定期借家契約は原則として中途解約ができず、定められた期間は住み続けなければいけません。ただし、特約の有無や事情によっては契約期間中の解約が認められることもあります。このコラムでは、定期借家契約を中途解約できるケースやよくある疑問について解説します。
定期借家契約の特徴は?基礎知識を理解しよう
定期借家契約とは、貸主によって契約期間があらかじめ設定された契約方法です。貸主は契約期間を自由に決められるため、一時的に自宅を賃貸に出したい場合や、売却予定の物件を貸したい場合に利用されるケースが多いです。
定期借家契約は普通借家契約とは異なる点もあるので、契約後トラブルに巻き込まれないためにも、本項でしっかりと基礎知識を理解しましょう。
- 定期借家契約とは?
- 定期借家契約と普通借家契約の違い
定期借家契約とは?
定期借家契約は契約期間の満了を迎えると、借主は契約を更新できず、物件を明け渡さなければいけません。明け渡しの際のトラブルを避けるために、貸主は契約に関する公正証書等の書面を作成し、交付・説明するよう定められています。
普通借家契約とは異なり、3ヵ月や半年など1年未満の契約も可能です。また契約期間が1年以上になる場合は、貸主が借主に対して期間満了の1年前〜6ヵ月前の間に契約終了の通知を行わなければなりません。
原則として契約の更新はできませんが、貸主と借主の双方が合意できれば、改めて再契約が可能です。中途解約も原則としてできないものの、次項で述べるケースに該当する場合は認められます。
定期借家契約と普通借家契約の違い
定期借家契約と普通借家契約の違いを下記の表にまとめました。
定期借家契約 | 普通借家契約 | |
---|---|---|
契約期間 | 契約で定めた期間 (1年未満の契約も可能) | 1年以上 |
契約の更新 | 原則、更新なし | 自動更新 |
契約方法 | 公正証書などの書面による | 制限なし |
賃料減額請求権 | 認められない | 原則、認められる |
中途解約 | 原則、貸主・借主ともに認められない ※借主のみ次項で述べる例外あり | 貸主は正当事由が必要 借主は解約についての特約があれば可能 (※一般的に特約に記載あり) |
定期借家契約では、公正証書をはじめとした書面による契約が必須です。また書面による契約をしたとしても、「契約の更新がないこと」と「期間満了で終了すること」の記載と説明がない場合は普通借家契約となります。
一方で普通借家契約は、口頭・書面のどちらでも契約が成立します。ただし実務上はトラブルを避けるため、書面を用いて契約するのが一般的です。
また、特約の有無や内容によっては、定期借家契約では賃料減額請求が認められないこともあります。これに対し、普通借家契約では一般的に特約に中途解約の条項があり、原則として認められます。
定期借家契約を中途解約できるケース3つ
定期借家契約は契約期間が定められており、契約期間中に解約することはできません。ただし、以下の3つのケースに当てはまれば、中途解約できる可能性はあります。定期借家契約の中途解約には細かいルールが設けられているため、正しい知識を理解しておきましょう。
- 解約権留保特約を付けて定期借家契約している
- 条件を満たして中途解約権を行使する
- 貸主に違約金を支払って解約する
解約権留保特約を付けて定期借家契約している
定期借家契約を中途解約できるのは、解約権留保特約を付けているケースです。解約権留保特約とは、契約期間中での中途解約を認める条項のことです。契約書に解約権留保特約の記載があれば、契約期間中であっても解約の申し入れができます。事情があって定期借家契約を解約したい場合は、まず契約書の記載内容をチェックしてみましょう。
条件を満たして中途解約権を行使する
契約時に解約権留保特約を結んでいなくても、中途解約権を行使することで中途解約できる可能性があります。中途解約権の行使を認めてもらうためには、以下の3つの条件を満たさなければいけません。
- 物件を居住目的で使用している
- 物件の床面積が200平方メートル未満である
- やむを得ない事情によって契約の続行が困難である
権利を行使できるのは、住むことを目的に物件を借りている場合のみです。事業を行うために借りている物件に関しては、中途解約権が認められません。ただし、事業用の物件であっても、一部を住まいとして使用している場合は例外です。
物件の大きさにもルールが定められており、権利の行使が許されるのは床面積が200平方メートル未満に限られます。事業用と居住用を兼ねている物件は、居住用に該当する床面積が200平方メートル未満でなければいけません。
3つ目の条件である「やむを得ない事情」とは、「転勤を命じられた」「病気を患って療養が必要になった」などです。明確な定義はないため、やむを得ない事情として認められるかどうかは、貸主や裁判所などの判断に委ねられます。
これらの条件を満たすと、借主は貸主に対して解約の申し入れが可能です。契約書に「中途解約を認めない」という条項が盛り込まれていたとしても、申し入れから1ヵ月が経過すれば解約が成立します。
貸主に違約金を支払って解約する
解約権留保特約や中途解約権以外では、貸主に違約金を支払うことで解約できるケースもあります。違約金の金額は、残りの契約期間の賃料相当額です。例えば、契約期間が6ヵ月残っている場合は、6ヵ月分の賃料をまとめて支払うことで解約が可能です。
解約権留保特約や中途解約権を行使する方法が難しいのであれば、残りの賃料相当分のお金を用意して解約を申し入れましょう。
定期借家契約のメリットとデメリット
定期借家契約のメリットとデメリットについて解説します。
メリット
メリットは次の2つです。
- 相場より割安な賃料で借りられる
- 1年未満の短期契約ができる
相場より割安な賃料で借りられる
契約期間が定められている定期借家契約の物件は、一般的に入居希望者が少ないため、相場より割安な賃料・敷金・礼金が設定されています。
そのため「駅近」や「日当たりがいい」など好条件の物件に、周辺相場よりも割安な賃料で住める可能性があります。また原則更新がないため、2年に一度の更新料がかかりません。
1年未満の短期契約ができる
1年未満の短期契約が可能なため、出張や転勤の多い方でも利用しやすいのが魅力です。一般的に、普通借家契約の物件は特約で「1年未満で退去する場合は違約金が必要」と定められています。
定期借家契約の物件は、短期の退去でも余分な出費がかからないため、短期間だけ借りたい方には大きなメリットがあります。
デメリット
デメリットは次の2つです。
- 原則中途解約できない
- 再契約は貸主の了承が必要
原則中途解約できない
定期借家契約は基本的に中途解約はできません。中途解約が認められるには、前項で解説した「解約権留保特約がある」「中途解約できる条件が揃っている」場合に限られます。
どちらにも該当しない場合には、違約金として残存契約期間の賃料の支払いをすることで解約が可能です。
再契約は貸主の了承が必要
定期借家契約は、基本的に再契約はできません。再契約するためには貸主の了承が必要で、交渉に手間がかかります。また再契約の際には、家賃や修繕費が値上がりする可能性もあり、1度目の契約よりも条件が悪化するケースもあります。
定期借家契約のよくある疑問4つ
定期借家契約は普通借家契約と性質が異なるため、再契約や中途解約に関して疑問が生じるでしょう。契約終了時に思わぬ損をしないためには、分からない部分を解消しておくことが重要です。
ここでは、定期借家契約のよくある疑問を4つご紹介します。
- 再契約して住居に住み続けられる?
- 事業用物件も中途解約できる?
- 中途解約できない場合のコストの抑え方は?
- 家賃の減額請求はできる?
再契約して住居に住み続けられる?
定期借家契約では更新ができませんが、再契約すれば住居に住み続けることが可能です。再契約が認められるのは、貸主と借主の双方が合意している場合です。
再契約は、文字どおり「契約を再び結ぶこと」のため、契約にあたって初期費用がかかる場合には再度支払わなければいけません。ただし、入居する際に礼金や敷金を支払っている場合、再契約時は支払いを求められないのが一般的です。
再契約できるかどうかは、契約終了が近づいたタイミングで届く「契約満了通知」に記載されています。再契約が認められない場合は新しい住まいを見つける必要があるため、再契約の相談は早めに行うのが賢明です。
事業用物件も中途解約できる?
事業のために借りている物件は、原則として中途解約が認められません。これは、事業用物件は賃料が高額になりやすく、中途解約を認めると貸主の家賃収入が大幅にダウンするためと考えられます。
ただし、残りの契約期間の賃料に相当する違約金を支払ったり、貸主に対して合意解除を交渉したりすると、事業用物件でも解約できる可能性があります。どうしても解約しなければいけない場合は、一度貸主に相談してみましょう。
事前にできる対策としては、契約前に貸主と話し合い、契約期間中に解約を認める特約に同意してもらうことも重要です。
中途解約できない場合のコストの抑え方は?
引っ越す必要があっても、場合によっては中途解約が認められない可能性があります。中途解約できなければ、引っ越し先と居住中の物件の家賃支払いが重複するため、負担が重くなるでしょう。そのような場合には、以下の2つの方法でコストを抑えられないか検討してみましょう。
- 中途解約できないか貸主に相談する
- フリーレント物件に引っ越す
中途解約できないか貸主に相談する
法律上は中途解約が難しい場合でも、貸主への交渉次第で解約を認めてもらえるかもしれません。その際は、「中途解約したい理由や支払う金額などを明確に伝えること」「貸主に有利な条件を提示すること」が重要です。
貸主に伝えるべき項目や、貸主に有利な条件は以下のとおりです。ポイントを押さえて交渉し、コストカットにつなげましょう。
【貸主に伝えるべき項目】
- 中途解約しなければならない事情
- 中途解約したい具体的な時期
- 中途解約時の金銭の条件
【貸主に有利な条件】
- 即解約ではなく、数ヵ月分の賃料を支払う意思があること
- 数ヵ月分の賃料を一括支払いすること
- 新規入居者が多い3月前後に解約すること
フリーレント物件に引っ越す
どうしても中途解約できない場合は、フリーレント物件に引っ越すのもひとつの方法です。フリーレント物件は契約月から数ヵ月の家賃がかからないため、家賃が二重で発生するリスクを抑えられます。ただし、フリーレント物件は、一定期間家賃が無料になる一方、決められた期間は住み続けるなどの条件があります。また、家賃がかからない期間であっても管理費や共益費の支払いが必要になるケースもありますので注意しましょう。
新たな物件を契約する際に保証人が必要な場合には、「セゾンの家賃保証 Rent Quick」を利用するのがおすすめです。Rent Quickは家賃保証を行うサービスで、クレディセゾンが保証人を代行しますので、スムーズに契約手続きができます。
家賃の支払いにセゾンカードを利用でき、貯まった永久不滅ポイントを家賃や保証料の支払いに使えるのも魅力です。契約手続きから入居後の支払いまで充実したサービスを受けられるため、引っ越しの際はぜひ検討してください。
賃料の減額請求はできる?
普通借家契約では、借地借家法32条により、借主はいつでも賃料の減額請求ができると認められています。
定期借家契約では「賃料改定特約」の有無と内容によっては、賃料の減額請求ができません。同法38条9項により、定期借家契約において「賃料改定特約」がある場合は、同法32条の規定が適用されません。つまり、定期借家契では特約の内容が優先されます。
したがって、減額請求はできないといった借主に不利な特約も可能です。そのため契約前に「賃料改定特約はあるのか」と「特約の内容は借主に不利ではないか」の2つを確認しましょう。
賃料改定特約で減額請求はできない旨の記載がある場合、交渉によって家賃を下げることはできません。
参照元:借地借家法 第三章借家
おわりに
定期借家契約はあらかじめ契約期間が決まっているため、原則として中途解約が認められません。ただし、解約権留保特約や中途解約権を行使することで、契約の途中でも解約できる可能性があります。
あるいは、違約金を支払うことで解約できるケースもあるため、一度貸主に相談してみましょう。中途解約が必要になった場合に備えて、定期借家契約における中途解約のルールを理解しておくことが重要です。
※本記事は公開時点の情報に基づき作成されています。記事公開後に制度などが変更される場合がありますので、それぞれホームページなどで最新情報をご確認ください。