不動産を購入するにあたって一番大事なことは、購入する価格です。どんなに駅に近い物件、新しい物件であっても、市場価格よりも高い値段で買ってしまっては、投資はうまくいきません。そのため、まずは物件購入した場合の収益シミュレーションが必要になってきます。不動産に興味がある方であれば、一度は表面利回りや実質利回りなどという言葉を耳にしたことがあるかもしれません。今回はどのように不動産の価格を判断したら良いのか解説していきます。
伝統的な価格判断方法
不動産の値段を評価する不動産鑑定士という職業があります。そのプロの鑑定士の方々が利用する方法は大きく3つに分かれます。
- 原価法
- 取引事例法
- 収益還元法
現在、一般的な方法が収益還元法となっているため、収益還元法を中心に解説したいと思いますが、まずは原価法、取引事例法がどのようなものか紹介します。
- 原価法
こちらは名前のとおり、その不動産を再度取得する(再度、建築する)場合にどの程度の原価がかかるものなのか?という視点で不動産を評価します。ここであれ?と思った方もいらっしゃるのではないでしょうか。土地ってどうやって建築するのか?
土地については再度、建築という考え方ではなく、国税庁が評価する「路線価」や市町村(東京23区は東京都)が評価する「固定資産税評価額」といった国の機関が公表している評価金額を利用します。路線価はどなたでも確認ができるので、下記Webサイトで調べてみてください。前面に面している通りに対して面積あたりの単価で表示されています。
固定資産評価額は、所有者の方に届く、固定資産税の支払通知書で確認することになりますので、インターネット等で調べることはできません。一般的には、路線価、固定資産税評価額ともに実勢価格よりは安い価格で評価されており、路線価÷80%、固定資産税評価額÷70%が実勢価格といわれています。
建物については、文字どおり、再度建築するために必要な原価を算定し、不動産の評価に利用します。建物が新築でない場合においては、経過年数分を減額し利用します。
こちらの方法が一般的に利用されていないのは、建物の再度建築するために必要な原価の算定が難しいこと、投資において、再度同じ建物を建築するということはあまり想定されていないため、不動産鑑定士でも参考程度として利用する方法となっています。
・取引事例法
こちらは文字どおり、取引事例を参考に値段を決定する方法です。マンション1室の価格を確認したい場合には、同じマンションで販売されている価格と比較する、一棟アパートであれば、近隣のアパートと比較するといった方法になります。実は一般の方でも良く確認している方法ではないでしょうか。
ただし、一点この方法の難点があります。不動産価格が大きく上昇している情勢においては、不動産価格が過大評価されやすいことが欠点となります。そのため、こちらも参考程度として利用されています。
収益還元法とは
次に現在、一般的に利用されている収益還元法を見ていきたいと思います。収益還元法とは、不動産から生まれる収入、収支に注目して価格を算定する方法です。不動産鑑定士は、期待収益率といった利回りをベースに不動産価格を算定するのですが、不動産投資において、物件価格が妥当なものか、割安なものかを判断するには、おおまかには下記の式で計算され、収益率が高い物件が割安な価格と判断することができます。
収入(収支) ÷ 物件価格 = 収益率
表面利回りと実質利回り
収益還元法を利用するにあたって「収入」と「収支」を利用する方法があります。物件からの「収入」のみに着目する方法で算出された収益率を「表面利回り」といいます。また、収入から支出を差し引いた「収支」に着目し算出された収益を「実質利回り」といいます。簡単な例を使って紹介したいと思います。
- 1年間の賃料収入:105万円
- 1年間の物件管理費:12万円
- 固定資産税:5万円
- 物件購入価格:3,500万円
- 表面利回り
- 105 ÷ 3,500 = 3%
- 実質利回り
- (105 ‐ 12 ‐ 5) ÷ 3,500 = 2.51%
表面利回りと実質利回りどちらを利用するといいのか
表面利回りと実質利回りどちらを利用するのが良いでしょうか。結論としては、「実質利回り」を利用して、必ず物件を購入決定する前に価格判断をする方が望ましいでしょう。管理費が高い物件は表面利回りに比較して、実質利回りが低くなります。また、物件購入後、受け取ることができる現金は、当然、管理費等を差し引いた金額のみとなるからです。
不動産仲介会社からもらう情報には、表面利回りしか書いていないことが多いのも実情です。複数物件を比較して検討する際は、まず、表面利回りで比較して有望な物件を選定、その物件に対して、不動産仲介会社や不動産販売会社から、物件を維持するにあたってのコスト(管理費や固定資産税など)を確認し、実質利回りを算定、最終的に購入する物件を決定していくといったプロセスが良いでしょう。
注意したい「満室想定」利回り
満室想定利回りとは、購入する不動産が満室を維持し続ける場合の利回りをいいます。マンション1室を購入する場合にも、テナントの入退去、原状回復工事期間はあり、保有期間中100%の稼働を維持することが難しいのが実情です。
また、一棟アパートにおいても、複数の部屋があり、各部屋の入居者の入れ替わり時期も異なりますので、満室を維持することは、難しいでしょう。
満室想定利回りについても表面利回りと同様、複数物件から有望な物件を絞り込む際に利用し、見込まれる空室期間や、空室率などを考慮して、実質利回りに修正していくようにしましょう。
ちょっと高度な収益還元法「DCF法」
DCF法(ディスカウントテッド・キャッシュ・フロー法)についても紹介します。こちらは少し手間がかかる高度な方法になりますが、より正確な価格や価格の妥当性を判断することができる方法になります。
以上で紹介してきた一般的な収益還元法に比較して、以下の点で異なります。
- キャッシュフローに注目
- 複数年のキャッシュフローから価格を算定
もう少し具体的にみていきましょう。
・キャッシュフローに注目
収益還元法では、賃料という収入と、物件管理費や税金といった費用のみに注目していました。DCF法がキャッシュフローに注目するというのは、収入と費用だけでなく、「資本的支出」といわれる出費も考慮に入れる点です。
「資本的支出」とは、仲介手数料や大きな修繕費など、毎年・毎月かかるものではなく、複数年にわたって効果を得られるものをさします。「資本的支出」の意味まで考えすぎると難しくなりますので、本当に財布から出ていくすべの出費を考慮にいれると考えてもらっても良いかもしれません。
・複数年のキャッシュフローから価格を算定
収益還元法では、賃料や、賃料‐管理費といった1つの収入、支出から利回りを算定しました。DCF法では保有を想定する期間すべての収支を算定する必要があります。
例えば、下記のようなことを想定しながら、それぞれの年ごとの収支を想定します。
- 1年目は購入時のテナントが退去しないため、空室発生なし
- 2年目は現在のテナントが退去し、原状回復工事に10万円、空室期間が2ヵ月あると想定
- 3年目は浴室の改装を予定するため、改装工事中の空室と、改装工事を想定
- 4年目に売却を想定
以上のシミュレーションが終わりましたら、ご自身で期待する利回り(例えば、5%など)で割引計算を行い、足し合わせたものがDCF法を適用した場合の価格となります。
ここで気をつけるポイントは、1年目は5%で割り引きますが、2年目は5%の二乗、3年目は5%の三乗で割り算した金額を利用する点です。
DCF法を利用することが物件価値を正確に把握することができる方法になりますが、将来のことを予想し、費用を入れていくとなると大変なのも確かですが、融資を受ける場合など、元金・金利を物件からの収支で返済していくことができるのかどうか確認できることにも有用ですので、ぜひチャレンジしてみてください。
収入の算定方法について
最後に収入の算定方法についてみていきたいと思います。
現在、入居者がいる物件については、現在の賃料収入が1つの目安となりますが、その収入は本当に適正な価格なのでしょうか。
購入を決定する前には、不動産の最寄り駅にお店を構える不動産会社に、賃料相場などについて意見を求めることも良いでしょう。賃料相場を正確に把握しているのは、いわゆる街の不動産会社です。できれば賃料相場だけでなく、現在の入居者が退去した際の空室期間も聞いてみることをおすすめします。不動産会社と親しくなって意見をもらえるようにしておくと良いでしょう。物件資料を持ってお店に行き、この部屋の入居者を今、募集するとしたら賃料はいくらくらいですか?と質問してみてください。きっと答えてくれるでしょう。
本来の賃料相場より高くなってしまっているケースとしては、次のようなことが考えられますので注意が必要になります。
- 現在の入居者が新築時からの入居者である場合
- フリーレント期間を導入する、敷金·礼金をゼロにする代わりに、毎月の賃料設定が高くなっている場合
よく不動産仲介会社などから受領する情報も上記のようなことがあり、実際の利回りよりも高めに表示されているケースもあります。収益性の低い物件を購入しないためにも、実情に応じた賃料相場や募集期間を、不動産近隣の不動産会社にヒアリングしてみましょう。
不動産投資は物件選びがカギ
不動産投資の最大のポイントはどの物件を選ぶかで左右されるといわれています。どんなに勉強して、価格判断を合理的に行うことができたとしても、物件を選ぶ物差しの尺度がずれていたりして、良い物件と出会うことができなと、結局、入居者の募集に苦労したり、修繕がかさんだりと手間が発生してしまいます。
また、空室や滞納などのリスクも不動産投資につきものです。不動産投資を行う物件選定時に、ファミリータイプではなく、ワンルームタイプであまり個別性が弱い物件を選択したり、首都圏などの人口が多いエリアで駅が近いなどの利便性が良い物件を選択するなど、なるべく需要が見込める物件を選ぶのが良いでしょう。滞納リスクには、自然人の連帯保証ではなく、家賃保証会社の利用を条件に貸し出すなど、リスクを極力抑制する方法もあります。
また、不動産は、「管理を買え」というように、購入した以降の管理いかんによって不動産の価値は大きく変わってくるといわれています。ですので、不動産管理に精通しており業歴も長く信頼できるところに任せるのが良いでしょう。
なお、不動産売買から不動産管理まで一貫してグループ企業内で運営している企業の方が、建設・販売から管理まで一貫した体制で行っているため、オーナーとして、情報提供が不足していたとしても、不動産会社内で情報共有もされやすいでしょう。
不動産投資にご興味ある方・詳しいお話を伺いたい方は、こちら。
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不動産小口化商品からまずは始める
また、ご自身で物件を選択する自身がない、購入後の管理の手間などもかけたくないという方や、不動産投資に慣れたいという方には、不動産小口化商品という選択肢もあるでしょう。
不動産小口化商品とは、特定の不動産を、小口に分けて、一口単位から購入しやすくした商品です。購入した口数に応じて、不動産の賃料収入や売却益を出資した方に分配する仕組みです。
不動産小口化商品は、現物不動産とは異なり、自身の資産に合わせて小口化された持分を購入できる点がメリットであり、少額から始めることができます。また、投資する不動産についても、募集中の案件のなかから、投資する案件・物件を自由に選択することができます。なお、任意組合方式の不動産小口化商品の場合、J-REITの市場で売買される証券を買うこととは異なり、あくまで現物不動産の持分割合に通じての出資となり、不動産オーナーとして運用に参画できます。
投資した以降、管理の手間もかかりません。任意組合が責任もって出資した方に代わり管理・運営を行いますので、手間がかからないのも、現物不動産の投資とは異なる利点です。
また、任意組合出資の方式で運営されている商品は、購入した割合に応じて不動産を持分所有することになります。この場合、税務上、現物不動産への投資と同様の扱いとなることから、相続税評価額についても現物不動産の持分所有と同じ方法で算出します。
不動産の相続税評価額は、土地は路線価方式(または倍率方式)、建物は固定資産税評価額に基づき現物不動産と同様に算出します。現金で資産を保有しているよりも不動産小口化商品を購入し不動産持分として資産を保有しておくことで相続税の圧縮が期待できます。
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おわりに
今回は、不動産投資における価格判断の方法をメインに解説しました。価格判断を精査するための基準として、原価法、取引事例法、収益還元法、並びに収益還元法を利用するにあたっての表面利回り、実質利回り、満室想定利回りについて主に紹介しました。これらを利用して、購入前には複数物件を比較検討することができると、より良い不動産に巡り合うことができるでしょう。