睡眠は人が健康的な生活を送る上で必要不可欠なものです。1日8時間寝ている方であれば、1日の1/3を占める貴重な活動でもあります。睡眠が持つ役割は、1日の脳や身体の疲労回復を行い、翌日の行動の活力を養います。良い睡眠は質こそが重要です。
現代人は様々な要件によって、良質な睡眠を取れていない場合もあるでしょう。では睡眠の質は何に依存しているのでしょうか。このコラムでは睡眠の質について詳しく解説していきます。
日頃から睡眠に対して満足感を持っていない方や睡眠の質を高めたい方はぜひ参考にしてください。
睡眠の質の基準とは
睡眠の質は睡眠時間だけで計ることはできず、様々な要因によって形成されています。厚生労働省によると睡眠は正常睡眠範囲内であっても、良質であるとは限らないと指摘した上で睡眠の質の基準を以下であると述べています。
- 体内時計が自然界のリズムに同調しており、朝起きて夜寝る生活習慣になっている
- 個人に必要となる睡眠時間が確保されている
- 日中に過度な眠気や意図しない居眠りがなく、ぐっすり眠れる
- レム睡眠とノンレム睡眠のサイクルが規則的である
- 就寝してから入眠までに時間がかからず、すぐに眠れる
- 起床してから行動開始までの推移が円滑であり、気持ち良く目覚めることができる
- 主観的な睡眠の満足感を得ている
日中の健全な行動と安定した睡眠を取ることで健康睡眠、つまり質の良い睡眠が確保可能です。必要となる睡眠時間を確保した上で、個人に合った生活の規則性であったり、日中の行動による良好な覚醒状態であったりなどが睡眠の質に大きく影響しています。
また、レム睡眠とノンレム睡眠が交互に起こることで質の高い睡眠を促しているのです。
参照元:厚生労働省
良質な睡眠は「レム睡眠」と「ノンレム睡眠」に関係が!?
ぐっすり眠れている方は、レム睡眠とノンレム睡眠が交互に発生しているようです。現在判明している睡眠のメカニズムでは、人は眠りに入るとまずノンレム睡眠に入り、その後レム睡眠へ移ります。
90~120分をひとつの周期として、それを数回繰り返すことで脳や身体を休ませています。なお、入眠から3時間はノンレム睡眠(中等度睡眠期・深睡眠)が多く、睡眠時間が長くなるほどレム睡眠が増える傾向のようです。
それぞれの持つ役割について詳しく解説していきます。
レム睡眠とは
レム睡眠では脳が活発に動いており、脳内の記憶の整理・定着をしている状態です。レム睡眠中は左右の眼球が活発に動く急速眼球運動があり、この運動を英語でRapid Eye Movementと表記しています。
名前の由来は、その頭文字を取ってレム(REM)睡眠と呼ばれています。人は寝ている間、夢を見ることがありますが、その多くがレム睡眠時に起きています。
またレム睡眠は発達期に多く、加齢に伴って減少していくこともわかっています。
ノンレム睡眠とは
ノンレム睡眠は大脳が休んでいる状態で、脳や身体の疲労回復を行っています。レム睡眠にはあった眼球運動がないことから、ノンレム(NON-REM)睡眠と呼ばれています。
またノンレム睡眠は、眠りの深さを以下の4段階に分けることができます。
段階 | 周期 | 眠りの深さ |
段階1 | 入眠期 | 極めて浅い眠り |
段階2 | 軽睡眠期 | 軽く寝息を立てている |
段階3 | 中等度睡眠期 | 深い眠り |
段階4 | 深睡眠期 | もっとも深い眠り |
なお中等度睡眠期と深睡眠期は段階分けされていますが、厚生労働省によるとその差は科学的に明確にされているわけではありません。
ノンレム睡眠は入眠してすぐに入り、一気に中等度睡眠期・深睡眠期に到達します。その後睡眠時間が長くなるほど、ノンレム睡眠の持続が弱くなる傾向があるようです。ノンレム睡眠の持続時間は入眠前の覚醒時間や運動量、精神負荷量などに比例して深くなることもわかっています。
睡眠の質に満足できていない方が20%!?
厚生労働省によると、睡眠の質に満足できていない方が、男女共に約20%も存在していることがわかっています。
以下が睡眠の質に満足できていないと回答した年代別データです。
20代 | 30代 | 40代 | 50代 | 60代 | 70代以上 | 平均 | |
男性 | 28.6% | 25.2% | 26.9% | 27.1% | 19.1% | 14.4% | 21.6% |
女性 | 29.3% | 32.6% | 26.5% | 25.2% | 20.0% | 14.4% | 22.0% |
男性は20代が最も高い割合ですが、50代まで同じような割合です。女性は30代が唯一30%を超える高い割合を見せ、20代もそれに近い割合となっています。男女共に60代以降は現役世代よりも睡眠の質に満足している方が多い傾向にあるでしょう。
さらに、睡眠の妨げになっている原因についても統計を取ったところ「就寝前のスマートフォンやゲーム」が20代に多く見られました(男性は43.2%、女性は42.7%)。30~40代の男性に多かったのが「仕事」で、仕事による残業によって睡眠時間の確保が難しいという要因がありました。
興味深かったのが、年代全体で見た時に男性は47.2%、女性は43.6%の割合で「特に困っていない」と回答しています。つまり、睡眠の質が悪いはっきりとした原因を認識している方がいる一方で、その原因がわからない方も一定数存在しているということです。
参照元:厚生労働省
睡眠の質が悪くなる原因
睡眠の質が悪くなっている原因を理解できている方は多くはありません。上述の統計でも判明したとおり、その原因を理解できていない方が多い印象です。
睡眠の質は生活習慣の乱れやストレスが大きく影響しています。また、睡眠時の体勢や周囲の環境などによっても睡眠レベルを下げてしまう恐れがあります。
生活習慣の乱れ
睡眠の質は生活習慣が大きく影響します。
- 就寝時間と起床時間が一定ではない
- 朝の光を浴びていない
- 就寝前に入浴している
これらは体内時計を乱す原因となるものです。体内時計が乱れることで睡眠のリズムが狂ったり、不眠を引き起こす要因にもなります。
寝具・寝室の影響
明るい環境の中で眠りに入るのは睡眠環境としては良くありません。人間は明るい場所にいると体内時計が朝であると錯覚してしまうからです。そのため、睡眠をとる際は必ず真っ暗の状態にしておくようにしましょう。
睡眠時の衣服も睡眠の質を高めるには大切です。ジャージやスウェットなどを着る方は多いと思いますが、パジャマを着ることがおすすめです。パジャマも吸水が良く、肌ざわりの良いものを選んでください。なぜなら、人間は寝ている時に汗をかき、寝返りも打つからです。
睡眠の質を高めるためにご自身の身体に合った寝具を選びましょう。まず、マットレスは柔らかめや固めなど様々なものがあるので、寝心地を確かめながら吟味します。
枕もご自身に合ったものでなければ、肩こりや首こりの原因になってしまう恐れがあります。既製品で合う物がなければ、オーダーメイド品を考えても良いかもしれません。
ストレス
仕事や人間関係など無意識のうちに身体に悪影響を及ぼすのがストレスです。このストレスは、睡眠の質を低下させるひとつの要因です。
一般的に日中は交感神経が働き、睡眠時は副交感神経が働いています。しかし、ストレスによって自律神経が乱れ、入眠時に交感神経が働いてしまうことで不眠の要因となってしまいます。ご自身の好きな事をして、適度にストレスを発散しておくことが必要です。
知らずにやっている!?睡眠の質を下げる可能性がある就寝前の行動
就寝前は質の高い睡眠を取るために心身共にリラックスした状態を維持するべきです。脳内でいうと交感神経を抑え、副交感神経を高めている状態が望ましいです。しかし、普段何気なくしている以下の行動が睡眠の質を下げてしまっています。
- 食事をとる
- カフェイン・アルコールを摂取する
- タバコを吸う
- スマホを使用する
- 考え事をする
これらの行動がなぜいけないのか、次で詳しく解説していきます。
食事をとる
就寝直前に食事をとってしまうと、体内の消化活動が活発になります。また、睡眠時に消化活動があるとノンレム睡眠に入りづらくなるため、睡眠の質に影響します。
ノンレム睡眠に入らなければ睡眠が深くならず、レム睡眠が続くことで脳や身体の回復が万全に行えません。また、脂肪が付く原因にもなるため、できれば就寝する3時間前までに食事を済ませておきましょう。
カフェイン・アルコールを摂取する
寝酒という言葉があるように、就寝前にアルコールを摂取する方は少なくありません。確かにアルコールを摂取すると寝付きがよく感じますが、同時にこの行動は眠りが浅くなる原因のひとつです。
アルコールは体内に入ると分解のためにアセトアルデヒドを発生させ、この活動が活発に起きることでノンレム睡眠に入りづらい状態になってしまいます。また、コーヒーなどに含まれるカフェインも入眠に必要となる副交感神経を刺激するため、睡眠の質を著しく下げてしまいます。
タバコを吸う
タバコに含まれるニコチンには覚醒作用があります。ニコチンはアドレナリンを促進することで交感神経を優位にします。
交感神経が優位になることで、入眠しづらくなる可能性が高いです。そのため、快適な睡眠を目指すのであれば禁煙が望ましいです。
スマホを使用する
就寝前にスマートフォンを使用することも眠りを妨げる要因です。眠気は「メラトニン」の分泌によって発生します。しかし、スマートフォンのブルーライトを浴びることでメラトニンの分泌を抑えてしまいます。
そのため、スマートフォンを含むブルーライトを発生させる電子機器は、就寝前の使用を控えるようにしましょう。
考え事をする
就寝時に考え事をする方がいますが、考え事をすることで寝付きを悪くしてしまう恐れがあります。考え事は脳を興奮状態にしており、交感神経が活発な状態が続くことで脳や身体が睡眠モードに入りづらくなってしまいます。
どうしても考え事が頭から抜けない場合は、一度起きてノートに書き出すことで考え事を整理するようにしましょう。
すぐにできる!睡眠の質を向上させる方法
睡眠の質を向上させるには、体内時計の調整や就寝前の行動が大きく影響します。以下の習慣を実践してみましょう。
- 朝は太陽の光を浴びる
- 休日も早起きし、昼寝を取り入れる
- 趣味や好きなことでストレス解消
- 夕食は就寝の3時間前に
- ぬるめのお湯で入浴
- 寝室の環境を整える
それぞれの習慣について詳しく解説していきます。
朝は太陽の光を浴びる
人の体内時計は24時間よりも長めに設定されており、そのままではズレていってしまいます。そのため、起床したらカーテンを開けて太陽の光を浴びましょう。
太陽の光は体内時計を整える効果があり、体内時計の誤差を修正してくれます。
休日も早起きし、昼寝を取り入れる
体内時計のリズムを整えるためには、毎日同じ時間に起きることが望ましいです。休日はゆっくり寝ていたいものですが、できるだけ誤差のないよう平日と同じ時間に起きるようにしましょう。
日中の行動が長くなるほど、脳や身体に疲労が溜まり夜の寝付きが良くなります。また昼寝は30分程度であれば、脳や身体のリフレッシュにもなるので問題ありません。
趣味や好きなことでストレス解消
ストレスを溜め込んでしまっては、眠りへ誘うホルモン「メラトニン」の分泌が減ってしまいます。そのため、趣味や自分の好きな事に没頭して、ストレス解消を図ることが大切です。
ストレス解消に効果が期待できる食べ物を摂取するのもひとつです。乳製品や大豆製品に豊富に含まれる「トリプトファン」は、体内で「セロトニン」に変換します。このセロトニンは夜になるとメラトニンに変換されます。
ただし、トリプトファンからメラトニンに変わるまでに要する時間は10時間以上必要なため、朝食にとるのが望ましいでしょう。
夕食は就寝の3時間前に
上述でも触れていますが、食事をすると消化活動が始まるため身体は活発に働きます。また、体内に食べ物が残っている状態は内臓に負担がかかるため、良い睡眠を取るためには避けるのが良いです。
できれば、夕食は就寝の3時間前までに済ませておくと良いでしょう。どうしても食事が必要な場合は揚げ物や肉類は避けて、消化に良い食べ物を選んでください。
ぬるめのお湯で入浴
入浴は38度前後のぬるま湯で入るようにしましょう。身体をじっくり温めることでリラックス効果が期待できます。
熱いお湯での入浴では交感神経を刺激してしまい、入眠の妨げになってしまいます。人は身体の深部温度が下がってきた時が入眠のタイミングとなるため、入浴は就寝の2時間前に済ませておきましょう。
寝室の環境を整える
寝室の環境を良い状態にすることも大切です。まず明るさですが、入眠の1~2時間前からやや暗めにして、就寝時は真っ暗が理想的です。具体的な明るさでいうと4ルクス以下であれば問題ありません。
次に室温ですが、夏は26度前後、冬は16~19度であれば睡眠の質を高められます。また、湿度は50~60度が理想的です。さらに良い環境を求めるのであれば、アロマオイルなどを使用するのもおすすめです。ラベンダーの香りは自律神経を整えますし、柑橘系の香りはストレス緩和の効果が期待できます。
おわりに
睡眠の質は日中の行動による影響が大きく、日々の生活習慣を整えることが睡眠の質向上のためには必要です。睡眠の研究は未だに全て解明されているわけではありません。現在、レム睡眠とノンレム睡眠が良質な睡眠に大きく影響していることが判明しています。
レム睡眠とノンレム睡眠のサイクルが乱れるのは、生活習慣の乱れによる交感神経と副交感神経のバランスの崩れが影響している恐れがあります。今回紹介した睡眠の質を向上させる習慣を実践して、良質な睡眠を確保しましょう。