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私が見た中国の環境対策(日常生活編)――中国生活体験記(その4)

私が見た中国の環境対策(日常生活編)――中国生活体験記(その4)
深谷 百合子 人を動かすコミュニケーター

執筆者

人を動かすコミュニケーター

深谷 百合子

国内及び海外電機メーカーで技術者として20年以上勤務。工場の「案内人」としてメディア対応、講演、環境教育にも携わる。「専門的な内容を分かりやすく伝える」をモットーに、立場の異なる人同士が理解し、協力し合えるための伝え方を工夫した。2020年に独立。「相手を動かす伝え方」をテーマに講師、コーチとして活動している。また、個人へのインタビューや企業への取材記事執筆を通じて、「知られざるストーリー」の発信を行っている。掲載媒体:WEB天狼院書店、天狼院書店WEB READING LIFEブログ

「環境」という視点から見て、皆さんは中国に対してどんなイメージをお持ちでしょうか。地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量についていえば、中国は今やアメリカを抜いて世界一(出典:環境省資料)です。また、PM2.5(微小粒子状物質)などによる深刻な大気汚染、砂漠化などの問題があることから、私は中国に対して「環境を汚染している国」というイメージを持っていました。

ところが、実際に現地に行ってみて印象が変わりました。確かに、大気汚染、ゴミのポイ捨て、悪臭を放つ川、大量の残飯というものも目にしました。一方で、もともと人々の間に根付いている「節約意識」、国家主導で強力に進められる対策、人々への啓発活動など、現地に来てみて初めて知ることも多くありました。

今回は、中国の「日常生活における環境対策」について、私が体験したエピソードを交えてご紹介します。

1.レジ袋有料化は2008年からスタート

レジ袋有料化は2008年からスタート

2013年の夏、初めて中国へ出張した時のことです。ホテルに着いてすぐ、私は近くにあるコンビニエンスストアへ買い物に出掛けました。ペットボトル2本とお菓子を買ってレジに向かい、お金を支払うと、店員は「はい、次!」と言わんばかりに、私の買った物を脇へ押しやり、次の人の会計を始めました。レジ袋が必要であれば、「袋を下さい」とこちらから言って買わなければならないことを、私はその時初めて知りました。それ以来、エコバッグをいつも持ち歩くようになりました。

日本では2020年7月から、レジ袋の有料化がスタートしました。一方、中国では2008年6月からレジ袋は有料化されています。大きさにもよりますが、レジ袋の料金は大体0.3元~0.5元(1元=20円として、日本円で6~10円)です。コカ・コーラ500mlの値段が、中国では約4元(約80円)ですから、レジ袋の料金は日本と比べて割高といえるでしょう。周りの中国人の様子を見ていると、レジ袋を購入する人は少なく、たいていは自分のリュックなどに詰め込むか、使い古したレジ袋を再利用していました。

早くからレジ袋有料化を進めてきた中国ですが、出前サービスの急増などで、プラスチックゴミは増加しています。私もたびたび出前を頼みましたが、1回の出前で多くのプラスチックゴミが発生しました。また、ケーキを買うと、「どこにいても取り分けられるように」という配慮でしょうか。プラスチックのナイフとフォーク、紙皿が必ずついていました。随分過剰だなと思ったものです。

そうした状況や海洋性プラスチックゴミなどの問題を受けて、中国でもプラスチックに対する規制を強化しています。環境省の資料によると、中国では段階的にプラスチック製品の利用を禁止する政策を推し進めています。具体的には、「2020年末までに全国の飲食店でプラスチック製ストローの利用禁止」「2022年末までに全国の高級ホテルで使い捨てプラスチック用品を無料で提供することを控える」などの方針が出ています。

こうした方針は2020年1月に発表されましたが、プラスチック製ストローについては同年末までに利用禁止になるというようなスピード感が、いかにも中国らしい感じがします。2008年のレジ袋有料化についても同様で、2007年末に通知が出てから半年後には有料化がスタートしています。日本では、当初2020年4月に有料化をスタートしようとしていましたが、業界団体などからの「準備が間に合わない」との意見に配慮して、スタート時期を7月に延期しました。

体制の違いによるもので、どちらがいいとか悪いという話ではありませんが、いざとなったら国家主導で強い推進力をもって突き進んでいくところが、「中国ならでは」だなと感じます。

2.食べ残したものは持ち帰る

食べ残したものは持ち帰る

中国と日本の文化や習慣の違いでよく引き合いに出されるのが、食事のマナーです。日本では、出されたものは残さず頂くのがマナー。もし食べ残しがあると、「口に合わなかったのかしら」と心配してしまいますよね。でも、中国では逆。「食べ残すのがマナー」です。残さず食べてしまうと、「量が足りなかったのかしら」と思われてしまいます。食事を残すことで、「食べきれないほどのごちそうを頂いて満足しました」という気持ちを相手に伝えることになるのです。

でも、これは会食に呼ばれてごちそうになる場合のことです。普段、お店などで食事をして食べきれなかった時には、食べ残したものを持ち帰る「打包(ダーバオ)」という習慣があります。店員に「打包」と言うと、容器を持ってきてくれます。

中国では多くの食べ残しによる食品ロスが問題となり、「光盤行動」(お皿を空っぽにする)という運動が2013年から広まりました。会社の食堂にも「光盤行動」と書いたポスターが掲示され、唐の詩人である李紳(リ・シン)の「憫農(中国語読みで「ミンノン」、「農を憐れむ」と読む)」という詩の中にある「誰知盤中餐、粒粒皆辛苦(お皿の中の食事は、一粒一粒すべてが苦労から得たものだ)」という一節が引用されていました。食べ物を大切に思う気持ちは、昔からあるのですね。

中国では2021年4月に食品の浪費を禁止する「反食品浪費法」が施行されました。食べ切れない量の料理を注文して食べ残した客に対して、店は食品の廃棄にかかる費用を請求できます。また、食べ切れない量の料理を客に注文させた場合、店に対して罰金が科せられます。さらには、「大食い動画」を配信すると罰金が科せられます。なかなか厳しいです。

さて、日本ではどうでしょうか。消費者庁の発表資料によると、2020年度の日本の「食品ロス」は522万トン。国民一人当たりに換算すると「お茶碗約1杯分(約113g)の食べもの」が毎日捨てられていることになります(引用:消費者庁ホームページ)。忘年会や新年会など、宴会の後は特に食べ残しが多いように感じます。

昨年、家の近くの中華料理店で食事をした際、食べきれずに残ってしまった料理がありました。そこで、私は試しに店員に「持ち帰りたい」と言ってみました。すると、普通に容器を持ってきてくれました。

「意外と持ち帰りできるんだ」と思った私は、他の店でも食べきれなかったものがあると、「持ち帰りしたい」と言えるようになりました。和食屋でも、食べきれなかった白飯を持ち帰ることができました。

日本の外食産業では、食中毒などの発生を懸念して、持ち帰りを断るケースが多いと聞きます。でも、ダメ元でお願いしてみると、意外と受け入れてくれるところもあります。皆さんも食べ残してしまった時には、「持ち帰りたい」と声をかけてみることから試してみてはいかがでしょうか。

3.チャージ切れで停電! 中国に住んでから節電意識が高まった

チャージ切れで停電! 中国に住んでから節電意識が高まった

中国企業に転職し、会社が斡旋してくれた部屋に住むことになって、部屋の鍵と一緒に1枚のカードを渡されました。

「コンビニエンスストアでこのカードと現金を出せば、電気代をチャージできます。その後、マンションの電気メーターにカードを挿して読み込ませて下さい」

「電気メーターにカードを挿す?」何を言っているのか、私にはさっぱり分かりませんでした。

とりあえず、言われた通りにコンビニエンスストアに行き、カードと現金を出してチャージをしました。その後、マンションに戻り、階段の踊り場にある電気メーターを見に行くと、確かにカードの挿入口がありました。カードを挿し、メーターのボタンを押すと、読み込みが始まりました。読み込みが完了し、メーター表示の切替ボタンを押すと、現時点での電力量、チャージ残額などが表示されました。これを写真に撮っておけば、どれくらいの日数で残額がいくらになるのかが分かります。

それ以来、週に1度は電気メーターを見に行き、次はいつチャージをすれば良いか、予測を立てて暮らしていました。

けれども、慣れるにつれて、月に1、2回チャージをするのが面倒になってきました。そこで、数ヵ月の間チャージをしなくても済むように、一度に多額の現金をチャージするようにしたのです。しかし、これが思わぬ事態を引き起こしました。まだ大丈夫だろうと思ってメーターの確認もしていなかったある夏の晩、突然停電したのです。チャージ切れが原因でした。

「しまったなぁ。なんでこの間の日曜日に確認しなかったんだろう?」そう後悔しながら、コンビニエンスストアでチャージをしてマンションに戻りました。電気メーターのある場所へ行くと、いつもは開きっぱなしだった扉が、その日は鍵がかけられていました。扉を開けてもらうためにマンションの管理人に連絡をし、管理人が来てくれるまで部屋で待つことにしました。

クーラーの切れた部屋は蒸し暑く、懐中電灯だけの暗い部屋で待っていると、30分ほどして管理人がやって来ました。電気メーターのある部屋の鍵を開けてもらい、チャージをし、管理人にお礼を言って部屋に戻りました。玄関脇のスイッチを入れると、いつものように電気がつきました。「電気がつくと、こんなにも安心するものなのか」と、私は心の底から思いました。

それ以来、二度と同じ失敗をしないよう、私は自分の電気の使い方をきちんと把握するようにしました。一度に多額の金額をチャージするのをやめ、こまめに残額をチェックするようにしました。関心を持つようになると、色々な発見がありました。平日と休日でどれくらい差が出るのか? 先週と今週との違いは何なのか? そんなことを分析しながら、「よし、来週は今週よりも減らそう」、「今回チャージした100元で何日もつか?」などと目標を立てました。それがつながっていきました。その後は、スマホアプリで残額や電気の使用状況を確認できるようになりました。前払い方式で、電気を使っている実感を持てたことと、「使用量の見える化」によって、私の節電意識は日本にいた時よりも高まりました。

中国のマンションに設置されている電気メーターは「スマートメーター」というもので、電気の使用量をデジタルで計測できるメーターです。経済産業省の資料によると、日本国内では2024年度末までにスマートメーターの導入を完了する予定で、メーターの取り替え工事が進められています。スマートメーターになると、時間毎の電気使用量も知ることができ、自分がどんな電気の使い方をしているのかが分かります。

中国で一足お先に体験したスマートメーター。我が家も今年の夏、ようやくスマートメーターに切り替わりました。インターネットで電力の使用量を細かく見ることができるようになったので、目標値を設定してゲーム感覚で節電に取り組んでいます。

おわりに

私が見てきたことは、広い中国の中のほんの一面であり、中国にはさまざまな課題が山積しているのも事実です。ただ、日本に居た頃は、「中国は野放図に環境破壊している」というようなイメージを私は持っていましたが、それはちょっと違っていたなと思っています。次回は工場などの事業者における環境対策についてご紹介します。

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