個人事業主として仕事をするときには開業届を提出しますが、提出しなくても罰則はありません。しかし、提出することで得られるメリットも多くあります。どんなメリットがあるのか、また、提出方法や注意点について見ていきましょう。
1.個人事業主は開業届を出す必要がある
事業を始めたときは、開業届を提出することが求められています。事業所得や不動産所得、山林所得が得られる事業を開始したときに、1ヵ月以内に税務署に所定の書類を提出しましょう。
ただし、開業届の提出は所得税法に定められていますが、提出しなかったときの罰則は定められていません。そのため、開業届を出さないまま事業をしている方もいると考えられます。
1-1.税務署に提出する開業届
開業届は事業所を管轄する税務署に提出します。所定の書類は税務署でも受け取ることができますが、国税庁のホームページからでもダウンロードが可能です。
誤字なく記入するためにも、事前にダウンロードし、家で書いてから税務署に持っていくほうが良いでしょう。税務署に行くことが難しいときは、郵送も利用可能です。e-Taxを利用している方は、オンラインでも開業届を提出できます。
いつまでに出す必要がある?
個人事業主の開業届は、事業開始の事実があったときから1ヵ月以内に税務署に提出します。ただし、1ヵ月目にあたる日が土日祝日のときは、翌営業日が提出期限となります。
なお、開業日はいつ設定しても問題ありません。何かの記念日を開業日にしたり、縁起が良いとされる日を選んだりすることができます。ただし、許認可が必要な業種は許認可日前の営業は禁止されているため、許認可を受けた日以降を開業日として設定しましょう。
開業届にかかる費用
開業届の提出には、費用はかかりません。書面を提出し、税務署から受理されれば手続きは完了します。ただし、郵送で提出するときには送料は自己負担です。適切な料金の切手を貼り付けた封筒を同封すると、開業届の控えを後日受け取ることができます。
開業届を提出する際の必要書類
開業届を提出するときは、本人であることを証明するためにもマイナンバーカードの提示が求められます。マイナンバーカードを持っていない場合は、マイナンバーが記載された書類と、運転免許証などの本人確認書類の両方を提示することが必要です。
郵送により開業届を提出するときは、マイナンバーカードを表・裏どちらものコピーを取って所定の用紙に貼り付けて提出します。マイナンバーカードがないときは、窓口提出時と同じく、マイナンバーが記載された書類と、運転免許証などの本人確認書類の両方のコピーを貼り付けて提出しましょう。
開業届の書き方
開業届には、事業所の所在地や氏名、職業を記載します。自宅で開業する場合は自宅住所を記載しましょう。また、廃業するときも同じ用紙で申請するため、「届出の区分」の欄には、「開業」の部分にチェックを入れます。
なお、職業欄とは別に事業の概要に関して記載する欄もあるため注意が必要です。例えばカフェを開業するときには、職業欄には「喫茶店」、事業の概要欄には「カフェでの軽食提供や運営」と記載できます。
また、専従者や使用人などの人数についても記載しますが、いないときには「0」で問題ありません。不明点があるときは税務署で職員に尋ねながら、記入することもできます。
1-2.都道府県税事務所に提出する事業税の届出
開業したときは、税務署に開業届を提出するだけでなく、都道府県税事務所にも開業の届出を行います。これは個人事業税を納めるための手続きです。税務署では国税を管轄していますが、個人事業税は地方税であり、都道府県税事務所の管轄になるためです。
なお、開業届と同じく、事業税の届出も提出することが求められていますが、届出を提出しなかったときの罰則は定められていません。また、提出期限は都道府県によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
2.個人事業主が開業届を出すメリット
開業届を提出することで、次の2つのメリットを得られます。
- 屋号名義の口座を開設できる
- 融資を申し込みやすくなる
それぞれのメリットを具体的に見ていきましょう。
2-1.屋号名義の口座を開設できる
開業届には屋号を記入する欄があるので、公的書類に屋号を登録することができます。屋号を名義とした銀行口座も開設できるので、事業とプライベートのお金を分けて管理しやすくなるでしょう。
なお、開業届を出さなくても屋号を決めて名乗ることはできます。しかし、金融機関によっては屋号名義の口座開設の際に、開業届の控えを求められることがあるので、開業届を提出し、正式に屋号を登録しておくほうが良いでしょう。
2-2.融資を申し込みやすくなる
開業資金や運転資金が不足するときは、金融機関に融資を申し込むことができます。しかし、金融機関によっては申し込みや審査の際に開業届の控えの提出が求められることがあるので、開業届を出しておくほうが良いでしょう。
なお、開業資金の調達方法にはさまざまな方法があります。こちらの関連記事『開業資金を調達する方法8選!平均額や必要な資金の内訳も解説』も併せて参考にしてください。
また、金融機関や公的機関などでの手続きの際に、在職証明書の提出を求められることもあります。個人事業主は在職証明書がないため、代わりに開業届の控えの提出を求められることが一般的です。開業届を出していないと控えを提出できません。
さまざまな手続きをスムーズに行うためにも開業届を出しておくほうが良いでしょう。
3.開業届を出してないと青色申告できない
青色申告をしていることで、特別控除が適用されたり、赤字を翌年以降に繰り越したりできるようになります。赤字を繰り越せると、翌年以降が黒字であっても課税所得額を減らせるため、節税にもつながるでしょう。
なお、青色申告をするためには、開業届を出していることが必要です。青色申告をするためにも、開業届を出しておきましょう。
3-1.青色申告には別途手続きが必要
青色申告の適用を受けるためには、次の2つの手続きが必要です。
- 開業届を提出する
- 青色申告承認申請書を提出する
なお、青色申告承認申請書は開業日から2ヵ月以内に提出します。1月1日から1月15日の間に開業した場合は、その年の3月15日までに提出しましょう。「青色申告しようとする年の3月15日まで」が提出期限です。提出期限を過ぎると、翌年以降の提出とみなされ、最初の年は青色申告ができません。
青色申告による特別控除や赤字の繰り越しなども適用されなくなるため、忘れずに期限内に提出するようにしましょう。
3-2.青色申告で得られるメリット
青色申告により得られるメリットとしては、次のものが挙げられます。
- 10万円もしくは65万円の特別控除が適用される
- 赤字を翌年以降に繰り越せる
- 家族への給与を経費計上できる
- 少額減価償却資産の特例を利用できる
青色申告を行うと、記帳方法によって10万円もしくは65万円の特別控除が適用されます。控除額の分だけ課税所得額は減るため、節税につながるでしょう。
また、赤字を翌年以降に繰り越せるのも青色申告のメリットです。個人事業主は最大3年間繰り越せるため、赤字を課税所得額の減額に活用できます。
青色申告を行うと家族へ支払った給与を「青色事業専従者給与」として経費計上が可能です。青色申告をしていない場合でも家族への給与を「事業専従者控除」とできますが、上限があるため、青色事業専従者給与として処理するよりは節税効果が期待できません。
また、資産を取得したときは経費計上が可能ですが、資産の取得金額が10万円以上のときは減価償却資産として何年かにわけて経費計上する必要があります。
しかし、青色申告をしている場合には、30万円未満の資産であれば購入した年にまとめて経費計上することが可能です。経理計算がシンプルになるだけでなく、その年の節税にもつながります。
なお、少額減価償却資産の特例の適用は、年間合計300万円までに制限される点に注意しましょう。
4.個人事業主が開業届を提出する際のデメリット
開業届を提出することには多数のメリットがあります。しかし、常に開業届を提出することが最善とはならない点に注意が必要です。
例えば、家族の扶養に入っている場合、家族が加入している健康保険組合によっては自営業として起業すると扶養から外れることが定められていることがあります。このような場合は、開業した時点で扶養から外れるため、自分自身で国民健康保険などに加入し、保険料を支払わなくてはいけません。
また、失業手当(雇用保険の基本手当)を受け取っている場合にも注意が必要です。失業保険は原則として仕事を探している方が受け取る手当であり、開業するとその適用条件から外れます。
5.メリット多数!個人事業主は開業届を提出しよう
開業届の控えが必要になる場面は少なくありません。屋号名義の口座を開設するときや事業資金の融資を申し込むときなどに、金融機関から提出を求められることがあります。
また、公的機関で手続きをする際にも求められることもあるかもしれません。開業届を提出して、控えを受け取ることで、金融機関や公的機関での手続きをスムーズに行えるようにしておきましょう。
開業届を提出すると青色申告できる点もメリットです。青色申告をすると特別控除が適用されるなど、節税につながるさまざまな制度を利用することができます。
開業届は税務署が開いているときなら、いつでも提出可能です。事業を開始してから1ヵ月以内に手続きを行うようにしましょう。また、併せて青色申告承認申請書や都道府県税事務所での手続きも行うことができます。
事業に忙しく税務署に行く時間がないときなどは、郵送でも手続きが可能です。適切に手続きをすることで個人事業主として開業し、青色申告などの税制上のメリットも受けていきましょう。