はじめまして。あきば こと と申します。着物が大好きで、30代のころから着物の雑誌を編集しつつ、試行錯誤しながら着物を着てきました。
着物は、きれいに着られない、ルールがわからない、着ていく場所がない、着物を着ていると誰かに何か言われそうで怖い……など、着物を着ることそのものへ“難しい”というイメージを持つ方も多いと思います。
確かに、着物って「ちょっとめんどくさい」「ちょっとややこしい」、そして「着物を着たはいいものの、なぜかいつもより周りの目が気になる」と感じてしまうかもしれません。もちろん、はじめは私もそうでした。
でも今は「着物は楽しく、自分らしく着る!」、それが私自身のスタンスです。その上で、「おしゃれに、きれいに、ラクに」をモットーに、“お気楽”着物ライフを楽しむようになりました。
このコラムでは、着物に少しでも興味を持っていらっしゃる皆さんに向けて、着物まわりのさまざまなハードルを少しずつ外していければと思っています。 私自身がいままでに体験したことなども踏まえながら、着物の楽しさをお伝えしていきたいと思いますので、どうぞお付き合いください。
ミドルシニアは【着物はじめ】どき
ミドルシニアは着物を一番楽しめる時分だと思います。この世代は他の世代に比べると、若いころにバブルを経験しているので、お金の使い方を知っています。比較的、自分で自由になるお金もある方が多いのではないでしょうか。おしゃれ欲も旺盛でおしゃれの経験値も高いですよね。今まで子育てに追われていた方は自分の時間が取れるようになる頃でしょう。だからこそミドルシニアは着物を“等身大の自分のおしゃれ”として楽しめる、とってもお得なお年頃なのです。
大人着物のはじめ方
“大人ゆかた”は“お出掛け着”です
「着物に興味はあるけれど、着ていく場所がない」という声をよく耳にします。例えば、ゆかたです。
“ゆかた=ワンマイルウェア”だと思い込んでいる方がいます。けれども、ゆかたが“寝間着”や“湯上り着”だったのは私たちの母の世代までの話。そういうものだと聞かされて育った経験や、温泉場で着られているようなもののイメージからアップデートされていないようです。
今の時代、ゆかたは“お出掛け着”です。女性であればワンピースやサマードレス、男性ならばアロハシャツのようなもの、とでもいいましょうか。
大人におすすめのゆかたとは?
大人におすすめなのは、手ワザの効いたゆかたです。たとえば、“絞り”のゆかたや“注染(ちゅうせん)”ゆかた、と呼ばれるものが挙げられます。
注染とは、型染めの一種で、糊の付いていない部分に染料を“注いで染める”、日本独自の染色技法です。特徴は、生地の両面に柄が染まっていること。手ぬぐいなどにもみられる技法です。手ワザならではの独特な表情があります。
量販店で売られているプリントものに比べて少し値は張りますが、手ワザの効いたゆかたは布自体に情緒や風合いがあります。職人が手間ひまかけて仕上げてくれたものを身にまとっている、という満足感や、ちょっとした優越感が味わえるものです。そうした手ワザの効いたゆかたを、イベント着だけで終わらせるのはもったいない。ワンピースやジーンズで出掛けられるところなら、ゆかたでお出掛けも、おしゃれだと思いますよ。
夏場は素足に下駄で快適さを求めてもOK
「ゆかたに下駄で、電車に乗るのはちょっと……」という方にお会いしました。裸足で下駄を履いて遠出することに抵抗があるのだとか。
30代の頃は、私もゆかたを着て、素足に下駄履きで電車に乗るのは、マナー違反なのではないか?、とおどおどしていました。ゆかたで遠出するときには、お太鼓を締め、半衿を見せて、白足袋をはき、より着物らしく装って気持ちを奮い立たせていた記憶があります。
でも、昨今ではミドルシニアの女性であっても、夏場にミュールやサンダルで出掛けることはよくあることですよね。素足に下駄も同じだと思うのです。
私はゆかたで出掛けるときに足袋を履く日もありますし、履かない日もあります。例えば、どこかのご自宅にお邪魔するときは、必ず足袋を履いて上がるようにしています。足のお手入れに自信がない日は、足袋をはいて胡麻化します。(笑)
要は、素足に下駄でも、足袋を履いてもOK。帯は半幅帯でもお太鼓を締めてもいいし、半衿は、見せても見せなくても構わないのです。ゆかたは、ワンピースみたいなものですから、帯はベルトを変える感覚で、半衿はストールを巻くかどうか、といった感覚ですね。あまり難しく考えなくても大丈夫。その日の気分次第で自由に楽しめるのが、ゆかたの醍醐味です。
夏のうちに、まずはおしゃれなゆかたから!大人着物のはじめの一歩を気軽に踏み出してみましょう。
ミドルシニアの着物のメリットとは?
体型がカバーできる
ミドルシニアに着物がおすすめだという理由のひとつが、「体型がカバーできる」こと。日本人にとって、着物は最強のワードローブです。
若い方は、ミニスカートや、デコルテや背中が大きく開いたドレスも着こなします。けれどもアラフォー、アラフィフともなると、若い頃に比べて全身のメリハリがぼんやりしてきます……。「この間まで似合っていた洋服が、なんだか似合わない」という苦い経験をした方も多いのではないでしょうか。
日本の着物は直線の布を直線に裁って仕立てたもの。畳んでもペタンと平たくなりますよね。これを体に巻き付けて、紐で止めていきます。体のメリハリが目立たなくなってくる多くのミドルシニア女性にとっては、特別な補整がなくてもきれいに着こなせる、とっておきの服装なのです。
ちなみに、すっかり寸胴体型になってしまった私は、補整道具は一切使わずに着ています。
冷えから守ってくれる
女性にとって冷えは大敵ですよね。暑い夏であっても、最近は冷房の効いた部屋で過ごすことが多く、かくれ冷え性の方が増えているといわれます。
着物を着ると、おなかまわりに何枚も布が重なります。帯をせずに着物を着ることはありませんから、当然、冷えから体を守ってくれるのです。
知り合いの女性が一時期体調を崩していたのですが、ある日を境に着物暮らしをはじめたところ、体調が劇的に良くなったそうです。もちろんひとつの要因だけで元気になったわけではないと思いますが、着物も一因だったといえそうです。
アンチエイジングの効果が期待できる
着物好きの諸先輩とお付き合いしていると、かなりご高齢の方でも非常に元気な方が多いことに驚かされます。着物を着るときには指先を使いますし、姿勢や歩き方にも気を使います。そしてどなたも活動的で好奇心旺盛、おしゃれにも貪欲です。そういったことが積み重なって、着物を着ることにはアンチエイジングの効果が期待できるようです。
その他、着物は着るだけでも洋服のときとは異なる筋肉をよく使います。着物を着ると、どうしても和の動作になります。実はこの和の動作は、体幹を鍛えるのに非常に役に立ちます。普段あまり運動をしない私は、久しぶりに着物を着て出掛けた翌日には、全身筋肉痛になるほどです。
街中で褒めてもらえる
先日、旅先で着物を着てカフェに入ったところ、隣に座った女性が「着物をさりげなく着ていらして、すてきね」と声をかけてくださいました。
洋服の日にはどんなにハイブランドのものを着ていても、残念ながら街中で「すてき」と言われたことはないのですが、着物を着ていて「すてき」と言われたことは何度もあります。
それなりにシワやたるみが気になる歳ごろになると、洋服もシワ加工されたものや、ゆったりしたものが似合うようになりますよね。 それと同じで、この歳になると、着物もスキのないパリッとした完璧な着付けより、多少のシワやたるみのある着付けの方が、こなれ感が出てくる気がします。それがさりげなさにつながっているのだと思います。
着物を気軽に楽しんでいたら、「あら、すてきね」と言ってもらえる嬉しいオマケがついてくるかもれしれませんよ。
おわりに
日本の家庭には、着物がたくさん眠っているのだそうです。あなたの家にもきっと、1枚や2枚、着物が眠っているのではないでしょうか。まずは、その着物に新鮮な空気を吸わせてあげましょう。広げたら、袖を通してみましょう。それが、はじめの一歩になるはず。着物、楽しいですよ。一緒に新しいおしゃれの世界を広げましょう!