高齢者が地域で安心して暮らしていくためには、どのような支援が必要なのでしょうか。今回は、厚生労働省が構築を推進している「地域包括ケアシステム」とはどのようなものか、その目的や自治体の取り組み事例について詳しく解説していきます。また、システムの要である「地域包括支援センター」の役割についてもまとめていますので、地域包括ケアシステムについて知りたい方は参考にしてください。
地域包括ケアシステムとは?
高齢化が進む日本では、高齢者が住み慣れた地域で自分らしく生活できる支援が求められています。そのために必要なのが、医療や介護の関係機関の連携(多職種連携)。そしてこれらを実現するために必要なのが、厚生労働省が2025年の実現を目途に推進している地域包括ケアシステムの構築です。
地域包括ケアシステムとは、すまい・生活支援・介護・医療・予防などのサービスを高齢者に対して一体的に提供する仕組みを指します。厚生労働省が求めているのは、都道府県・市町村がそれぞれの特性に応じたサポート体制をつくること。つまり、システム構築には、地域の自主性や主体性が重要になります。
地域包括ケアシステムの目的やメリットを見ていきましょう。
地域包括ケアシステムの目的
地域包括システムの目的の根本は、高齢者の尊厳維持と自立した生活の支援です。そのためには、すみ慣れた地域で自分らしく生活し、その暮らしを人生の最期のときまで維持できるようなシステムづくりが必要になります。
地域包括ケアシステム普及による4つのメリット
地域包括ケアシステムの普及によるメリットを4つ紹介します。
生活上のニーズに合ったサービスが提供される
メリットの1つ目は、自宅にいる高齢者のケアの必要性を認識し、細やかな対応ができることです。介護サービスは、もともと国が主体となって提供していました。
しかし、地域の関係機関が連携することで、支援を必要としている方のニーズを的確に判断して、適切なサービスを提供できるようになります。例としては、安心して暮らせるすまいの提供や見守りをはじめとする生活支援、介護予防の取り組みなど。
つまり、同システムは、高齢者の肉体的・精神的な負担を軽減し、自宅での生活を充実させられるシステムであるといえるでしょう。
医療ケアや介護が必要になっても自宅で過ごせる
在宅医療の土台整備が進むこともメリットです。かつての都道府県・市町村には、医療分野と介護分野の連携体制がありませんでした。それぞれの分野が独自に動いていたため、重度の要介護者が必要とするすべての医療ケア・介護のサービスを、スムーズに提供することが困難な状況があったのです。しかし、システムが普及することで、医療・介護分野のつながりができます。医療と介護の両方が必要な方であっても、一貫したサービスを受けながら自宅で安心して暮らしていけるようになるでしょう。
高齢者が社会に参加しやすくなる
地域包括ケアシステムにおいて、元気な高齢者は生活支援を提供する側になります。例えば、老人クラブやボランティア、介護予防についてのイベントなどへの参加です。つまり、同システムの普及により高齢者が社会に参加しやすくなります。社会的役割を担ってもらうことで、高齢者の生きがいや介護予防などにつなげる目的もあるのです。
認知症になっても家族と暮らせる
包括ケアシステムは、認知症高齢者の生活を支えることも目的としています。前述の一貫した医療ケア・介護サービスを提供する対象には、認知症高齢者も含まれます。認知症サポーターの存在も、認知症高齢者に対する支援のひとつです。
認知症サポーターとは、認知症を正しく理解し認知症の方やその家族を近くで手助けする方です。地域住民も養成講座の受講が可能です。認知症サポーターの存在により認知症高齢者を地域で見守ることが可能になるため、認知症の方やご家族が安心して暮らせるようになります。
地域包括ケアシステムにおける5つの構成要素と4つの「助」
地域包括ケアシステムを構成する5つの要素、4つの「助」について説明します。
5つの構成要素とは?
地域包括ケアシステムは、「すまいとすまい方」「生活支援・福祉サービス」「介護・リハビリテーション」「医療・看護」「保健・予防」という5つの要素で構成されています。それぞれどのようなものがあるのか説明します。
すまいとすまい方
すまいは、生活の基盤となります。つまり、必要なすまいが整備されること、希望と経済力にかなうすまい方が確保されることが地域包括ケアシステムの大前提です。5つの構成要素は植木鉢に例えられますが、すまいとすまい方はそのなかで鉢に該当します。
ここでのすまいは、自宅だけでなく介護施設なども含まれることから、単に住宅を提供するという意味にとどまりません。賃貸契約に必要な保証人の確保なども地域包括ケアシステムの内容に含まれます。
生活支援・福祉サービス
心身機能の低下や家族関係の変化があったとしても、尊厳ある生活ができるように提供されるのが生活支援・福祉サービスです。植木鉢のなかでは土の位置付けです。民間の食事サービスの他、近隣住民による声掛けや見守りなどの支援も含まれます。
介護・リハビリテーション
植木鉢の3つの葉のひとつが介護・リハビリテーションです。訪問介護・訪問リハビリテーションなどの居宅サービスや、特別養護老人ホームなどで受けられる施設サービスなどがあります。
医療・看護
医療・看護も植木鉢の葉に例えられています。医療機関には、かかりつけ医や急性期病院、リハビリ病院などさまざまな病院がありますが、かかりつけ医や地域の連携病院などが日常的な医療を担っています。一方、病気による入院などは急性期病院や他の病院が対応します。これらの医療をつなげるためには、医療機関同士が情報共有を行い、医療を提供する主体の切り替えを柔軟に行う必要があるのです。
保健・予防
保健・予防は、健康的な生活を維持していくための介護予防などです。植木鉢の葉に当たります。これら3つの葉は、高齢者が抱える課題に合わせ、専門職により提供されるもの。3つの葉同士の他、必要時は生活支援なども含めて一体的に提供することが求められています。
本人や家族の選択と心構えも大切
近年では、単身世帯や高齢者のみの世帯が主流になってきています。そのようななかにあって自宅で暮らしていくためには、本人や家族の心構えが大切です。本人や家族が在宅での生活を選択することの意味を理解していることも必要となります。
4つの「助」も知っておこう
4つの「助」とは、「自助」「互助」「共助」「公助」のこと。地域包括ケアシステムは、これらを体系化する役割が期待されています。それぞれどのようなものなのかご説明します。
自助
自助とは、自身の生活課題を自発的に解決することです。住み慣れた地域で暮らしていくためには、健康に気を配って主体的かつ積極的に介護予防に取り組むことが大切です。なお、自助には介護保険以外のサービスを自費で利用することも含まれます。
互助
家族や親族、近隣住民などがお互いに助け合って生活課題を解決することを、互助といいます。ボランティアによる活動もそのひとつです。人材や費用は無限ではありません。そのため、公的ではない社会資源の活用も重要となります。都市部以外の人材・費用が乏しい地域では、互助が重要な役割を持っているのです。
共助
介護保険や医療保険など、制度に基づくサービスが共助です。分かりやすくご説明すると、医療・年金・保険などのように、被保険者が負担することで成立するものを指しています。
公助
公助とは、生活に困窮している方に対して提供される、社会福祉制度や生活保障制度などの行政サービスのことです。生活保護の支給などがこれに当たります。税金により成り立っていることが特徴です。
被保険者の保険料や税金の上に成り立っていることから、共助と公助を拡充することは難しいでしょう。そこで重要になるのが、自助と互助。この2つの役割を意識した取り組みが必要であるといわれています。
システムの要「地域包括支援センター」の4つの役割
地域包括ケアシステムの中心となる組織が、地域包括支援センターです。保健師や社会福祉士などの専門職種がチームとなり、地域のネットワークを構築しながらサービスのコーディネートなどを行います。地域包括支援センターが対応する相談は、介護サービス・介護予防サービス・保健福祉サービス・日常生活支援など多岐にわたります。全国の設置数は5,351ヵ所、サブセンターやブランチ(相談を集約した上で地域包括支援センターにつなぐ窓口)なども含めると7,386ヵ所です(令和3年4月末時点)。
地域包括支援センターの役割について、以下にまとめました。
高齢者の相談窓口
地域包括支援センターには、地域の社会資源を活用してそれぞれに合ったサービスを案内する役割があります。つまり、高齢者が生活する上で困っていることに対しての総合的な相談窓口であるといえるでしょう。また、在宅介護をする家族の相談に対応していることも特徴です。家族の介護が初めての場合でもわからないことや悩みを相談できるため、在宅介護をスムーズに進めやすくなります。
介護ケアプランの作成支援
要支援や要介護になる可能性のある高齢者に対する、介護予防ケアプランの作成支援も行っています。要支援1~2の方の介護サービス利用について、本人と話し合いながら決定します。また、「要介護認定で非該当だった」「認定を申請していないけれど介護予防のために何かしたい」という方を対象とした介護予防教室などを行っていることも特徴です。
高齢者の権利を守る
高齢者の権利を擁護することも役割のひとつです。高齢者虐待の早期発見・防止の他に、悪徳商法などの被害にも対応しています。厚生労働省は、高齢者の権利を守るために成年後見制度の活用を促進しています。認知症などによりひとりで決定するのが難しい方に対して、後見人が契約や手続きの手伝いをする制度になっています。
判断に迷うときに相談に乗ってもらえるだけでなく、悪徳商法の契約をしてしまった際の契約取り消しの手続きなども行ってもらえます。地域包括支援センターでは、支援制度の利用についての助言を行っているため、ひとりで悩まず相談しましょう。
ケアマネジャーに対する支援
役割の4つ目はケアマネジャーの支援です。ケアマネジャー向け研修会の実施、ネットワークづくりのサポートなどを実施するだけでなく、日常的な相談などの支援も行っています。
地域包括ケアシステムを導入する自治体の事例を紹介
厚生労働省のWEBサイトで紹介されている、システム構築に向けた取り組み事例をご紹介します。
東京都世田谷区の事例
医療関係者・ケアマネジャーなどで構成される「世田谷区医療連携推進協議会」を中心に、医療分野と介護分野の連携を図っています。また、要介護高齢者の生活を24時間支えるため、厚生労働省が創設した「定期巡回・ 随時対応型訪問介護看護」を区内全域で提供できる体制があることも特徴です。他には、低額で入居可能な都市型軽費老人ホームを多く設置したり、中高年層ボランティアの活動を促進するなどの取り組みも行っています。
新潟県長岡市の事例
看護・介護・食事・入浴などのサービスを24時間連続して提供するため、小地域完結型のサポートセンターを設置しています。また、「小規模多機能型居宅介護(デイサービスにショートステイなどを組み合わせた支援を行うサービス)」を提供する事業所を祭りの休憩場所にするなど、住民の理解を得るための工夫もあり、これをきっかけに住民が施設のイベントに参加するなど地域に開かれた施設です。
埼玉県川越市の事例
埼玉県川越市では、「認知症支援について検討する会」において現場の声を反映し、認知症の方と家族を地域で支えるための施策を推進しています。認知症についての正しい理解を促すためのパンフレットの配布、認知症家族の介護教室の開催などが特徴的です。また、「オレンジカフェ(認知症カフェ)」など、認知症の方・家族・地域住民・専門職が気軽に参加できる場所づくりにも努めています。
千葉県柏市の事例
柏市が事務局となり、医師会をはじめ、ケアマネ協議会など各分野の関係者がワークショップなどを通じて関係をつくり、課題を共有する体制が取られています。また、主治医が訪問診療できないときに副主治医が診療する「主治医・副主治医制度」を構築しています。その機能をさらに強化する取り組みも実施しています。
地域包括ケアシステムの課題とは?
地域包括ケアシステムの課題とその解決策について見ていきましょう。
システム自体があまり知られていない
課題の1つ目は、システムの認知度が低いことです。支援の対象である高齢者やその家族・医療分野・介護分野・地域住民への理解を深めることが求められます。地域全体でシステムを構築するためには、目的や各分野の役割を明確化し、普及・啓蒙を進めて協力を依頼していくことが重要です。
地域格差がある
人的資源の質・量や財源は、提供されるサービスの質・量にかかわってきます。つまり、人的資源や財源が充分でない地域では、人材が流出してしまったり充実したサービスを提供できなかったりする可能性があるのです。そうならないために、地域格差を是正しながらシステムを構築していくことが求められています。
高齢化により担い手が不足する
日本は、65歳以上の高齢者が全人口の21%以上を占める超高齢化社会です。高齢化はさらに進んでいくと考えられており、医療や介護だけでなく、見守りや配食などの日常生活支援が必要な高齢者が増えることから担い手不足が懸念されています。担い手不足の解消にはNPOやボランティアなどの人材も活用していくことが必要です。人材の活用により元気な高齢者の社会参加が進むことは、介護予防や担い手不足の解消にもつながるでしょう。
医療分野と介護分野の連携が機能していない
地域包括ケアシステムでは、医療分野・介護分野・他分野の連携による包括的・継続的なサービスの提供が求められています。しかし、医療分野と介護分野の間には、メンタルバリア(目には見えない障壁)があるのも事実。地域包括ケアシステムでは、この障壁を取り払うことが必要です。
おわりに
地域包括ケアシステムとはどのようなものか、その課題について詳しく説明しました。システムの構築が進むと、介護予防・医療・生活支援などのサービスを地域全体で提供できるようになります。まだ課題はありますが、在宅でさまざまなサービスを受けられるようになれば、高齢者が住み慣れた地域での生活を継続しやすくなるでしょう。自治体のWEBサイトでは取り組み内容が紹介されていますので、ぜひ調べてみてください。
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