最近日本でも増えてきている出産方法に、無痛分娩があります。娘やお嫁さんなど身近な方が無痛分娩を選択することもあるでしょう。
しかしながら無痛分娩になじみがなく、どんなものなのかよく理解できていない方も少なくありません。
そこで今回は、種類や費用、メリットなど、無痛分娩について詳しく解説していきます。きちんと理解したうえで、正しい寄り添い方を考えてみてはいかがでしょうか。
無痛分娩とは?
麻酔により陣痛の痛みを和らげながら出産するのが、無痛分娩です。欧米では主流にもなっている分娩方法ですが、日本でも少しずつ普及しています。
無痛分娩関係学会・団体連絡協議会の調査によると、2022年現在、無痛分娩を行っている施設は全国に505あり、全分娩のうち8.6%が無痛分娩の出産でした。2017年の調査では全分娩のうち無痛分娩は6.1%でしたので、無痛分娩は増加傾向にあるといえるでしょう。
無痛分娩には自然無痛分娩と計画無痛分娩の2種類があります。それぞれどのような分娩方法なのか、確認していきましょう。
自然無痛分娩
陣痛が始まったタイミングで硬膜外麻酔もしくは脊髄くも膜下鎮痛を併用した硬膜外鎮痛法(CSEA)という局所麻酔により痛みを和らげるのが、自然無痛分娩です。下半身だけに麻酔が効き、母子ともに安全性の高いことが特徴で、麻酔が効くタイミングや痛みの度合いを調整することができます。
自然無痛分娩はお産のタイミングは赤ちゃんに任せるのが特徴で、麻酔で痛みを和らげて出産に臨みます。硬膜外麻酔は細いチューブを背骨の中の硬膜外腔に挿入し、麻酔薬を注入して下半身の痛みを和らげるというもの。この麻酔方法は帝王切開でも使われることがあります。
あえていきむための痛みが残るためお産の間意識はあり、赤ちゃんを産む感覚や赤ちゃんが生まれる瞬間もわかるそうです。分娩時の痛みが完全になくなるわけではないため、自然無痛分娩を和痛分娩と呼ぶこともあります。
計画無痛分娩
計画無痛分娩とは、前もって予定を決めておき、陣痛促進剤で陣痛を起こしてお産をする分娩方法のことです。誘発陣痛か自然陣痛かという点が自然無痛分娩との違いで、日本で行われている無痛分娩のほとんどは計画無痛分娩となっています。
計画的に出産予定日を決めることができるのが大きなメリットで、兄弟がいて預ける日時を決めておきたい、立会出産したいといった場合にも安心です。
事前に予定日を医師と決めておき、前日もしくは当日に入院して陣痛促進剤を投与。陣痛が始まり子宮口が4~5cmくらい開いたところで麻酔を注入し、出産となります。分娩時から縫合中もずっと麻酔が効いているため、会陰切開の痛みもありません。
無痛分娩はなぜ選ばれているの?
日本には「お腹を痛めて産んだ子」などと表現されることがあるように、痛みの伴ったお産を美徳としたり愛情が深くなると考えたりする風潮があります。
しかし、母子の愛情は陣痛の有無で決まるような単純なものではないでしょう。なかにはとにかく陣痛が辛く、やっとの思いで生まれてきた赤ちゃんをかわいいと思うような余裕もなかったという声もあり、陣痛の痛みが過度なストレスを与えるケースも少なくありません。
医学の進歩によって麻酔なしの手術は考えられなくなったように、お産にも麻酔が使われるようになっており、海外では無痛分娩が主流です。痛みへの感受性には個人差があることに加え、初産婦にとって陣痛のストレスは、手の指を切断するのと同じくらいともいわれているほどの強い痛みなのです。
切断された指をつなぎ合わせる縫合手術に麻酔をするのは当たり前のこと。しかし同レベルとされる陣痛は麻酔をしないのが当然という考え方が、まだ日本には根強く残っているのが現状です。ただ現在、こうした価値観が少しずつ変化しており、無痛分娩が広がりつつあります。
無痛分娩のメリット
無痛分娩には以下のようなメリットが挙げられます。
分娩時の痛みが軽減され体力消耗が少ない
無痛分娩の大きなメリットは、何といっても陣痛や分娩時の痛みが軽減されることです。どのくらい痛みを感じるのかはそれぞれ異なりますが、通常の2~3割程度に軽減できるといわれています。痛みが少ない分、身体への負担も少なくなるでしょう。痛みに弱い方にとって、大きなメリットです。
麻酔をしていても意識はあるため、赤ちゃんが生まれてすぐに抱っこすることもできます。縫合が必要な場合でも、すでに麻酔しているため縫合の痛みも感じません。
産後の回復が早くなる
分娩時の体力消耗や精神的な苦痛が少ない分、産後の回復が早くなるのもメリットです。
出産後は慣れない赤ちゃんのお世話が始まるため、休んでばかりもいられません。しかし、お産で体力が尽きてしまうと、赤ちゃんのお世話がままならない可能性もあります。
産後の回復が早いほど、新生児期の赤ちゃんとしっかり関わることができるでしょう。産後のために体力を温存できるのは、無痛分娩の大きなポイントです。高齢出産で体力に不安がある方や兄弟がいてゆっくりしていられない方にとって、大きなメリットになるでしょう。
痛みによるパニックなどのトラブルが少ない
分娩時の痛みが軽減されることによりパニックになる可能性が減るのも、メリットのひとつです。陣痛の痛みから恐怖感がつのる、不安に襲われるなどしてストレスがかかると、お産がスムーズに進まないうえ、赤ちゃんにも悪影響を及ぼすこともあります。
痛みへの不安が解消されることでリラックスできたり、ポジティブな気持ちで出産に臨めたりすることは、大きなメリットでしょう。
万が一赤ちゃんの状態が悪化し緊急帝王切開となった場合でも、新たに麻酔をする必要がなく、スムーズに緊急手術に進むことができます。一刻を争う事態に麻酔の準備が必要ないというのは、安心材料のひとつになるでしょう。
無痛分娩のデメリット
無痛分娩のデメリットが気になるという方も多いはずです。デメリットをきちんと把握しておきましょう。
分娩時間が長くなりやすい
計画無痛分娩の場合、陣痛を誘導するところからスタートするため、分娩時間が長くなりやすい傾向にあります。また、妊婦さんによっては麻酔薬の影響で感覚や筋力が低下しお産がなかなか進まないこともあるでしょう。陣痛促進剤の投与など医療介入が必要になるケースも少なくありません。
吸引分娩が必要になることもある
麻酔の影響により最後の力みが足りない場合には赤ちゃんが出てこれず、吸引分娩や鉗子分娩といった、機械を用いたお産になるケースも少なくありません。
吸引機や鉗子は、赤ちゃんの頭を傷付けてしまうリスクもあります。会陰切開や会陰裂傷の傷が大きくなる、出血が多くなるといった母体への影響も考えられるでしょう。
無痛分娩に対応できる病院が限られている
無痛分娩に対応している病院は限られており、どの産院でも無痛分娩ができるわけではありません。無痛分娩を選択したくても近くに対応している産院がない可能性があるのはデメリットでしょう。
母子の健康や命を守ることに加え、麻酔管理を行わなくてはならないため、無痛分娩の導入は大変です。これが日本で無痛分娩が普及しない原因でもあるでしょう。
自然分娩より費用がかかる
経腟分娩に比べると、別途麻酔等の費用がかかるため出産費用が高額になるというデメリットもあります。無痛分娩は健康保険の対象外であるため、すべて本人負担です。
感染症があるなど母体の状況によっては、さらに費用が追加されることもあるでしょう。これから子どもにお金がかかることを考えると、費用面で躊躇してしまう方もいるかもしれません。
無痛分娩の費用相場はどのくらい?
無痛分娩にかかる費用相場はどのくらいか、気になるところです。費用については医療機関によって大きく幅があり、経腟分娩の費用に加えて加算される額がかからないこともあれば、100,000円以上かかるところもあります。
なお、健康保険に加入していれば、健保組合より出産育児一時金として子ども1人につき420,000円受け取ることができるため、その額を差し引いて考えてみるのがおすすめです。
実際にかかる費用の一例を参考に、どのくらいかかるのか把握しておきましょう。
無痛分娩費用・東京にある病院の例
まず、東京にある病院の例を見ていきましょう。順天堂大学病院の場合、分娩内容ごとの費用と差額ベッド代、外来診療、検査にかかる費用が出産費用となります。
分娩内容 | 費用 |
経腟分娩 | およそ850,000円 |
帝王切開分娩 | およそ850,000円 |
無痛分娩加算 | 150,000円 |
新生児管理費(健常児の場合) | 14,070円/日 |
これは大部屋(4人部屋)の場合の分娩費用になり、個室を希望する場合には部屋に応じた差額ベッド代が発生します。
無痛分娩の場合、経腟分娩の850,000円に150,000円が加算され、1,000,000円になります。また、入院日数分の新生児管理費も必要です。
無痛分娩費用・神奈川にある病院の例
続いて、神奈川県にある愛育病院の分娩費用です。愛育病院の場合、選択した分娩内容の費用に加え、差額ベッド代と診療や処置などにかかった費用を合算して出産費用となります。
分娩内容 | 費用 |
経腟分娩 | 580,000円~ |
帝王切開分娩 | 710,000円~ |
オンデマンド無痛分娩 | 700,000円~ |
計画分娩 | 620,000円~ |
計画無痛分娩 | 700,000円~ |
上記の額は大部屋(5~6人部屋)の場合の分娩費用となっており、個室や2人部屋、4人部屋を希望すると差額ベッド代がプラスされます。
愛育病院の場合、自然無痛分娩(オンデマンド無痛分娩)と計画無痛分娩の両方に対応しており、どちらを選んでも基本の分娩費用は変わりません。陣痛促進剤で計画日に分娩を行う計画分娩にも対応しており、選択肢も広くなっています。
身近な方が無痛分娩を選んだときにできることは?
娘やお嫁さんなど、身近な方が無痛分娩を選択した場合に、どんなことができるのでしょうか。
出産する方の希望を優先する
無痛分娩を希望しているにもかかわらず、親や義両親に反対されたという方もいるようです。出産時に麻酔を使うとなると、「本当に大丈夫なの…?」と不安を感じてしまう方もいるかもしれません。
実際に、無痛分娩で母体が死亡する、後遺症が残るといった事故が起きたこともあり、マイナスの印象が広がった過去もありました。しかし、これは正しい分娩管理が行われていなかったために発生したもので、技術や経験のある病院であれば問題ないケースがほとんどです。
重要なのは、出産する本人の希望を優先すること。出産を控えた女性はさまざまな不安を抱えています。意見や価値観を頭から否定するのではなく、無痛分娩についてきちんと理解して、本人の意思を尊重してあげる姿勢が大切です。
出産祝いを渡す
ただでさえ何かと出費の多いお産ですが、無痛分娩を選択すると費用がさらに高くなります。出産後子育てしていくことも踏まえ、物入りになるケースも多いでしょう。
出産祝いを渡し、金銭面でのサポートをしてあげるのもひとつの方法です。親からの出産祝いは生後1週間~1ヵ月の間に渡すのが目安とされています。しかし、家庭によっては出産準備金として出産前にお祝いを渡すケースもあるようです。
急な出費でまとまった額が手元にない場合は、ローンに頼るのもひとつの方法です。クレディセゾンの「MONEY CARD(マネーカード)」は、最短即日で出金できるため、急に費用が必要になった際にも安心です。
無痛分娩のお金事情について調べておく
「金銭面のサポートは難しい…」という場合でも、無痛分娩についてのお金の情報を調べておくことはできるでしょう。
例えば、出産費用は保険対象外ですが、無痛分娩費用を含む一連の出産費用が医療費控除の対象であることは意外と知られていません。病院に急いで行く際に使ったタクシー代などが対象になることもあるため、出産に関わるレシートや領収書はすべて保管しておくのがベストでしょう。
他にも、以下のような出産に関する制度が設けられています。
- 出産一時金…健康保険に加入していると受け取ることができる
- 出産手当金や傷病手当…まとまった期間働けない場合に受け取ることができる
こうした制度は申請しないと受け取れないケースもあり、知っていなければ損をする可能性もあります。情報を伝えてあげることも、サポートの一環になるでしょう。
おわりに
現在、出産といえば痛みが伴うのが当たり前だった時代から、痛みのない出産という選択肢もある時代へと変化しています。
陣痛の痛みが軽減されるという点はもちろん、産後の回復が早い、リラックスして出産を迎えることができるというメリットも大きいでしょう。頭から否定するのではなく、まずはリスクを含め無痛分娩についてきちんと理解したうえで、出産する本人の気持ちに寄り添う姿勢が大切です。