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配偶者の特例を上手に活用して贈与・相続をしていくには?

北岡 修一(東京メトロポリタン税理法人グループ代表/税理士)

監修者

東京メトロポリタン税理法人グループ代表/税理士

北岡 修一

西新宿にオフィスを構え、法人顧問の他、相続・相続税対策、事業承継、不動産に関する税務等に力を入れている。グループの不動産コンサル会社と連携し、具体的な対策から税務まで一貫したサービスを行っている。

配偶者の特例にはどのようなものがあるの?

夫婦は協力し合って生活をし、子育てをし、さらには家庭の財産形成も共同で行っていくものです。その中で役割分担として、夫は働いて収入を得ることを中心とし、妻は家事や子育てが中心になっている例が多いと思います。もちろん、昨今はそれぞれの家庭で様々な形態があるとは思いますが。

いずれにしても、夫婦が共同で生活を成り立たせていることには変わりはありません。ただ、結果として夫婦のいずれか一方に財産の名義が片寄ってしまうことがあります。

そこで、贈与や相続の際には、夫婦が共同で財産形成をしてきたこと、さらには今後の生活の保障などを考慮して、配偶者を優遇する特例がいくつかあります。たとえば、次のようなものです。

①贈与税の配偶者控除

②相続税の配偶者の税額軽減

③相続時の小規模宅地特例

④配偶者居住権

まずは、それぞれの特例がどのようなものか、見ていきたいと思います。

贈与税の配偶者控除とは?

これは一般に「おしどり贈与」ともいわれているものです。

婚姻期間が20年以上の夫婦間において、居住用不動産(マイホーム)そのものの贈与、あるいは、居住用不動産を購入するための資金を贈与した場合は、2,000万円まで贈与税がかからないという制度です。

贈与税には年間110万円の基礎控除もありますから、それも使えば2,110万円まで贈与税がかからないことになります。現在住んでいるマイホームがあれば、その土地建物の持分を贈与することもできます。

この特例を使う際の土地建物の価額は、相続税評価額によります。土地は都市部においては路線価評価となります。路線価は国税庁のWEBサイトで、住所を入れれば簡単に調べられますので、是非、調べてみると良いと思います。

また、建物は固定資産税評価額によります。こちらの方は毎年4月~6月に送られてくる固定資産税の納税通知書に記載されていますので、確認してみてください。

このように評価額を確認することにより、2,110万円だとどのくらいの持分を贈与することができるのか、試算することができます。婚姻期間が20年を超えたら是非、検討してみるといいですね。

相続税の配偶者の税額軽減とは?

この制度は、相続により配偶者が取得した財産について、配偶者の法定相続分相当額か1億6,000万円のいずれか多い金額までは相続税がかからないというものです。

例えば、夫が亡くなって相続人が妻と子どもの場合、妻の法定相続分は1/2となります。相続財産の合計が5億円である場合、妻の法定相続分相当額は2億5,000万円となり、その金額まで妻が相続しても相続税はかからないということです。

相続財産の合計が1億5,000万円である場合は、全部を妻が相続しても1億6,000万円以下ですので、相続税はかからないことになります。

このように配偶者に対する相続税はかなり優遇されています。ただし、配偶者が高齢で配偶者の相続(二次相続)が近い場合は、一次相続で配偶者が多く相続し過ぎると二次相続の相続税が高額になり、一次二次通算で却って税額が高くなってしまう可能性があります。

相続時の小規模宅地特例とは?

相続が起こった際、居住用宅地(マイホームの敷地)については小規模宅地特例を適用することができ、大幅に評価減をすることができます。この特例を使うことにより330㎡まで80%もの評価減をすることができます。

この評価減を適用できるのは、被相続人の配偶者や同居親族などが居住用宅地を相続した場合です。特に配偶者の場合には特段の要件を必要とせずに、この評価減の適用を受けることができます。たとえ別居していたとしても、相続後すぐに売ってしまったとしても、この評価減を受けることができます。ここはやはり配偶者が優遇されているといえますね。

偶者居住権とは?

配偶者居住権とは、夫婦の一方が亡くなった場合に、残された配偶者が亡くなった方が所有していた建物に、無償で住み続けられる権利です。

例えば、自宅の土地建物は子が相続したとしても、配偶者居住権を配偶者が取得すれば、そのまま住み続けることができます。配偶者は所有権を持たない分、法定相続分の中で預金などを相続することができ、その後の生活を安定させていくことができるなどのメリットがあります。

なお、配偶者居住権を取得するためには、遺言に記載する方法、相続人間の遺産分割協議書で決めるなどの方法があります。また、配偶者居住権は令和2年4月1日以降に発生した相続から設定することができ、基本的には登記をすることになります。

配偶者の特例をどのように活用するか?

さて、配偶者に関する贈与・相続の特例を見てきましたが、これをどのように活用するのが良いのか考えてみたいと思います。

(1)贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)を使うかどうか?

相続の際には、配偶者の税額軽減や小規模宅地特例がありますので、それによってかなりの相続税は減額することができます。これらの特例を使うことにより相続税がゼロになることも多いですね。

したがって、それほど財産が多くない場合は、あえて贈与税の配偶者控除は使わなくても良いと思います。贈与税の配偶者控除には、次のようなデメリットがあることも考えておくべきです。

<贈与税の配偶者控除のデメリット>

①贈与を受けた配偶者が先に亡くなってしまった場合は、贈与した意味が半減?する。

②贈与税はかからなくても、不動産取得税や登録免許税、司法書士報酬がかかる。相続で不動産を移転する場合は、不動産取得税はかからない。また、登録免許税は相続の場合は固定資産税評価額の0.4%だが、贈与の場合は2.0%と高くなる。

③贈与税が出なくても、贈与税の申告をする必要がある。税理士に依頼する場合は税理士報酬がかかる。

贈与税の配偶者控除を行う場合は、上記の税金や司法書士・税理士の報酬など費用がいくらかかるのか、試算してから行うことが大事ですね。

なお、配偶者にマイホームの土地建物の持分を贈与しておくことにより、マイホームを譲渡した場合の譲渡所得の3,000万円特別控除を2人分使うことができるというメリットもあります。

この3,000万円特別控除は、マイホームの譲渡益がある場合に、その譲渡益から控除することができる特例で、夫婦2人で土地建物を持っていれば最高6,000万円まで控除することができます。

将来、マイホームを売却する可能性があり、かつ譲渡益が大きく出そうであれば、あらかじめ贈与税の配偶者控除を使って夫婦2人で所有するようにしておくと良いと思います。

(2)配偶者の特例を活用してどのように相続するか?

遺産分割を考える際には、様々なことを考慮する必要がありますが、相続税のことも十分考慮して考える必要があります。亡くなった方に関する相続は、当然ですが1回しかありませんので、相続税を払い過ぎてしまうと取り戻すチャンスはもうないからです。

そこで、遺産分割に関して考慮すべきことを、特に配偶者の特例に関わることを、以下に挙げてみたいと思います。

①夫婦2人だけでマイホームに住んでいるか、同居している相続人がいるかどうかで、相続の仕方が変わってくる。

②夫婦2人だけでマイホームに住んでいる場合には、マイホームの土地建物は配偶者が相続するのが良い。配偶者以外の相続人が相続すると、80%評価減ができる小規模宅地特例を使うことができないからである。

③配偶者以外に同居する相続人がいる場合は、その同居相続人もマイホームの土地建物を相続しても良い。同居相続人も相続税の申告期限までそのマイホームに居住し、かつ所有していれば小規模宅地特例を使うことができる。

④また、③の場合、マイホームの土地建物をすべて他の相続人が相続し、配偶者は配偶者居住権を取得する方法をとっても良い。この場合でも、小規模宅地特例を使うことはできる。配偶者はマイホームを所有しない代わりに、他の財産を取得することができ、マイホームに住み続ける権利も得ることができる。

⑤相続財産が小規模宅地特例を使った後で1億6,000万円以下であれば、配偶者が全財産を相続しても相続税はかからない。子が小さい場合などは配偶者が全財産を相続することも多い。

⑥配偶者が多く相続した場合には、二次相続の相続税にも注意する必要がある。特に高齢の場合は次の相続が近く、財産が減らないまま二次相続が起こる可能性がある。このような場合、一次相続・二次相続の税金合計をシミュレーションすると、一次相続での配偶者の取り分は10%~20%くらいが最も相続税が低くなることが多い。

⑦ただし、配偶者が比較的若い場合には、その後の生活費や相続税対策により、二次相続の相続税を減らすことができるため、配偶者が多く相続しても損にはならないと思われる。

相続はそれぞれのご家族の状況によってまったく変わってきますので、上記はあくまで参考に過ぎません。様々な事情を考慮して、最適な財産分割、活用の方法を考えていただければと思います。その際の参考になれば幸いです。

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