最近耳にする機会の多い「ユニバーサルデザイン」。聞いたことはあるけど実際にどんなものかよく知らないという方もいるのではないでしょうか。
今回は、ユニバーサルデザインとはどんなものか、混同されやすいバリアフリーとの違いや、身の回りにあるユニバーサルデザインや企業の取り組みについて事例とともに紹介します。
人々の暮らしを支えるユニバーサルデザインがどんなところで取り入れられているのか知りたい方は必見です。
1.ユニバーサルデザインとはどんなもの?
ここでは、ユニバーサルデザインとはなにか、バリアフリーとの違いとともに解説していきます。
1-1.ユニバーサルデザインとは
ユニバーサルデザインとは、「すべての人のためのデザイン」という意味があります。「ユニバーサル=普遍的、全体の」といった言葉が示すように、多くの方がみても分かりやすく、みんなが利用できるデザインであることが特徴です。
私たちの周りには、男性・女性、子ども、高齢者、外国人、車椅子を利用する方、目が見えにくい方など、いろいろな方が暮らしています。人によってそれぞれ違いや個性がありますが、最初から多くの方が利用可能となるようなデザインにすることで暮らしやすい社会にしていこうという考え方がユニバーサルデザインです。
ユニバーサルデザインの言葉や考え方は、1980年代に建築や物のデザイン研究を行なっているノースカロライナ大学教授のロナウド・メイス氏によって広まりました。ユニバーサルデザインは頭文字をとって、「UD」と表記されることもあります。
1-2.バリアフリーとなにが違う?
似たような意味をもつ言葉で「バリアフリー」がありますが、ユニバーサルデザインとの違いはなにでしょうか。バリアフリーとは、「障害者や高齢者が日常生活を送るうえで、行動の妨げとなる障壁(バリア)を取り除く」という考え方になります。
そのため、すべての人を対象とするユニバーサルデザインと違って、バリアフリーでは、障害者や高齢者など一部の人が対象となるのです。ユニバーサルデザインでは、すべての人が使いやすいように最初からデザインしていますが、バリアフリーは障壁の影響を受ける一部の人のために、後から障壁を取り除くといった目的の違いもあります。
2.ユニバーサルデザインの7原則
ユニバーサルデザインの考え方を多くの方に知ってもらうためにまとめられたのが「ユニバーサルデザイン7原則」です。導入例を含めながら、ひとつずつ見ていきましょう。
2-1.公平性
公平性とは、使う人を選ばず誰もが公平に使えることを指します。例としては、「手すりのある階段」「自動ドア」「エレベーター」などです。
歩いている方や足が不自由で車椅子を使っている方、ベビーカーを押している方など、誰もが同じように利用できます。利用するときに他の人と差別化されないことが重要です。
2-2.自由度
自由度とは、使う人に合わせて使い方を選べることです。人によって体格や身長、利き手などが変わりますが、個人の特性や好みに合わせて、自由に使い方を選べるのが重要になります。
例えば高さの異なる「手すり」「カウンター」「水飲み場」は、身長や体格に合わせて子どもや大人に関係なく使えます。「多機能トイレ」は、車椅子の方も利用でき、性別関係なく赤ちゃんのおむつ替えにも利用できるなど、使い方が自由です。
2-3.簡便性
簡便性とは、使い方が簡単で数回使用しただけで直感的に扱えるようなものを指します。使う人の経験や知識の違いに関係なく、単純に利用できることが大切です。
例としては、「病院の案内看板」があります。病院内の行きたい場所が大きな数字で表記されていたり、色分けされたりすることで、どこに行けば良いのかが一目で分かりやすくなっているのが特徴です。
ほかにも、押す部分が大きい電気のスイッチや開け方が書いてある缶などが簡便性のあるユニバーサルデザインになります。
2-4.明確さ
明確さとは、誰にでも理解しやすいことです。例えば、「音の鳴る信号機」や「ピクトグラムによる案内板」は目や耳の不自由な方にも情報を提供できます。
「電車内の案内表示」は、ひらがなや複数の外国語、音声案内や点字などを使っているため、国籍問わずすべての人が理解できるのが特徴です。文字や絵、光や音などさまざまな方法を使って、大切な情報を誰が見ても伝わるようにすることが重要です。
2-5.安全性
安全性とは、万が一使い方を間違えたとしても事故の心配がなく、安全に使用できることを指します。「電気ポットの電源コード」や「電子レンジ」はユニバーサルデザインの安全性がほどこされたアイテムの一例です。
電気ポットの場合、電源コードに足が引っかかって、ポットが倒れたときにお湯がこぼれないよう、簡単にコードが外れるようにマグネット式のコードになっているものがあります。電子レンジの場合、使用中に扉を開けると止まるようになっているなど、危険防止機能が搭載されているのが特徴です。
2-6.省体力
省体力とは、無理な姿勢をとらず、少ない力でも簡単に使用できることです。同じ動作を繰り返さないようにしたり、自然な姿勢で力を入れなくても使えたりするのがポイントです。
例えば、「自動販売機」であれば、一番上のボタンに手が届かない方のために、下の方にもボタンが設置されているものもあります。ほかにも「センサー式の蛇口」は、手をかざすと水が出てくるので、蛇口をひねる必要がありません。
2-7.空間性
使いやすい十分な広さや大きさが確保された空間性も必要です。使う人がどんな動きや姿勢をとっても、広すぎず狭すぎないことが大切になります。ユニバーサルデザインを意識した空間性の一例は、広い駐車スペースや多目的トイレです。
車椅子での乗り降りもしやすいように考慮されているのです。歩行者と車椅子の方がすれ違うときは、道路幅120cm、方向転換スペースは150cm円が必要といわれています。
3.身の周りにあるユニバーサルデザイン
私たちの身の回りにもユニバーサルデザインが使われています。どんなユニバーサルデザインがあるのか、事例とともに見ていきましょう。
3-1.トイレ
一般トイレにもユニバーサルデザインが導入され始めています。傘や杖を立てかけるフックや、男子小便器前にも荷物棚を設置することで、トイレを使いやすく手荷物を置けるようにしているのが特徴です。
ほかにも子ども用の床置き式小便器や子ども専用トイレ、低い洗面台など、小さな子ども連れの方にも安心して利用できるようになっています。
3-2.階段
車椅子や自転車、ベビーカーを利用している方でも、階段の上り下りがしやすいように階段の横にスロープを設置している場所があります。建物やスペースなど公共空間を誰もが快適に移動できることが、ユニバーサルデザインの目的です。
3-3.信号機
信号機が青になったことを音で知らせる音響式信号機があります。視覚障害の方や高齢の方は、信号が変わっているのに気付くのが大変です。
「ピヨピヨ」「カッコー」など鳥の鳴き声が出る擬音式と、音楽で知らせるメロディー式、押しボタンで「信号が青に変わりました」とアナウンスしてくれる信号機もあります。信号機が見える方にとっても見えない方にとっても、安全に横断できるユニバーサルデザインです。
3-4.改札口
車椅子や松葉杖、ベビーカーを利用している方、キャリーなど大きな荷物を持った方でもスムーズに通り抜けられるように幅の広い改札口があります。幅を広くすることで、誰かの通行の妨げにならないため、利用者が多い駅やラッシュの時間帯には安心のユニバーサルデザインです。
3-5.自動販売機
自動販売機にもさまざまなユニバーサルデザインが浸透しています。小銭をまとめて投入できる大きな小銭投入口、少ない力でも操作できる握りやすい大型の小銭返却レバー、かがまなくても楽な姿勢で商品を取り出せる取り出し口などの工夫がポイントです。
3-6.歩道
幅の広い歩道は、車椅子やベビーカーを利用している方も安心して通行できます。また歩行者と自転車を分離した歩道も通行の支障がなくなり、誰もが安心して利用できるのです。人通りの多い商店街や駅、病院や福祉施設などの近くでは、ユニバーサルデザインを取り入れた歩道が多く見られます。
3-7.バス
ノンステップバスは、床面を低床構造にし、昇降ステップをなくしたバスです。足を上げる負担が少ないことから、小さい子どもや高齢の方でも簡単に乗り降りできます。さらに補助スロープを使うと、車椅子での昇降も可能となる、「人にやさしいバス」です。
3-8.シャンプーの容器
シャンプーの容器には、リンスと区別するために突起がついています。目をつぶった状態でも、視覚障害がある方でも利用できるのです。現在はどのメーカーの商品でも、容器の同じ位置に突起をつけるように統一されています。
3-9.文房具
ユニバーサルデザインの文具も数多く誕生しています。子どもや高齢の方など弱い力でも切れるハサミや針がないホッチキス、左利きの方でも使えるカッター、抜き刺ししやすい画鋲、などさまざまです。
3-10.センサーライト
人感センサーライトは、わざわざスイッチを押さなくても明かりがつく。室内の状況や体の大きさに関係なく、人が近づくとセンサーが反応して明かりをつけてくれるので、スイッチに手が届かない方にも便利なユニバーサルデザインです。誰かが近づいたときだけ明かりがつくため、消し忘れもなく、省エネにも役立ちます。
4.ユニバーサルデザインの取り組み事例
ユニバーサルデザインは企業でも取り組まれています。企業の実例とともに紹介しましょう。
4-1.株式会社メルス
医療機器の開発を行っているメルスでは、誰が見ても統一した正しい情報を提供するために、製品に使用するフォントにユニバーサルデザインを取り入れています。
UD書体という文字の形がはっきりしていて分かりやすく、読み間違えしにくいフォントを採用。さらに、すべての方が見やすい色の組み合わせで、カラーユニバーサルデザインにも取り組んでいます。
4-2.株式会社ベネッセコーポレーション
デジタル教材の読みやすさに配慮した「UDデジタル教科書体」を活用しています。UDデジタル教科書体は、「点・はらい」といった文字の特徴を残しつつ、弱視や読み書き障害にも考慮したデザインです。正しい読み書きの環境を整えることで、勉強を始めたばかりの子どもの学習もサポートします。
4-3.株式会社LIXIL
住環境にかかわるユニバーサルデザインへの取り組みを行っています。住宅には、家族構成や老若男女、障害の有無など、さまざまな形の暮らしがあります。
その中でLIXILでは、年齢や体格、運動機能などに左右されず快適に暮らせるよう、段差のない空間、トイレのフタの自動開閉、お風呂の洗い場にベンチなどを整えているのが特徴です。
4-4.株式会社ベネッセパレット
日常の食事から介護食まで、食べやすさに考慮し幅広く利用できる食品、ユニバーサルフードに取り組んでいます。
ベネッセパレットでは、粘度や硬さに応じて区分されるユニバーサルデザインフードの区分2を取得し、高齢者向けの配食サービスを提供しています。ユニバーサルデザインは食の分野でも活躍中なのです。
4-5.鹿島建設株式会社
鹿島建設では、人間の感覚情報を利用したユニバーサルデザインを導入しています。例えば、床仕あげ材の摩擦や弾性を、歩いたときの触感を利用して、足が不自由な方でも歩きやすい空間を作りあげました。
ほかにも空間に伝わる音の響きを感じ取って、視覚障害の方が自身の居場所が変わったことを認識できる環境作りにも役立っています。
4-6.パナソニック ホールディングス株式会社
日常はもちろん、突然の災害にも使いこなせるユニバーサルデザインのライト・ランタンを開発しています。タッチセンサーで操作できる大きめのランタンは、ハンドル付きで持ち運びにも便利です。ほかにも単1形〜単4形どの電池1本でも対応するライトは、合う電池がない、というときにも使える安心のアイテムでしょう。
4-7.株式会社イワタ
ユニバーサルデザインに基づいて、「イワタUDフォント」を販売しています。住居や施設、サービスなどで幅広く利用できるようにデザインされているのが特徴です。ゴシックや丸ゴシック、明朝など目的に応じて適した書体を選べます。
5.ユニバーサルデザインを広めるためには?
ユニバーサルデザインを広めるために、まずは現状を知ることが大切です。現状と課題について理解しましょう。
5-1.まちづくりにおけるユニバーサルデザインの現状
平成21年に実施した大田区での調査によると、まちづくりに置けるユニバーサルデザインの現状がいくつか見えてきました。
ひとつは、障害者や外国人などへの理解が十分ではないこと。お互いに交流の機会が少ないため、困ったことが起きても、どう声をかけたら良いのか分からないというのが要因といわれています。
ほかにも、違法駐輪や段差など人々が生活の中で感じる不自由さが理解されていないという理由から、みんなが住みやすいまちにしていこうとするはたらきがないのも現状です。
5-2.ユニバーサルデザインを広めるためにできること
ユニバーサルデザインは私たちの身の回りでも浸透してきていますが、まだまだ課題もあります。ユニバーサルデザインの考え方を、もっと多くの方々に広めるためにも、性別や障害の有無にかかわらず、若者も高齢者も、外国人もすべての人がお互いに尊重し合い、支え合うことが重要です。まずは、自身と異なる人たちについて知って、理解するところから始めましょう。
おわりに
ユニバーサルデザインは、すべての人のためのデザインであり、決して特別なものではありません。日常生活で使うさまざまな「もの」や「サービス」に、ユニバーサルデザインは取り入れられています。年齢や性別、障害の有無、生活状況にかかわらず、誰もが安心して暮らしやすい社会を目指すために必要な考え方です。ぜひまちなかにあるユニバーサルデザインを見つけてみてくださいね。