私たちは、日々の生活のなかでさまざまな栄養を必要とします。ビタミンやカルシウムなどの聞きなれた栄養素以外にも多くの種類がありますが、今回は、亜鉛にスポットを当ててご紹介します。亜鉛の具体的な働きや、不足するとどのような事態を招くのかをまとめました。また、亜鉛を多く含む食材、摂取する際のポイントも解説するので、健康維持に役立ててください。
亜鉛とは?
亜鉛は、歯や骨、肝臓などに多く含まれている必須微量ミネラルです。必須微量ミネラルとは、1日の摂取量が100g未満のミネラルを指し、亜鉛以外にもマンガンや鉄、クロムなどが該当します。
亜鉛は、成人の体内におよそ2~4g程度存在しており、生きていくうえで欠かせない栄養素のひとつです。しかし、亜鉛は体内では作れない栄養素のため、食べ物からの摂取が欠かせません。亜鉛を効率的に摂取するためのサプリメントも多く販売されています。
亜鉛の働き
亜鉛は、200種類以上もの酵素たんぱく質の構成や酵素反応の活性化に必要な栄養素であり、生きていくうえでさまざまな生命活動のサポートを担っています。
具体的には、胎児や乳児の成長や発育に大きく関わるDNAの合成や、アミノ酸からたんぱく質への再合成、骨の成長など、生命維持にとっての重要な働きを担っています。新たな身体の細胞を作り出す器官や組織には、なくてはならない存在です。
また、細胞のダメージとなる活性酸素を取り除く酵素の栄養素にもなり、免疫反応にも深い関わりがあることも分かっています。他にも、味覚を感じるために必要な、味蕾(みらい)細胞を構成する働きがあり、食事のおいしさを感じるためにも必要な栄養素です。
1日に摂取したい亜鉛の目安量
厚生労働省によると、1日の亜鉛の摂取目安量を以下のように設定しています。
- 生後6ヵ月…2mg
- 幼児7-12ヵ月…3mg
- 小児1-3歳…3mg
- 小児4-8歳…5mg
- 小児9-13歳…8mg
- 10代14-18歳(男子)…11mg
- 10代14-18歳(女子)…9mg
- 成人(男性)…11mg
- 成人(女性)…8mg
- 10代の妊婦…12mg
- 妊婦…11mg
- 授乳婦…12mg
亜鉛の目安摂取量は年齢や性別によって異なります。亜鉛は胎児の成長に大きく関わっているため、妊娠中・授乳中の女性は摂取目安量が多めです。また、働き盛りの成人男性、女性も摂取量が多いため、日々の食生活に注意してください。
参照元:厚生労働省eJIM | 亜鉛 | サプリメント・ビタミン・ミネラル | 一般の方へ | 「統合医療」情報発信サイト
亜鉛不足が引き起こす症状は?
生きていくうえで欠かせない栄養素のひとつである亜鉛は、摂取量の不足により健康トラブルが発生する可能性があります。特に、高齢者は食べ物を消化する力の衰え、食が細くなるなどの理由から、亜鉛不足に陥りやすい傾向です。また、子どもの偏食や小食なども亜鉛不足の一因になりやすいため注意しましょう。
皮膚炎
亜鉛は、皮膚やたんぱく質の合成に必要不可欠な栄養素です。そのため、摂取量が不足すると、疾患がないのにも関わらず皮膚のかゆみや、慢性的な湿疹など、不快な肌トラブルを引き起こすことがあります。ときには、粘膜にもトラブルが発生し、口内炎の原因になることも考えられるのです。
また、たんぱく質が主成分である爪が割れやすくなる、髪の毛の脱毛症状などの影響も考えられます。
味覚障害
人間は食べ物を口に入れた際、舌にある味蕾(みらい)と呼ばれる器官で味を感じ取ります。味蕾は、肌のターンオーバーのように約4週間サイクルで生まれ変わる新陳代謝が活発な部分です。
亜鉛はこの味蕾の再生を促すために必要な栄養素のため、不足すると味蕾が機能しづらくなります。その結果、味を感じにくくなる、舌がピリピリするといった味覚障害が発生します。
免疫機能障害
亜鉛は免疫機能に関係する細胞の働きに影響する栄養素です。亜鉛が不足すると、免疫機能が低下して感染症にかかりやすくなるため注意しましょう。また、免疫機能に変調をきたすと、ご自身の細胞や組織を攻撃して傷付ける自己免疫疾患を引き起こす可能性もあります。
自己免疫疾患では、皮膚や関節、臓器など、さまざまな部位に病気を発生させるため、日頃から亜鉛不足には気をつけましょう。
成長障害
亜鉛は細胞分裂や細胞増殖に欠かせないミネラルです。体に存在する酵素の構成成分で、DNAの複製やホルモン合成にも大きく関わっています。そのため、摂取量が不足すると、成長障害に陥る可能性もあるのです。
特に乳幼児や子どもなど、成長期の年齢に亜鉛が不足しないよう注意しましょう。育ち盛りの子どもが亜鉛不足になると、低身長や体重増加不良など、さまざまな問題が発生しかねないため、しっかりとした食事管理が大切です。
生殖機能の低下
男性の体内で作られる精子や男性ホルモンには、亜鉛が欠かせません。なぜなら、精子や男性ホルモンを生成するテストステロンの生成に大きく関わっているからです。亜鉛が不足すれば、テストステロンの生成が減少します。すると、生殖機能に影響し、ED(勃起不全)や不妊の原因になると考えられているため、将来子どもを望んでいる方は特に要注意です。
亜鉛が足りなくなる原因は?
亜鉛は、数ある栄養素の中でも不足しやすいといわれています。気付かぬうちに亜鉛不足にならないよう、今一度ライフスタイルを振り返ってみましょう。該当する項目がある場合は、亜鉛不足を疑い、改善を意識して生活することが大切です。
偏った食事
摂取する食材にもよりますが、食事内容の偏りで亜鉛の摂取量が不足しがちになります。特に、肉類や魚介類を避け、野菜中心の食事を摂るベジタリアンやヴィーガンの方は、亜鉛不足になりやすいでしょう。
また、極端なダイエットも亜鉛不足を引き起こしがちです。食事量を極端に減らしたり、偏った食事を続けることは、亜鉛だけでなく、さまざまな栄養不足に陥りやすい危険な生活習慣といえます。栄養バランスが崩れることで、健康トラブルも発生しやすくなるため注意しましょう。
加工食品やレトルト食品を多く摂取する
加工食品やレトルト食品は、手軽に食べられる食品ですが、亜鉛の吸収を阻害する食品添加物が多く含まれています。そのため、頻繁にこれらの食品を摂取していると、せっかく亜鉛を含む食材を摂っても、うまく吸収できず、亜鉛不足になりやすい傾向があります。
アルコールの摂取
体内でのアルコールの代謝は、亜鉛を材料にして行われるため、アルコールを摂取しすぎると亜鉛を大量に消費します。亜鉛が大量に消費されることで亜鉛不足状態になりやすくなります。また、アルコールは、尿中への亜鉛排出を促す働きもあります。そのため、適量を超えたアルコールの摂取や、アルコールを毎日飲む習慣がある方は、生活習慣を見直すことをおすすめします。
亜鉛を多く含む食べ物一覧
体内で作れない亜鉛は、食事からの摂取で補う他ありません。亜鉛を多く含む食品を積極的に摂取すると良いでしょう。
魚介類
亜鉛は、魚介類に多く含まれています。なかでも牡蠣は、100g当たりおよそ14.5mgも亜鉛が含まれている注目の食材です。およそ牡蠣4つ分で1日の目安摂取量をクリアできるため、亜鉛不足を感じたら積極的に摂取してください。
他にも、たたみいわし、いかなご、煮干し、カニ、たらこ、鰻などにも亜鉛は多く含まれています。たたみいわし、いかなごなどの魚を購入して調理するのが面倒だと感じる方は、手軽なカニ缶やたらこなどを使って、チャーハンや混ぜご飯を作るのもおすすめです。
肉類
肉類も、亜鉛が豊富な食材のひとつです。特に牛の赤身肉、豚や鶏のレバー、豚ヒレ肉などに多く含まれています。牛、豚、鶏と、幅広い肉類に含まれているため、毎日の食事にも取り入れやすいでしょう。他にも、コンビーフやビーフジャーキーにも亜鉛が含まれており、もう一品欲しいときにはこういった手軽な食品をプラスするのもおすすめです。
肉類は、亜鉛と一緒にたんぱく質も含んでいます。そのため、たんぱく質合成が促され、健康的な体づくりのサポートが可能です。特に日常的に運動する方にとっては効率が良いため、亜鉛を含む肉類を積極的に摂取しましょう。
海藻類
ヘルシーな印象の海藻類にも、亜鉛は豊富です。亜鉛を含む代表的な海藻類は、あおさ、わかめ、昆布、ひじきなどです。ローカロリーなため、体型が気になる方にもおすすめの食材です。ただし、海藻類には、亜鉛の吸収を阻害する食物繊維が豊富なため、海藻類以外の食材も一緒に摂取するよう心掛けましょう。
野菜類
魚介類や肉類のように豊富ではありませんが、野菜類の中にも亜鉛を含む食材があります。例えば、枝豆、しそ、たけのこ、切り干し大根、ごぼうなどです。野菜だけで1日の亜鉛摂取目安量を達成するのはなかなか難しいため、魚介類や肉類と合わせて摂取するのがおすすめです。いろいろな食材を取り入れて、充分な量の亜鉛を摂取しましょう。
豆類
豆類では、大豆に多くの亜鉛が含まれています。大豆を原料とするきな粉や油揚げ、焼き豆腐などにも亜鉛が豊富です。他にもあずきや糸引き納豆など、さまざまな豆類に亜鉛は含まれています。
きな粉はヨーグルトや牛乳に混ぜる、油揚げや焼き豆腐はお味噌汁に加えるなど、豆類は手軽に取り入れやすい食材です。おやつに、あんこ系のスイーツをプラスするのも良いでしょう。食材の買い出しに行く際には、豆類を意識して購入し、亜鉛の充分な摂取を目指してみてください。
ナッツ類
アーモンドや落花生なども比較的多くの亜鉛を含む食べ物です。これらのナッツ類は、そのまま食べられるため、忙しい方にもぴったり。また、ミックスナッツやナッツ入りチョコレートなど、コンビニなどで手軽に手に入りやすく、間食に取り入れやすい点も魅力のひとつです。
そのまま食べる以外にも、ホウレンソウやカボチャなどにアーモンドを和えたおかずや、落花生いりの味噌など、ご飯がすすむレシピも豊富にあります。
亜鉛を摂取するときのポイント
亜鉛を充分に摂取するには、ただ単に亜鉛を多く含む食材を食べれば良いというわけではありません。より効率的に亜鉛を摂取し、健康に役立てるためのポイントを把握しておきましょう。
特に、亜鉛は汗に多く含まれているため汗を多くかく方は要注意です。トレーニングや運動などで汗をたくさんかくと、汗と一緒に亜鉛も体外へ流れ出てしまいます。日常的に身体を動かす方は、亜鉛を多く含む食材を意識するとともに、以下でご紹介する亜鉛摂取のポイントを押さえておきましょう。
過剰な摂取は控える
通常の食生活であれば、亜鉛の過剰摂取の心配はほとんどありませんが、亜鉛強化食品サプリメントなどを普段の食事と併用していると、過剰摂取の原因となる場合があり注意が必要です。亜鉛の過剰摂取により、発熱や嘔吐、下痢などの症状が発生するケースもあります。また、胃痛や悪心などを起こすこともあるため、摂取目安量を守るよう心掛けましょう。
他にも、亜鉛の過剰摂取により、鉄や銅の吸収が妨げられることもあります。すると、貧血や銅欠乏を引き起こすこともあり危険です。以下の亜鉛の安全な上限摂取量の目安を守り、食事管理の際に役立ててください。
- 生後6ヵ月…4mg
- 幼児7-12ヵ月…5mg
- 小児1-3歳…7mg
- 小児4-8歳…12mg
- 小児9-13歳…23mg
- 10代14-18歳…34mg
- 成人…40mg
参照元:厚生労働省eJIM | 亜鉛 | サプリメント・ビタミン・ミネラル | 一般の方へ | 「統合医療」情報発信サイト
亜鉛の吸収をサポートする栄養も一緒に摂る
亜鉛の吸収率をアップさせる食材や栄養素と一緒に摂取することで、より効率的に亜鉛を体内に取り入れることができます。亜鉛の吸収をサポートする栄養素は、クエン酸やビタミンC、動物性たんぱく質が代表的です。
クエン酸やビタミンCはレモンやゆず、カボスなどの柑橘類に含まれているため、意識して取り入れてください。動物性たんぱく質は肉類や乳製品に豊富に含まれています。もともと亜鉛を多く含む赤身肉などを積極的に食べたり、肉類と牛乳を一緒に摂取したりして、効率良く亜鉛を取り入れましょう。
亜鉛は、水に溶けやすい性質をもっています。そのため、亜鉛を含む食材を短時間で加熱調理し、ゆで汁まで飲むと、より効率的に摂取できます。
亜鉛の吸収を阻害する食品は適量を心掛ける
亜鉛の吸収率をサポートする食品もあれば、その吸収を阻害する食品もあります。例えば、コーヒーやオレンジジュース、小麦類などに含まれるフィチン酸が代表的です。フィチン酸は腸からの亜鉛吸収を阻害します。そのため、過剰摂取すると、いつの間にか亜鉛不足に陥ることもあるため、しっかりと覚えておきましょう。
また、食物繊維や食品添加物も亜鉛の吸収を妨げます。亜鉛を充分摂取するには、これらの栄養素や食品と一緒に摂取しないようにするなど注意することが大切です。
おわりに
亜鉛は、生きていくうえで大きな役割を担っている重要な栄養素です。体内で作れないため食事やサプリメントからの摂取が欠かせません。摂取目安量をしっかり把握し、過剰摂取や不足に気をつけましょう。亜鉛を多く含む食材を意識して摂取するとともに、吸収をサポートする栄養素や、吸収を阻害する食品なども把握しましょう。充分な量の亜鉛を摂取して、健康的な身体を維持しましょう。