人が亡くなると、その人の財産は親族に引き継がれます。ただ、誰が受け取るのか、誰が受け取れるのかについては、多くの方が悩まれています。また、今後起こりうる相続の発生に備えておきたいものの、複雑すぎて自分ごととして考えられないという声も多いようです。
この記事では、相続人となる法定相続人の定義の他、範囲や順位、また遺産相続の分割割合の決め方などについて、わかりやすく解説します。
この記事のまとめ
家族や親族の関係性が薄れる時代だからこそ、被相続人を想定し、被相続人を中心とした家系図を描き、起こりうる相続に備えておきたいものです。まずは、「被相続人」「相続人」「法定相続人」など言葉の定義を押さえておきたいものです。
似たような単語が多く、混同しがちですが、遺産相続にあたって、民法(法律)は誰を守ることを想定しているのか知ることで、法定相続人になれる人、なれない人、分割方法について、また分割方法のひとつである法定相続割合について理解が深まり、分割割合の数字の根拠が見えてくるのではないでしょうか。
法定相続人とは?
法的(民法上)に相続人になる方を法定相続人といいます。遺産相続は、人が亡くなったことで開始され、亡くなった方(被相続人)が保有していた財産上の一切の権利義務を相続人が引き継ぐことです。
引き継ぐことのできる財産とは、現金などの金融資産や不動産などのプラスの財産の他、借金(ローン)などのマイナスの財産も含めて経済的価値のあるすべて(ただし、弁護士資格のようなその方のみに専属していたものは除外)のものをいいます。
これらの財産を引き継ぐ方が相続人です。被相続人の死亡により相続が発生した時点で、一定範囲内の親族の中から民法で定められた順位に従って相続人となる方が決まります。
一定範囲内の親族は法定相続人となる可能性はありますが、法定相続人となるのは、相続開始時点での被相続人を中心とした家族構成、親族関係によって決定することになります。
法定相続人の範囲と順位
法定相続人の範囲は、常に相続人となる配偶者の他、子(養子を含む)、直系尊属(父母や祖父母)、兄弟姉妹などです。
どういう場合に、どこまでが法定相続人に該当するのかについて知っておくことは大切です。まずは、法定相続人には、配偶者以外に、第一順位、第二順位、第三順位という民法で定められている順位があることを押さえておきましょう。
配偶者は常に相続人
法定相続人の範囲の中でも、夫・妻などの配偶者は常に相続人となります。内縁関係や離婚した元配偶者は、相続人にはなれません。
第一順位:子
被相続人に子がいれば、第一順位で相続人となります。胎児(まだ出生していない被相続人の子)は、すでに生まれたものとみなされます(死産の場合は適用されません)。
また、養子縁組をした養子、認知した非嫡出子も実子と同様の権利があります。
被相続人の死亡よりも先に子が死亡している場合、子(被相続人にとって孫)がいれば、代襲相続として、第一順位の相続人となります。孫も死亡している場合には、さらに代襲は引き継がれます。
第二順位:父母や祖父母(直系尊属)
父母や祖父母、曾祖父母のことで、「直系尊属」といいます。被相続人に第一順位の子がいない場合に相続を受ける権利があります。
被相続人の父母と祖父母・曾祖父母全員健在の場合は、被相続人から見て、親等が近い父母だけ相続人となります。叔父・叔母は含まれません。
第三順位:兄弟姉妹
直系卑属や直系尊属がいない場合、つまり、子も父母、さらに祖父母もいない場合には、被相続人の兄弟姉妹に相続人となる権利があります。
相続人となるべき兄弟姉妹がすでに死亡している場合に、その兄弟姉妹の子(被相続人にとって甥・姪)が代襲相続として相続人になります。ただし、第三順位の代襲相続は、一代限りのため、すでに死亡したいた場合には、その子には引き継がれません。
配偶者の兄弟など直系でない傍系の兄弟は含まれません。
法定相続人になれないケース
民法では、本来であれば、法定相続人となるべき人であっても、法定相続人となれず、相続を受けられないケースがあります。
- 相続欠格
- 相続人の廃除
相続人の欠格事由に該当する
相続欠格とは、不正な事由(背信的行為)が認められる場合に、当然にその人の相続権を失わせる制度(民法891条)です。
具体的に、不正な事由とは、以下のような事例が挙げられます。
- 被相続人や他の相続人に対する殺人や殺人未遂などの違法行為
- 相続に関する被相続人の遺言書の偽造、変造、隠匿、破棄
相続人の廃除に該当する
相続人の廃除とは、被相続人が推定相続人(相続の権利がある方)を廃除する制度のことです。具体的に、被相続人が推定相続人を廃除できる事例としては以下のとおりです。
- 被相続人に対する虐待
- 被相続人に対する激しい侮辱
- 相続人の著しい非行
被相続人は、その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求(民法892条)、もしくは、遺言で推定相続人を廃除する意思を表示(民法893条)することができます。
法定相続人の範囲における注意点
法定相続人がいない場合や行方不明の場合など家族構成やそれぞれの状況に応じて、相続人となる範囲や条件が変わります。範囲想定される4つのケースをご紹介しましょう。
- 法定相続人がいない場合
- 法定相続人の行方がわからない場合
- 養子縁組を行った場合
- 内縁の妻(夫)がいる場合
法定相続人がいない場合
法定相続人がいない、遺言もない場合、民法の「相続人の不存在」が適用されます。
被相続人が残した財産(遺産)を第三者が勝手に扱うことはできず、とはいえ、相続人がいないまま放置することもできないため、法的な手続きを通して処分が進められることになります。
債権者や特別縁故者など、遺産相続の利害関係者の申立てにより、家庭裁判所が相続財産管理人を選任(弁護士など)し、法律に基づいて遺産の調査・管理・換金等の手続きを行います。
相続財産管理人は、債権申立ての公告、相続人捜索の公告を経て、正式に相続人不存在が確定した後、最終的に遺産は国へ納められることになります。
なお、従来は一連の手続きに10ヵ月以上かかっていましたが、2023年(令和5年)4月1日以降は、民法の改正により同時公告可能となり最短で6ヵ月程度と短縮されます。また、相続財産管理人は、相続財産清算人へと名称が変更となります。
法定相続人の行方がわからない場合
法定相続人が行方不明の場合は、民法の「相続人の不存在」は適用されません。
遺産分割協議は、相続人全員の出席が前提となります。捜索しても見つからないときには、家庭裁判所に「不在者財産管理人」の選任を申し立てたうえで、行方不明者に代わって遺産分割協議に参加するか、もしくは、失踪宣告によって法的に死亡扱いとする手続きをしなければなりません。
養子縁組を行っていた場合
養子縁組を行っていた場合、養子は被相続人の子として扱われます。
相続税法上、法定相続人の数に含めることのできる被相続人の養子には人数に制限があります。普通養子縁組の場合には、被相続人の実子がいる場合には養子は1人まで、実子がいない場合には2人までと養子にできる人数が異なる点に注意が必要です。
なお、特別養子縁組や配偶者の連れ子を養子にする場合には人数の制限はありません。
これは、相続税の計算において、法定相続人の数が多いほど基礎控除額が大きくなることから、行き過ぎた節税対策を防ぐための制限です。民法上においては養子の数に制限はありません。
内縁の妻(夫)がいる場合
基本的に、内縁の妻(夫)とその子に相続権はありません。ただし、遺言がある場合や「特別縁故者」として認められれば、遺産を受け取ることはできます。
特別縁故者とは、相続が発生した際、被相続人に法定相続人がいない場合に特別に相続出来る権利を得た人のことです。財産分与を受けるには、家庭裁判所に「特別縁故者に対する財産分与の申立」をしたうえで認められれば、清算後に残った遺産を受け取ることができます。
なお、内縁の妻(夫)の子を「養子縁組」により養子とする、内縁の妻(夫)との子を「認知」により非嫡出子として、実子と同様の相続権が発生します。
法定相続人を確認する方法
遺産相続では、まず誰が法定相続人になるのか確定させる必要があります。そのためには「被相続人の出生から死亡まで連続した戸籍謄本」を取り寄せます。戸籍謄本には、婚姻、家族の出生、認知、離婚などが記載されているため、被相続人の人生を辿ることで相続人の漏れを防ぐことが目的です。
戸籍謄本は、被相続人の本籍地の市区町村窓口で取得しますが、郵送での申請も可能です。結婚などで本籍地が変わっている場合には、前の本籍地の市区町村窓口でも取得しなければなりません。本籍地が変わっていなくても、戸籍の書き換え(データ化)もあり何通かに分かれることが一般的です。
手順としては、まず被相続人死亡時の戸籍を取得し、順次さかのぼって出生まですべての戸籍を揃えるという作業になります。人により、1ヵ所で完了する場合もありますし、戸籍の焼失などで確認できない場合などさまざまです。難しい場合には弁護士等への依頼をおすすめします。
遺産分割の割合の決め方
被相続人が遺した財産(遺産)を相続人で分割するためには、どのような方法があり、どのような割合で分割することができるのでしょうか。また、話し合いがうまくいかない場合はどうしたらいいのでしょう。決め方について想定される4つのパターンについて解説します。
- 遺言内容に従う
- 遺産分割協議にて決める
- 法定相続割合で分ける
- まとまらない場合は遺産分割調停を行う
遺言内容に従う
原則として、故人の遺言書があれば、遺言書に従います。
被相続人が遺した財産を相続するのが「遺産相続」です。もともとは、被相続人の財産ですので、被相続人が遺した最後の言葉に従うのが本質です。
家族が安心して暮らせるように、困らないように感謝の意味を込めて残せれば理想的です。また、生前に大切な家族に対して直接メッセージを伝えられればいいのですが、現実には、争族の火種になる遺言書も多く散見されます。納得のいかない法定相続人が遺留分(法律的に受け取ることのできる財産)を請求するケースも考えられます。
遺産分割協議にて決める
遺言書がなければ、相続人全員で遺産分割協議を行い、話し合いによって分割します。分割割合は、必ずしも均等でなくても問題ありませんが、相続人全員が合意をする必要があります。
遺言書なく死亡した夫の遺産分割協議にあたって、妻と未成年の子が1人というケースでは、法定相続人は妻と子の2人です。通常、未成年の子の契約など法律行為は、保護者である親は法定代理人という立場で代わりに行うことができます。
ただし、この場合の遺産分割協議にあたっては、妻は、配偶者という立場と子の法定代理人という立場が重複することで、妻に有利な分割をしてしまう可能性が危ぶまれます。そこで、親と子で利害が対立することを避けるため「特別代理人」の選任が必要となります。
法定相続割合で分ける
遺産分割協議で全員の合意が得られない場合には、法定相続割合にしたがって分割することになります。法定分割割合は、民法900条に規定された法律上の分割方法です。
なお、遺産分割協議において、法定相続割合で分割することを合意することも可能です。
まとまらない場合は遺産分割調停を行う
遺産分割協議での話し合いや法定相続割合で分割が合意できなければ、家庭裁判所に調停や審判の申立てを行い、第三者の立会いのもと解決を目指します。
通常、遺産分割協議での話し合いや法定相続割合で分割が合意できれば、遺産分割協議書を作成して、必要があれば相続税の申告・納付により相続手続きは一段落です。その後は、それぞれが名義変更や登記を行います。
ただし、話し合いがまとまらず、「争族」に発展してしまうことも考えられます。「調停」は、家庭裁判所において、中立的な立場の調停委員を介して、相続人間で話し合いをします。話し合いがまとまらない場合などには、「審判」となり、審判官(裁判官)が遺産の分け方を決定します。
法定相続人による法定相続割合
遺産分割の割合の決め方でもお伝えしましたが、法定分割割合で遺産を分割することができます。法律(民法)で規定されている分割方法であるため、選択するケースも多くみられます。
分割パターンとしては、以下の4つが想定されます。誰が法定相続人になるかによって、受け取れる遺産の割合が変わることに注意が必要です。ただし、数字を覚えるのではなく「わが家の場合は」という観点で理解しておくことをおすすめします。
- 配偶者のみが法定相続人の場合
- 配偶者と子供が法定相続人の場合
- 配偶者と親が法定相続人の場合
- 配偶者と兄弟姉妹が法定相続人の場合
配偶者のみが法定相続人の場合
相続が発生した時点で、被相続人には配偶者のみで、子も親もいない場合には、法定相続人は、配偶者1人です。配偶者のみが相続人となり、遺産の全てを受けとることになります。
遺産相続にあたって、被相続人に配偶者があるときは、配偶者が相続放棄をしない限り、必ず法定相続人になります。
配偶者と子供が法定相続人の場合
相続が発生した時点で、被相続人には、配偶者と子がいた場合、配偶者1/2、子1/2で分割します。子が2人いた場合には、子の受け取り分1/2をさらに2人で分割するため、それぞれが1/4ずつ受け取ります。つまり、子の数で均等に分けることになります。
配偶者がすでに死亡、もしくは相続放棄している場合は、遺産の全てを子供で均等に分けます。
配偶者と親が法定相続人の場合
相続が発生した時点で、被相続人には、子はなく、配偶者と父母がいた場合、配偶者2/3、親1/3で分割します。父母2人が存命であれば、親の受け取り分1/3をさらに2人で分割するため、それぞれが1/6ずつ受け取ります。
子がおらず、第2順位の直系尊属が受け取れる場合、父とさらに祖父が存命であっても、受け取れるのは、被相続人に親等の近い父のみです。
配偶者と兄弟姉妹が法定相続人の場合
相続が発生した時点で、被相続人には、子も直系尊属もおらず、配偶者と被相続人の兄がいた場合、配偶者3/4、兄1/4で分割します。
兄と姉がいた場合には、1/4をさらに2人で分割し、1/8ずつ受け取ります。
おわりに
人生100年時代と言われ、まだまだ先と思いつつも、いつ起こるか予測できないのが相続ですし、そして、順番通りでないのが相続です。自分の相続、親の相続とそれぞれについて、できるだけ早い段階で考えておきたいものです。相続対策の必要性は漠然と感じているものの、複雑ですし、聞きなれない言葉も多く、紛らわしい単語が多いのも確かです。
「被相続人」「相続人」「法定相続人」などそれぞれの定義も混同しがちです。この記事のすべてを理解するよりも「被相続人が自分であったら」「被相続人が父であったら」という観点で、被相続人を中心とした家系図を描きながらイメージすると理解が深まるかもしれません。