歯並びや嚙み合わせを改善する治療のひとつに、歯列矯正があります。歯列矯正と聞くと「治療費が高い」というイメージが湧くかもしれません。そこで今回は、歯列矯正に保険は適用されるのか、治療費を安く済ます方法はあるか、失敗しないための対策はあるのかなど、気になる疑問にお答えしていきます。ご自身だけでなく、子どもの歯列矯正を検討している方も、納得のいく治療となるように知識を蓄えておきましょう。
歯列矯正は、基本的に保険適用外の治療になります。審美性の向上という意味合いが強いためです。ただし、厚生労働省が定める疾患や口腔内の状態が原因で歯列矯正が必要な場合は、保険が適用されます。
歯列矯正の保険適用範囲は限定的なため、多くの方は全額自己負担で治療することになるでしょう。歯列矯正治療費の相場は80~120万円です。高額なので治療を受けるからには失敗したくありません。失敗しないために、ご自身に合う治療方法を選択し、日本矯正医学会の認定医や専門医が在籍する医療機関で治療を受けてください。治療費の負担を軽くする方法として、医療費控除の申請があり、適用されれば所得税軽減につながります。
歯列矯正を行うメリットは?
矯正器具を歯に装着し、歯並びの整列や嚙み合わせ改善を目指す歯列矯正。まずは、歯列矯正のメリットを知っておきましょう。
歯の健康が保ちやすくなる
歯並びが悪いと歯間や歯と歯肉の間をブラッシングしにくいため、磨き残しが生じやすくなります。衛生的な歯を保てなければ、虫歯や歯周病になる危険性が高まります。歯並びが整うと、細かい部分まで歯ブラシが届きやすく、歯の健康維持につながるでしょう。
嚙み合わせが良くなり食事がしやすくなる
「食べ物をうまく嚙み切れない」「しっかり嚙めない」といった問題の一因に、嚙み合わせの悪さがあります。また、思うように噛めないと、食事が楽しめません。歯列矯正で嚙み合わせが良くなると、食べ物をしっかり嚙めるようになり、食事がしやすくなります。
顎関節の不調を減らせる
顎関節の不調を感じている方は、歯列矯正で軽減できる可能性があります。嚙み合わせが悪いと顎や筋肉に余計な負担が掛かるため、「口が開きにくい」「顎関節で音が鳴る」といった不調をきたしやすいのです。嚙み合わせの改善で、顎関節の不調を改善するきっかけとなるでしょう。
コンプレックスが解消される
歯並びが悪いことで、口元にコンプレックスを抱いている方もいるのではないでしょうか。口元が気になると、思いっきり笑えず、会話も楽しめませんね。歯列矯正をして歯並びに自信が持てれば、コンプレックス解消も夢ではありません。
歯の矯正は基本的に全額自己負担
歯列矯正にかかる治療費は、基本的に全額自己負担です。治療費の相場は、80~120万円と高額です。なぜ歯列矯正は保険適用外なのか、謎に迫っていきましょう。
参照元:公益社団法人 日本臨床矯正歯科医会|治療費の目安はどれくらいですか?
歯列矯正が保険適用外なのはなぜ?
歯列矯正に保険が適用されないのは、審美的な処置という意味合いが強いからです。本来、保険診療は疾患やケガなどの治療が目的です。歯列矯正は結果的に歯の健康につながりますが、メインの目的は見た目の改善であるため、保険適用とならないのです。
ただし、すべての歯列矯正が保険適用外というわけではありません。厚生労働省が定めている疾患や咬合異常(上下の歯の位置関係が正常ではない状態)である場合、保険が適用されます。
なお、歯列矯正以外にホワイトニングやインプラントも原則保険適用外です。
矯正治療中は虫歯などの治療も保険適用されない
注意しておきたいのが、歯列矯正治療を受けている間の他の歯科治療です。歯列矯正をはじめとする保険外診療中に保険診療を受けた場合、保険診療分も自費となります。例えば、歯列矯正中に虫歯治療が必要になったとしても、虫歯治療に対して保険が適用されません。
保険診療と保険外診療の併用は、「混合診療」と呼ばれています。混合診療は原則禁止であり、保険外診療中に追加で受けた保険診療も、全額自己負担として処理されるのです。
歯列矯正で保険適用になるケースとは?
続いて、どのようなケースで歯列矯正が保険適用となるのか解説します。
厚生労働省により定められた疾患
厚生労働省が定めている疾患が原因で歯列矯正治療が必要な場合、保険が適用されます。対象の疾患は50種類を超えるため、代表的な疾患をピックアップしました。
- ダウン症候群
- ジストロフィー
- 唇顎口蓋裂
- ターナー症候群
- 軟骨形成不全症
- 6歯以上の先天性部分(性)無歯症 など
これらの疾患による歯並びや嚙み合わせの悪さは、日常生活に支障をきたす場合があることから保険適用となります。さらに、歯列矯正が障害を軽減・除去するための治療と認められると、「自立支援医療」にも適用されます。例えば、唇顎口蓋裂によって言語障害があり、鼻咽の手術以外にも歯列矯正が必要であれば、自立支援医療の対象となるのです。
自立支援医療は、実際にかかった1ヵ月の医療費から保険分(7割)と患者負担分(1割または上限額)を差し引いた、残りの医療費を負担してくれる制度です。ただし、自立支援医療が受けられるのは、指定の医療機関のみとなります。また、1ヵ月当たりの自己負担上限額は、所得に応じて0~20,000円と段階的に定められています。
ここで、保険適用の対象となるダウン症候群と筋ジストロフィーについて把握しておきましょう。
ダウン症候群
21番目の染色体が生まれつき3本ある(通常は2本)ことで起こる先天性の疾患を、ダウン症候群(21トリソミー)と呼びます。ダウン症候群の症状は、筋肉の低緊張・発達遅延などの他、口腔内に以下の症状が発現しやすいです。
- 先天性の歯の欠如
- 咬合異常
- 乳歯が抜けない・永久歯が生える順序が不規則
- 上顎の成長が遅い など
ダウン症候群の方が歯並びや咬合異常の改善などを目的として歯列矯正する場合、保険適用となります。
筋ジストロフィー
筋ジストロフィーは、難病に指定されている遺伝性の筋疾患です。骨格筋の障害に伴う運動機能低下・呼吸機能障害・嚥下機能障害といった症状が現れます。筋ジストロフィーの方の口腔周辺に現れやすい症状を見てみましょう。
- 歯列不正
- 咬合異常
- 舌の肥大
- 口腔周辺の筋障害 など
筋ジストロフィーによる歯並びや嚙み合わせ異常の治療に歯列矯正をする場合、保険が適用されます。
嚙み合わせに異常がある
以下の条件に当てはまる咬合異常は、保険適用の対象です。
- 永久歯の萌出不全(3歯以上)による咬合異常
- 上下顎の前歯に3歯以上埋まったままの永久歯がある
- 埋伏歯開窓術が必要
通常、幼児期に乳歯が抜け、永久歯に生え変わります。ところが永久歯が生えてこず、嚙み合わせが悪くなってしまうケースも。そこで、歯茎を切開して永久歯を引き出す手術(埋伏歯開窓術)とともに、歯列矯正で歯並びを整えます。この場合、歯列矯正は保険診療です。
外科的な治療が必要な「顎変形症」
顎変性症の治療のうち、外科的なアプローチを要する歯列矯正は保険適用の対象です。顎変形症とは、その名のとおり顎の変形によって引き起こる症状。具体的な症状として、上顎と下顎の大きさの異常や、バランスの悪さによる咬合異常が挙げられます。
歯列矯正は、顎変形症の治療のひとつです。しかし、歯列矯正だけでは改善が難しい場合、顎の骨を切る外科手術が必要となり、手術前後に行う歯列矯正が保険適用となるのです。
なお、保険適用となる治療が受けられるのは、顎口腔機能診断が可能な施設のみとなっています。
親知らずの抜歯手術が保険適用になることも
歯列矯正に伴う治療は、基本的に保険適用外であるとお伝えしました。歯列矯正のために親知らずの抜歯が必要であっても、例外ではありません。ただし、理由によっては歯列矯正前の親知らずの抜歯が保険適用になることがあります。
保険が適用される例を見てみましょう。親知らずに重度の虫歯があり「歯列矯正前に抜歯しておいた方が良い」と判断されると、虫歯治療の一環として保険診療で抜歯されます。他にも、親知らずの生え方が悪いため歯茎に痛みが生じており、抜歯が必要な場合も保険適用の対象です。
歯列矯正治療が保険適用になる医療機関の探し方
保険適用の歯列矯正治療が受けられるのは、指定の保険医療機関や顎口腔機能診断施設に限ります。保険適用の条件に当てはまり、歯列矯正を受けたい場合、受診を検討している歯科医院が指定医療機関であるかチェックしましょう。認可を受けているかどうかは、地方厚生局のWEBサイトで確認できます。確認の手順は、以下のとおりです。
【確認の手順】
- 厚生労働省の地方厚生(支)局の一覧ページにアクセスする
- お住まいの地域の厚生局を選択する
- 「保険医療機関・保険薬局の施設基準の届出受理状況及び保険外併用療養費医療機関一覧」をクリックする
- 歯科一覧のPDFで目当ての歯科医院に「矯歯」「顎診」の表記があるか確認する
歯列矯正を後悔しないために
歯列矯正が保険適用となるケースは限られているため、自費で歯列矯正する方が多いでしょう。歯列矯正の治療費は高額です。「やらなきゃ良かった」と後悔しないよう、次のポイントをふまえて歯列矯正するか検討してください。
歯列矯正をやめた方が良い場合
次の状況に当てはまる場合、歯列矯正をやめた方が良いでしょう。
顎関節症がある
口を開けにくい・顎が痛いといった症状が現れる、顎関節症。「嚙み合わせが悪いから顎関節症になったのでは」と、歯列矯正を検討する方もいるようです。しかし、顎関節症の原因に嚙み合わせの悪さが関係しているとは限りません。ゆえに、顎関節症の治療に歯列矯正が有効とはいいきれないのです。反対に、歯列矯正がきっかけで顎関節症を発症するケースもあります。
顎関節症がある方は、歯列矯正を始める前に慎重に検討してください。
虫歯や歯周病の治療中である
基本的に、虫歯や歯周病の治療中は歯列矯正ができません。虫歯や歯周病の治療が完了してから歯列矯正を行います。
ただし、医療機関によっては「健康な歯を極力削らないために虫歯治療と歯列矯正を同時に行う」「歯垢の蓄積を防ぐために歯周病治療の一環として歯列矯正を行う」という場合があります。いずれにせよ、虫歯や歯周病の治療中は医師に相談してください。
まとまったお金がない
お伝えしたとおり、歯列矯正の治療費の相場は80~120万円です。予想以上に治療が長引き、追加料金が発生する事態も否めません。治療費の支払いは一括払いだけでなく分割払いも可能ですが、まとまったお金が用意できないと歯列矯正を受けるのは難しいでしょう。
歯列矯正での失敗を防ぐ対策
ここからは、歯列矯正の失敗を防ぐ方法を紹介します。
症状に合った治療方法を選ぶ
歯列矯正には、次の4種類あります。ご自身の症状に合った治療法を選べば、歯列矯正の効率アップが目指せるでしょう。
表側矯正 | 歯の表側にワイヤーをつけて矯正 |
裏側矯正 | 歯の裏側にワイヤーをつけて矯正 |
ハーフリンガル矯正 | 下の歯:表側矯正 上の歯:裏側矯正 |
アライナー矯正 | マウスピースを歯にはめて矯正 |
ワイヤーを使った矯正は、出っ歯やでこぼこした歯並び、反対咬合(受け口)などさまざまな症状に対応可能です。歯全体はもちろん、気になる部分だけの歯列矯正ができます。
アライナーは、患者の歯型を基に作った透明のマウスピース。装着しても目立ちにくい上に、金属アレルギーの方も歯列矯正できるメリットがあります。しかし、アライナーは対応可能な歯並びが限られているので注意しましょう。
実績や技術がある医療機関を選ぶ
医療機関を選ぶ際は、以下のポイントに着目してください。
- 日本矯正医学会の専門医や認定医が在籍しているか
- 歯列矯正の実績は豊富か
- 休診日が多すぎないか
- 治療前の説明は充分かなど
歯列矯正を行う医師が専門医や認定医であることが大前提です。症例数の多い、矯正歯科専門の医療機関であれば、なお安心でしょう。ただ、休診日が多いとトラブルが起きた際にすぐ診てもらえません。1ヵ月に半分以上、歯列矯正の診療日があるか確認してください。
そして外せないポイントが、治療前にしっかり説明してくれるかどうか。納得いかないまま治療が進むと、トラブルに発展しかねません。時間を割いて親身に話を聞いてくれる・資料を渡してくれる・治療中でも医師に相談しやすいといった医療機関なら、信頼できるでしょう。
治療の目的を確認する
なぜ歯列矯正を受けたいのか、目的を確認してください。目的があいまいだと治療方法が定まらなかったり、医師と共通認識が持てなかったりしてしまい、仕上がりに満足できない事態となりかねません。
治療後に元に戻らないためにリテーナーをしっかり装着する
リテーナーとは、歯列矯正によって動かした歯の位置を安定させる器具。歯列矯正直後の歯は不安定なため、医師に指示に従って正しくリテーナーを装着しないと、元の位置に戻ってしまう恐れがあります。歯科医師の見解によって異なりますが、リテーナーの装着期間は1~3年が目安です。
参照元:公益社団法人 日本臨床矯正歯科医会|治療期間はどれくらいですか?|治療期間・費用(成人):よくある質問・何でも相談室:矯正歯科治療のお話
歯列矯正をできるだけ安く行う方法はある?
歯列矯正にかかる出費をできるだけ抑えたい場合、医療費控除や高額医療制度などの制度の活用を検討しましょう。ここでは、費用負担が軽減できる方法を紹介します。
医療費控除が受けられる場合もある
医療費控除は、所得控除の一種。保険金などを差し引いた1年間(1月1日~12月31日)の医療費が、100,000円以上の場合に対象となります。また、ご自身だけでなく同一生計の配偶者や親族にかかった医療費も計上可能。医療費控除が適用されれば、所得税の負担軽減につながります。
歯列矯正は、治療目的や年齢によって医療費控除の可否を決定。大人の場合、審美性を良くする目的だと、対象外です。医療費控除の対象となるには、歯列矯正が治療であると認められなければなりません。
一方、発育段階にある子どもの場合、たいていの歯列矯正が治療と認められるため、医療費控除の対象となるでしょう。なお、「子ども」がいつまでか具体的な年齢は国税庁から発表されていません。歯列矯正が医療費控除に適用されるかは、最終的に税務署が判断します。
高額療養費制度を利用する
高額医療費制度とは、1ヵ月で医療機関・薬局の窓口で支払った医療費が上限額を超えた場合、超過分を支給してもらえる制度です。ただし、以下の医療費は高額療養費制度の対象外なので、ご注意ください。
- 保険外診療の医療費
- 入院中の食費
- 患者の希望によるサービスの差額ベッド代
- 先進医療にかかる費用
歯列矯正が高額療養費制度に該当するには保険適用治療であることが求められ、1ヵ月当たりの上限額は所得や年齢によって異なります。
デンタルローンを利用する
金融機関が販売している歯科治療費限定のローンが、デンタルローンです。金融機関が医療機関に治療費を立て替えで支払い、借主が分割で元本と利息を金融機関に返済する仕組みとなっています。
デンタルローンを組んだからといって、治療費は安くなりません。ただ、1回当たりの支払い負担が軽くなるため、利用を検討するのもひとつの手でしょう。
おわりに
歯列矯正は基本的に保険適用外の治療です。保険適用となるケースは限られているため、多くの方は自費での治療となるでしょう。歯列矯正で後悔しないように、医療機関や治療方法は慎重に選んでください。
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