不動産投資の物件購入をする際、契約条件の交渉によっては購入価格に差が出て、最終的な収益に大きな影響を及ぼすことが考えられます。このコラムでは不動産投資物件における契約条件と交渉方法に焦点を当てて、解説をしていきます。
契約条件の交渉について
どんな交渉事においてもいえることですが、ご自身の要望をまとめておくことが重要です。比較検討の上、購入の意思が固まったら書面で購入の申し込み(買い付け)を行います。値引きの交渉や契約条件の確認は、この時に行います。
価格交渉をする際のポイント
一般的に価格交渉の成功(相場よりも安く買えること)は、不動産投資における利回りの向上を意味します。少しでも希望購入価格に近づけることができるように交渉する必要があります。価格交渉を成功させるポイントは、下記の2点となります。
初回交渉時は金額を探ってみる
例えば、あなたが売出し価格4,200万円の物件を4,000万円で購入したいと思っている場合、「4,000万円にしてくれませんか」と交渉するのではなく、最初は「3,800万円にしてくれませんか」と低めの希望金額を伝え、金額感を探ってみましょう。なぜなら購入する投資家はあなただけとは限りません。売主はあなたと逆に「なるべく高く買ってくれる投資家」と交渉したいと思っているので、相場感をつかむ必要があります。
価格交渉に対する売主からの回答は、常にYESかNOのいずれかになるわけではなく、「売出し価格とこちらの提示した購買価格の中間の金額でどうですか」という回答がなされることが多いです。最初から正直に本音を明らかにしてしまうと、希望価格まで値下げして購入することが難しくなりますので注意が必要です。相手(不動産会社の営業マン)も仕事なので、より高値で売りたい気持ちがあります。
交渉は駆け引きでもありますがコミュニケーションでもあるので、お互いが不快な思いをしないように要望を的確に伝え、相手の意も汲み取り、落としどころを探る粘り強い交渉が必要です。
修繕点などがあれば交渉する
価格交渉を行う際には、修繕する必要がある部分などを具体的に挙げる交渉しましょう。例えば、「外壁のクラックを修繕する工事が必要のようなので、その費用分の値引きをお願いしたい」などです。
引渡し時期を早くする
物件の引渡し時期が早ければ早いほど、賃料を受け取る時期が早くなり、買主にとっては有利に働きます。売主に相談して、無理のない範囲で可能な限り引渡し時期が早くなるように交渉してみてください。売主の都合で引渡し時期が少し先になる場合は、値引き交渉の材料になります。
重要事項説明について
不動産の商品説明
売主に対して購入申し込みを行い、承諾を得ることができる段階まできたら、売買契約を締結する前段階として重要事項説明を受けることになります。重要事項説明とは、売買契約の対象不動産の商品説明のことです。
不動産は物件の外観、内観だけでは分からない事情がいろいろとあります。そうした事情を事前に買主にしっかり説明をして、「売買契約を締結していいかどうかを検討するための判断材料にしてもらう」というのが、この重要事項説明の趣旨になります。重要事項説明は書面を交付して行われます。実際どのような書面となるかはインターネット上に参考になるものもありますので、事前に確認してみると良いでしょう。
重要事項説明において大事なこと
重要事項説明でもっとも大事なのは、もし分からないことがあれば、理解できるまで質問して説明してもらうことです。重要事項説明の場面では、買主が同席している売主や売主側の不動産会社に気を使って、説明内容が理解できていないのに、理解しているふりをしてしまい売買契約の段階に進んでしまうことがあります。これは非常に危険なので必ず理解できるまで何度でも聞いてください。何千万円もするような投資商品の内容をよく理解しないまま購入に至るのは、投資ではなくギャンブルになってしまう可能性があります。
例えば建物の再建築不可物件を再建築できると誤信したまま購入してしまい、当初の投資計画が狂ってしまったケースがあります。慎重に内容を確認し、しっかりと理解してから契約を進めましょう。
何かおかしいと少しでも感じたら一旦契約を見送ること
重要事項説明を受けていて、事前の説明と異なる事実が出てきたら、契約の段階に進まないことが重要です。売主や不動産会社に気を使う必要はありません。その場の空気に流されて、納得できないまま契約してしまうと、後日トラブルのもとになります。
重要事項説明のチェック項目➀
ここまで重要事項説明の重要性について説明しましたが、具体的にどのようなポイントに気を付けてチェックする必要があるのか見ていきましょう。
建物の再建築ができないケース
重要事項説明において特にチェックすべきポイントをご紹介します。まずは接道状況についてです。都市計画区域および準都市計画区域内の建築物の敷地は、「原則として建築基準法上の幅員4m以上(一部地域では6m以上)の道路に2m以上接していなければならない」とされています(建築基準法名条「接道義務」)。この接道義務を満たしていないと、その敷地に建物を再建築することはできないので注意が必要です。
また接道状況の確認をするうえで重要になるのが、その敷地に接している道路種別の判定です。見た目にはアスファルト敷きの立派な道路でも、建築基準法上の道路ではないということがあります。建築基準法上の道路でなければ、建物の再建築はできないので、建築基準法上の道路であることをしっかりと確認した方が良いでしょう。
これらの道路のうち、建築基準法第42条第2項の道路(以下、2項道路という)に該当する場合には注意が必要です。2項道路に該当する場合、道路の幅員を4m以上とするために、将来的に敷地を後退する(セットバックという)必要があるからです。
再建築不可物件購入時は充分な現金の用意が必要
前述のポイントは接道義務を満たしておらず、建物の再建築ができないような不動産を買ってはいけないということではありません。そういった不動産であっても、内容をしっかり認識したうえで、価値に見合った価格で購入するのであれば、特に問題はありません。保有期間中の利回りが非常に大きい物件であれば、決して購入を否定するものではありません。
しかし再建築できない不動産の購入については、金融機関の融資を利用することが難しい傾向があります。したがって再建築できない不動産を購入する場合は、一括で購入できる現金を用意する必要があります。
ここでは重要項目説明の中で重要な、「建ぺい率」と「容積率」について解説していきます。
重要事項説明のチェック項目②
建ぺい率
建ぺい率とは、建築物の敷地面積に対する建築面積の割合のことです。通常、建築面積は1階部分の面積になります。建ぺい率については下記のような緩和措置があります。
- 防火地域内にある耐火建築物、または準防火地域内にある耐火建築物、準耐火建築物については +10%(防火地域内でもともとの建ペい率が80%の場合には +20%)
- 街区の角にある敷地またはこれに準ずる敷地で特定行政庁が指定するものの内にある建築物については +10%
容積率とは
容積率は、建築物の敷地面積に対する延床面積の割合のことです。
建ぺい率と容積率について注意すべき点は、現存している建物の建ぺい率と容積率が法令で定める基準を超えていないかという点です。建築された当時は法令で定める基準に抵触していなかったものの、法改正により事後的に法令で定める基準に抵触することになった建物を既存不適格建築物と呼びます。
また建築された当時から法令で定める基準に抵触していた建物を、違法建築物と呼びます。既存不適格建築物、違法建築物のいずれに該当する場合も、金融機関からの融資を受けることが難しいです。たとえ現時点で現金購入できたとしても、将来あなたが売主となって売却できる方は、現金で一括購入できる方に限定されます。
売買契約の注意すべきポイント
ここまで重要事項説明のチェック事項について解説してきました。実際に重要事項説明の内容に納得し、購入の意思が固まったら正式に売買契約を締結します。売買契約書については重要事項説明書と違って、法律上宅地建物取引士による説明が義務づけられているわけではありませんが、通常は内容の読み合わせを行い相互に確認します。
売主側の不動産仲介会社が契約書の内容を読み上げてくれるので、不明な点があった場合は質問をして、しっかりと内容を理解したうえで契約を締結するようにしてください。下記に、一般的な売買契約書の内容をご紹介します。
手付解除
買主が売主に手付金を交付している場合、売主が契約の履行に着手するまでは、買主は交付している手付金を放棄することで売買契約を解除できます。売主が契約を解除したい場合は、手付金を返納し、かつ同額を買主に支払うことで売買契約を解除することができます。
引渡し前の滅失と損傷
売買契約の目的となる不動産が天災地変その他、売主または買主のいずれの責めにも帰すことのできない事由によって滅失したときは、買主は売買代金の支払いを拒むことができ、当該売買契約を解除することができます。
債務不履行による解除
売主または買主は、相手方が契約に定める債務を履行しない場合は、相当の期間を定めて催告をし、相当期間内に履行がされない場合には契約を解除することができます。
融資が承認されない場合の解除
買主が融資を利用して不動産を購入しようとする場合(「ローン解除権付売買契約」といいます)に、一定の期日までに金融機関からの融資の承認が得られない場合には、買主は売買契約を無条件解除することができます。
この場合は売主に交付済みの手付金は、そのまま買主に返還されることになります。なおこの解除権の行使による売買契約の解消(「ローン解除」といいます)を契約の内容としたい場合には、購入申込書を提出する時点で売主にその旨を伝えておかなければなりません。
契約内容不適合責任
引き渡された不動産に、重大な故障個所があるなど、契約の内容に適合しないときには、買主は売主にその修補を請求することができます。その不適合が売主の責めに帰すべき事由によるものである場合は、修補に代えて、または修補とともに損害賠償請求をすることができます。
おわりに
このコラムでは不動産投資物件の購入条件や交渉のポイントについて解説してきましたが、大事なことはその場の空気に流されて理解できていない契約書にはサインをしないことです。内容がしっかりと理解でき納得ができたうえで、契約書にサインをするようにしてください。交渉事に不慣れだと、専門用語がわからず不安になることがありますので、不明点などは売主や不動産仲介会社に遠慮せずにサインする前に必ず確認し、価値ある不動産投資につなげましょう。