住宅の購入や増改築の際、税制上の控除が受けられる「住宅ローン控除」という制度があります。一定の要件を満たせば、所得税から控除されるのです。場合によっては住民税が安くなるケースもあります。この記事では住宅ローン控除が適用される要件や、実際に控除される金額、申請方法を解説していますので、住宅の購入等を検討している方はぜひ参考にしてください。
この記事でわかること
住宅ローンを利用して住宅の購入や増改築をした際、所得税が控除される住宅ローン控除。一定の要件を満たせば、年末時点の住宅ローン残高の0.7%が所得税から控除されます。所得税から差引しても差額が残る場合は翌年の住民税から控除。初年度の申請には確定申告が必要ですが、翌年度からは会社員であれば年末調整で手続き可能です。住宅ローン控除は2022年の税制改正で、控除率が1%から0.7%に引き下げられ、借入限度額も変更となり縮小傾向にあります。改正により環境に配慮した住宅は控除の上限額や借入限度額が高く設定されているため、これから住宅購入を検討する際は新築で環境性能の要件を満たした住宅がおすすめです。
住宅ローン控除とは?適用条件をチェック
住宅ローン控除は、正式名称を「住宅借入金等特別控除」といい、住宅ローン減税と呼ばれることもあります。まずは住宅ローン控除の概要や要件について、確認しておきましょう。
住宅ローン控除の概要
個人が住宅ローンを利用して住宅の新築や購入、増改築等をした際に、税制上の控除「住宅借入金等特別控除(住宅ローン控除)」が受けられます。
控除が適用されると、居住開始後の年末借入残高の0.7%分が所得税から減税されます。所得税から差引できなかった残額は、住民税から減税されます。住宅ローン控除の適用を受けるには一定の要件があり、さらに取得した住宅の種類によって借入限度額や控除期間が異なるため注意が必要です。
2023年までに居住した場合、住宅の新築は13年間、中古住宅の購入や増改築の場合は10年間控除を受けられます。控除率は、全期間通じて一律0.7%です。合計所得金額が2,000万円以下で、床面積が50平方メートル以上の住宅の場合に適用されます。
この制度は住宅ローンを利用した方が対象のため、住宅ローンを利用していない場合は対象外です。住宅ローンを利用していない住宅の取得には、一定の要件を満たすことで「住宅耐震改修特別控除」や「住宅特定改修特別税額控除」、「認定住宅等新築等特別税額控除」などの適用が受けられます。
住宅ローン控除が受けられる要件とは
住宅ローン控除を受けるには、一定の要件を満たす必要があります。要件の詳細は国税庁のWEBサイトに掲載されていますが、住宅の取得や増改築に共通する主な要件を表にまとめましたので参考にしてください。ただし、特例認定住宅等は一部要件が異なるため別途解説します。
主な適用要件 | |
1 | 住宅の新築、中古住宅の取得、住宅の増改築等の日から6ヵ月以内に居住している |
2 | 住宅ローンの返済期間が10年以上である |
3 | 2軒以上の住宅を所有している場合は主として居住している住宅である |
4 | 居住や増改築等をした年とその前後2年間に譲渡所得の課税の特例の適用を受けていない |
5 | 特別控除を受ける年の合計所得金額が2,000万円以下 |
6 | 住宅の床面積が50平方メートル以上かつ、居住面積が床面積の2分の1以上 |
その他、取得した住宅の種類や増改築などにより適用要件が異なるので、確認しておきましょう。
新築住宅の場合
新築住宅の場合、上記の表以外に以下の要件があります。
- 住宅の取得は、取得時及び取得後も引き続き生計を一にする親族や特別な関係のある方からの取得ではないこと
- 贈与による住宅の取得でないこと
特例認定住宅等ではない一般の新築住宅の場合、居住年が2023年までであれば借入限度額3,000万円で13年間住宅ローン控除を受けられます。
中古住宅の場合
中古住宅の場合、上記の表以外に以下の要件があります。
- 住宅の取得は、取得時及び取得後も引き続き生計を一にする親族や特別な関係のある方からの取得ではないこと
- 贈与による住宅の取得でないこと
- 1982年1月1日以降に建築された住宅であり現行の耐震基準に適合していること(※)
※1982年1月1日以前に建築された住宅の場合は耐震住宅である証明が必要
特例認定住宅等ではない一般の中古住宅の場合、借入限度額2,000万円で10年間住宅ローン控除を受けられます。
リフォーム、増築の場合
リフォームや増築の場合、上記の表以外に以下の要件があります。
- ご自身が所有し居住している住宅の増改築等であること
- 増改築等にかかる費用が100万円を超えており、2分の1以上が居住部分の工事費用であること
住宅ローン控除が適用になる増改築等の工事とは、以下のいずれかに該当する工事です。
適用要件 | |
1 | 増築、改築、建築基準法に規定する大規模の修繕または大規模の模様替えの工事 |
2 | マンションの専有部分の床、階段または壁の過半について行う一定の修繕・模様替えの工事 |
3 | 家屋・マンションの専有部分のうちリビング、キッチン、浴室、トイレ、洗面所、納戸、玄関または廊下の一室の床または壁の全部について行う修繕・模様替えの工事 |
4 | 現行の耐震基準に適合させるための一定の修繕・模様替えの工事 |
5 | 一定のバリアフリー改修工事 |
6 | 一定の省エネ改修工事 |
参照元:増改築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)|国税庁
要件を満たした増改築工事の場合、借入限度額2,000万円で10年間住宅ローン控除を受けられます。
その他
住宅ローン控除は、環境に配慮した住宅には一般の住宅よりも借入限度額が高く設定されるなど、優遇措置が取られています。また、特例居住用家屋または特例認定住宅等の場合、住宅ローン控除を受けられる適用要件についても、合計所得金額が1,000万円以下で住宅の床面積が40平方メートル以上50平方メートル未満となっています。
優遇措置が取られている住宅は、以下のとおりです。
- 長期優良住宅
- 認定低炭素住宅
- ZEH水準省エネ住宅
- 省エネ基準適合住宅
居住年が2023年で新築の借入限度額は、長期優良住宅と認定低炭素住宅は5,000万円、ZEH水準省エネ住宅は4,500万円、省エネ基準適合住宅は4,000万円に設定されています。
居住年が2024年から2025年の場合は、長期優良住宅と認定低炭素住宅は4,500万円、ZEH水準省エネ住宅は3,500万円、省エネ基準適合住宅は3,000万円です。中古住宅の借入限度額は、一律3,000万円に設定されています。
住民税も安くなる!?住宅ローン控除で知っておきたいポイントと注意点
住宅ローン控除が適用された場合、住民税が安くなることもあります。控除についてポイントや注意する点をまとめました。
控除額には上限がある!
住宅ローンの控除額は、年末時点のローン残高の0.7%ですが、控除には限度額が設定されています。ローン残高の0.7%が控除の上限を超える場合は、限度額までしか控除を受けられません。控除の限度額は、取得した住宅の区分により異なります。
新築住宅の控除限度額
参照元:住宅の新築等をし、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)|国税庁
中古住宅の控除限度額
参照元:中古住宅を取得し、令和4年以降に居住の用に供した場合(住宅借入金等特別控除)|国税庁
例えば一般の新築住宅の住宅ローン控除で、年末時点の残高が3,000万円の場合は、3,000万円の0.7%が控除額となり、限度額の210,000円が所得税から控除されるということです。控除額が所得税よりも高い金額になった場合は、所得税全額が控除の対象になります。
所得税より控除額が大きいと住民税も控除対象になる
年末時点のローン残高から住宅ローン控除の金額を算出すると、所得税額を上回るケースがあります。その場合、上回った差額分の控除が受けられない訳ではありません。所得税から住宅ローンを控除した残額は、住民税からも控除を受けられるのです。
翌年の6月から収める住民税から、住宅ローン控除の差額分が減額されますが、住民税から減額される控除にも上限があります。限度額は課税総所得金額等の5%で、上限は97,500円です。
ただし、住宅ローン控除額が所得税と住民税を合わせた額よりも大きかったとしても、差額が戻ってくることはありません。あくまでも収めるべき税金から控除されるものであり、計算上の控除額より実際に控除される金額が低いケースもあります。
控除対象外となるケースもある
住宅ローン控除を受けるには、先述のとおり一定の要件を満たす必要があります。その他にも、以下のようなケースでは住宅ローン控除の対象外となるため注意が必要です。
- 勤務先から無利子または低金利(0.2%未満)で購入
- 住宅用の土地を2年以上前に取得
- 建築条件付き土地で取得から3ヵ月以上経過
また、特にリフォームや増築等は住宅ローン控除の要件に該当するかどうか、判断が難しいケースが多いようです。住宅ローン控除を利用したい場合は、事前に専門家に相談することをおすすめします。
住宅ローン控除の計算方法
住宅ローン控除の計算方法は、以下のとおりです。
年末時点の住宅ローン残高×0.7%=住宅ローン控除額(100円未満の端数切り捨て)
例)年末時点の住宅ローン残高が2,500万円の一般新築住宅の場合
2,500万円×0.7%=175,000円
175,000円を住宅ローン控除として所得税から控除し、控除しきれない場合は翌年の住民税から控除します。
住宅ローン控除の申請方法
ここからは、住宅ローン控除を受けるための具体的な手続き方法について解説します。
翌年の確定申告時に税務署に申請する
住宅ローン控除の適用を初めて受ける年は、確定申告が必要です。確定申告とは、1月1日から12月31日までの1年分の所得や税金について、住まいの管轄の税務署に申告することです。通常、翌年の2月16日から3月15日までの間に申告しますが、住宅ローン控除を受けるためだけの確定申告であれば、翌年1月1日以降2月16日までの間に申告してかまいません。
会社員の方は、通常勤務先の年末調整で税額を確定しているため確定申告をしないことが多いですが、住宅ローン控除を初めて受ける際は確定申告が必要です。
確定申告時に必要な書類をチェック
住宅ローン控除を受けるための確定申告には、以下の書類が必要です。
- 確定申告書
- (特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書
- 住宅ローンの借入残高証明書
- 勤務先の源泉徴収票(会社員の場合)
- 土地建物の登記簿謄本
- 建築請負契約書または売買契約書のコピー(2023年以降入居の方は提出不要)
- マイナンバーカード(本人確認書類)
- 住宅性能を示す書類(あれば)
住宅ローンの借入残高証明書は、住宅ローンを利用している金融機関から郵送されます。書類一式が揃えば、税務署へ持参または郵送で手続きできます。また、インターネットでの申告も可能です。
2年目以降は年末調整時に書類を提出する
住宅ローン控除を受ける初年度は確定申告が必要ですが、会社員の場合、翌年度からは勤務先の年末調整で手続き可能です。年末調整の際、必要書類を勤務先に提出しましょう。
ただし、自営業の方の場合は会社員のように年末調整がありませんので、初年度と同様に確定申告での手続きが必要です。
2022年の税制改正のポイントをチェック
住宅ローン控除は、2022年税制改正によりいくつかの点が変更になりました。ここからは、主な変更点について解説します。
借入限度額が引き下げに
今回の税制改正では、借入限度額が引き下げになっています。従来の制度では、一般の新築住宅でも4,000万円が借入限度額でしたが、改正後は住宅の環境性能による区分で限度額が細かく設定されました。特例認定住宅等に該当しない一般の新築住宅の場合、借入限度額が低く設定されているため、実際の住宅ローンよりも低い金額を基準に控除額が算出されることになります。
住宅ローン控除でより多くの控除を受けたい場合は、環境性能の基準を満たした住宅を検討してみるのも良いでしょう。ただし、一定の要件を満たす必要があるため、事前にハウスメーカーや工務店に希望を伝えて打ち合わせをしておく必要があります。
控除期間が10年から13年へ
中古住宅の控除期間は10年のままですが、新築住宅の控除期間が従来の10年から13年に延長されました。全体的に縮小傾向にあった今回の税制改正の中では、緩和された部分といえるでしょう。
控除率・所得要件の変更
税制改正により、住宅ローン控除の金額が大きく下がりました。その要因は、控除率の引き下げです。従来は1%だった控除率が、改正後は0.7%に引き下げられています。その差は0.3%ですが、住宅ローン残高の0.3%で計算すると、かなり大きな金額になるのではないでしょうか。
これまで低金利で住宅ローンを借りた場合、住宅ローンの金利よりも住宅ローン控除の控除率のほうが上回ってしまい、控除を受けることで利益が生じることが問題視されていました。そのため、今回の税制改正で控除率の引き下げが行われたものと思われます。
また、所得要件についても3,000万円から2,000万円に引き下げられています。
2023年以降は「住宅借入金等の年末残高証明書」が不要に
今回の税制改正では、住宅ローン控除のための確定申告や年末調整の際の書類が一部簡素化されることとなりました。2023年1月1日以降、住宅ローン控除の適用を受ける場合には「住宅借入金等の年末残高証明書」の添付が不要となる見込みです。
住宅ローン控除をうまく活用するには?
住宅ローン控除は税制改正により縮小傾向にありますが、いくつかのポイントを押さえて上手く活用できます。
中古よりも新築が◎
住宅ローン控除を活用するには、中古住宅よりも新築住宅がおすすめです。先述のとおり、住宅ローン控除には借入限度額や控除限度額が設定されており、中古住宅に比べて新築住宅は受けられる控除の金額が高いからです。
例えば認定長期優良住宅の場合、新築住宅であれば最大350,000円の控除が受けられますが、同じ認定長期優良住宅でも中古住宅になると最大控除額は210,000円になります。また、控除を受けられる期間も新築だと13年ですが、中古住宅は10年と短くなるため、住宅ローン控除を最大限に利用したいなら新築住宅を検討してみてはいかがでしょうか。
ペアローンや連帯債務を活用する
ペアローンは、夫婦それぞれが住宅ローンを組む方法です。住宅ローン控除は住宅ローンを利用している方が対象となるため、夫婦二人ともが住宅ローン控除の適用を受けられます。
また、1つの住宅ローンを連帯債務で利用するのも、ペアローンと同様に夫婦1人ずつが住宅ローン控除の対象となるので有効な方法です。
借入限度額や控除の上限が2倍になるため、1人の住宅ローンでは限度額の上限に達して適用にならなかった部分も控除の対象となることがあります。しかし、どちらかが亡くなっても住宅ローンが残ったり、収入が減って当初の見積もりどおり控除が受けられなかったりする可能性があるため、慎重に検討する必要があるでしょう。
住宅ローンで困ったら「住宅ローンの相談窓口」へ
住宅ローン控除の制度は、要件が細かいため理解することは大変です。また、住宅ローンに関してもライフステージの変化等で、変更を余儀なくされることもあるのではないでしょうか。そのようなときは、早めに専門家に相談することをおすすめします。
クレディセゾングループが提携するiYell(イエール)グループは、住宅ローンの相談窓口を展開しています。国内100社以上の金融機関と提携しており、希望に合ったローン商品の紹介などをしてもらうことができるので、まずは無料相談へ申し込みをしてみてはいかがでしょうか。
おわりに
人生の中で高額な買い物のひとつである住宅。経済的な負担を軽減するための住宅ローン控除ですが、2022年の税制改正により縮小傾向にあります。また、新築物件に関しては細かい区分によって控除額に差が生じることとなりました。住宅ローン控除の適用を考えている方は、概要や要件を正しく理解して最大限に恩恵を受けられるようにしておきましょう。