投資を学んでいくと、出てくるワードのひとつに「イールドカーブ(利回り曲線)」があります。また、経済情報でもよく耳にすることもあるかもしれません。
そもそも「イールドカーブ」とは、利回りのことを指し、債券の利回り(金利)と償還までの期間の関係を示すカーブのことです。
市場や経済全般を見通す際に重要なものとなってきますが、「イールドカーブ」というワードを知っていても詳しい概念を知らなかったり、あまり理解できていない人も多いのではないでしょうか。
今回のコラムでは、「イールドカーブ」の概念、形状と示す意味についてと、「イールドカーブ・コントロール」についてわかりやすく解説をしていきます。
利回りとは?
債券の見通しや市場もしくは経済全般について語る際に、「イールドカーブ(利回り曲線)」という言葉をよく使います。しかし、イールドカーブの概念を理解するためには、まず「利回り」について知っておく必要があります。
「利回り(イールド)」とは、単純にいえば投資した元本から一定期間でどのくらいの利益が得られたかを表します。債券の場合、それは購入価格と支払われるクーポンによって決まります。
債券の投資家は、債券同士を比較するために、「最終利回り」と呼ばれる利回りをよく使います。最終利回りは、『債券を満期まで保有した場合に投資家が最終的に手にする利益』のことで、すべての利払い金と購入時からの元本価格の上昇、または下落分を反映したものです。
債券とは?
債券は、国や企業などの発行元が、投資家から資金を借り入れるために発行する「有価証券」です。債券には一定期間の満期が定められており、満期となる償還日には、額面金額が投資家に払い戻されます。債券投資をしている投資家は、発行元に対してお金を貸す代わりに利子をもらう、というイメージです。
債券と株式の違い
投資商品として選ばれることの多い債券と株式には違いがあります。債券と株式は、発行元や発行目的、得られる利益が大きく異なります。
まず、債券は国や企業が資金を調達するために発行する借用証書のようなものです。国が発行するものは「国債」、企業が発行するものは「社債」と呼ばれ、投資家は債券を購入すると国や企業にお金を貸すことになります。債券を購入すると、定められた満期日まで定期的に利子を受け取ることができるのに加え、満期になったら元本が戻ってくることも決められています。
一方で株式は、株式会社が資金調達のために発行します。 投資家は株式を買うとその会社に出資した株主となり、配当や売買益などで利益を得ることができます。
株式投資について詳しくはこちらのコラムを合わせてご覧ください。
「イールドカーブ」とは?
「イールドカーブ」とは、債券の利回り(金利)と償還期間との相関性を示した曲線グラフです。縦軸を「利回り」、横軸を「残存期間(満期日までの期間)」として、投資期間ごとの利回りを線で結んだものです。日本語では「利回り曲線」と呼ばれています。
イールドカーブは1種類の債券についてグラフ化したものではなく、複数の債券についてグラフ化したものです。例えば国債は1年間のものや5年間のものなど複数の商品が販売されています。
イールドカーブは複数の債券群の中で投資する商品の判断や同じ債券群で利回りの差を分析するために利用をするので、グラフ化することで視覚的に判断しやすい状況にします。
イールドカーブの曲線の形状は、この先の金利の上昇が予想されているのか低下が予想されているのかを教えてくれます。イールドカーブの傾きは、投資家の将来の金利の見方、そして経済の見通しを示すことから、経済環境を表す良い指標といえます。
イールドカーブの形状として「順イールド」「逆イールド」があります。また、形の変化を示す表現で「フラット化」「スティープ化」というのがあります。
イールドカーブの形状と示す意味
前述したイールドカーブの形状の種類「順イールド」「フラット化」「逆イールド」「スティープ化」についてそれぞれ解説していきます。
3-1. 順イールド
通常のイールドカーブは右肩上がりの形状をしています。お金を返す(償還)までの時間が長いほど、返せなくなるリスクなどの不確実性が高まるため、金利(利回り)が高くなっていることを示しています。
このタイプのイールドカーブは、経済が成長する景気拡大時(金融緩和)に見られるのが一般的です。
フラット化
フラットなイールドカーブは、景気が拡大から後退に向かう時期やその反対の時期に見られます。
特に、急激な経済成長を抑えるために中央銀行が金利を引き上げるときに最もよく見られます。イールドカーブのフラット化とは短期金利が上昇しインフレ期待が高まっていくことで、長期金利が下落して曲線の角度が小さくなることを指します。
逆イールド
イールドカーブは基本的には右肩上がりですが、今後金利が低下し続けると読めば、時に長期債の利回りが短期債よりも低くなり、イールドカーブが右肩下がりとなることがあります。 債券は長い期間のものほど同じ利回りの変動に対して価格が大きく動く、という特性を持っています。
逆イールドとはフラットの状態からさらに短期金利が上昇し、長期金利の水準を上抜けてしまう状態のことです。この形はそれほど頻繁には見られませんが、金利とインフレ率がどちらも下降している景気後退時(金融引き締め時)に逆イールドを形成することが多くなります。
この状態に陥ると借り入れコストが上昇するので、企業の設備投資や個人消費が縮小し、景気が後退していく可能性が高いと考えられ、金融市場では警戒感が高まります。
3-4. スティープ化
スティープ化とは短期金利が下落もしくは長期金利の上昇により、曲線の傾きが大きくなることを指します。先行き金利の上昇が見込まれ、長期債券が売り込まれる場合に出現しやすいです。
3-5. イールド(金利)期間構造理論
債券のイールドカーブには、「純粋期待仮説」「流動性プレミアム仮説」「市場分断仮説」というどのようにしてイールドカーブが決まるのかを説明する代表的な仮説が3つあります。
純粋期待仮説
「純粋期待仮説」とは、現在の金利の期間構造は、将来の金利の期待値(予測値)によって決定されるという考え方です。右肩上がりのイールドカーブ(順イールド)は、市場参加者が将来、金利が上昇すると予測していることを示しており、反対に右肩下がりのイールドカーブ(逆イールド)は、市場参加者は将来金利が低下すると予測していることを示しているというものです。
流動性プレミアム仮説
「流動性プレミアム仮説」とは、期間の長い債券ほど価格変動リスクが大きいことを表しています。他の条件が同じであれば、その分だけ長期の金利は短期の金利に比べてプレミアムが付くため長期の金利が高くなるという仮説です。
市場分断仮説
「市場分断仮説」とは、債券市場は市場参加者(この場合は主に投資家ということになる)が、債券を購入する背景になっている資金の性格によって、買い付ける債券の期間が決定されるため、イールドカーブの形状は投資家の需給関係で決まるという理論です。
上記3つの仮説は、いずれの仮説もイールドカーブを形成しているひとつの要因となっていると思われます。
参照元:財務総合政策研究所(シリーズ日本経済を考える−93.イールドカーブ(金利の期間構造)の決定要因について)
イールドカーブ・コントロールとは?
「イールドカーブ・コントロール(YCC)」とは、日本銀行(日銀)が「短期政策金利」と、償還までの期間が10年程度ある長期国債の「長期金利」の誘導目標を定め、その水準を維持するためにイールドカーブ全体を操作するための金融緩和策です。「長短金利操作」とも呼ばれています。
具体的には、短期金利は金融機関が日銀に預けている預金(当座預金)の一部にマイナス0.1%の金利を付けることで調整しています。長期金利に関しては、0%程度に誘導し、市中に出回っている国債を買い入れることで調整しています。
日本国債は国が発行する債券ですが、幅広い投資家が自由に売買できます。しかし、日銀が国債を買えば、対象となった銘柄の需給は引き締まってしまいます。需要が高まるほど債券価格は上昇し、利回りは低下するため、国債を買い入れることで人為的に需給バランスを操作して誘導したい金利水準に押し下げようとします。
日銀が市中から国債を買い入れることを「国債買い入れオペレーション(公開市場操作)」といいます。
イールドカーブに関するよくある質問
ここまでイールドカーブの概念や形状についてを解説してきましたが、イールドカーブに関するよくある質問に関して触れていきます。
イールドカーブをどんな時に確認すればいいですか?
イールドカーブは経済状態を見ることができるひとつの指標です。債券投資をする際にも、投資可能な異なる債券を比較するのに、イールドカーブは便利な指標となります。投資家は、イールドカーブを確認することで、それをより広い投資判断の先導役として利用することもできます。
イールドカーブは債券の利回りと償還期間をグラフで示したもので、基本的には右上がりのグラフとなりますが、景気によっては長期債券の利回りが下がり、右下がりのグラフとなってしまいます。その場合、景気後退につながる可能性がありますので、投資家は特に注目するタイミングといえます。
また、イールドカーブを見る際は、右上がり右下がりかはもちろん、スティープ化が進んでいるのかフラット化が進んでいるのかにも注目するべきです。フラット化が進むと、短期金利と長期金利の差が縮小します。例えば、1年物国債の利回りが1.0%、10年物国債の利回りが1.2%というように、償還期間の違いによる利回りの差が小さくなります。このため、投資家にとっては長期債を保有するメリットが減少し、リスクに見合った追加的なリターンが得られにくくなります。
イールドカーブ・コントロールの問題点とは何ですか?
イールドカーブ・コントロールの問題点の一つは、国債市場の機能低下です。政府が財政支出のために国債を増発する中で、日銀が金利を一定水準に保つために大量の国債を購入することになります。その結果、日銀の国債保有額が著しく増加し、市場で自由に取引される国債の量が減少します。これにより、国債市場の価格発見機能や流動性が低下し、市場メカニズムが歪められる可能性があります。
イールドカーブ・コントロールの目的は何ですか?
「イールドカーブ・コントロール」は、イールドカーブの形状を適正な形状に調整していこうとしたもので、それまで進めてきた金融政策をより円滑に進めるための対処策です。
日銀の金融政策は長らく「短期金利」を操作するもので、「長期金利」はマーケットの需給などさまざまな背景で自然に決まるものでした。ですが、さらに人為的に金利水準をコントロールするために、このイールドカーブ・コントロールを導入することになりました。
イールドカーブ・コントロールを通じて国債の金利が幅広く引き下げられることができれば、私たち個人が借りるお金の金利も、企業活動のための企業の負債の金利も、貸出金利のベースとなる部分が下がります。
イールドカーブ・コントロールを撤廃するとどうなりますか?
イールドカーブ・コントロールを撤廃してしまえば、特定の水準で「指値オペ」を実施する根拠を失ってしまいます。 また、長期国債利回りが大きく跳ね上がってしまうリスクがあるといわれています。
逆イールドとは何ですか?
逆イールドは、短期金利が長期金利を上回る異常な状態を指します。例えば、2年物国債の利回りが2.5%で、10年物国債の利回りが2.0%となるような状況です。これは often景気後退の前兆とされ、投資家の警戒感が高まります。一方、通常の状態である順イールドでは、長期金利の方が短期金利よりも高くなります。例えば、2年物国債の利回りが1.5%で、10年物国債の利回りが2.5%というような状態です。この場合、長期的な経済成長への期待が反映されていると考えられます。
おわりに
本コラムでは、イールドカーブについて、その基本概念から形状の意味、そしてイールドカーブ・コントロールまで幅広く解説してきました。
イールドカーブは一見複雑に見えますが、経済状況や将来の金利動向を把握する上で非常に重要な指標です。投資家だけでなく、経済に関心のある方々にとっても、この概念を理解することは大きな意味があります。
今回の解説を通じて、イールドカーブという言葉の意味だけでなく、その背後にある経済の動きや投資判断への影響についても理解を深めていただけたのではないでしょうか。
金融市場は常に変化しており、イールドカーブの形状も日々動いています。このコラムを基礎知識として、今後はニュースや経済指標を見る際に、イールドカーブの動きにも注目してみてください。そうすることで、経済や金融市場への理解がさらに深まることでしょう。
投資や経済に関する知識は、一朝一夕には身につきません。しかし、一つずつ理解を積み重ねていくことで、より豊かな金融リテラシーを身につけることができます。イールドカーブの理解は、その重要な一歩となるはずです。
さらに詳しい情報や実践的なアドバイスをお求めの方は、ぜひ投資総合スクールThe Gavelの公式YouTubeチャンネルをご覧ください。イールドカーブを含む、投資や経済に関する様々なトピックについて、分かりやすく解説しています。
今後も金融リテラシーを高め、賢明な経済判断や投資決定ができるよう、継続的な学習を心がけていきましょう。