらかじめ見積もっておくとよいでしょう。
地盤改良工事をしない場合の不利益
地盤が軟弱なまま家を建ててしまうと、地盤が家の重量に耐え切れず沈み、結果家が傾いてしまうおそれがあります。家が傾くとドアや窓が開きにくくなったり、外壁がひび割れたりとさまざまな部分に影響が出る可能性も。その結果資産価値が落ち、高額な修繕費用に悩まされるといった事態になるかもしれません。
家を建てる際は必ず地盤調査を行い、必要に応じて地盤改良工事をしなければならないことを頭に入れておきましょう。
地盤改良工事の工法一覧
地盤改良工事の方法は4種類あります。どんな方法で地盤を強化するのか、具体的に見ていきましょう。メリットとデメリットも併せて紹介します。
表層改良工法(セメント)
軟弱な地盤が地表から約2mの土地に用いられる方法です。深さ2mを掘り起こし、土とセメントを混ぜ合わせて地盤を強固にします。軟弱な地盤が浅めで、平坦な場所に家を建てる場合は表層改良工法がおすすめです。
【メリット】
- 軟弱な地盤が浅い場合はリーズナブル
- コンクリートや石が混ざった土地でも施工できる
【デメリット】
- 勾配がきつい土地は施工が難しい
- 地下水位が地盤改良面より高いと施工できない
- スキルが必要で、施工者の技術によって強度に差が出る
柱状改良工法(杭打ち)
軟弱な地盤が2~8mほどあり、表層改良工法では地盤強化が難しい土地に対して行う方法です。簡単にいうと、家の下にいくつものコンクリートの柱が地盤に向かって刺さっているようなイメージ。建築する土地に対して碁盤の目のように規則正しく直径約60cmの穴を開け、セメントを注入し柱を作ります。不同沈下の可能性がある軟弱な地盤で、なおかつ将来的に土地を売却する予定がない場合におすすめです。
【メリット】
- 比較的リーズナブル
- 強固な地盤がなくても施工できる
【デメリット】
- 有機質土など一部の地盤ではセメントが固まらないことも
- 施工後は地盤を原状復帰させることが難しく、土地を売る際に価格の低下に繋がる
- 撤去にかなりの費用がかかる
- 狭い土地や高低差のある土地では施工できない
鋼管杭工法(鋼管にて杭打ち)
地中約30mまでの地盤強化が可能な工事方法です。柱状改良工法とほぼ同じ手順で工事が行われます。違いは柱状改良工法ではセメントの柱を注入するのに対して、小口径鋼管杭工法では銅管を地面に打って地盤を固めます。上記の2つの工法に比べて地盤強度が高くなるのが特徴です。支持層が地下深くにある土地や、狭い土地でも支持層があれば施工できます。
【メリット】
- 他の施工方法に比べて地盤強度が高い
- 3階建てのような重量のある建物も支えられる
- 小型の重機で施工できるので狭い土地も工事が可能
【デメリット】
- 支持層がなければ施工できない
- 工事中の振動や騒音が大きい
- 費用が高額になりやすい
- 圧密沈下(長時間にわたって地盤が沈下)が大きい場所では周りの地盤が下がり、杭が抜け上がる可能性がある
砕石パイル工法
地中に柱を埋め込む方法という点では柱状改良工法や小口径鋼管杭工法と同じですが、工法で埋め込むのは石柱です。天然石を小さく砕いて石柱を形成します。地震の揺れに強く液状化を防ぐ効果もあり、実際過去に起きた大地震で大きな被害が出なかったのも砕石パイル工法でした。
予算に余裕がある場合や、一生住む家だから地盤改良の段階から良いものを選びたい場合におすすめの工法です。
【メリット】
- 土壌への影響が少なく、土地の資産価値を維持しやすい
- セメントが固まりにくい有機質土のような他の工法では施工できない地盤に対応できる
- 長期にわたって地盤強化が可能
【デメリット】
- 施工できる専門の会社が限られている
- ほかの施工方法に比べて費用が高い
地盤改良工事の費用相場について
地盤調査や地盤改良工事にかかる費用や施工期間について見ていきましょう。費用相場の目安を知ることで、必要以上の支払いを防ぐことができます。
地盤調査にかかる費用
地盤調査には先ほど説明したとおり2種類あります。それぞれ費用と工期を紹介しましょう。
調査方法 | 費用 | 工期 |
---|---|---|
スクリューウエイト貫入試験 | 50,000円 | 半日 |
ボーリング調査 | 200,000~350,000円 | 数日 |
スクリューウエイト貫入試験では土地の4隅と中心の計5ヵ所を調査します。この5ヵ所の調査結果に差がある場合や、掘り下げる際に異物に当たった場合は調査箇所を増やす場合も。
また、ボーリング調査では調査する箇所数や深さに比例して費用は高くなります。
地盤改良工事にかかる費用
地盤改良工事に伴う費用と工期はこちらです。同じ面積の土地でも土を掘る深さや杭を打ち込む深さによって金額に差が出ます。また、支える建物の重量がある場合や支持層が深い場所にある場合は、費用が通常より高くなることが多いようです。
工法 | 費用 | 工期 |
---|---|---|
表層改良工法(セメント) | 300,000~500,000円 | 1~2日 |
柱状改良工法(杭打ち)深さ4mの場合 | 500,000~1,000,000円 | 3日~1週間 |
鋼管杭工法(鋼管にて杭打ち) | 1,000,000~2,000,000円 | 1~2日 |
砕石パイル工法 | 600,000円~ | 2~3日 |
住宅ローンを上手に活用しよう
地盤調査や地盤改良工事が必要となった場合は、ある程度まとまった金額が必要になります。そのため、あとで想定以上の金額を支払うことにならないよう、住宅ローンの内訳にも念のため含めておくのがおすすめです。
もし住宅ローンに組み込まれておらず思わぬ出費がかさんでしまった場合は、セゾンファンデックスのかんたん安心ローンを活用する方法もあります。電話やWEBサイトから簡単に申し込みが可能。もしものときのために備えておくと安心ですよ。
地盤改良工事の費用を抑える方法はある?
地盤改良工事の費用を抑える方法について解説します。
地盤改良がいらない土地を探す
軟弱な地盤であるほど工事費がかかるもの。もし土地探しから行うのであれば、地盤改良が不要な土地を探すのが無難です。地盤改良が不要な土地を見つける方法をいくつか紹介します。
- ハザードマップで液状化リスクのチェック
- 過去に行った土地の調査結果を確認する
- 周囲の住宅の状況をチェックする(傾きや壁のヒビなど)
ハザードマップは行政のサイトで簡単に確認することができます。紙で確認したい場合は、市町村役場でも配布されているのでチェックしてみましょう。また、周辺の住宅で明らかに傾いている住宅がないか、大きなヒビが発生していないか見てまわるのもおすすめ。近隣住民に直接聞き込みをして、家に不具合がないか教えてもらうのもひとつの手です。家を建てる前の土地の状態を聞いてみるのも良いでしょう。しかし、100mほど離れただけでも地盤の状態が違うことがあります。同じ敷地内でも盛り土をした部分は強度が異なるので注意が必要です。
複数の企業に見積もりを依頼し比較する
地盤改良はハウスメーカーの下請けの専門会社が行います。費用を安く抑えるためにも少なくとも2社以上に相見積もりを取ってもらいましょう。見積もりは必ず提示してもらい、ご自身の目でしっかり内容を確認して、専門会社を選ぶのがポイントです。
地盤以外の工事費用を見直す
地盤改良工事の費用を抑える手段ではありませんが、住宅建設に関わる他の工事費用を抑える方法もあります。家族の安心と安全を支える地盤改良は避けて通れない工事。予算オーバーしてしまうようなら、他の工事の見直しをしましょう。ハウスメーカーに相談すれば、減額案を出してくれるはずです。納得できる提案内容を採用し、請負工事契約の締結を進めましょう。
地盤改良専門会社とのトラブルを避けるためのポイント
一生に一度のマイホーム建設。大切な家の基礎である地盤の改良をお願いするなら、きちんと誠実な対応をしてくれる専門会社が良いですよね。トラブルを避けるためにも、信頼できる優良な専門会社を探したいものです。そこで、優良専門会社を選ぶときのポイントをいくつかご紹介します。
見積もりの内訳を明示している専門会社か
素人では工事内容が分かりにくく、費用が見えづらい地盤改良工事。分からないからといって、一式表示で済ませる事業者は要注意です。使用する材料の単価や重機を使用するための費用や、人件費など内訳を細かく見積もりを提示してくれる専門会社を選びましょう。金額が相場より明らかに高い場合は、他の専門会社にも見積もり依頼を出すことをおすすめします。
施工後の保証がしっかりあるか
地盤改良工事により改良した土地に保証がついているか、事前に確認しましょう。決して安くない改良工事。改良した地盤の保証範囲や責任の所在がどこなのかを明確にしておくと安心です。また第三者による保証があるかどうかもチェックしておくのがおすすめ。保証会社についても、内容の開示が行われているかどうかを事前に確認しましょう。
予定している工法のメリット・デメリットの説明があるか
地盤改良工事にはそれぞれメリット・デメリットがあります。どの改良工事が適切なのか、どれくらい強度を高められるのか、騒音はどれくらいあるのかなど細かく説明してくれる専門会社を選びましょう。また、セメントを使用した工法の場合は発がん性物質である六価クロムを発生させることもあります。この六価クロムについての説明や対策を行っている専門会社は信頼できる専門会社と言えるでしょう。
おわりに
地盤改良工事の基礎知識、具体的な工法の種類やメリット・デメリットについてご紹介しました。長い期間、安心安全な家に住むために、地盤調査と地盤改良工事は必要不可欠です。あとから地盤沈下で家が倒壊してしまった…なんてことのないように、適切に調査し必要な地盤改良工事を選びましょう。そのためにもハウスメーカーや専門会社に任せきりにせず、知識を持って家づくりに取り組むことが大切です。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。