少子化が進む時代の中で、先祖代々引き継がれてきた財産をどう守るべきか、どう引き継ぐかについて悩む方は多いようです。ひとり娘の結婚に際し、夫となるべき男性に「婿養子」を提案するケースも見られます。
そもそも、婿養子とは何でしょうか。相手の籍に入ることなのでしょうか。婿入りとの違いは?など疑問点が多くあるでしょう。婿養子になることでのメリットやデメリットについて解説するとともに、起こりうるリスク対策について考えてみましょう。
この記事のまとめ
婿養子になるということは、養子縁組により配偶者の両親と法律的な親子関係になることです。相続財産を持つ親世代が相続対策を考えるうえで、また婿養子になる子世代にとっても、財産の継承や相続税の負担軽減といったメリットはあるものの、実親と養親の扶養責任による身体的・肉体的疲弊への不安や別の実子との相続トラブルなどデメリットもあります。
争族のもとにもなりかねないため、婿養子が最善の解決策ではないことも含め、慎重に検討したい手段です。養子縁組は、双方の合意があれば、手続きこそ簡単ですが、重い決断であることを知っておきたい対策です。
婿養子とは
「婿養子」とは、結婚相手である妻の両親の養子になることです。「養子縁組」の手続きをすることで、法的に親子関係が成立します。
婿入りとの違い
結婚相手の親から、「婿養子になってほしい」と言われるのか、「婿に来てほしい」と言われるのでは、大きく異なりますので注意が必要です。
「婿入り」は、婚姻により妻側の籍に入り、妻の氏を名乗るだけのことで、義父・義母からして見ると、娘の配偶者に過ぎず、親子関係は成立していません。一方で、「婿養子」は、娘の配偶者であると同時に、義母・義母にとって「息子」という存在になります。
婿養子のメリット
法律上の手続きを経て、法律上認められる親子関係の構築は、「珍しい氏を残したい」「事業を承継してほしい」などさまざまですが、主に「相続」を見据えた対策として行われることが多いのが現状です。
相続時に実子と同じ権利が得られる
相続が発生した場合、亡くなられた方(被相続人)の財産は、遺産として、相続人に引き継がれることになります。養子縁組によって親子関係となった養子は、実子と同様の権利を得ます。下記のとおり、民法で明確に定められています。
民法第809条「養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する」
婿養子の実親の遺産も相続できる
「養子縁組」には、大きく分けると、普通養子縁組と特別養子縁組の2種類ありますが、特別養子縁組は、特別な事情により家庭裁判所の決定によるため、一般的には、普通養子縁組と考えられます。
「普通養子縁組」は、実親との親子関係を継続したまま、養親との間に新たに親子関係を生じさせる養子縁組です。そのため、縁組の後に、実親に相続が発生した場合でも、法定相続人の立場を失うことなく、相続財産を引き継ぐことができます。
代襲相続の権利が得られる
養子縁組により「婿養子」となることで、実子と同様の権利を得ますので、妻の祖父母の相続が発生時に、妻の親(祖父母にとっては子)がすでに他界している場合には、代襲相続の権利が得られることになります。
相続税の非課税枠が増える
法定相続人の数が増えると、相続税の計算にあたって、基礎控除額や生命保険金の非課税枠が増えるため、結果として、相続税額が下がり、節税効果があります。
あくまでも、世代を越えて財産を守るため、などのように双方の同意のうえで成立する縁組です。相続税を不当に減少させることを目的として養子縁組が行われたことが明白である場合には、相続税の計算過程において否認されることがあります。
また、不服申し立てなどにより裁判で係争することになると、解決が長引くため注意が必要です。
婿養子のデメリット
財産を引き継ぐための対策としてメリットがある一方で、注意すべきデメリットもあります。以下のようなリスクやトラブルを避けるためにも慎重に検討する必要があるでしょう。
実子とのトラブルが発生するリスクがある
婿養子が、実子と同等の権利を有することになるため、妻以外に実子がいる場合、分割すべき子の数が増えることで、もともと相続できるはずだった財産が減少することになります。それを不服に思う実子との間でトラブルに発展する可能性があり、リスクとして捉える必要があります。
実親・養親両方の扶養義務が発生する
親の面倒を見るのは、子として当然の義務です。養子縁組により、親子関係が法律上認められるということは、子として扶養義務も生じることになります。
民法第877条「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある」
実親に対する扶養義務と同時に、後から成立した養子縁組についても扶養義務があることで、負担が大きくなる可能性があることに留意する必要があります。
マイナス資産も相続してしまう
相続財産を引き継ぐにあたって、カタチのある財産、価値のある財産など「プラス資産」ばかりであればいいのですが、被相続人が遺した借金や未払い金など、いわゆる「マイナス資産」についても受け継いでしまう可能性があります。
死別・離婚時に自動解消されない
もし、妻と死別や離婚により婚姻が解消されたとしても、養子縁組は、継続します。親子関係を解消するためには、双方合意のもと、役所に「養子離縁届」を提出する必要があり、手続きの手間がかかります。
なお、当事者間での合意ができれば「協議離縁届」となりますが、縁組当事者の一方が死亡後の「養子又は養親との単独離縁」や裁判所が関与する「裁判離縁」があります。裁判離縁には、「調停離縁」「審判離縁」「和解離縁」「認諾離縁」「判決離縁」があります。
婿養子・養子縁組の手続き
養子縁組の手続きは役所への届出により成立します。具体的な必要書類や流れは、以下のとおりです。
必要書類
届出時に必要な書類は、以下のとおりです。届出用紙は、全国共通で、Web上でダウンロードすることが可能です。必要書類や流れについても、基本的に、どこの市区町村でも変わりませんが、二度手間にならぬよう事前に問い合わせのうえ、確認しておくことをおすすめします。
【戸籍の届出に必要な書類】養子縁組届出書 【ダウンロード】※届出人および証人として当事者以外の2名の署名が必要当事者の戸籍全部事項証明書(戸籍謄本)←届出をする市区町村に本籍がないときに必要届出人の本人確認書類※運転免許証やパスポートなど写真付証明であれば1点、健康保険証など写真のないものは2点必要 |
手続きの流れ
養子縁組を行う養親もしくは養子が、本籍地または届出人の所在地の市区町村の戸籍課に届け出ます。あらかじめ届出用紙を取り寄せ、必要事項を記入のうえ、窓口に出向きましょう。養子縁組の届出に関して費用はかかりません。ただし、上記の必要書類として、戸籍謄本を取り寄せる必要がある場合には、発行手数料が発生します。
婿養子の注意点・ポイント
婿養子となるための養子縁組の手続きは、意外に容易である反面、法律で認められる親子関係となることには、相当の覚悟が必要であり、トラブルを避けるためにも慎重な検討が必要です。注意点やポイントは以下のとおりです。
家族としっかり話し合い理解を得ておく
妻側の婿養子となることで、実の親との法律的関係性が絶縁となるわけではありませんが、複雑な感情があることは想像の範囲です。実親の他、夫側家族、親族の理解を得ておくことがとても重要です。
相続税の非課税枠の人数を確認しておく
法律的に認められる親子関係となることで、それぞれの事情や想いを残すことができるならば、活用したい手段ですが、養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させることを目的とすることは認められていません。
婿養子のように、子の配偶者を養子とする場合には、被相続人の養子の数は1人までと制限があります。妻以外の実子の配偶者がすでに婿養子である場合には、法定相続人にはなれませんので注意が必要です。
婿養子にはいつでもなれる
婿養子になるための養子縁組の手続きは、婚姻と前後しても、年数が経過しても、双方の合意があれば、いつでも可能です。
婿養子はいつでも解消できる
同様に、双方の合意により解消することも、いつでも可能です。
婿養子でも遺産を受け取れないことがある
被相続人が特定の相続人に相続させない旨の遺言書がある場合やすべての相続財産を他人に贈与する旨の遺贈や死因贈与などでは遺産を相続できないことがあります。
これらのケースでは、法律上、実子と同様の親子関係であることから「遺留分侵害額請求」をすることで、法定相続分の半分を請求することが可能ですが、「争族」となり長引くことが予測されます。
なお、被相続人にとって高いハードルですが、法定相続人に、虐待や重大な侮辱、著しい非行がある場合には、家庭裁判所に申立て「廃除」することが可能性としてあります。また、相続開始後の犯罪行為などによっては、「欠格」となり相続権を失います。
婿養子に関する相談やサポートは専門家に相談しよう
それぞれの事情により、「婿養子」を迎える選択肢があることは有意義である一方で、それぞれの想いもあることから後々にトラブルに発展するケースも多くあります。
「婿養子」という選択が、必ずしもベストな解決策ではないかもしれません。さまざまなトラブルを回避するためにも、専門家への相談やサポートを依頼することをおすすめします。
登記業務を行うことのできるのは、司法書士の専門領域ですが、それぞれに得意・不得意分野はあるものです。「セゾンの相続 相続対策サポート」への依頼をおすすめします。
おわりに
少子化や多様性により、家族のカタチは、ひと昔前とは変化しています。先祖代々引き継いできた土地や財産をどう承継するか悩む親世代も多い現状ですが、婿養子を迎えることで解決策が見い出せる場合もあります。
「婿養子」という法律的な親子関係の成立と単なる「婿」との違いを知ったうえで、婿養子のメリット、デメリットについてもきちんと把握し、検討することが何よりも大切です。くれぐれも後になって揉めないよう、早めに専門家への相談でベストな解決策を検討したいものです。