フリーランスとして一歩踏み出し事業を始めたり、会社員の立場で副業を始めたりする場合は、開業届を提出しなくてはいけません。提出しなくても罰則はありませんが、さまざまなメリットが享受できなくなるので、提出したほうがお得です。
この記事では、開業届がどんな書類か、提出するメリット・デメリット、具体的な提出方法について詳しく解説します。これまで開業届を出したことがない方でも、不安なく提出できるはずです。
この記事のまとめ
開業届とは、個人事業を開業したことを税務署に届け出るための書類です。青色申告を行うためには提出が必須となっている上に、赤字の繰越ができたり、個人事業主用クレジットカードを作れたりなど、さまざまなメリットが享受できます。一方、日々の記帳・帳簿等の保存が必要になったり、確定申告が必要になったりなどのデメリットにも注意が必要です。
なお、開業届は事業を開始してから1ヵ月以内に、納税地を管轄する税務署に提出します。郵送、窓口持参、e-Taxのいずれかで提出することが可能です。どの方法を選んでも、特に手数料はかかりません。
1.開業届とは?個人事業主は絶対提出しなければならない?
個人事業主として事業を始める場合、まずは開業届を提出します。
ここでは開業届が何か、提出の義務はあるのかなど、基本的な部分について詳しく解説します。
1-1.そもそも開業届とは
開業届とは、個人事業を開業したことを税務署に届け出るための書類です。
事業を開始してから1ヵ月以内に、納税地の税務署(=自宅を管轄する税務署)に提出する必要があります。
1-2.開業届は必ず提出する必要がある
本来、開業届の提出は法律で義務づけられています。ただし、提出しないことに対して特に罰則があるわけではありません。
しかし、青色申告で確定申告をしたい場合は提出が必須となる上に、後述するさまざまなメリットも享受できなくなります。できるだけ速やかに提出するのが望ましいでしょう。
1-3.副業の場合でも開業届を提出しなければならない
会社員が副業を行って収入を得る場合でも、条件に当てはまれば開業届を出す必要が出てきます。ひとつの判断基準になるのが、副業で得られる収入の性質です。副業で得られる収入が、次のいずれかに当てはまれば開業届を出す必要があります(所得税法第229条)。
不動産所得 | 自己所有のマンションやアパート、駐車場を貸して得られた収入など |
事業所得 | 農業や漁業、製造業、小売業、サービス業などの事業などを通して生じた収入など |
山林所得 | 山林を伐採して譲渡したり、立木のままで譲渡することによって生ずる所得 |
一方、副業で得られる収入が雑所得であれば、開業届を出す必要はありません。具体的には以下のものが考えられます。
- 書籍の印税、講演料
- ネットショップで得られた売上
- FXで得た収入
判断に困る場合は、税務署に確認しておきましょう。
1-4.会社員が開業届を提出すると会社にバレる?
サラリーマンが開業届を出しても、それだけで会社に副業をしていることが知られるわけではありません。会社に副業をしていることを知られるのは、開業届のせいというよりも、住民税の特別徴収制度のせいといったほうがふさわしいでしょう。
住民税の納付方法には、普通徴収と特別徴収の2つがあります。
普通徴収 | 納税義務者本人が市区町村から送付された納税通知書を使って納める方法 |
特別徴収 | 会社から支払われる給与から住民税が天引きされる方法 |
大半の会社では特別徴収を行うため、給与の支給にあたって住民税を天引きします。しかし、会社から支給する給与に対して住民税額があまりに多かった場合、なぜそのような差が生じたのか調査に乗り出すはずです。
住民税が増えた理由が「副業により収入が増えたから」だった場合、副業を禁止している会社だったら懲戒の対象になる可能性もゼロではありません。どうしても会社に副業をしていることを知られたくない場合は、副業で得られた収入に対する住民税は、普通徴収で納めるようにしましょう。
1-5.青色申告承認申請書もセットで提出しよう
開業届を出す際は、青色申告承認申請書もセットで提出しましょう。青色申告承認申請書とは、青色申告を行うために事前に提出する書類のことです。
個人事業主の場合、毎年確定申告を行い、納めるべき税額の計算を求め、実際に納付しなくてはいけません。その際、青色申告で進めることで、税制上のメリットが大きくなります。具体的にどのようなメリットがあるかについては、後述します。
2.開業届を提出するメリット
開業届を提出することには、さまざまなメリットがあります。ここでは、具体的なメリットとして、以下の7点について解説します。
- 青色申告によって税制上の特典が受けられる
- 赤字を最大3年間繰り越せる
- 経費の範囲が広がる
- 屋号の銀行口座を開設できる
- 開業届が就業証明になる
- 個人事業主用のクレジットカードを作れる
- 小規模企業共済に加入できるようになる
2-1.青色申告によって税制上の特典が受けられる
青色申告によって、最大65万円の特別控除が受けられます。つまり、所得税の計算にあたって差し引ける額が大きくなるため、その分節税することが可能です。
なお、青色申告によって受けられる特別控除の額は、適用要件をどれだけ満たしているかにより変わります。
以下の表も参考にしてください。
控除額/要件 | 不動産所得か事業所得を得ている | 複式簿記で記載している | 確定申告書類を期限内に提出している | e-Taxによる申告または電子帳簿保存をしている |
65万円 | ○ | ○ | ○ | ○ |
55万円 | ○ | ○ | ○ | - |
10万円 | - | - | - | - |
2-2.赤字を最大3年間繰り越せる
青色申告を行っている場合、損失申告(赤字の申告)を行うと、以下の特典が受けられます。
損益通算 | 事業などの損失を他の所得の黒字と相殺できる |
3年間の繰越控除 | 損益通算をしても赤字が残る場合は、翌年以降3年間に赤字を繰り越すことができる |
純損失の繰戻還付 | 本年度の赤字を翌年ではなく、前年に繰戻し、前年度の支払済みの税金の還付を受ける |
これらの特典があるため、結果として納めるべき税金を抑えることが可能です。
2-3.経費の範囲が広がる
開業届を出すことで、事業で得られた収益は事業所得として扱われるようになります。それに伴い、以下の費用を経費として扱うことが可能です。
- 仕入の費用
- 消耗品費
- 広告宣伝費
- 旅費交通費
- 水道光熱費
- 通信費
- 飲食代(一部制約有)
- 慶弔金
- 事業に関連する団体の年会費
なお、開業届を出す前に購入・支出した場合も経費になる可能性があります。また、ここで列挙した以外も、事業の性質上経費として扱うことができる費用もあるため、税務署もしくは税理士に確認することをおすすめします。
2-4.屋号の銀行口座を開設できる
個人名義の銀行口座だけでも個人事業はできますが、できれば分けるのが望ましいです。開業届を出して個人事業主になれば、屋号名義の銀行口座を開設できます。
屋号名義と個人名義とで銀行口座を分ければ、通帳の明細がそのまま事業におけるお金の流れとなるため、計算の手間もかかりません。また、収支が明らかになるため、資金繰りや事業計画も立てやすくなります。さらに、信頼度もアップするので、顧客やクライアントからの信頼獲得にも貢献するはずです。
2-5.開業届が就業証明に
開業届は、就業証明としても利用できます。
「働いている(就労している)こと」を法的に証明する場合、会社員の場合は勤務先が発行する就労証明書を利用します。
一方、個人事業主の場合、会社員の就労証明書に相当するものが開業届です。子どもが保育園に入園する場合など、保護者の就労・就業状況がわかる書類を提出しなくてはいけない場合にも、開業届を使うことができます。
2-6.個人事業主用のクレジットカードを作れる
開業届を出すことで、個人事業主用のクレジットカードを作ることができます。仕事とプライベートの支出を完全に分けられるので、非常に便利です。個人事業主用のクレジットカードにもさまざまなものがあるので、ご自身に合った1枚を選びましょう。
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2-7.小規模企業共済に加入できるようになる
個人事業主であれば、小規模企業共済に加入できます。小規模企業共済とは、個人事業主や中小企業経営者を対象とした共済制度のことです。つまり、何らかの理由で事業を止めたり、退職したりした場合の生活資金に充てるため、事前に積み立てておく制度と考えましょう。事業停止・退職後は一括・分割の形で共済金を受け取れます。
なお、小規模企業共済の掛け金は、全額を所得控除することが可能です。つまり、所得税の計算にあたって差し引けるため、その分所得税が安くなります。
3.開業届を提出するデメリット
一方、開業届を提出することには、デメリットもあります。
- 確定申告が必要になる
- 日々の記帳や帳簿等保存が必要になる
- 失業手当を受け取れない
- 配偶者の扶養から外れるケースがある
それぞれのデメリットについて、詳しく解説します。
3-1.確定申告が必要になる
個人事業主になると、確定申告が必要になります。
正確にいうと、収入から経費を差し引いた額(事業所得)の金額が年間で48万円以下であれば、確定申告をする義務はありません。
しかし、事業所得の金額が年間で48万円を超えているにもかかわらず確定申告をしなかった場合、以下のペナルティが科せられます。
無申告加算税 | 本来確定申告する必要があるのにしなかったことに対するペナルティ |
延滞税 | 確定申告の期限どおりに申告・納税しなかったことに対するペナルティ |
3-2.日々の記帳や帳簿等保存が必要になる
開業届を提出すると、日々の記帳や帳簿等の保存をしなくてはいけません。具体的にどんな作業が必要になるのかは、青色申告か白色申告かによっても異なります。両者の違いをまとめました。
青色申告 | 白色申告 | |
記帳方法 | 複式簿記 | 単式簿記 |
収入・費用計上のタイミング | 発生主義・現金主義 | 発生主義 |
提出書類 | 青色申告決算書・確定申告書 | 収入内訳書・確定申告書 |
保存書類 | <7年>帳簿・決算関係書類・領収書・請求書など <5年>見積書・注文書など | <7年>法定帳簿 <5年>任意で作成した帳簿・書類 |
3-3.失業手当を受け取れない
会社を離職した場合、一定の条件に当てはまれば、失業手当を受け取ることができます。
ただし、会社を離職してすぐに開業届を出した場合、失業手当は受給できなくなるため注意が必要です。本来、失業手当を受け取るためには失業状態になくてはいけません。しかし、開業届を出した時点で個人事業主として活動を始めたことになり、失業状態から脱すると考えられることから、失業手当も受け取れなくなります。
3-4.配偶者の扶養から外れるケースがある
健康保険組合によっては、年収に関係なく「開業届を提出している個人事業主であること」により、扶養から外れるケースもあるのが実情です。事前に配偶者が加入する健康保険組合に、被扶養者が開業届を出した場合の扱いを確認しておくと良いでしょう。
4.開業届の手続き方法について
開業届の手続き方法は、一言でまとめると「開業届を出して税務署に提出する」ことです。しかし、実際に提出する際に知っておくべきことは他にもあるため、詳しく解説します。
4-1.開業届も青色申告承認申請書はダウンロードできる
開業届および青色申告承認申請書は、国税庁のホームページからダウンロードできます。パソコン上で入力できるPDFとして公開されているため、必要事項を記入の上印刷し、そのまま提出することも可能です。もちろん、ダウンロードした上で印刷し、手書きで必要事項を書き込んでも構いません。
4-2.用意する書類は?
開業届を提出する際は、以下のものが必要になります。
- 開業届
- 青色申告承認申請書
- 本人確認書類(マイナンバーカード、運転免許証など)
- マイナンバーがわかるもの(マイナンバーカード、住民票の写し)
- 印鑑
2023年現在、改行届に押印欄はありません。そのため、印鑑はなくてもかまいませんが、開業届を書き間違えていた場合、訂正する際にあると便利です。
4-3.どこにいつまでに提出する?
開業届は、原則として事業を開始した日から1ヵ月以内に、納税地を管轄する税務署長に提出します。納税地とは、一般的には住所がある場所のことです。例えば、東京都豊島区にお住いの場合、豊島税務署長宛に提出することになります。
4-4.どんな提出方法がある?
開業届の提出方法は以下の3つです。どの方法を用いても、手数料はかかりません。
- 直接税務署に持参する
- 税務署宛に提出する
- e-Tax(国税電子申告・納税システム)で送信する
なお、e-Taxで送信する場合の大まかな手順は以下のとおりです。
- 利用者識別番号の取得
- 電子証明書の取得
- e-Taxのインストール
- e-Taxで開業届を作成する
- 電子署名をして送信する
利用にあたってはマイナンバーカードとスマートフォンが必要になるため、事前に用意しておきましょう。
おわりに
開業届は開業してから1ヵ月以内に提出しましょう。提出しなくても罰則はありませんが、提出することで受けられるはずのメリットが享受できなくなるためです。サラリーマンとして副業をする場合でも、収入が事業所得に当たるなら、忘れずに出しましょう。
開業届の提出は、税務署に行く時間がなくても郵送やe-Taxで簡単にできます。記入箇所もそれほど多くないため、難しく考える必要はありません。「それでもやっぱり不安」という場合は、税務署に足を運び、税務署員に教えてもらいながら書くのもひとつの方法です。