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日本の食卓にもっと気軽にワインを─「サクラアワード」を目印に

日本には女性だけが審査員を務める世界でも極めてユニークなワイン審査会があります。その名は「“SAKURA“ Japan Women’s Awards(通称サクラアワード)」。

去る7月半ば、東京・目黒のホテル雅叙園東京で「第9回サクラアワード2022」の受賞ワイン試飲会と来年開催される第10回に向けての説明会が開かれました。会場で取材した内容をもとに、「サクラアワード」の取り組みと、ワイン選びの際の心強い味方になってくれるこのコンペティションの魅力についてお伝えしたいと思います。

1.日本の食卓とワインをつなぐ

「サクラアワード」は2014年に誕生しました。同アワードの発案者であり、主宰・審査責任者を務めるのは日本のワインジャーナリストの草分け的な存在で、長きにわたり、日本のワイン市場の活性化に手腕を発揮してきた田辺由美さん(一般社団法人ワインアンドスピリッツ文化協会代表理事、ワインアンドワインカルチャー株式会社代表取締役)。田辺さんによると、このコンペティションを通して目指してきたものは、以下の3つだそうです。

  • 日本の食卓に合うワインを探すお手伝いをする
  • ワイン市場の活性化に貢献する
  • ワイン業界で働く女性の活躍の場を広げる

1-1.日本の食卓に合うワインを探すお手伝いをする

従来西洋の食事と共に語られることが多かったワインが、実は日本の醤油や味噌といった発酵調味料や出汁を使った料理とも相性が良いという事実があります。「日本の食卓にはどのようなワインが合うの?」という生産者からの質問を原点にさまざまな和食のジャンルについて相性の良いワインが選ばれています。その認知を広めることで、もっとワインを身近な飲み物だと感じてほしいという田辺さんの強い思いがありました。

1-2.ワイン市場の活性化に貢献する

ワインは日本のレストランや、食卓でも楽しまれるようになってきましたが、「ワイン=特別な日の飲み物」という旧来のイメージを良い意味で覆すべく、「サクラアワード」では1,000円台から3,000円台の手頃な価格のワインを中心に据えているとのこと。実際、この10年で日本のワインの消費数量は1.5倍になったという数字があります。(2021年10月のデータ

1-3.ワイン業界で働く女性の活躍の場を広げる

女性の地位改善と社会進出を促す風潮のなか、ワイン業界においてもその動きに拍車を掛けることができないか、との思いが「サクラアワード」の構想の段階からあったとのこと。そこからの自然な流れで審査員は女性のみというユニークなスタイルとなりました。

審査員を女性(ソムリエ、ワインジャーナリスト、醸造家、酒販店、流通、インポーターなど)に限った理由について、田辺さんは次のように述べています。

「日本の食事で育ち、スーパーでの買い出しやその日その日の献立作りでも主導権を握ってきた女性たちが審査することで、真に日本の食卓に合うワインを選ぶことができると考えました」

2.最高賞は「ダイヤモンドトロフィー」

サクラアワード②_最高賞は「ダイヤモンドトロフィー」

サクラアワードの審査会では内外からエントリーしてきたワインを430人の女性審査員が手分けして試飲・審査、各ワインを100点満点で評価します。そして、得点により以下の3つの賞が授与されます。

  • ダブルゴールド(93〜100点)
  • ゴールド(88〜92点)
  • シルバー(85〜87点)

ダブルゴールドに選ばれたワインの中から、特に優れたワインには最高賞を意味する「ダイヤモンドトロフィー」が与えられます(2022年の場合、この最高賞に輝いたワインはエントリー数の約1%だった)。

サクラアワード_賞の種類

さらに、「サクラアワード」にはいくつかの特別賞が用意されています。まずは「和食&アジア料理に合うワイン賞」。これは、ゴールド以上の評価を受けたワインを対象に、審査員がどんな料理に合うかを決め、ポイント制で上位10アイテムを発表するもの。料理ごとの最高評価のアイテムが「グランプリ」の栄誉に浴します。料理のカテゴリーは寿司、天ぷら、すき焼き、鉄板焼き、焼き鳥、寄せ鍋、中華料理、韓国料理、タイ料理の9つです。このカテゴリー分けは、例えば、すき焼きに合うワインは醤油と砂糖を使って甘辛く煮るようなものなら筑前煮など他の料理にも合わせられるなど、幅広い料理に応用が効くものになっています。

他にも「女性ワインメーカー賞」「ジャパニーズワイン賞」「ロゼワイン賞」「いつも飲みたいスパークリングワイン賞」「これから飲みたい品種賞」「デザートワイン賞」「フォーティファイドワイン(酒精強化ワイン)賞」「コストパフォーマンス賞」があります。世界のワインのトレンドもしっかりと押さえつつ、きちんと整理されたこれらの枠組みにより、とかく「複雑で、理解するのも難しく、自分で選べない」と言われがちなワイン選びを、シンプルかつ安心して行えるようにしているわけです。

9回目の開催となった今年、「サクラアワード」はコロナ禍の影響が続く厳しい状況下でありながらも、25カ国から4,652のアイテムがエントリーするという、成長ぶり、堅調ぶりを見せました(このうち、286アイテムが「ダブルゴールド」、1,425アイテムが「ゴールド」に輝いた)。この数字は、世界の生産者にこの審査会の存在が広く認知されていることを示すと同時に、日本の市場に大きな期待が寄せられていることを物語るものです。「サクラアワード」はアジア最大のワインコンペティションとなっています。

サクラアワード_受賞数

3.受賞ワインと料理のペアリングを検証

受賞ワインの試飲会場は約600人の業界関係者が集まり、熱気に満ちていました。フランス、イタリア、スペイン、アメリカ、日本など、よく知られた産地のワインに混じって、南アフリカ、ジョージア、中国といった比較的マイナーな産地のワインも並んでいて、「サクラアワード」の懐の深さがよく表れているように見えました。

サクラアワード③_受賞ワインと料理のペアリングを検証
サクラアワード2022受賞ワイン試飲会会場の様子

「和食&アジア料理に合うワイン賞」のグランプリに輝いたアイテムを中心に試飲してみました。

すき焼きに合うワイン賞

「すき焼きに合うワイン賞」には、果実味の豊かな中重口の赤ワインが多く選ばれていました。醤油+砂糖という比較的強い味付けに渡り合うにはたっぷりとした果実味が必要との判断でしょう。グランプリはイタリア・マルケ州の「ヴェレノージ ロッソ ピチェーノ スペリオーレ ソレスタ2019」。完熟プラムとカシスの香りにリコリス、ナツメグ、バニラの甘苦いスパイスがオーバーラップし、深く、濃く、複雑な印象です。アルコール感もたっぷりありますが、バランスが良いので、スイスイ飲めてしまいます。一緒に食べたいのとして思い浮かぶのはなんといっても牛肉。すき焼きなら、申し分ないでしょう。

サクラアワード_受賞ワイン

寄せ鍋に合うワイン賞

「寄せ鍋に合うワイン賞」には、鍋物の旨味の効いた出汁と相性の良い、味わいのクッキリとした白ワインが選ばれているようでした。グランプリに輝いたオーストラリアの「クアリサ・ワインズ 30マイルズ シャルドネ2020」は、レモン、蜜柑、マルメロの砂糖漬けの香りがあり、口の中ではしっかりとボリューム感があって、ハニーレモンを思わせるクッキリとした酸と軽い苦味が特徴的で、魚介類のマリネや野菜の煮物によく合いそうです。寄せ鍋の旨味たっぷりの出汁感と素晴らしい相性を示すに違いありません。

中華料理に合うワイン賞

「中華料理に合うワイン賞」には、スパイシーな風味のある赤、しっかりした骨格の白、華やかな味わいのロゼ・シャンパーニュと多様なワインが選ばれていました。チャレンジングなペアリングで、中華料理の多様な食材、複雑で奥深い味わいをどう解釈するかで審査員の考えにも幅が出たことが想像されました。そんな中、グランプリに輝いたのはフランス・シャンパーニュ地方のロゼ・シャンパーニュ「ツァリーヌ ロゼ ブリュット」。

香水の容器のような凝ったボトルにサーモンピンクの優美な色合い。プラムとイチゴのキュートな香りにオリエンタルスパイスのトーンが加わって複雑みを与えています。口の中ではキレというよりは包容力を感じます。蒸す、炒める、揚げる‥‥さまざまな調理法を駆使する中華料理の幅広い味わいに、このロゼ泡の持つ華やかさと包容力がマッチすることでしょう。

その他カテゴリー受賞ワインのご紹介

その他、日本の食卓によく出てくる和食などに合うワインとして、以下のカテゴリーでグランプリに輝いた受賞ワインを紹介いたします。ぜひ、ワイン選びの参考になさってください。

寿司に合うワイン賞 

SC DULON/CHATEAU GRAND JEAN 2021 (フランス:D)

天ぷらに合うワイン賞 

 U MES U FAN TRES/1+1=3 CAVA BRUT NATURE 2018 (スペイン:D)

鉄板焼きに合うワイン賞

GLENELLY/GLENELLY ESTATE RESERVE RED 2015 (南アフリカ:C)

焼き鳥に合うワイン賞

CODICE CITRA/ORTENSE -ROSSO (イタリア:F)

韓国料理に合うワイン賞

BODEGA LA ROSA/FINCA LA ESCONDIDA MALBEC 2021 (アルゼンチン:F)

タイ料理に合うワイン

CA DEI FRATI/BROLETTINO 2019 (フランス:B)

※上記、国名横に記載しているアルファベットは、希望小売価格(円)を表すものです。

A:6,001円~ B:4,001~6,000円 C:2,501~4,000円 D:1,501~2,500円 E:1,001~1,500円 F1,000円以下

「和食&アジア料理に合うワイン賞」以外にも、「サクラアワード」の受賞ワインはたくさんあります。それ以外の受賞ワインについては、「サクラアワード」専用のワイン検索システムを利用することで簡単にチェックできます。

4.まずはお気に入りの1本を

サクラアワード④_まずはお気に入りの1本を
田辺さんへのインタビューの様子

最後に、田辺さんからお聞きした上手な「サクラアワード」との付き合い方をご紹介しておきましょう。

「まずは、ワインショップやスーパーマーケットで『サクラアワード』のメダルロゴステッカーの付いたワインの中から、何本か買って試して、赤でも白でもいいからあなた自身のお気に入りを1本見つけていただきたいのです。そしてそれを家庭で召し上がるいろいろな料理に合わせて飲んでみる。

ヨーロッパの人たちだって、日常的にはそんなに多くの種類のワインを飲んでいるわけではありませんからね。それで、もし、ある料理に『このワインでは合わない』というのが出てきたら、また別のタイプのワインを買ってみればいいのです。何もややこしいブドウ品種の名前など覚える必要はないです。気に入ったワインのラベルやワイン名を覚えておけばそれで充分。

日本の食事は伝統的に醤油やお味噌などを使った発酵食の文化ですから、ブドウを発酵させて造るワインとはもともと相性が良いんです。ましてや、『サクラアワード』のワインは、同じ味覚を持った日本の女性たちが選んでいるのですから、間違いがない。ぜひ『サクラアワード』のメダルロゴステッカーの貼られたワインを選んでみてください」

5.来年は記念すべき第10回

次回の第10回「サクラアワード」は、2023年1月下旬に審査会を実施、2月中には全受賞ワインの発表が予定されています。