住宅ローンはいったん借りると返済は長期間に及ぶため、負担が重いと感じることがあるでしょう。早く住宅ローンから解放されたいために、繰り上げ返済を検討する方も多いでしょう。
繰り上げ返済は、一般にメリットが多いと思われていますが本当でしょうか。この記事では、繰り上げ返済をしようとしている方が、のちのち後悔しないために、繰り上げ返済のデメリット、繰り上げ返済に向く方、事前にしておきたいことなどについて解説します。
- 繰り上げ返済には、利息の軽減効果があるが、手元資金が減少、住宅ローン控除が受けられなくなる可能性がある。
- 繰り上げ返済に向く方とは、資金に余裕があり、住宅ローン控除に影響を及ぼさない方。
- 繰り上げ返済をするなら、万が一に備えて生活防衛資金を準備しておくことと、住宅ローン控除にどのような影響があるかをシミュレーションして比較しておくことが大切。
住宅ローンの繰り上げ返済とは?
繰り上げ返済とは、毎月の返済とは別に借入額の一部または全額を返済することです。
借入金の一部または全額を繰り上げ返済することによって、借り入れている元金を減らすことができるため、返済期間を短くしたり月額返済額を減らしたりすることができ、支払う利息総額を減らす効果があります。
例えば、3,500万円の住宅ローン(返済期間35年、金利0.7%)で、借り入れから10年後に200万円の繰り上げ返済をすると、残りの返済期間を25年0ヵ月から22年11ヵ月(減少する利息額は360,000円)にする、または月額返済額を93,982円から86,690円(減少する利息額は180,000円)にすることができます。
しかし、低金利で住宅ローンを組んだ場合、繰り上げ返済をしても大きく利息が軽減されないため、以下の場合など、あえて繰り上げ返済を選ばない方も多いです。
- 手元資金を運用して、利回りが住宅ローン金利を上回る場合
- 教育費など他の用途で現金が必要な場合
繰り上げ返済にデメリットはある?
繰り上げ返済にデメリットがあるならば、繰り上げ返済をやめる、あるいは延期する理由になるかもしれません。詳しく見ていきましょう。
急な出費に対応できなくなる可能性がある
手元資金をすべて繰り上げ返済に回してしまうと、以下のような想定外の出来事があった際に対応が難しくなるので注意が必要です。
- 公立に行く予定だった子どもが私立に行く
- 家族がケガや病気で働けなくなる、あるいは高い治療費がかかる
- 車が故障して買い替えが必要になる など
そのため、手元資金はすべて繰り上げ返済に回さずに、生活費の3ヵ月~1年分は緊急資金として残しておくことも大切です。
住宅ローン控除が受けられなくなる場合がある
住宅ローン控除とは、年末の住宅ローン残高に応じて、税金(所得税や住民税)が安くなる(控除される)減税制度です。年末のローン残高が減ると、安くなる税額(控除額)もそれに応じて減っていきます。
また、住宅ローン控除が受けられる期間は最長で10年間または13年間(住み始めた時期により異なる)と限定されているので、住宅ローンを返済中の全期間で控除を受けられるわけではありません。
加えて、この制度を利用するためには、住宅ローンの返済期間が10年以上あることも条件になっています。繰り上げ返済をして返済期間が10年未満になってしまうと、住宅ローン控除が受けられなくなってしまうので注意しましょう。
手数料がかかる可能性がある
繰り上げ返済には、一部を繰り上げ返済する場合と全額を繰り上げ返済する場合があります。
一部繰り上げ返済は、インターネット経由であればほとんどの金融機関で手数料はかかりませんが、窓口や電話などで行うと金融機関によっては数千円〜数万円の繰り上げ返済手数料がかかります。
全額繰り上げ返済は、多くの金融機関で数千円〜数万円の繰り上げ返済手数料がかかります。
そのため、退職金などで全額繰り上げ返済をするつもりで借り入れをする場合は、繰り上げ返済手数料がかからない金融機関を選んで住宅ローンを組むと良いでしょう。
団体信用生命保険の保険金額が減る
団体信用生命保険とは、住宅ローン返済中に契約者が亡くなった時に、住宅ローンの残債を代わりに全額返済してくれる保険です。
そのため、仮に契約者が亡くなっても、遺族は住宅ローンの残債を支払うことなく安心してその後もその住宅に住み続けることができます。
この時に保障される住宅ローン残高は、契約者が亡くなった時点のすべての残債になり、金額の多い少ないは関係ありません。つまり、団体信用生命保険は、繰り上げ返済をしてもしなくても残債金額のすべてを保障してくれます。
従って、仮に繰り上げ返済をした後に契約者が早く亡くなってしまうと、繰り上げ返済のために使った手元資金の分だけ遺族が使えるお金が少なくなってしまう恐れがあります。
繰り上げ返済に向いているケース
繰り上げ返済に向いているのはどんな場合か、順に見ていきましょう。
住宅ローン控除を受けられる期間を過ぎているケース
住宅ローン控除を受けられる期間中は、年末の住宅ローン残高に応じた税金の控除がありますので、繰り上げ返済をすると税金の控除額まで減ってしまう可能性があります。
しかし、最長控除期間である10年または13年がすでに終了して、現在は住宅ローン控除を受けていなければ、住宅ローン控除の税制メリットはないので、繰り上げ返済を検討しても良いでしょう。
繰り上げ返済しても住宅ローン控除を満額受けられるケース
住宅ローン控除を受けられる住宅ローン残高には一定の上限(住宅の性能によって異なる)があります。つまり、住宅ローンの残高が一定以上になると、安くなる税額(控除額)は変わらなくなります。
例えば、控除対象となる住宅ローン残高の上限が3,000万円の場合、年末の住宅ローン残高が3,500万円であっても4,000万円であっても、控除対象となる住宅ローン残高は3,000万円までです。
控除率は0.7%なので、この場合の控除額はいずれも210,000円です。
そのため、借入額が多い方は、住宅ローン残高が控除を受けられる上限額を超えていることがあります。このような場合は、控除対象の上限金額(上記の例では3,000万円)になるまで繰り上げ返済をしても、住宅ローン控除を満額受けられます。
ただし、控除を受けられる期間は10年または13年と長期にわたり、返済によっても住宅ローン残高は減るので税金の控除額も減っていきます。もし、控除期間中ずっと各年で住宅ローン控除を満額受け取りたいなら、毎年の住宅ローン残高の上限に注意しながら繰り上げ返済をしましょう。
繰り上げ返済をしても住宅ローン控除を受けられる場合は、デメリットが少ないため繰り上げ返済に向いています。
住宅ローンによる精神的ストレスを軽減したいケース
住宅ローンという負債を抱えること自体にストレスを感じてしまう方もいるでしょう。
特に、転職などで収入が不安定になる、体調を崩して退職年齢を早める可能性がある、など住宅ローンを借りた時点から、職業や体調に変化があった場合はなおさらでしょう。
また、年金生活になっても住宅ローンの支払いが続く場合は、老後の生活に不安を抱くこともあるでしょう。こうした場合は、繰り上げ返済をして早めの完済を検討しても良いでしょう。
資金的に余裕があるケース
余裕資金があれば、資産運用に回すこともできますが、すでに資産の大半を運用中の方や、運用で値下がりすると強いストレスを感じる方は、支払利息が軽減できる繰り上げ返済も選択肢のひとつです。
資産運用は、金融商品という形で手元資金を保有し続けることができますが、相場の動向によっては損をすることもあり得ます。一方、繰り上げ返済は、手元資金はなくなりますが支払う利息を減らす確実性の高い効果が期待できます。
2種類の繰り上げ返済
繰り上げ返済の方法には2種類あります。それぞれのメリット・デメリット、向いている方を詳しく見ていきましょう。
返済期間短縮型
返済期間短縮型とは、毎月の返済額は変えずに完済までの期間を短くする返済方法です。返済期間が短縮される分、支払う利息の総額が軽減されます。
メリット
完済までの支払利息の削減額は、もうひとつの繰り上げ返済方法(返済額軽減型)よりも多くなることが特徴です。
また、一定の時期までに返済期間を短縮したいと思う方には適した方法です。
例えば、定年までに完済したいと考えるなら「返済期間短縮型」を選ぶのがおすすめです。リタイア後の収入は年金のみになる方は多いでしょう。年金だけで生活費のすべてをまかなうのは難しいため、リタイア後は貯蓄を取り崩して生活するのが一般的です。
そのような状況下で住宅ローンを返済するためには、多額の貯蓄が必要になりますが、住宅ローンの返済期間を定年までに短縮できれば、リタイア後の返済負担がなくなります。
デメリット
毎月の住宅ローンの返済額は繰り上げ返済前とまったく変わりません。
そのため、すぐには繰り上げ返済の効果を実感しにくく、現在の支出を少しでも減らすために住宅ローンの月々の返済額を減らしたい方には向きません。また、繰り上げ返済の支払額が少なく借入金利が低いと、削減できる利息も少なくなります。
向いている方
少しでも早く住宅ローンを完済させたいと思う方です。例えば、次のように考える方が選ぶことが多いようです。
- リタイア後も住宅ローンの支払いが続く予定なので老後生活が不安
- 住宅ローンを早めに完済して老後の資産形成を始めたい
いずれも老後生活に不安を持っている場合が想定されます。少しでも早く住宅ローンを完済させて老後の負担を軽減したい、または老後に向けた不安を軽減するために、早めに資産形成に取りかかりたい方です。
こうした考えを持っている場合は、返済期間短縮型の繰り上げ返済を検討すると良いでしょう。
返済額軽減型
返済額軽減型とは、借入期間を変えずに月々の返済額を減らす方法です。月々の返済額を減らすことで、返済期間中の支払う利息の総額が軽減されます。
メリット
返済額軽減型の繰り上げ返済は、毎月の返済額を減らすことができるため、不測の事態で家計が急変した際に、返済額の減額分を使ってしのぐことができます。住宅ローンは長期で組むのが一般的ですので、住宅ローンを設定した時の状態が完済まで続くとは限らないでしょう。
例えば、住宅ローンの返済期間中に、転職などによって安定収入が得られなくなったり、病気やケガなどの不測の事態によって家計が急変したりすることもあるでしょう。こうした場合に、これまで返済してきた住宅ローンの月々の返済額が大きな負担になることもあり得ます。
返済額軽減型の繰り上げ返済で月々の住宅ローン返済額を減らすことができれば、その減額分を生活費や教育費などに充てて住宅を手放すことなく乗り切ることができるでしょう。
デメリット
繰り上げ返済による効果をすぐに実感できる反面、返済期間短縮型と比べて、支払利息の軽減額は少なくなります。そのため、住宅ローンの総返済額は返済期間短縮型と比べて多くなります。
向いている方
現状の経済的負担を今すぐ軽くしたい方です。例えば、住宅ローンを返済中でも次のような費用がかかる、あるいは変動が見込まれることがある方です。
- 子どもの教育費
- 親の介護費
- 転職による収入の変動がある
教育費と住宅ローンは、支払時期が重なることが多く、家計にとっては大きな負担になることがあります。どちらかの負担をいったん軽減できれば、両立できることもあるため、住宅ローンの負担を下げることは効果的といえます。
教育費が終わると、親の介護が必要になることもあるでしょう。住宅ローンの繰り上げ返済による負担軽減の効果は限定的なこともあるので、繰り上げ返済により負担を軽減できる金額を事前にシミュレーションしてみることも大切です。
繰り上げ返済する場合に事前にしておきたいこと
生活防衛資金を準備しておく
生活防衛資金(緊急資金)とは、突然の病気やケガ、会社の倒産や失業、などといった不測の事態によりこれまで通りの収入が得られなくなった時のために準備しておくお金のことです。
一般的には3ヵ月〜6ヵ月分(心配な人は1年分)の生活費といわれています。
世帯の人数や生活スタイルによって生活費は異なるため、それぞれの家計に合わせた生活防衛資金を準備しておくと良いでしょう。
例えば、月々の生活費が200,000円の家庭では、6ヵ月分の生活防衛資金を準備する場合は120万円を確保しておくイメージです。
加えて、生活防衛資金で備えるべきは実際に支払う費用のすべてですので、住宅ローンの返済があれば、その返済額も忘れずに考慮しておきましょう。
例えば、生活費が200,000円で住宅ローンの月額返済額が80,000円なら、月々備える金額は280,000円、6ヵ月分の生活防衛資金は168万円になります。
住宅ローン控除の金額で比較する
繰り上げ返済前と繰り上げ返済後の住宅ローン控除額の推移をシュミレーションして、以下を確認してみましょう。
- 繰り上げ返済をしても、住宅ローン控除は受けられるか(返済期間は10年以上か)
- 受けられるなら、各年の控除額(減税額)や控除できる年数は減るのか
- 控除額(減税額)や控除年数が減るとすれば、総合的に控除額(減税額)はいくら減るのか
- 控除額(減税額)が減って「節税できなくなる金額」と繰り上げ返済で得られる「負担金利の削減額」を比較するとどちらにメリットがあるか
もし、繰り上げ返済をすることによって、返済期間が少なくなり住宅ローン控除を受けられなくなるようであれば、繰り上げ返済をせずに住宅ローン控除を受け続けたほうが良い場合もあります。
住宅ローンの借り換えも選択肢のひとつ
住宅ローンの借り換えとは、現在のローン金利と比べて金利の低い金融機関で住宅ローンを組み直すことです。現在よりも支払う利息の総額を抑えられるメリットがあります。
借り換えがお得なケース
借り換えたほうが総返済額は少なくなるのは、一般的に現在の住宅ローンが下記条件を満たす場合とされています。
- 住宅ローン残高が1,000万円以上
- 返済期間が10年以上
- 金利差1%以上
例えば、当初3,500万円の住宅ローン(金利1.5%、期間35年)を15年後(残債約2,100万円)に金利が0.475%(変動金利)と現状より低い住宅ローンへ借り換えると、およそ164万円の利息が軽減できるメリットがあります(返済期間中の金利は変動しないと仮定)。
ただし、借り換えにはコスト(諸費用や手数料)がかかりますので、それを含めて総合的に判断しなければなりません。
この場合の借り換えコストは112万円ですので、その分を差し引いた残り(164万円-112万円)の金額520,000円が最終的な借り換えのメリットになります。
ただし、変動金利に借り換える際には、将来金利が上がれば、金利負担が増える可能性もあります。
ちなみに、上記例(当初3,500万円の住宅ローン、金利1.5%、期間35年)で、15年目に借り換えコスト112万円を繰り上げ返済に使うとすると、支払利息の軽減額は返済期間短縮型で約380,000円になりました。このケースでは借り換えのメリット(520,000円)のほうがやや大きいようです。
このように、借り換えも選択肢のひとつとして検討してみると良いでしょう。
おわりに
繰り上げ返済や借り換えについての相談は、住宅ローンの相談窓口がおすすめです。
国内100社以上の金融機関と業務提携しているため、年齢、職業などの情報から、借り換えについてもご意向に沿った住宅ローンをご提案します。
さまざまな条件(金利タイプ、返済年数等)から商品を選定して、申込、審査、融資実行までご支援します。繰り上げ返済や借り換えに迷ったら、住宅ローンの相談窓口に、ぜひご相談ください。