更新日
公開日

金融機関の判断が真っ二つに…「全額ローンでマイホーム」のメリット・デメリット【FPが解説】

加藤 勇(FP Office株式会社 ファイナンシャルプランナー)

執筆者

FP Office株式会社 ファイナンシャルプランナー

加藤 勇

愛知県内の信用金庫に20年以上勤務し、多数の店舗で個人・法人の資金計画等のコンサルティング業務に従事。顧客の夢や課題・悩みを共有し解決に導いてきた。自身の家族が増えたことをきっかけに、ライフプランニングの必要性と顧客に長期的に寄り添う重要性を認識し、FPへと転身。個人の資産運用・保険・住宅ローン、法人の融資や事業計画策定といった幅広い実務経験を活かし、顧客に寄り添う丁寧なコンサルティング業務が顧客から支持されている。

36歳のAさんは、妻と子ども1人の3人暮らしです。運良く子どもを保育園へ入れることができ、そろそろマンションの購入を検討しています。年収は550万円、妻はこれからパートを始めるといったところですが、仮に「5,000万円」のマンションを購入しようとした場合、融資を受けることはできるのか……金融機関X・Yの2ヵ所に尋ねたところ、両社の回答は真っ二つに分かれました。いったいなぜでしょうか。

1.年収550万円のAさん…融資は受けられる?

巷には、「月々○○円からマンションが手に入る」「いまの家賃でマンションに住める」などといったキーワードを用いた不動産チラシが溢れている。こうしたなか、Aさん一家もマンション購入に意欲的だ。

36歳会社員のAさん。副業収入を含め年収は550万円で、妻と子供1人の3人で暮らしている。運良く子どもを保育園へ入園させることができ、妻はこれからパートを始める予定。夫妻の貯蓄額は500万円で、今般5,000万円のマンション購入を検討中である。

Aさんはマンション購入にあたり「そもそも融資を受けられるのかどうか」が気になり、銀行や信用金庫を回り始めた。

1-1.「融資は可能」と回答した金融機関X

A.変動金利0.5%(毎月129,792円均等返済)にて35年返済、頭金無し5,000万円満額回答。

<融資担当者および審査官の判断基準>

・返済比率は実行予定利率0.5%で毎月129,792円の返済×12ヵ月÷年収550万円×100=28.3%と妥当。さらに、妻のパート収入も視野に入れれば「世帯での」返済比率も良くなると思われる。

・36歳時点で35年返済であれば完済時71歳と、申込基準をクリアしている。また60歳時の想定残高(0.5%にて返済)は1,654万円、もしくは65歳時の想定残高(同条件)も907万円と、退職金で一括繰り上げ完済も可能と判断。

・担保評価額も5,000万円のマンションであればおおむね懸念なし。

・貯蓄額も500万円あることから、返済資金が枯渇することもないと思慮。

Aさん一家もマンション購入に意欲的であり、また金融機関Xも融資量増加を目指していたため、「融資は可能」との回答に至る。

1-2.一方、「融資できない」と回答した金融機関Y

A.審査謝絶扱い(住宅ローン不通過)。

<融資担当者および審査官の判断基準>

・返済比率は審査金利2%にて算出。5,000万円全額借入となれば、毎月165,631円の返済×12ヵ月÷年収550万円×100=36.1%と審査基準40%はクリアしているものの、分母である年収自体の働き方が明瞭ではない(夜勤や残業も含まれている可能性もあり)。

・また、副業も年収に含まれており、本業だけでの「源泉徴収票での年収」は500万円程度であったことから、返済比率は上記計算式にて39.7%と大幅悪化。妻のパート収入は働き始めるところであったため一切評価せず。

・36歳時点で35年返済計画(71歳完済)は妥当と思慮(ここは金融機関Xと同じ判断)、加えて昨今の働き方を鑑みれば、65歳以降も働く可能性も高く、高評価ポイントとなる。

・担保評価は物件購入価格5,000万円ではなく、5,000万円×80%=4,000万円、さらに担保処分価格(回収確実と見込まれる厳しめの評価)として4,000万円×80%=3,200万円と勘案すれば、減価償却を加味しなくとも返済開始14年目で到達(その間、実質担保割れ)。

・貯蓄額500万円については、マンション購入時の引っ越し代や家財購入費等に消費されるため、頭金としては見込めない。

Aさん一家は現状3人家族だが、仮に第2子誕生となればライフプランニングも大きく変わることが予想され、教育費や生活費が上昇する可能性も考慮すべきポイントである。

金融機関Yとしては融資残高を増加させるよりも、債権保全を優先したようだ。

2.「全額ローン」で家を買うメリット・デメリット

「全額ローン」で家を買うメリットとしては、

  1. 手元に資金を残しておくことで、急な出費や近い将来必要となる資金にも対応でき、家計を柔軟にやりくりしやすくなる。
  2. 頭金が貯まるまで購入を先延ばしにすることなく、希望の住宅が見つかった際に、速やかに購入できる。
  3. 住宅ローン控除を最大限活用しやすい。

といった点が挙げられる。

一方、「全額ローン」で家を買うデメリットとしては、

  1. 金融機関やローン商品によっては、物件価格に対する頭金の割合によって借入金利が変わる(高くなる)ことがある
  2. 毎月の返済額が増えるため、収入が減少したり支出が多く発生したりした場合、あるいは借入金利が上昇した場合など、返済ができなくなる可能性が高くなる。
  3. 返済期間中の住宅価格の下落などが原因で、住宅ローンの残債が住宅の時価額を超えた状態(担保割れ)になる可能性が高くなる。担保割れの状態では、住み替えなどの理由で住宅を売却することになった際に、売却代金で住宅ローンを完済できず、差額を手持ち資金でまかなうことになる。
  4. 金融機関における審査が厳しくなる可能性がある。

といった点が挙げられる。

3.Aさんが余裕を持って返済可能な借入額はいくら?

一般論としては、Aさん一家は借入年収倍率として、年収550万円の5~7倍(2,750万円~3,850万円)が借入妥当額である。かつ、物件の頭金2割は準備しておきたいところだ。

5,000万円のマンション購入を目論むのであれば、本業での安定年収が約800万円あれば、返済比率は

金融機関X:実行予定金利0.5%にて毎月129,792円の返済×12ヵ月÷800万円×100=19.4%

金融機関Y:審査金利2%にて毎月165,631円の返済×12ヵ月÷800万円×100=24.8%

と、双方ともに懸念なきレベルとなる。

また、頭金として拠出するまではいかなくとも貯蓄額が1,000万円(物件5,000万円の2割)あれば、今後のライフプランの変化に柔軟に対応でき、かつ金融機関Yの担保処分価格3,200万円に1,000万円上振れすれば返済開始約6年で到達することになり(6年経過までは実質担保割れ)、見た目も改善される。

現状のAさん一家が住宅ローンを組むのであれば、借入年収倍率からの借り入れ妥当額から鑑みて3,800万円の物件(諸費用込)であれば、返済比率は、下記のとおり頭金の有無を問わず、問題なく返済できると思われる。

変動金利0.5%・35年返済利用の場合

・頭金200万円投入(借入3,600万円):返済比率:毎月93,450円×12ヵ月÷550万円=20.4%

・頭金なし(借入3,800万円・全額ローン):返済比率:毎月98,642円×12ヵ月÷550万円=21.5%

4.「ライフプランニング」で可視化を

今回のようなケースでは、まずは将来設計「ライフプランニング」を作成してみると良いだろう。「ライフプランニング」とは未来の家計簿のようなもので、今後想定される収入・支出・貯蓄額を見える化・数値化することができる。

マンション購入によって、教育費や老後資金に懸念は出ないのか、住宅ローン自体はきちんと返済できるのかをライフプランニングによって判断すべきだ。作成にあたっては、信頼できるファイナンシャルプランナーに相談することをおすすめする。

Aさんがマンションを購入するにあたり、「借りられる金額」と「返済できる金額」は異なる。金融機関X・Yともに正当なジャッジを下しているとはいえ、実行に移すのはAさん自身だ。非常に悩ましい案件であり、少しでも不安を感じるようであれば、ライフプランニング表を客観視して見ると良いだろう。

「信金の神様」と称された小原鐵五郎氏の言葉に「貸すも親切、貸さぬも親切」がある。金融機関X・Yともに与信判断としては間違いではない(むしろ正解はない)。本件事案では、Aさん一家が「真に望む人生」をよく考察すべきである。本当に「いま、そのマンションを購入すべきか」どうかを。

【参考】

返済比率:年収に占めるローンの年間返済額の割合、「高くても40%以下」が一般的目安。

担保評価額:市場価値概念とは異なり、客観的・合理的な評価方法で算出した評価額。

借入年収倍率:住宅ローンが年収の何倍か、業種によっても目安は異なる。

よく読まれている記事

みんなに記事をシェアする