寿命の延びとともに認知症リスクは高まっています。判断能力がなくなると、介護サービスの申し込みや相続手続きにおいての法律行為は無効になります。その方の権利を守るための「成年後見制度」を活用することも選択肢です。
このコラムでは、成年後見制度の概要の他、成年後見人になれるとされる親族と専門家のどちらを選べば良いのか、メリット・デメリットとともにお伝えします。
この記事のまとめ
成年後見制度は、認知症などの理由で判断能力が不十分な高齢者や障がい者の財産と権利を守ることを目的に、本人に代わって成年後見人が法律行為を行う制度です。後見は、家庭裁判所に申し立てを行い、審判によって開始されます。家庭裁判所が親族の他、弁護士・司法書士・社会福祉士等の専門家の中から成年後見人を選任します。
実際には、親族が成年後見人なることを希望しても、叶わない場合は多くあります。手間や費用面などそれぞれのメリット、デメリットを理解したうえで、申し立てを行いましょう。それぞれの事情により、どちらが最適かは異なりますので、まずは専門家へ相談してみるのもひとつの方法です。
成年後見制度とは
加齢とともに記憶力や注意力の衰えを感じることは、よくあることです。置き忘れやしまい忘れといった単なる物忘れは誰でも起こりうることで心配はありません。ただし、食事の記憶がない、行動の記憶がないといった状態、つまり「忘れたという認識がない状態」は認知症が心配されます。
認知症は、認知機能が低下し、日常生活全般に支障が出てくる状態です。原因にも症状にも個人差あるものの、高齢になるとアルツハイマー型認知症を発症する可能性が高くなるといわれています。
認知症になると、お金の管理ができなくなり、犯罪やトラブルに巻き込まれる可能性もでてきます。適切な判断能力ができない状況である場合に、その方を社会的に保護し、支援するための制度として存在するのが「成年後見制度」です。
成年後見制度の目的
成年後見制度は、認知症などの理由で判断能力が不十分な高齢者や障がい者の財産と権利を守ることを目的としています。成年後見人が本人に代わって、不動産や預貯金などの財産管理や介護サービスや施設入所などの契約行為を適切に行うことで支援する制度です。
成年後見人はどんなときに必要?
成年後見人の主な役割は、「財産管理」と「身上監護」の2つです。
「財産管理」は、生活資金の引き出しや支払いなどの口座管理の他、有価証券や不動産などの本人の財産の維持管理を行い、遺産分割協議においては本人の代理として参加します。家庭裁判所へ定期的に財産目録や収支状況の提出が必要です。
「身上監護」は、病院の入院時、介護サービスの申し込み、高齢者施設(住宅)への入所手続きなどの法律行為を行います。
なお、日用品の購入など日常生活に関する行為は、本人の自己決定権をできるだけ尊重するため、被後見人が単独で行うことが可能です。
成年後見制度は2つの種類がある
成年後見制度には、大きく分けると、法定後見制度と任意後見制度の2つの制度があり、法定後見制度はそれぞれの事案に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つの類型に分類されます。
法定後見
判断能力が不十分である場合に、家庭裁判所によって選任された成年後見人等が本人を法律的に支援する制度です。家庭裁判所に申し立てを行う時点で、対象者が、すでに判断能力について不十分であることが大きな特徴です。本人の判断能力の程度により、後見・保佐・補助の3つに分かれ、支援の範囲や権限が異なります。
後見
判断能力が欠けているのが常態化している方が対象となり、支援される方が被後見人、支援する方が成年後見人です。成年後見人は原則としてすべての法律行為に対し代理権が与えられる他、被後見人がした契約の取消権、追認権があります。
保佐
判断能力が著しく不十分な方が対象となり、支援される方は被保佐人、支援する方は保佐人と呼ばれます。被保佐人は、後見と異なり、常に判断能力が欠けているとまではいえないため、単独で法律行為をすることが可能です。ただし、特定の法律行為については、家庭裁判所の審判により保佐人に代理権と同意権が与えられる他、取消権、追認権もあります。
補助
判断能力が不十分な方が対象となり、支援される方は被補助人、支援する方は補助人と呼ばれます。本人以外が申し立てを行う場合には、本人の同意が必要です。代理権、同意権は家庭裁判所の判断により特定の法律行為のみ与えられ、同意権、追認権は必要に応じて追加されます。
任意後見
現時点では判断能力に問題はないものの、将来に判断能力が低下するおそれや不安を抱える方が、あらかじめ、任意後見人となる方や委任する内容を公正証書による契約で定めておき、判断能力が不十分となったあとに、任意後見人が本人に代わって法律行為を行う制度です。
誰に何を支援してもらうのか、本人の意思で決められることが特徴です。
成年後見制度のデメリット
適切な判断能力が欠けた場合に、その方を社会的に保護し、支援するための制度である成年後見制度ですが、良い面ばかりではありません。考えられるデメリットについても知っておきましょう。
手続きには手間と費用がかかる
成年後見制度を利用するためには、本人や家族が家庭裁判所に申し立てを行う必要があり、必要書類を揃える手間がかかる他、手続きには申立費用や登記費用などの諸費用がかかります。
すでに判断能力の欠けている状態での法定後見の申し立てに当たっては、審判までに数ヵ月と時間がかかることもあります。
銀行預金の引き出しや介護サービスなど差し迫った契約行為が必要とされることも想定され、親族が立て替えたことにより、あとになって親族内でのトラブルに発展するケースも散見されます。
専門家に依頼すると費用がかかる
弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門家が成年後見人および監督人となる場合には、報酬が発生します。
報酬の相場は、管理財産の総額によって異なりますが、1ヵ月で3〜5万円程度。この報酬は被後見人が亡くなるまで発生するため、経済的負担を覚悟する必要があります。
財産の資産運用が自由にできなくなる
成年後見制度は、被後見人の財産を守りつつ、管理することが目的ですので、運用を目的とした資産の売買はできません。財産目録や収支状況を定期的に家庭裁判所に報告する必要があります。当然ながら、財産を自由に使うことはできません。
途中でやめることができない
家庭裁判所に選任されると、原則として、被後見人の判断能力が回復するか、もしくは亡くなるまでやめることができません。
成年後見人を介した手続きや裁判所への報告義務など、制限があることに煩わしさがあることは否めませんが、いったん後見が開始されると取り消すことができません。
相続税対策ができなくなる
生前贈与などの相続税対策ができなくなることに注意が必要です。成年後見制度は、あくまでも判断能力が十分でない方の財産を維持・管理するための制度です。生前贈与をすることで相続税が軽減されるとしても、本人の財産を減らすことは認められていません。
成年後見制度にメリットはある
ここまで、デメリットをお伝えしてきましたが、成年後見制度にはメリットも多くあります。主なメリットとしては、以下のとおりです。
- 詐欺や不必要な契約から守ることができる(取消権)
- 収支管理や必要な支払いを遅滞なく行うことで、本人も関係者も安心して日常生活を送ることができる
- 介護サービスの申し込み、高齢者施設への入所手続きなど新たな契約(法律行為)を行うことができる
- 家族だけでなく、社会で本人の権利を守り、支援する制度である
- 代理権があるため、遺産分割協議など相続手続きを進めることができる
社会全体で守り、支援する制度であるとともに、相続手続き、特に遺産分割協議においては、代理として参加することで協議を成立させ、分割を停滞させない唯一の解決策です。
成年後見人は親族でも専門家でも問題ない?
それでは、成年後見人には誰がなるのでしょうか。成年後見人を誰にするか、親族がなる場合と専門家に依頼する場合とどちらにするか迷うものです。判断材料として、後見人になれない方の条件や親族がなる場合と専門家に依頼する場合のメリット・デメリットを紹介します。
親族が成年後見人になるには
成年後見人になるための特別な資格は必要なく、法律で決められている「なれない方」に該当しなければ誰でもなれます。下記の欠格事由に該当する方は成年後見人になることはできません。
【成年後見人になれない方】
- 未成年者
- 破産者
- 行方不明者
- 家庭裁判所から法定代理人などを解任されたことがある方
- 本人に対して裁判をしたことがある方、その配偶者と直系血族
- 不正な行為、著しい不行跡、その他任意後見人の任務に適しない事由がある方
また、上記の欠格事由に該当しなくとも、離れて住んでいる親族など、現実的に成年後見人になることが難しい場合もあります。
親族が成年後見人になる割合
親族が成年後見人になる割合は全体の約2割といわれており、専門家が選ばれるケースが大半であることが現状です。理由としては、親族による不正防止や親族間のトラブル回避、財産を管理するうえでの専門知識の有無などが挙げられます。
親族が成年後見人になるメリットとデメリット
親族が成年後見人になる場合について、メリットとデメリットを検討してみましょう。
親族が成年後見人になるメリット
成年後見人としての役割とともに、親族として日常生活のサポートも担えるため、信頼できる親族に成年後見人を任せることができれば、判断能力の十分でない被後見人にとっても安心して日々を送ることができるでしょう。また、専門家に依頼するよりも費用を抑えられることは、大きなメリットです。
親族が成年後見人になるデメリット
成年後見人は、裁判所に対して、定期的に財産目録や収支を報告しなければなりません。金融機関や介護サービスなどの手続きにおいては、代理権があることを証明したうえで契約行為を行うため、通常よりも多くの書類を揃える必要があります。
また、後見事務には決められた様式に従った書類の作成や専門知識が必要になることも多く、適切に処理できないといった精神的ストレスなども成年後見人となる親族には大きな負担になります。また、被後見人のために代理として行った法律行為が、他の親族とのトラブルに発展する可能性もあり得ます。
専門家に依頼するメリットとデメリット
専門家に依頼する場合はどうでしょうか。専門家が成年後見人となる場合のメリットとデメリットについては、以下のとおりです。
専門家が成年後見人になるメリット
弁護士、司法書士、社会福祉士などの専門家が後見人になる場合には、専門知識があるため、適切に迅速に財産管理が行われます。成年後見人の受任件数や経験の多い専門家であれば何より安心です。
専門家が成年後見人になるデメリット
生活費の引き出しや支払いは後見人である専門家を介さなければならず、関係者の数が増えることで、やり取りに時間や手間がかかる可能性もあります。報酬は家庭裁判所によって決定されますが、場合によっては付加報酬が発生することも多くあります。
おわりに
成年後見制度は、認知症などの理由で判断能力が不十分な高齢者や障がい者の財産と権利を守ることを目的とし、成年後見人が本人に代わって法律行為を行う制度です。
家庭裁判所に申し立てを行い、審判により家庭裁判所が成年後見人を選びます。実際には、親族が成年後見人なることを希望しても、叶わない場合もあります。ただし、手間や費用面などそれぞれのメリット、デメリットを理解したうえで、申し立ての際に希望を申し出ることには少なからず意味があるでしょう。
それぞれの事情により、どちらが最適かは異なるため、まずは専門家に相談してみましょう。
成年後見制度についてのご相談は「セゾンの相続 相続対策サポート」をおすすめします。