「籍を入れずに事実婚を選択している夫婦」について取り上げたテレビ番組やネットの記事を見かけることが多くなりました。時代が移り変わるにつれて家族や夫婦のあり方も多種多様に変化し、事実婚を選択する夫婦が増えています。
厚生労働省によると、日本では未婚率の上昇などを背景に婚姻件数が減少傾向にあると示されています。2012年の婚姻数は年間約67万組でしたが、最も婚姻数が多かった1972年(昭和47年)の約110万組と比較すると約43万組減少し、約6割程度と減少の一途を辿っています。
このコラムでは、事実婚を検討している方や、関心があるがよく分からないと思っている方に「事実婚の内容」や「証明するために必要な手続き」を説明します。ぜひ最後までお読みください。
1.事実婚について解説
事実婚の認知度は徐々に高まってきていますが、正確な定義を答えられる方は少ないのではないでしょうか。正しい知識がないことで、誤解や偏見につながってしまうかもしれません。ここでは「事実婚の定義」や「法律婚や内縁との違い」について解説します。
1-1.事実婚とは
事実婚とは、法律婚とは異なり法律上の婚姻手続きを行わず、同じ戸籍に入らない状態で夫婦と同等の関係を持った状態を指します。「両者が婚姻の意思を持って長期間共同で生活を営んでいる」など、結婚と同等な条件が揃えば事実婚として認められています。
事実婚を選ぶ理由として、同じ戸籍に入る事が結婚であるという昔からの日本の考え方にとらわれず、自由な夫婦生活を送りたいといった価値観が挙げられます。事実婚を選ぶのは、男女のカップルだけではありません。日本では法律上の同性婚が認められていないため、同性同士のカップルが事実婚を選択する場合もあります。
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1-2.法律婚との違い
事実婚と法律婚は、必要な手続きに違いがあります。法律婚では、婚姻届を役所に提出することで「法律上の夫婦」として認められます。従来の「結婚する=法律婚」という考え方です。同じ戸籍に入ることで、夫または妻のどちらかの姓に変更する必要があります。そのため、運転免許証などの身分証や銀行口座等の名義変更が必要です。
また、婚姻中に妻が妊娠して生まれた子どもは、自動的に夫の子どもと判断され、法律上でも父親と子どもの関係となります。事実婚の場合、夫婦として籍を入れていないため、そのまま同じ姓を名乗れるのが特徴です。また、生まれた子どもは母親である妻の戸籍に入ります。親権者も妻となるため、夫は法律上は子どもの父親にはなりません。
1-3.内縁との違い
日本では、家庭の事情などの理由で婚姻手続きを提出したくてもできない状態を「内縁」と呼んでいました。事実婚は、夫婦が主体的な意思で婚姻手続きを行わない理由に対して使われます。一方で、内縁は家庭の事情などの理由として使い分けされるのが一般的です。現在では、事実婚と内縁は同意義なものとしてとらえられているため、それぞれに違いはありません。
2.事実婚に必要な3つの要件
事実婚としての手続きを行う際に、必要な要件があります。第三者が見たとき、事実婚として夫婦関係を築いているかどうか証明できる事項です。ここでは、事実婚に必要な3つの要件を解説します。
2-1.婚姻の意思があること
事実婚は同棲と違って、婚姻の意思があることが要件になります。男女どちらかだけに婚姻の意思があっても、事実婚とは認められません。お互いに婚姻の意思があることが重要です。男女ともに婚姻の意思がなければ、単に恋人同士が同棲していると見なされてしまいます。お互いが婚姻の意思を持って共同で生活していることで、事実婚の条件のひとつと言えるでしょう。
2-2.同居していて住民票が同一であること
パートナーの戸籍に入ることには抵抗がありますが、自治体等に夫婦であることを認めて欲しい場合、お互いの住民票を同一にする方法があります。戸籍は出生、婚姻、離婚などの身分事項を証明することが主な役割です。
一方で住民票は、住んでいる場所である住民登録地を証明するものです。戸籍に入らなくても住民票を同一にすることで、共同で住んでいることを証明して事実婚として認められる要件となります。
2-3.生計が同一であること
「生計が同一である」といった夫婦生活としての実態がなければ、事実婚としては認められません。生計の同一とは、以下のような生活費を夫婦共同で負担していることが要件です。
- 食費
- 住居費
- 水道光熱費
- 通信費
- 保険医療費
最近では、共働きの夫婦も多いため、それぞれでお金を管理している場合があるでしょう。お金の管理が別であっても、生活費を共同で負担していれば事実婚の証明のひとつになるしょう。
3.事実婚の証明に有効な手続き3選
法律婚の場合は婚姻届を出すことによって、戸籍や住民票に夫婦として登録され、第三者に証明できます。しかし、事実婚は婚姻届などの手続きを行わないため、第三者に証明することが難しいです。ここでは、事実婚の証明に有効な方法を紹介します。
3-1.住民票に記載する
事実婚として同居をはじめる場合、住民票を同一にしておくことがおすすめです。同居時の住民票の記載方法は、大きく分けて2種類あります。住民票の続柄欄に「同居人」と記載する方法と「夫(未届)」または「妻(未届)」と記載する方法です。
単に同棲している場合は「同居人」で問題ありません。事実婚として住民票を利用して証明する場合は1人を世帯主とし、もう一方の続柄欄に「夫(未届)」または「妻(未届)」と記載しましょう。
3-2.公正証書を作成する
事実婚の場合、円満な夫婦生活を送るうえで、夫婦の関係性やお金の管理などを記した契約書を作成することが重要です。契約書を公正証書として作成することで、証明力の高い文書として残すことができます。公正証書に記載するべき「事実婚の場合に必要とされる義務」は、以下が想定されます。
- 同居、扶助、協力する範囲の義務
- 婚姻費用の分担
- 財産の帰属
- 事実婚の解消 等
公正証書を作成する過程で、どのような共同生活を送るかどうか夫婦でしっかり話し合いながら作成しましょう。
3-3.パートナーシップ制度を利用する
全国のいくつかの自治体には、事実婚やLGBT等を対象に、パートナーシップ制度が導入されています。海外では1989年にデンマークで初めてパートナーシップ法が制定され、そこから欧米に広がり、さらに同性同士の婚姻を認める同性婚制度へと発展していきました。
日本では各自治体によりますが、法的な効力はないものの、以下のように法律婚と同様のサービスを受けられます。
- 公営住宅や賃貸住宅への入居
- 手術や入院時の付き添い
- 携帯電話の通信費や入場料などの家族割引の適用
異性の事実婚であってもパートナーシップ制度の利用が認められる自治体があるので、ご興味がある方は問い合わせてみましょう。
参考元:コトバンク|日本大百科全書
4.事実婚の手続きを行うメリット3選
事実婚は自由度が高い夫婦生活を送ることができる一方、法的に認められている法律婚と違い、不便さを感じる場面が出てきます。事実婚の手続きを行うことで、法律婚と同等の権利が得られるメリットを紹介します。
4-1.夫婦であることを証明できる
夫婦として認識してもらうために、第三者に対して事実婚であることを証明する手続きはたいへん重要です。
事実婚であっても法律婚と同様に健康保険の扶養者になったり、遺族年金の受け取りができる場合があります。しかし、本人達が事実婚だと認識して生活を送っていても、戸籍に登録されていないと第三者に理解してもらえない可能性があります。
例えば、パートナーが万が一の事故や急病等で、病院側から手術等の同意書へのサインを緊急で求められた場合です。夫婦関係を証明することができないために、同意書にサインができない可能性があります。
4-2.社会保険の扶養に入りやすくなる
日本では、社会保険において扶養の考え方があります。被扶養者の有無や人数によって、課税所得の軽減や家族の人数分の保険料が免除される制度です。
世帯主が会社員や公務員の場合、配偶者が扶養に入ることで保険料が免除されます。また、国民年金第3号被保険者となることで、国民保険料の支払いも免除されます。事実婚の場合は、戸籍謄本から夫婦関係を証明できません。しかし、事実婚の手続きを行うことで、夫婦として認められ扶養に入れる場合があります。
4-3.不貞行為が行われた場合に慰謝料が請求できる
不貞行為とは、配偶者以外と肉体関係を持つ行為を指します。不貞行為は法律上の用語で、一般的に使われる不倫と同じ意味です。
法律婚の配偶者が不貞行為を行うと、一方の配偶者が有する婚姻共同生活の平和の維持の権利を侵害することになります。不貞行為によって被った精神的苦痛に対して、配偶者に対して慰謝料が請求可能です。
また、不貞行為の相手側が「婚姻関係について知っていた」もしくは「知ることができた」という事実が立証できた場合、相手側に対しても慰謝料を請求できます。
事実婚であった場合も不貞行為が行われると、慰謝料を請求できます。しかし、法律婚と比べるとハードルが上がります。夫婦関係が証明できないと、不倫相手に対する慰謝料の請求が難しくなるため、事実婚の手続きが重要です。
5.事実婚の手続きを行い幸せな夫婦生活を送りましょう
近年、法律に縛られない事実婚は増加傾向にあり、お互いに自立した関係を望むカップルに適した選択と言えます。一方で、扶養控除や保険の受け取りなど夫婦生活の証明が必要な場面があるでしょう。
それでも事実婚の手続きを行うことで、法律婚と同じ権利を得られます。これから一緒に人生を歩んでいくふたりにとって、不安のない幸せな夫婦生活を送るために、今後の人生設計や必要な手続きについて話し合っておきましょう。