相続土地国庫帰属法とは
相続土地国庫帰属法とは、相続した使わない土地を一定の条件で国に返すことができる制度(以下「相続土地国庫帰属制度」といいます。)を定めた法律です。
これまで、相続した不要な土地があっても、その土地を放棄したり、自治体に寄付することは法的に難しいといわれていました。
2023年4月27日からは、相続土地国庫帰属制度を利用することで相続した不要な土地を国に返すことができます。
相続放棄との違い
これまで、不要な不動産を相続したくない場合、相続放棄という制度が用いられてきました。
もっとも、相続放棄を行うと、価値のある資産(預貯金等)を含め全ての遺産を相続することができなくなります。
そのため、相続放棄だと、いらない土地だけを放棄するということができません。
また、相続放棄は、自分が相続人になったことを知ってから3ヵ月以内(通常は故人が亡くなってから3ヵ月以内)に行う必要があります。
他方で、相続土地国庫帰属制度では、遺産の中でいらない土地だけを、一定の条件下で、国に返すことができます。
つまり、相続土地国庫帰属制度では、選り好みができるということです。
また、相続土地国庫帰属制度には、相続放棄のような期限はありません。相続から何十年も経っていても利用することができます。
ただし、相続土地国庫帰属制度には、国が定めた引取の条件をクリアする必要があります。
言い換えれば、国が無条件に土地を引き取ってくれるわけではないということです。
利用条件は、主にヒト、モノ、カネの3つの観点から、①申請資格、②土地の要件、③お金の要件が定められています。
相続土地国庫帰属制度の利用条件その1 ~申請資格~
相続土地国庫帰属制度を利用できるのは、相続や遺言で土地や受け取った相続人です。
相続人になるのは、配偶者や子どもが多いですが、子どもがいない場合や子どもが相続放棄されている場合は、親や兄弟姉妹(さらには兄弟姉妹の子)が相続人になることになります。
ただし、相続人であっても相続以外の理由で土地を取得している場合は申請資格が認められません。
例えば、親(被相続人)から子ども(相続人)が生前贈与で土地を取得した場合には、相続土地国庫帰属制度の申請はできませんので、注意が必要です。
なお、相続人が複数いる場合、共同所有という状態になりますが、この場合は、共同所有者全員で申請をする必要があります。
国庫帰属が認められる条件その2 ~土地の要件~
相続土地国庫帰属法では、管理や処分に多大な費用や労力を要する土地は引取りの対象外とされています。
具体的には、引取対象外の土地がブラックリスト形式で定められていて、このブラックリストに該当すれば、国による引取りは認められないということになります。
ブラックリストの内容ですが、まず、(a)一定の事由があれば直ちに却下される土地と(b)ケースバイケースで国庫帰属の是非が判断される土地がそれぞれ5つずつ定められています。
具体的には、次のとおりです。
(a)一定の事由があれば直ちに却下される土地
①建物がある土地
②借地や担保になっている土地
③通路等の近隣住民が利用する土地等
④土壌汚染がある土地
⑤境界不明確地や所有権の帰属等に争いがある土地
(b)ケースバイケースで国庫帰属の是非が判断される土地
①崖地
②車両・樹木等の残置物がある土地
③地下埋設物等がある土地
④袋地等の隣人等との争訟が必要な土地
⑤その他政令で定める土地
なお、⑤の具体的な内容としては、次のものがあります。
ア 災害の恐れがあり、防災措置が必要な土地(軽微なものを除く。)
イ 鳥獣や病害虫等により農産物等に被害が生じる恐れがある土地(軽微なものを除く。)
ウ 適切な森林管理を国で行う必要がある森林(軽微なものを除く。)
エ 賦課金等の支払が必要になる土地改良区内の農地
相続土地国庫帰属制度の利用条件その3 ~必要なお金~
相続土地国庫帰属制度を利用する際は、国に手数料を支払う必要があります。
まず、申請の際に審査手数料を納める必要があります。審査手数料については、土地1筆当たり14,000円となります。
次に、国の審査に合格した際に、10年分の標準的な管理費相当額を『負担金』という形で納付する必要があります。
この負担金は、原則20万円とされています。
ただし、①宅地、②農地、③山林については、面積に応じて負担金が増額される場合があります。
例えば、
住宅地の宅地の場合…200㎡で793,000円
優良農地等の場合…200㎡で450,000円
山林の場合…200㎡で221,800円
となります。
相続土地国庫帰属制度の利用方法(手続)
相続土地国庫帰属制度の利用は、次の流れで進みます。
相続人による申請
まず、利用を希望する相続人は、法務局に、国庫帰属の申請を行う必要があります。
申請の際は、申請書の提出に加え、主に以下の資料を提出する必要があります。
①申請者の印鑑証明書
②公図(法務局で取得可)
③現地写真
④お隣との境界がわかる写真
⑤国への名義変更に関する承諾書
法務局の審査
申請が受理されると、まず、法務局で書面審査が行われます。
例えば、審査の中で、①申請資格や②審査手数料の納付等が認められないと、その時点で申請が却下されることになります。
また、国が引き取らない土地のブラックリストに該当する場合も申請が認められないことになります。
そのうえで、申請があると、法務局から、隣接地の名義人に、通知書が発送されます。
この通知書には現地の写真等が添付されますが、もし、隣接地の名義人から境界の場所が違う等のクレームが来ると、申請が却下される可能性があります。
現地調査等
なお、ブラックリストに当てはまるかどうかは、現地を調査しないとわからない場合も少なくありません。
そこで、相続土地国庫帰属制度では、法務局の職員による現地調査が予定されています。
その際、申請書類が十分でないと、「申請者も立ち会ってくれ」といわれることがあります。
申請者がこれを理由なく拒否すると、申請が却下されますので注意してください。
審査結果の通知
国が発表した情報によると、国の審査には約半年から1年近くかかるとされています。
この審査が完了すると、審査結果が申請者に通知されます。
審査に合格している場合は、国に納める負担金の額も併せて通知されることになります。
負担金の納付
審査に合格した場合、負担金の額の通知を受けた日から30日以内に、負担金を納付する必要があります。
申請者が負担金を期限内に納付すると、その納付の時に土地は、国庫に引き継がれます。
依頼できる専門家
相続国庫帰属制度における承認申請手続は、申請者本人が行う必要があり、申請書には申請者本人の記名、押印が必要となります。
もっとも、実際は専門知識なしに不備なく申請することはかなり難しいといえます。
そこで、申請者が申請書や添付書類を作成することが難しい場合、申請書等の作成を代行してもらうことができます。
その場合、業務として申請書等の作成の代行をすることができるのは、専門の資格者である弁護士、司法書士及び行政書士に限られます。
なお、申請を検討している土地の所在や境界に不明瞭な点がある場合など、申請に先立って、土地の筆界に関する専門的知見を有する土地家屋調査士という専門家に相談することができます。
特に、土地の場所がわからない、境界が不明確等の事情がある山などの場合は、土地家屋調査士に相談する必要が出てくるケースもあるでしょう。
また、申請者は、申請の後に、法務局担当官による実地調査における現地確認への協力を求められる場合がありますが、申請者が任意に選んだ第三者にその対応を依頼することが可能です。