いよいよやってきたマンション大規模修繕工事、しかし、実際の工事費に修繕積立金が達していないマンションが多くあります。
そもそも修繕工事とはどの程度の周期で、どのような場所の工事をするのでしょうか。そして、修繕費の不足にはどのように対応したら良いのでしょう。
修繕費不足の原因も併せて解説しますので、修繕積立金の確保と予定どおりの工事を実現するための参考にしてみてください。
マンションの修繕時期は定期的にやってくる
マンション住まいの方は、マンション管理組合の活動を通して共用部分の清掃や設備メンテナンスなど、快適な居住環境を維持するよう努めていることでしょう。
その中の大きな行事のひとつが、十数年に一度の定期的な大規模修繕です。マンションの資産価値を守るためには、修繕のタイミングや修繕する部分などを正しく知っておくことがポイント。
効率的な大規模修繕で資産価値をきちんと維持したいものです。
大規模な修繕時期の目安
マンション大規模改修工事の周期は、一般的に12年が目安とされています。平成20年4月に建築基準法が改正され、検査基準や検査方法がより厳しくなりました。
それに伴い、竣工や改修などから10年以上経過しているマンションに対し、10年経過日から3年以内の「全面打診調査」が義務付けられました。
打診調査とは、モルタルやタイルなど表面を打診棒で叩き、どの程度浮いているか調査する方法で、外壁落下事故を防止する目的で行います。
外壁の全面打診調査となると、マンションの場合は当然足場を組む必要が出てきます。さらに、高層マンションであれば足場を組むだけでも多額の費用がかかるので、ついでに12年目で大規模修繕を考えるというケースが一般的です。
また、国土交通省による「長期修繕計画作成ガイドライン」や「マンションの改修・建替え等について」の資料にも、建物の性能や機能を向上させる工事を12年周期で行うことが重要と書かれています。
これらの理由から、施工会社なども12年ごとの修繕工事を推奨しているようです。
回を増すごとに修繕ポイントも変化
12年目に行う1回目の大規模修繕は、外壁を中心に屋上防水、屋根、バルコニー、鉄部などの外回りの補修をメインで行うのが一般的です。まだそれほど劣化していないからと修繕を見送ると、経年劣化でより大きな破損や傷みを生む可能性があります。
今後の修繕費を抑えるためにも、このタイミングできちんとメンテナンスするのがおすすめといわれています。
2回目の修繕は24年目です。ここでは、外構補修、貯水槽の取り替え、建具の交換、集合郵便受けの交換など、外回りだけでなく建物内部のパーツも取り替えが必要になってきます。
また、インターホンや火災報知設備などの電気系統、立体駐車場など放置しておくと事故につながる設備も、補修や取り替えの目安時期です。
3回目の修繕は36年目で、建物内部の主要設備や部材の更新が必要です。玄関ドアやサッシ、手すりの交換、インターネット設備や電話設備も取り替え時期です。
また、屋外鉄骨階段や給排水管、ガス管の取り替えなど、屋外の工事も大規模になり、1回目や2回目よりも修繕の割合が大きくなります。
それぞれの大規模修繕工事は、劣化部分の修理を行うだけではありません。気密性の高いサッシを取り入れたり、バリアフリーデザインにしたり、建物自体をグレードアップさせて質や価値を高める役割もあります。
マンションの価値を長持ちさせるには、工事の回数を重ねるごとに、より大規模な工事が必要です。
修繕費不足時の対処法
いざやってきた大規模修繕時期、しかし、長期修繕計画で算出された金額に実際の修繕積立金が達していない場合、一体どうしたら良いのでしょうか。
住民から一時金を徴収する
不足分の金額を、住民から一括で徴収するのが一時金です。借入のように手数料や金利がかからないことと、すぐに不足分が補えることがメリットとして挙げられます。
しかし、各家庭のさまざまな事情の中で、予定外の高額なお金をすぐに出せる家庭がどれだけあるかという問題が出るのは、想像に難くありません。
後述しますが、国土交通省による調査で管理費・修繕積立金等を滞納している住民がいると回答している管理組合もあり、全戸から遅滞なく集金するのはかなり難しいと考えられます。
もちろん、住民の合意形成もスムーズにはいかないでしょう。それでも、徴収を考える場合は、分割で徴収することも検討してみましょう。
大規模工事の支払いは契約時・着工時・工事完了時といった節目で支払うことが多いです。この時期に合わせて住民が支払うお金も分割払いにすることで、多少住民の負担が軽減されます。
不足分をローンで調達
修繕費の不足分を金融機関からの借入で賄う方法があります。借入を申し込む際には、事前に管理組合の総会で決議がなされていることが必須です。
例えば、民間銀行で「マンション共用部分専用リフォームローン」を組む場合、借入限度額は工事費の80%以内または150万円×戸数のいずれか少ない方という設定が一般的です。
その他、物件の登記上建築日の指定がある場合や、徴収予定金額に対する滞納割合が10%以下であることなど、金融機関によって条件がいくつかありますので確認しましょう。
政府出資の住宅金融支援機構でも「マンション共用部リフォーム融資」を受けられます。この融資は、対象工事費全額以内で借入可能なことや、工事内容によっては返済期間を長く設定できることが民間の金融機関よりも融通が利く点です。
工事内容を見直す
修繕工事を分割して行うのもひとつの方法です。今回は外壁塗装のみ、屋上防水のみなど、優先順位を決めて、今回の工事で必要な部分だけを実施します。
その場合、工事範囲を狭めることで一時的な出費は見送られますが、その後の工事計画を立て直し、修繕費を確保するために住民からの徴収金も見直す必要があるのです。
また、長期修繕計画の内容について、修繕計画はいつ作られたものか、現実離れした内容ではないか、今一度見直してみましょう。
多くの分譲マンションは、新築時に長期修繕計画が作成されていますが、これはどのマンションでも対応できるひな型から作られている可能性もあるため、その物件専用ではないかもしれません。
エレベーターの数や照明の台数などの違いから、負担する必要のない費用が予算の中に計上されている場合もあります。国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインでも、5年程度ごとの見直しを推奨しているほどです。
大規模修繕工事を延期する
どうしても修繕費を確保できない場合は、工事自体を延期するという選択もあります。しかし、工事を延期することで、その当時は簡単な補修で済むはずだった傷みや劣化が、今後極端に悪化する可能性もあるため、あまりおすすめの対処法ではありません。
延期している間もマンションの劣化は日々進んでいきます。建物の損傷がひどくなるほど工事金額も割高になるため、それほど先には延ばせないことを頭に入れておきましょう。延期した場合は、早急にローンの借入や工事内容の見直しを検討するのが得策です。
なぜ不足する事態が発生したのか
大規模修繕工事を定期的に行うことで、マンションの資産価値は守られるといわれています。そのために管理組合を通して修繕費を積み立てているはずです。
しかし、平成30年度の国土交通省「マンション総合調査」によると、修繕積立金だけで工事費を調達できた管理組合は、72.3%だそうです。なぜ修繕費が不足するという事態が起こってしまうのでしょうか。
設定している積立金額が安い
まず理由として考えられるのは、修繕積立金の金額設定がもともと低いということです。本来は、国土交通省が出しているガイドラインを基準に計算されるべき積立金ですが、マンションによっては「管理費の1割」が修繕費という、昔からの漠然とした目安で徴収している物件もあります。
日本経済新聞社の独自調査によると、全国の物件の75%が修繕積立金の水準が国の目安を下回っているといいます。新築当時は販売会社が物件を売りやすくするために修繕費を安く設定し、毎月の負担が少なく見えるようにしている場合が多いことも一因です。
途中から段階的に積立金を値上げしようとしても、住民の同意を得られずトラブルになることも。管理組合はなかなかスムーズに徴収額を増額できないのが現実です。
参照元:マンション修繕金、75%が足りず 高齢化で増額難しく
滞納者が増えた
また、滞納者が増加傾向であることも、毎月の徴収が予定通りにいかない理由の一つに挙げられます。平成30年度の国土交通省の調査でもおよそ25%の管理組合が「管理費等の滞納者がいる」と回答しました。
これはマンションの住民が高齢化していることにも関係があります。平成30年の全国調査では、マンション世帯主の60代70代の割合は49.2%で、とくに70代の割合については平成25年度の調査より増加していました。
さらに、物件の完成年次別でみると昭和54年以前に建てられた物件では住人の半数近くが70歳以上です。築年数が古いほど修繕費は高額になりますが、年金生活者である高齢者では、修繕積立金の値上げどころか支払いすら難しい状況にあります。
参照元:平成30年度マンション総合調査結果からみたマンション居住と管理の現状
設備にコストがかかりすぎている
例えば、機械式駐車場やエレベーターなど、メンテナンス費用が高額な設備を多く導入していると管理費では賄えない場合があります。
マンションによっては、エレベーターの保守点検で年間500,000円程度かかることもありますが、事故防止と性能維持のためには必要不可欠な出費です。
そうなると、せっかく積み立てていた修繕費をエレベーターのメンテナンスに回さなければならず、修繕積立金を貯められないことになります。
また、どの機械も築20年を過ぎると入れ替えを検討する目安時期になるので、24年目でやってくる大規模修繕工事の際には数千万単位の費用を覚悟しなければなりません。
修繕費用が不足する事態を避けるために
修繕工事までに費用をきちんと確保しておくためにはどうしたら良いのでしょうか。時期が迫ってから焦ることのないように、早い段階で考えておきたいものです。
修繕費の目安を把握する
それぞれの大規模修繕工事で修繕ポイントが変化することを踏まえると、工事費は1回目より2回目、2回目より3回目が高額になります。
施工会社から見積もりを取ることで、ある程度の工事費の相場を確認することはできますが、この見積もりは工事計画の話がある程度進まないと先方からもらえない場合もあるそうです。
そこで、管理会社に協力を依頼し、築年数や工事内容など条件が近い物件の資料を確認するという方法が現実的でおすすめです。一般的には、第1回の大規模工事におおよその目安として1戸あたり100~150万円の工事費が必要と考えておくと良いようです。
積立金の金額は適正な額に設定する
マンションの購入を検討している方全員が、修繕積立金について充分に理解しているとは限らないため、売り手は販売テクニックとして修繕積立金の金額を安く設定している場合があります。
その結果修繕費の不足が起きたり、積立金の値上げに住民が反対したりするというトラブルが生まれます。
国土交通省が「マンション修繕積立金に関するガイドライン」を公表しているので、最低限その金額を下回らない設定が必要です。
加えて、築年数が進むと修繕費も割高になることを加味し、中古マンションはガイドライン以上の金額を設定する必要があるでしょう。
また、修繕積立金の徴収金額を見直す際は、以下の2つの方式を取り入れる方法があります。
段階増額積立方式
新築のマンションを購入する際、新築当初は積立金額を低く設定して徴収し、5年から10年ごとをめどに値上げしていく積立方法です。
新築のときには設備も新しく、修繕の積立金はそれほど要りません。将来、マンションを買い替えたり売却したりする方にとっては、段階増額積立方式のやり方は理にかなっているように感じます。
しかし、永住を考えている方にとってはご自身が高齢になるほど積立金も増額することになるため、大きな負担を感じるでしょう。
そうなると、値上げについての住民の合意を取るのが難しく、工事期までに予定通り徴収できない可能性があります。
均等積立方式
国土交通省の修繕積立金ガイドラインで推奨しているのが、こちらの方式です。
発生しうる工事から工事費を推測し、単純に月数で割った金額を徴収するという方式です。基本的に定期的な増額はないため、見直しの際に1度合意が取れれば管理組合の負担も軽減されます。
また、永住予定者にとっても、老後に向けて金額が変わらないことは大きなメリットです。ただし、修繕費はあくまで概算なので、修繕費用をできるだけ正確に予測するには、こまめな修繕計画の見直しが必要になります。
築年数が新しいうちは段階増額積立方式よりも負担額が大きいため、売却予定の方には歓迎されない面もあるかもしれません。しかし、修繕積立金に余裕があることや、将来徴収金額が変動しないことはマンション自体の資産価値の向上にもつながります。
ほかに抑えられる費用を考える
普段の管理のなかで、抑えられる費用を考えてみましょう。共用スペースの電気代、清掃会社や管理会社への委託費用など、現在の出費で節約できるものがあれば費用の削減も一考の価値があるでしょう。
また、修繕工事の施工会社を探す際に、管理会社任せではなく管理組合で探すという方法もあります。管理会社を通して施工会社を決めるのは、管理組合にとっては手間がかからず負担軽減になりますが、仲介手数料が発生している場合もあるためです。
管理組合自身で探すことで、複数の施工会社から見積もりを取って比較することもできます。
おわりに
マンションの資産価値と住民の快適な生活環境を守るための大規模修繕工事。せっかく計画した長期修繕計画も、修繕費を確保しなければ工事ができません。修繕を見送ると物件の劣化が進み思わぬ事故を招く可能性や、工事しようと思った時には余計に修繕費がかかってしまう場合もあります。
修繕費が不足しないようにすることが一番ですが、万が一の修繕費不足には一時金や借入を検討し、できる限り適正な周期で工事を行うことをおすすめします。