この記事では、愛犬が認知症になったときの症状や対処法について解説していきます。大切な家族の一員である愛犬が年老いて、認知症を発症するのはつらいもの。また、日々の介護や治療費など、負担も少なくありません。そこで今回は、犬の痴呆に関する基礎知識や、今から取り組める予防策について詳しく紹介します。愛犬には1日でも長く健康に過ごしてほしいと思っている方は、ぜひ参考にしてください。
犬の認知症、原因や発症年齢は?
認知症になる原因は?
シニア犬も人間と同じように、アルツハイマー型認知症、いわゆる痴呆・ボケの症状を発症することがあります。認知症の原因は、脳内にβ-アミロイドというたんぱく質が蓄積して老人斑を作り、脳の機能を低下させるためと考えられています。しかし、人間も犬も、詳しい原因はいまだに解明されていません。
また、脳梗塞や脳出血、栄養障害、老化などにより脳の神経細胞や自律神経が正常に機能しなくなることも、認知症の一因だと考えられています。
発症年齢は?
犬の年齢は、1歳を人間の17~18歳とし、それ以降は1年ごとに4歳ずつ年を取っていくといわれています。そのため、7歳を過ぎたころには人間でいうシニア世代に突入するのです。シニア世代に入ると、徐々に認知症の症状が出始めます。具体的には、大型犬で8歳くらい、小型犬で10歳くらいといわれています。
その後、13歳くらいになると発症するケースが急増し、15~17歳くらいまで増加の一途をたどる、といわれています。
愛犬が7歳を超えシニア世代に突入したら、何かいつもと変わった様子がないかしっかりと観察してあげることが重要です。
発症しやすい犬種は
認知症は、日本犬が発症しやすいといわれています。
認知症になりやすい日本犬は以下です。
- 柴犬
- 秋田犬
- 紀州犬
- 甲斐犬
- 北海道犬
- 日本犬とのミックス
この中でも特に発症しやすいのが柴犬だといわれています。
日本犬が認知症になりやすい理由は、食生活に関係するようです。長らく魚を中心とした食生活を送ってきた日本犬は、ほかの犬種と比べて、魚に多く含まれるEPAやDHAなどのオメガ3脂肪酸の必要量が高くなっています。しかし、ドックフードなど肉類中心の食生活を続けることでこれらの栄養素が不足し、認知症を起こしやすくなってしまう、とされているのです。
日本犬以外には、シーズー、ヨークシャーテリア、トイプードルなども認知症を発症することがあります。しかし、日本犬の方が、症状が強く出やすいといわれています。
一方、パグ、チワワ、ラブラドール・レトリーバーなどの外国犬は、認知症をほとんど発症しません。
認知症の症状は?
犬が認知症を発症すると、さまざまな症状が現れます。ここでは、代表的なものをいくつかご紹介しましょう。
徘徊・旋回
飼い主を悩ませる症状のひとつが徘徊です。シニア犬は昼寝の時間が長くなることから、夜中に目が覚めてしまい、徘徊するという傾向が見られます。さらに、目が悪い犬の場合は、家具などにぶつかってケガをするケースも少なくありません。
徘徊は、認知機能の障害と、それに伴う不安やストレスが原因とされています。徘徊の特徴は、「明確な目的が何もなく、ただひたすらとぼとぼ歩きまわる」ことです。犬の場合は、寝てはすぐ起きて歩きはじめる…を繰り返したり、同じ場所をクルクルと回ったりします。
同じ場所をクルクルと回る際は、右回りあるいは左回りを繰り返す動きをする「旋回」が見られます。
無関心・無気力
犬が認知症を発症すると、ほかの犬や飼い主とのコミュニケーションに変化が見られます。例えば、今までは飼い主が近付くと尻尾を振って喜んでいたのに全く喜ばなくなった、名前を呼ぶと飛んできたのにいくら呼んでも無反応になった、などです。
また、どこか1点をぼんやりと見続けて、いくら呼んでも撫でても反応しないということもあります。
ほかには急に攻撃的になってしまうケースも。認知症によって恐怖心が増加することが原因であると考えられています。
食欲異常
ご飯を与えたばかりなのにすぐに欲しがったり、何度も催促してきたりする、という食欲異常が現れるケースもあります。
これは人間の痴呆にもありがちな症状ですが、記憶障害を起こして、食事をとったことを忘れることが原因です。そのため、食べたばかりにもかかわらず、「自分は食事をもらっていない。空腹だ」と勘違いしてしまうのです。
歳を取って食欲が衰えていた愛犬の食欲が増す、というのはある意味では喜ばしいことかもしれません。しかし、催促されるたびに食事やおやつを与えてしまうと、肥満や糖尿といったほかの病気を引き起こしてしまう可能性があるので注意が必要です。
夜鳴き・昼夜逆転
昼夜逆転も、犬の認知症の代表的な初期症状のひとつです。昼間はずっと眠っているのに、夜になると起きて徘徊を始めたり、夜鳴きをしたりします。
特に夜鳴きは、夜なのに昼間だと勘違いしてしまうことで起こることが多いようです。いくら認知症といえども、昼夜逆転は不安感や孤独感につながり、ストレスの原因となってしまいます。また、飼い主の寝不足のストレスが愛犬に伝染する…ということもあるのです。精神的なストレスがさらなる体調不良を引き起こす可能性もあるので、昼夜逆転には早急な対策が必要といえるでしょう。
認知症じゃないケースもある?
愛犬が認知症のような症状を発症したけれど、実はほかに原因があった…というケースも少なくありません。中には命に関わる疾患のサイン、という場合もあるので、しっかりと見極めることが大切です。何かひとついつもと違う行動をしたからといって、すぐに「認知症だ」と決めつけるのではなく、いろいろな可能性を考えることが大切です。
体に痛みがある場合
今までは撫でてあげると尻尾を振って喜んでいたのに、ある日突然触ると怒ったり怯えたりするような行動が見られたら、体に痛みが起こっている可能性があります。特にシニア犬の場合は、長時間同じ姿勢を取り続けると体がこわばってしまったり、使っていない筋肉を急に動かしたりすると痛みが起こる場合があります。
犬は体に痛みを感じたり、不安なことがあったりしてもうまく言葉で伝えることができないので、痛い部分を守るために、そのような行動にでる場合があるのです。
トイレの失敗は、筋肉の衰えが原因かも
突然おもらしをしたり、トイレを失敗してしまったりすると「認知症かも」と心配になるかもしれませんが、原因はそれだけではありません。筋肉の衰えが原因になっている可能性もあるのです。
シニア犬は、トイレが遠い場所にあるとついつい「動くのが億劫だな」と思ってしまい、その結果間に合わなくなる…というのもよくある話。また、歳を取るにつれてトイレが我慢できなくなって失敗…というケースもあります。
特に、「トイレは散歩中に外で」としつけられている犬は、散歩の時間まで排泄を我慢できなくなってしまうこともあるのです。
ほかにも、歳を取って視覚や嗅覚が衰えることでトイレの位置が分からなくなってしまった…ということも考えられます。
夜鳴きは「体内リセット」で解消するかも
昼夜逆転や夜鳴きは、体内時計が狂ってしまったことが原因かもしれません。例えば、飼い主が昼夜逆転の生活をしていると、それに合わせて犬も同じ生活リズムになってしまいます。その結果、体内時計が狂って夜中に泣き出したり、遊びに誘ってきたりするのです。このような時は朝日をしっかりと浴びさせ、昼間にしっかりと運動させ、夜は暗く静かな空間にするなど、環境を整えてあげることで解決するでしょう。
そのほか、関節痛など強い痛みがある、皮膚炎などでかゆみがあるから眠れない、という場合も昼夜逆転して夜鳴きをする場合があります。
新しい寝床にした場合は、寝心地が悪いということも考えられるでしょう。突然夜鳴きが起こった場合は、一度クッションなど、愛犬の寝床の周りをチェックしてあげると良いかもしれません。
愛犬の認知症、予防法はある?
愛犬にはできるだけ元気で長生きしてもらいたいもの。しかし、犬の認知症は人間同様有効な治療方法はありません。そこで大切なのが、予防対策。
正しい対策を行えば、仮に発症したとしても症状の進行をいくらか遅らせることも可能になるでしょう。最も効果的とされているのが、脳に刺激を与えて、活性化させてあげることです。ここでは、具体的な対策法をご紹介しましょう。
スキンシップをしっかり取る
大好きな飼い主からのスキンシップや声掛けは、犬にとって何よりの刺激です。優しく声を掛けてあげながら、体や手足を軽くマッサージしてあげましょう。血行が良くなって脳の活性化につながります。
マッサージする際は、強く押しすぎないように気を付けましょう。「認知症を予防しなければ!」と力を入れるのではなく、あくまでも愛犬とのコミュニケーションの一環として、優しくなでる程度で充分です。
頭を使った遊びを取り入れる
頭を使った遊びも、愛犬の脳の活性化に効果的です。何も難しいゲームに挑戦する必要はありません。例えば、「おすわり」「おて」「待て」などの動作を1回5分程度、1日3回ほど行うだけでも効果的です。
もう少し遊び要素を取り入れたものなら、紙コップを数個用意し、その中のひとつにおやつを入れて「おやつはどこに入っているか?」と探させたりするのも楽しいものです。
上手にできたときは思いっきり褒めてあげて下さい。「飼い主の要求にこたえ、褒められる」という一連の流れは、愛犬にとって何よりの刺激となるでしょう。
散歩コースを変えてみる
毎日同じ時間・同じコースになってしまいがちな犬の散歩ですが、たまにはコースを変えてみましょう。愛犬にとっていい刺激になります。いつもと違う景色、いつもと違う足の感触、いつもと違う匂いは、愛犬の好奇心につながります。ドッグランを利用して、ほかの犬と交流を持たせるのも良いでしょう。
愛犬が認知症になった場合の治療法と対策を紹介
どれだけ対策を練っても、認知症を発症してしまうことがあります。もし認知症の症状がでたとしても、適切な治療と対処を行うことで、進行を遅らせたり、犬と人間双方のストレスを軽減したりすることができます。ここからは、犬が認知症になった場合の治療法及び対策をご紹介しましょう。
迷子対策をする
認知症を発症すると、いつも訪れている場所でもよく分からなくなってしまいます。散歩のときはリードをしっかり付ける、首輪が緩まないようにするなど、愛犬が迷子にならないように注意しましょう。
万が一迷子になってしまったときのために、迷子札を付けておきましょう。最近では、愛犬の個体識別情報を記憶させたマイクロチップを体内に埋め込む方法も普及しています。もしもの時にも正しく身元確認ができるよう、しっかり準備しておくことが大切です。
食事療法・サプリメント
犬の認知症対策には、食事やサプリメントも有効とされています。おもに、以下の栄養素が認知症対策として挙げられます。
「α-リポ酸」「L-カルニチン」
細胞内小器官のミトコンドリアは、加齢とともに劣化することでよく知られていて、認知症との関わりも指摘されています。そこで、ミトコンドリアの機能をサポートするといわれている、「α-リポ酸」「L-カルニチン」を配合したサプリやドッグフードをあげることが、認知症対策につながるといわれています。
DHA・EPA
DHA・EPAは脳神経にとって非常に大切な栄養素です。犬の認知症においても、適量を補給することが推奨されています。サプリメントのほか、DHA・EPAが強化されているドッグフード、DHA・EPAが豊富に含まれている魚や魚油を使用した手作りフードを与えてみましょう。
ただし、DHA・EPAは加熱及び酸素との接触で酸化してしまう要素を持っています。酸化したDHA・EPAは犬にとって有毒なので、手作りフードに取り入れる際は、できるだけ新鮮で加熱を控えめにしたものにしましょう。
抗酸化物質
食事に抗酸化物質を取り入れることも効果的です。特に、セレニウム、ビタミンC・ビタミンEは、動物の認知機能のケアに有効であるということが報告されています。
環境を整備する
認知症の症状が原因で、思わぬケガをしてしまわないよう、環境をしっかり整備してあげましょう。サークルを設置して、その中で過ごすようにしてあげるのもひとつの方法です。また、トイレの失敗が増えておむつを取り入れる場合は、いきなり長時間付けるのではなく、短い時間から徐々に慣らしてあげましょう。
病院で薬物療法
動物病院で受診して、認知症の症状に対処する薬を処方してもらいましょう。抗不安剤や睡眠導入剤などを処方してもらうことで、昼夜逆転や夜鳴きなどの悩みが緩和されるでしょう。
ただ、動物病院を受診すると、診療費が高額になってしまう恐れがあります。ペットが病院を受診した際の費用は全額負担となるため、薬が処方されるとさらに費用が高くなってしまいます。
そこで頼りになるのがペットの保険。ペット保険に加入していれば、条件を満たす場合に診療費が補償されるため安心です。 アニコム損保のペット保険「どうぶつ健保ふぁみりぃ」では、日々の通院からもしもの入院までをしっかり補償してくれます。補償の割合は、70%と50%の2つのプランから選択可能。8歳以上のペットを対象とした、入院・手術特化型保険「どうぶつ健保しにあ」もあります。アニコム損保なら愛犬のもしものときにしっかり備えることができます。
おわりに
愛犬が認知症になってしまうと、どうしようという不安と介護のストレスから、飼い主にも負担が掛かってしまいます。愛犬と飼い主共倒れ…ということにならないよう、今のうちにしっかり対策を講じておきましょう。
いざというときでも治療費の心配をせずに、すぐに病院を受診するためにも、ペット保険に加入しておくことをおすすめします。