町の総面積のうち、約9割を森林が占める島根県美郷町。県のほぼ中央に位置する美郷町は、緑深い山とゆったり蛇行しながら流れる江の川(ごうのかわ)が美しいエリアです。その名の通り、ふるさとの美しい自然が多く残されているこの町は、長年、町を挙げての鳥獣害対策に取り組んできました。
今や「おおち山くじら」として知られるイノシシ肉のブランドは、ふるさと納税の返礼品でも根強い人気を誇っています。春や秋には幻想的な雲海も楽しめ、150年もの間、脈々とつないできた伝統芸能「神楽」も守り続ける美郷町。
今回は、島根県美郷町役場美郷暮らし推進課の直井さんと伊藤さんに、町の魅力についてたっぷり聞いてみました。
1.20年かけて育てた町の名物「おおち山くじら」
―美郷町にはイチオシの特産品として、「おおち山くじら」という食べ物があると伺いました。一体どういうものでしょうか?
美郷町が町ぐるみで製造に取り組んでいるイノシシ肉のブランド名です。「おおち」とは美郷町も属する「島根県邑智郡(おおちぐん)」という地域名から来ており、「山くじら」とはイノシシ肉のことを指します。その昔、肉食が禁じられていた江戸時代に、イノシシ肉を「山くじら」と呼んでこっそり食べていたことが由来になっているそうです。
―どうして美郷町ではイノシシに注目したのですか?
それは、イノシシをはじめとした鳥獣被害が毎年起こっているからなんです。畑を荒らし、農作物をダメにしてしまうイノシシを何とかしたいと考え、約20年前から農家さんを巻き込んで町全体で対策をしてきました。
通常、野生動物の捕獲は猟師さんに頼ることが多いのですが、この町では農家さんがそれぞれ狩猟免許を取り、罠を仕掛けて捕獲を行っています。男性だけでなく、女性や高齢者など100人近くが協力してイノシシの捕獲に取り組んでいるので、安定した量も確保できるんですよ。
―本当に町ぐるみで関わっているのですね。
そうなんです。捕獲したイノシシは食肉として活用するほか、皮は町のお母さん方の手を借りて素敵な革製品へと生まれ変わっていきます。キーケースや小銭入れ、スマホケースに至るまで、味わいのあるレザーグッズが作られています。
―肉も皮も無駄なく使われているのですね。ところで、イノシシ肉はどのような味なのでしょうか?
どちらかというと、豚肉に近いですね。肉が生臭かったり固かったりする印象があるかと思うのですが、美郷町のイノシシ肉は処理がきちんとされているので、臭みも固さもほとんど気にならず、おいしくいただけます。生きたままのイノシシを処理施設に送り十分な処理をするため、臭みや固さの少ない食肉になります。
―野生のイノシシ肉をおいしくできるなんて、どのようなコツがあるのでしょう?
捕獲したイノシシを生きたまま処理工場に運び、しっかりと血抜きをするんです。そうすることで血生臭さがなくなり、おいしい食肉になるんですよ。特に冬は、「山くじらの味噌すき鍋」といったような熱々のレシピでいただくのがおすすめです。
町内には「山くじらラーメン」のお店もあり、年中イノシシを味わうことができます。イノシシの骨でダシを取ったスープと、イノシシ肉がチャーシューとして乗っているラーメンは、本当においしいですよ。私もよく行きます。
チャーシューって薄いお肉ですが、まったく固くなくて、イノシシ肉と聞いてびっくりするぐらいです。本当に柔らかくて。一度口にしたら、イノシシのイメージが変わるんじゃないかと思います。
ふるさと納税で「おおち山くじら」を頼まれたお客さまからも、「こんなにおいしいイノシシ肉は初めて食べました」「子どもでもぱくぱく食べました」といったように、山くじらのお肉に感動される声も届いています。
―それは嬉しいですね。ちなみに地元の方々は、山くじらをどのように食べていますか?
例えばバーベキューをする時にそのまま焼いて食べたりします。タレをつけたり、シンプルに塩をかけたりするだけでも、十分おいしいです。山くじらの缶詰なども出ていて、黒ビール煮込みやポトフなどお洒落に作っていますね。そういうものだと少し厚めに、サイコロ状のように山くじらをカットしていますが、これも柔らかくておいしいですよ。
2.異国情緒あふれる万能調味料「みさとサンバル」
―美郷町には一風変わった調味料があるとも伺いました。詳しく教えてください。
「みさとサンバル」ですね。美郷町の薬草と、インドネシア・バリ島の調味料である「サンバル」を掛け合わせた商品です。
実は、美郷町は1993年からバリ島のマス村と友好姉妹都市を提携しており、30年間その関係を大切に育ててきました。その縁もあり、バリ島でよく使われるピリ辛の調味料「サンバル」に目をつけ、美郷町の薬草と組み合わせることで、オリジナル商品「みさとサンバル」を考案しました。
この商品を開発された事業者さんは、実際バリ島に15年以上住んだ経験がある方です。美郷町の風景や空気感がバリ島に似ていると思われたみたいで、さらに友好姉妹都市を結んでいる話を聞いてご縁を感じ、移住されてきました。そこで今回の開発にこぎつけたわけです。
―実際はどのような料理に入れるといいのでしょう?
バリ島の現地の方々は、焼いたお肉や魚などにかけて食べています。私も個人的に「みさとサンバル」が大好きで、どんな料理にもかけて食べています(笑)。普通にラ―メンにかけてもおいしいですし、料理の際、辛み調味料としても使えるんです。そうですね、豆板醤のようなイメージでしょうか。
またひき肉などにも合うので、「みさとサンバル」を入れてコロッケを作ったり、パスタを作ったりしていますね。
―ピリ辛と薬草の独特な風味が混ざり合うと、料理の味もさらに一段上がりそうですね。食材に混ぜても、ラ―メンやお肉のトッピングとしても使えるのは便利です。
3.艶やかな衣装と独特の面に目が奪われる!「神楽」
―ところで美郷町には、郷土芸能として「神楽(かぐら)」が古くから伝承されていますね。神楽は1年のうち、どのようなタイミングで観ることができますか?
主に秋のお祭りで観ることができます。秋の実りを神様に感謝するため、神社の境内で舞を披露するんです。あとは、公演の依頼が入った時に、出張で出向いたりしていますね。
現在美郷町には、6つの神楽団があります。若い方からご年配の方まで、いろいろな年代の方が参加されています。それぞれの楽団には得意演目があり、神楽団によって衣装や舞に特徴があって、観ている側も楽しみですね。
―住民の方にとって「神楽」とはどのような存在ですか?
美郷町の子どもたちには、幼い頃から「神楽」の存在が深く浸透している印象がありますね。親や兄弟、近所の大人が「神楽」を舞っているのを見て育っているので、自分もやりたいと憧れを持つのだと思います。
当日、舞台の横で真似して踊っているお子さんや、舞台に上がりたくてうずうずしているお子さんを見ると、ますます「神楽」の存在の大きさを感じますね。
舞の中には、神様や鬼、姫などが出てきますが、みなさん、仕事の合間を縫って練習に参加し、それぞれ団員同士で役柄に合わせた踊りを教え合っています。6つの神楽団の中でももっとも古い楽団だと、150年ほど前から続いているものもあり、地域の中で大切に伝統が受け継がれてきたことがよくわかるんですよ。
―人から人へ、長い時間をかけてしっかり守られてきたんですね。
4.ひなびた温泉全国No.1「千原温泉(ちはらおんせん)」
―山の恵みと貴重な伝統芸能が印象的な美郷町ですが、美郷町に来たら一度は足を運ぶべきスポットとはどんなところでしょうか?
ぜひ行っていただきたいのが「千原温泉」です。ふるさと納税のお礼品でも、この温泉の温泉水を出品していますが、実はこの温泉、「ひなびた温泉」の全国ランキング(岩本薫『日本百ひな泉』、株式会社みらいパブリッシング、2021年)で1位を獲得したんです。
―それはすごいですね!日本一のひなびた温泉なんて興味をそそられます。どんな温泉なんでしょうか?
大きな県道を外れて、林道を奥へと突き進んだ所にあります。場所的にもまさに「秘湯」だと思います。
昔は湯治や療養のみでしか利用できなかったのですが、今では一般のお客さまも入ることができます。お湯自体は、黄褐色に濁ったぬるめのお湯(34℃)が、足元からぽこぽこ湧いているのですが、やけどや切り傷、皮膚病に効果があるといわれており、遠方からもお客さまが浸かりに来ています。若い学生さんの集団も見かけたりして、世代問わず人気の温泉ですね。
―美郷町にはこのような温泉がいくつもあるのでしょうか?
そうですね。もうひとつおすすめの温泉があります。「石見ワイナリーホテル美郷」にある「潮温泉(うしおおんせん)」です。肌の保湿効果を高める「メタケイ酸」が含まれているので、肌もしっとりしますしとてもリフレッシュできます。
休憩スペ―スも充実していて、アイスが食べられたり、たくさんの本を読めたりして、またお湯に浸かりたくなったら温泉に入る。何度も行ったり来たりしながら、日帰りでもゆったり楽しめます。
5.山間を流れる幻想的な雲海
―レアな温泉も美肌に効く温泉も楽しめるとのことですが、レアといえば、美郷町では「雲海予報」なるものがあるとか。それは一体何でしょうか?
「雲海予報」とは、その日雲海が見られるかどうかを予報しているものになります。公立鳥取環境大学と県内の企業ともに、その日の気温や湿度、風の向きや強さにより、雲海が発生するか否かの確率を発表しているんです。
―ということは、美郷町では雲海が見えやすいのでしょうか?
はい。周囲を山に囲まれた美郷町は、その地理的な条件からも、雲海が発生しやすい環境だそうです。町内の中でも、田之原展望台は美しい雲海を見るのにぴったりな場所です。いくつも連なる山を覆い隠すように、真っ白い雲海が広がる様子は、本当に神秘的です。最近では「両国(りょうごく)おろし」と名づけられ注目を集めたこともあり、この光景を一目見ようと、観光客も増えてきつつあるんですよ。
-ぜひ見てみたいです!雲海は、一日のうちのいつ頃発生しやすいのでしょうか?
雲海の見えやすい時間は、日の出の前後から2時間ほどになります。早朝ですね。ベストな時期としては、春(3〜5月)か秋(9〜11月)です。ぜひ幻想的な雲海を見にいらしてくださいね。
6.町が応援!子どもたちを支える未来応援金
―美郷町では、高校卒業の子どもたちに向けて新しく応援金制度をスタートさせるそうですね。その理由を教えてください。
美郷町だけではないと思いますが、現在町内の子ども(0〜15歳未満)の割合は町民のほぼ1割となっており、町にとって「子どもは宝である」という考えがとても強くなっています。今でも「子ども医療費助成」や「保育料の無料化」、「通学支援費の補助」などの子育て支援は揃っているのですが、高校を卒業したお子さんを対象にした支援がそこまで多くありませんでした。
そこで令和5年から、大学等に進学したいお子さんに向けて、「美郷町子ども未来応援金」という返還不要の応援金制度をスタートさせることにしました。
―返還不要となると、子どものいるご家庭はとても助かりますね。
そうなんです。美郷町の中学を卒業した子どもたちを対象にしていますが、彼らが大学等へ進学する際に、町で用意した応援金を支給していきます。財源は、ふるさと納税の寄付金です。その代わり子どもたちが社会人になった暁には、今度は彼らが美郷町にふるさと納税をすることで、後輩たちを応援してくれることを条件としているんですよ。
応援金を出すことで、進学したい子どもたちの頑張りを町全体で応援していきたいですし、町を巣立っていった子どもたちが、どこへ行っても美郷町とつながっていて欲しいという思いが込められています。
―美郷町では応援金以外にも、全国的に珍しい「定住ポイント」なども導入していますね。
はい。美郷町に移住してくださる40歳以下の方を対象にした制度です。町の人口減少対策として導入したものですが、転入や就職、結婚などの節目ごとにポイントを付与し、1ポイント=1円で使用できるようにしています。さらに現在美郷町では、移住するファミリー向けに環境に優しい「サステナブルハウス」も建築していく予定なんですよ。
―山くじらなど地元の資源を上手に活かしながら、古くから伝わる伝統芸能も次世代へ引き継いでいて、そして何よりも、人口を増やすための対策も着実に行っているんですね。
ぜひそういったところも含めて、美郷町に移住というよりはまずは目を向けて、そして関心を持ってもらえるとうれしいですね。できれば、一度足を運んでいただき、美郷町の魅力を直接感じてみてくださいね。私たちも、ひとりでも多くの方に関心を持ってもらえるようなまちづくりを、今後もしていければと思っています。
7.「ふるさと納税」で美郷町を応援しませんか?
今回は、地域資源であるイノシシを町ぐるみで上手に活用している、島根県美郷町についてご紹介しました。
県内で2番目に高い高齢化率でありながらも、人口4,300人あまりのうち約100名が狩猟免許を持ち、イノシシの捕獲作業に携わっている美郷町。その甲斐あって、「おおち山くじら」は鳥獣害対策の成功例として全国的にも注目を浴びており、美郷町へ視察に訪れる人数だけ見ても、全国1788自治体中16位とその人気ぶりがうかがえます。
イノシシ肉だけでなく、深い山あいを流れる雲海など、町起こしの資源を上手に活かし、特産品へ、観光名所へと発展させていくパワフルさは、町の魅力化に悩むさまざまなエリアにとっても、きっと大きなヒントとなることとでしょう。
現在「セゾンのふるさと納税」では、そんな美郷町を応援する「ふるさと納税」を受付中です。寄付を通じて、美郷町を応援してみませんか?「ふるさと納税」で自治体に寄付してくださった分は、「寄付金控除」として所得税や住民税から控除されるメリットがあります。
さらに、「納税のお礼品」として自治体イチオシの特産品を送ってもらえるので、ご自宅にてふるさとの味をじっくり堪能できるチャンスです!春夏秋冬を通じて、懐かしいふるさとの色を見せ続けてくれる美郷町への応援を、心よりお待ちしています。