秋といえば「芸術の秋」「実りの秋」などの言葉があるように、他の季節とはまた違った楽しみがあります。いけばなでは、その季節の花を生けるので「この時期がシーズン」というものはありません。けれども、実の付いた枝ものや紅葉などの風情を味わえる喜びがあるのが「秋」です。
このコラムでは、深まる秋にやってみたい自宅でできるいけばなをご紹介します。旬の果物や野菜と花とを組み合わせて、気軽にいけばなを楽しんでみませんか。
1.秋の果実や野菜、草花を使って風趣を表現するいけばな
「実りの秋」ともいわれるように、秋はたくさんの果物や野菜、穀物の収穫が楽しみなシーズンでもあります。そんな「秋」を感じる作物と草花を一緒に盛り合わせて、自由に楽しく表現してみましょう。夏にはメロンやパイナップルと季節の花、またスイカや茄子などを合わせることもあります。季節ごとに違った風情が味わえるので、1年を通じて生けてみるのもおすすめです。
まずは、上の作例をご覧ください。
秋感たっぷりの柿や栗、南瓜などを配置し、後ろに花を生けます。下に敷いている黒い敷板は、実はお盆を裏返しただけのものです。花を立てているのはオアシスという花用スポンジで、南瓜の陰に隠しています。
それでは、詳しい準備と生け方を、次にご紹介しましょう。
準備と生け方
- 生けてみたい果物や野菜、草花を決めます
- 花台を用意します ※花台のほか、お盆、お皿、自然木の板、深めの鉢などでも良いでしょう。
- 果物や野菜を盛り合わせます
- 草花を挿すオアシス(緑のスポンジ:下の写真を参照)を容器に入れ、水を含ませます。もしくは花が挿せる小瓶などに水を入れます
- オアシスや容器を果物や野菜の後ろに置いて、草花を挿します
正面から見えない小さなものを選びましょう。容器が軽いと花の重みで倒れてしまうことがあるので、瀬戸物やガラスなどの重量のある素材でできていると生けやすいです。また、複数に分けると、花の重みを分散できます。
オアシスや小瓶は、100円ショップやホームセンターなどで購入できます。ただし、すべての店舗で取り扱いがあるとは限らないので、事前に確認すると安心です。全体的にバランスよく見えるように整えましょう。
作例①
参考のために、作例をもう2つご紹介します。まずは、果物だけをお皿に盛り合わせた例です。
このいけばなには、「九果呈端」という題が付いており、「たくさんの果物の」「玉のような美しい輝き」という意味が込められています。題の「九」にちなみ、9つの色や形の異なる果物を吉祥紋の染付大皿に盛り合わせています。
作例②
二つ目は、里芋の葉が目を引くいけばなをご紹介します。「秋山野趣」という題は、「秋の山の野菜や果物、草花の風趣を味わおう」という意味です。里芋の葉を葉盆に見立て、茗荷や栗を盛り合わせ、嫁菜と縷紅草をあしらっています。山里の風趣を感じる作品です。
野菜や果物、草花を見たり手に取ったりして、素材の持つ魅力を引き立てながら、秋の風情を表現してみましょう。
【参考】秋の花材
参考までに、秋が旬の果物や野菜、草花をまとめました。事前に作品のイメージを膨らませたいときにご利用ください。ここにまとめたもの以外にも、魅力的な花材はたくさんあります。「これ!」というものに出会ったらぜひ一度生けてみてください。
秋が旬の果物
葡萄、無花果、梨、栗、林檎、柿、柘榴など
秋が旬の野菜
南瓜、きのこ類、芋類、蕪、牛蒡、人参、蓮根など
秋の草花
桔梗、萩、秋桜、菊、ススキ、薔薇、彼岸花など
草花は、例えばマリーゴールドのような大きくはっきりしたものよりも、線が細く清楚な雰囲気の花が合わせやすいでしょう。
ここでは、複数の材料を使った作例でしたが、数の少ないシンプルな作品もすてきです。次にご紹介するハロウィーンの作例なども参考に、一つひとつの色や形などを考えながら、お部屋に秋の趣を取り入れて楽しんでみてください。
2.ハロウィーンには「南瓜」と「花」のハーモニーを楽しむ
10月31日はハロウィーンです。この時期になると、お店のショーウィンドーやデコレーションで南瓜をよく見かけます。ハロウィーンの南瓜はフラワーショップで販売しているので、気軽に購入できるのも嬉しいところですね。
ショップによって種類もさまざまあるので「面白い」「かわいい」と思う形があれば、お花と一緒に盛り合わせて楽しんでみましょう。もし組み合わせに迷ったら、お店の方に相談すると、相性の良い花を教えてくれることもあります。好きなお花を自由に選んでみてください。
上の写真は南瓜1個と花1輪で生けたシンプルな作品です。はじめは予算を掛けずに、気軽に遊んでみるのも良いでしょう。
また、下の作例やコラムのトップにある写真のように、いくつかの南瓜や植物を盛り合わせると、また雰囲気の違う作品になります。
ハロウィーン用の南瓜の色や形はお店によって違うことも多いので、数店巡ってみるのも面白いかもしれません。お部屋に飾ると、一気に季節感のある雰囲気になりますよ。
お手入れ方法
果物や野菜、花は生ものなので、次第に傷んできます。傷む速度は果物や野菜の種類によっても異なり、また室温や湿度にも左右されるので、様子を見ながら判断するのが良いと思います。
花は1日1回水を取り替えると良いでしょう。
3.自由な気持ちで生ける文人花(文人華)の楽しみ
今回ご紹介した「秋にやってみたいいけばな」の原点にあるのは、文人花(文人華)といういけばなです。文人花は、気品のある風雅さを大切にしながら感情豊かに生け表します。そして、生ける前に、いけばなの題となる「雅題」を付けるのが決まりです。雅題は、中国の文人画などの詩文に書かれた、故事や植物の異名を組み合わせます。はじめの章でご紹介したいけばなに題が付いているのはこのためです。また、野菜や果物と取り合わせるだけでなく、草花や木だけで構成することもできます。
文人花の歴史をたどると、江戸時代中期に日本に持たらされた文人画と、中国の花書で説かれている「花木を愛ずる心は、山水自然を好む心と相通ずる」という理念を取り入れたいけばなとして誕生したのが始まりです。細かな技巧や約束などにこだわらず、自由でさわやかな気持ちで生けます。雅題に合わせた花材を選ぶことや、花器や花台の取り合わせも大切な要素です。それらの要素といけばなの様式を活用しながら、今日に至るまで楽しまれています。
文人花が歴史に登場する流れについては、こちらの記事で紹介しています。
【参考】雅題一覧
文人花の雰囲気を味わっていただくために、雅題の一部をご紹介します。雅題を選んでその風趣を表すのは、いけばなを習ってからじっくり取り組むと良いと思います。春夏秋冬、それぞれの季節に湧き起こった思いを雅題に込めて生けてみるのも、またひと味違う楽しさがあります。
※五十音順
おわりに
いけばなと聞いて、野菜や果物と花を一緒に盛り合わせた姿を想像することは、あまりないかもしれません。いけばなは、長い歴史の中で多くの人によって育まれてきました。その中で、さまざまな様式や種類が生まれているため、飽きることなく楽しめるのもいけばなの奥深さです。その時々に感じた自然の情景を、心に感じたように、そして時には「故事」などに題材を取りながら、自由に楽しんでみませんか。
<参考>
嵯峨御流華道総司所「文人華~寓意の花~」大本山大覚寺出版部, 2008
嵯峨御流華道総司所「[新装版]ときめきの花~いけばな ひとり稽古~」旧嵯峨御所 大覚寺, 2010