相続放棄は相続を開始したことを知った日から3ヵ月以内に行わなければなりません。実際には必要書類をそろえ、家庭裁判所に申し立てを行うわけですが、必要書類を漏れなく揃えるためには、事前にどのような書類が必要なのかについて把握しておくことが大切です。
このコラムでは相続放棄を行う際に必要となる書類について解説するとともに、相続放棄の手続き方法についても紹介します。
この記事のまとめ
相続放棄には、相続開始を知った日から3ヵ月以内に手続きを行わなければならないという期限があるため、手際よく準備しなければ間に合わなくなるリスクがあります。相続放棄ができなくなる事態を避けるためには、あらかじめ必要書類にどのようなものがあるのか把握しておくことが大切です。
ただし、相続のケースごとに必要書類や取得方法が異なるため、注意しなければなりません。手続きが煩雑になる可能性もありますので、判断に迷った際には専門家に相談することをおすすめします。
相続放棄の必要書類一覧表
相続放棄とは、被相続人のプラスの財産そしてマイナスの財産を含む一切の財産を相続する権利を放棄し、相続人とならないことを指します。
相続放棄をするためには、家庭裁判所に対して申し立てを行う必要がありますが、申立書と合わせて被相続人との関係を証明する書類の提出が求められます。被相続人との関係を証明する書類は、亡くなった方と相続放棄を申し立てる方との関係によって異なります。
ケースごとにどのような書類を揃える必要があるのかについて、以下に表を作成しましたので参考にしてください。
必要書類 | 配偶者 | 子・孫 | 父母・祖父母 | 兄弟姉妹・甥姪 |
相続放棄申述書 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
被相続人の住民票除票 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
申立人の戸籍謄本 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
収入印紙(800円) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
返送用郵便切手(家庭裁判所に確認) | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
被相続人の死亡の記載がある戸籍謄本 | 〇 | 〇 | - | - |
被相続人の出生から死亡までの記載がある戸籍謄本 | - | - | 〇 | 〇 |
共通で必要となる書類は5種類ありますが、相続の順位が第一順位かそれ以外かで、被相続人の戸籍謄本の内容が異なります。第一順位(直系尊属)の場合は死亡の記載がある戸籍謄本で構いませんが、第二順位(直系尊属)および第三順位の場合は被相続人の出生から死亡までの記載がある戸籍謄本が必要になります。
また、代襲相続が発生している場合は、それがわかる戸籍謄本(本来の相続人である直系尊属の死亡が記載されているもの)が必要です。
それぞれの書類の内容についての詳細と取得方法について、次項で解説します。
相続放棄の手続きで必ず必要になる書類と取得方法
相続放棄を申し立てるに当たり必要となる書類は、全ての申立人が準備しなければならない書類と被相続人との関係により個別に準備する書類とに分けられます。
全ての申立人が用意しなければならない書類は下記のとおりです。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 相続放棄する人(申述人)の戸籍謄本
- 収入印紙
- 切手
これらの書類の内容について、さらに詳しく解説します。
相続放棄申述書
相続放棄申述書とは、被相続人と申述人の住所および指名、そして相続放棄する理由などといった必要な次項を記載する書類で、家庭裁判所にて入手もしくは以下のWEBサイトからダウンロードできます。
相続放棄申述書ダウンロード先:相続放棄申述書(PDF)
取得する際の費用はかかりません。また申述書に押印する印鑑は認印でよく、印鑑証明書は不要です。
被相続人の住民票除票または戸籍附票
住民票除票とは、転出や死亡によって住民票から除かれたことを証明する内容の住民票で、戸籍附票とはその戸籍が作られてから除籍するまでの住所が記載されたものです。
住民票除票は被相続人が亡くなった時に住民票を登録していた市区町村役場、戸籍附票は本籍地の市区町村役場で取得できます。
郵送でも取得可能ですが、申請に伴う手数料に応じた郵便局の定額小為替や返送用の封筒および切手を同封して送付する必要があります。
取得費用は、住民票除票と戸籍附票ともに1通300円です。
相続放棄する方(申述人)の戸籍謄本
戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)とは、戸籍に記載されている内容を証明する書類で、相続放棄を行う方の戸籍がある本籍地の市区町村役場で入手できます。今住んでいる場所と本籍地がある場所が離れている場合は、郵送で取得することもできます。
取得費用は1通につき450円です。
収入印紙
収入印紙は手数料や印紙税を支払うための手段として用いられるもので、相続放棄を行う際には、相続放棄申述書に収入印紙を貼付して手数料を納めます。
収入印紙はコンビニエンスストアでも売っていますので、必要な額分購入しましょう。ただし、高額な収入印紙は郵便局などでしか取り扱っていないケースがありますので注意してください。
相続放棄申述書に必要な収入印紙は、800円です。
切手
相続放棄申述書を提出し、相続放棄が受理されたら、家庭裁判所から申述人に対して相続放棄申述受理通知書が送られます。この通知書の送付費用として、事前に切手を準備する必要があります。
必要な金額は各家庭裁判所によって異なりますので、事前に確認して準備するようにしましょう。一般的には400円から500円程度の切手が必要ですが、念のため少し多めに準備しておくと安心です。
相続放棄のケースごとに必要になる書類と取得方法
被相続人と相続放棄する方(申述人)との関係によっては、上で紹介した必ず必要となる書類以外に、ケースに応じた書類を準備しなければなりません。
相続人によって異なる書類の内容を、以下のケースごとに次項で詳しく紹介します。
- 配偶者の財産を相続放棄する場合の必要書類
- 親の財産を相続放棄する場合の必要書類
- 祖父母の財産を相続放棄する場合の必要書類
- 子どもの財産を相続放棄する場合の必要書類
- 兄弟姉妹の財産を相続放棄する場合の必要書類
- 叔父・叔母の財産を相続放棄する場合の必要書類
- 甥姪の財産を相続放棄する場合の必要書類
配偶者の財産を相続放棄する場合の必要書類
配偶者の財産を相続放棄する場合、以下の書類が別途必要です。
- 被相続人(配偶者)の死亡の記載がある戸籍謄本
被相続人の死亡届が提出されると、戸籍に被相続人の死亡が記載されます。戸籍謄本は被相続人の本籍地の市区町村役場で取得できます。
ただし、配偶者であれば被相続人と同じ戸籍に載っているはずですので、申述人の戸籍謄本を取得すれば良いでしょう。
親の財産を相続放棄する場合の必要書類
親の財産を相続放棄する場合には、以下の書類が別途必要です。
- 被相続人(親)の死亡の記載がある戸籍謄本
また、代襲相続が発生しており、申述人が孫の場合は孫からみた親(被代襲者)の死亡の記載がある戸籍謄本も合わせて準備しなければなりません。
ただし、申述人が結婚しておらず親の戸籍に載っている場合は、申述人の戸籍謄本で代用できますので併せて取得する必要はありません。
祖父母の財産を相続放棄する場合の必要書類
代襲相続による祖父母の財産を相続放棄する場合に必要な書類は、親の財産を相続放棄する場合に必要な書類と同じです。
- 被相続人(祖父母)の死亡の記載がある戸籍謄本
被相続人の本籍地の市区町村役場で取得します。
子どもの財産を相続放棄する場合の必要書類
被相続人に子どもがいない場合、第二順位である直系尊属(親)が相続人になります。そして、親が相続放棄する場合は、被相続人に子どもがいないことを証明する書類が必要です。
- 被相続人(子ども)の出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本
戸籍謄本は本籍地の市区町村役場で取得します。しかし、結婚したり本籍地を変更したりした場合は、その時点で新しい戸籍が作成されるため、それぞれの本籍地の市区町村役場で取得しなければなりません。
過去にどのように戸籍が変わったかがわかっていればまとめて取り寄せることができますが、わからない場合は直近の戸籍でその前の本籍地を確認し、取得するといった地道な作業になります。
兄弟姉妹の財産を相続放棄する場合の必要書類
兄弟姉妹の財産を相続放棄する場合、第三順位となるため他のパターンと比べて多くの書類が必要になります。
- 被相続人(兄弟姉妹)の出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本
- 被相続人の子どもや孫が亡くなっている場合、子どもおよび孫の出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本
- 被相続人の直系尊属(父母・祖父母)の死亡が記載されている戸籍謄本
叔父・叔母の財産を相続放棄する場合の必要書類
叔父や叔母の財産を相続放棄する際の必要書類は、兄弟姉妹の財産を相続放棄する場合とほぼ同じです。
- 被相続人(叔父・叔母)の出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本
- 被相続人の子どもや孫が亡くなっている場合、子どもおよび孫の出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本
- 被相続人の直系尊属(父母・祖父母)の死亡が記載されている戸籍謄本
甥姪の財産を相続放棄する場合の必要書類
甥や姪の財産を相続放棄する場合の必要書類には、兄弟姉妹の財産を相続する場合の必要書類にもうひとつ必要な書類が加わります。
- 被相続人(甥姪)の出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本
- 被相続人の子どもや孫が亡くなっている場合、子どもおよび孫の出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本
- 被相続人の直系尊属(父母・祖父母)の死亡が記載されている戸籍謄本
- 兄弟姉妹の死亡の記載がある戸籍謄本
相続放棄の手続き方法
相続放棄の手続きは、以下の流れで行われます。どこで手続きを行えばいいのかなどについて、手続き方法を簡単に説明します。
- 戸籍の収集
- 相続放棄申述書の作成
- 家庭裁判所へ提出
- 照会書の返送
- 相続放棄申述受理通知書の交付
相続放棄申述受理通知書が交付された後は、必要に応じて相続放棄申述受理証明書を請求します。
相続放棄の期限は3ヵ月
相続放棄は、相続が開始したことを知った日から3ヵ月以内に済ませなければなりません。これは、民法915条1項で規定されています。
3ヵ月を過ぎた場合は、原則として単純承認を行ったと見なされますが、家庭裁判所に申し立てて、家庭裁判所が期間の延長を認めるに当たり、相当の理由があると認めた場合は相続放棄も可能です。
期限内でも、単純承認が認められる行為を行った場合、相続放棄ができなくなります。例えば、遺産を売却したり、被相続人の預金通帳からお金を引き出して使ってしまったりした場合は、単純承認したと見なされます。
手続きを専門家に依頼することも可能
3ヵ月という期間はあっという間に過ぎてしまいます。その間に自分で戸籍類を準備し、さらに申述書に記載して家庭裁判所に提出するのは大変です。手続きが大変だと感じた場合は、相続放棄の手続きを専門家に依頼することもできます。
戸籍の収集代行などは司法書士に依頼できます。費用はかかるものの、書類の取得にも慣れているため自分で行うより早く書類を集めることができ、その結果期限内に申述書を家庭裁判所に提出できます。手続きに不安があるならば、ぜひ専門家に代行してもらいましょう。一度「セゾンの相続 相続手続きサポート」にご相談ください。
おわりに
相続放棄では必要な書類を準備して家庭裁判所に申し立てる必要があります。また期限が決まっており、相続が始まったことを知ってから3ヵ月以内と短く設定されています。準備する書類は相続放棄する方と被相続人との関係によって異なる場合があり、専門的な知識を必要とします。
相続放棄の手続き、特に戸籍の収集に不安がある場合は専門家の力を借りることを考えましょう。