「葬送儀礼」が多様化していくなかで、現在は「火葬をしたくない」「葬式をしたくない」「埋葬をしたくない」と考える方の意見もよくクローズアップされるようになりました。
ここではこの3つを取り上げて、その選択肢が可能かどうかを解説します。またそのうえで、特によく話題にあがる「直葬(火葬式)」をピックアップして、その特徴やメリット・デメリットについて紹介していきます。
この記事のまとめ
「火葬をしたくない」「葬式をしたくない」「埋葬をしたくない」という希望は、いずれも「葬送を簡素に行いたい」という願いから来ていることが多いものです。しかしこの3つの希望は、まったく違う意味を持ちます。そこでこのコラムではまず、「この3つの希望が叶えられるかどうか」を解説します。またさらに、そのなかでもよく取り上げられる「直葬(火葬式)」に注目して、従来型との葬儀の違いやメリット、デメリット、事前準備や注意点について解説していきます。
「葬儀・埋葬の多様化」はどこまでみとめられるか?火葬・葬式・埋葬について
「葬送を簡素化してほしい」「宗教上・信仰上の理由で、従来のような葬送の形式を希望していない」という方は、意外と少なくありません。現在は葬儀・葬送儀礼・葬送の形態も多様化していて、このような希望も聞き届けられやすくなっています。
ただし、「したくないもの」が、火葬か葬式か、それとも埋葬かで判断は大きく変わってきます。ここではこの3つをまずはバラバラに取り上げ、「それが可能かどうか」を解説していきます。
「火葬をしない」はOKかNGか?
結論からいうと、火葬をしないという選択は基本的には不可能です。
日本では、99.9パーセント以上の方のご遺体は「火葬」というかたちで処理されています。世界を見れば宗教上の理由などから土葬を選択しているところもありますが、日本では公衆衛生上の観点や国土の面積の面から、特別な事情がない限りは火葬で見送られることになります。
なお、特殊な一定条件を満たせば(航海中の船で亡くなり、かつ船中にご遺体を保存できず、死後24時間以上経っている場合など)水葬というかたちで見送ることもできますが、これはあくまで特殊な例です。
また、土葬を直接的に禁じる法律こそありませんが、ほとんどすべての自治体・霊園は条例でこれを禁止しています。
このため、日本に住んでいる以上は「火葬をしない」という選択肢を選ぼうとすることは、あまり現実的ではありません。
「葬式をしない」はOKかNGか?
結論からいうと、「葬式をしない」という選択も可能です。前述したとおり、火葬を行いさえすれば良いでしょう。
「火葬」とは異なり、「葬式」はしてもしなくてもまったく問題がないものです。後で詳しく述べますが、「直葬(火葬式)」という形式を選べば、宗教的な儀式は一切必要ありませんし、弔問客を受け入れる必要もありません。
ただし、「葬式はしたくない、葬儀会社も入れずに自分達だけで見送りたい」とする希望を実現することは、非常に難しいといえます。上でも述べたように日本では、特殊な条件下を除き、火葬というかたちで故人をお見送りすることになります。
火葬を行う場合は火葬場を利用するのですが、火葬場の少なくない場所が「個人での持ち込みを禁じる、葬儀会社を通して」としているからです。またご遺体を搬送するときなどにも特別な処置が必要ですから、なんらかの形で葬儀会社が関わることになるのが一般的です。
「埋葬をしない」はOKかNGか?
結論からいうと、「基本的には可能だがいずれはなんらかの方法でお見送りをしなければならなくなる」といえるでしょう。
「『埋葬をしない』という選択肢を取ることはできるかどうか」について解説していきます。日本の法律では、「死後〇年以内に埋葬しなければならない」という決まりはありません。そのため、手元に長くご遺骨を留め、手元供養をしていくことは可能です。また、墓地に入れるのではなく、海洋葬や樹木葬などでお見送りすることもできます。
ただし、ご遺骨は、他人の土地に許可なく埋めることはもちろん、自宅の庭に埋めることも許されていません。また、死後何年も経過したご遺骨であっても、ゴミとして出すと法律により咎められます。
このため、「ずっと自分の手元に置いておくことは可能だが、将来的にはなんらかのかたちでお見送りをしなければならない日が来る」といえるでしょう。
「葬式をしたくない」の希望を叶える方法~直葬(火葬式)とは
「火葬をしない」という選択肢を日本で取ろうとすることは現実的ではありませんし、「埋葬をしない」とする選択肢をとってもいずれ何らかの方法でご遺骨を見送る必要が出てきます。
しかし「葬式をしない」という選択肢は容易に選ぶことができます。この「葬式をしないスタイル」は、「直葬(火葬式)」と呼ばれています。ここからはこの「直葬(火葬式)」について取り上げて解説していきます。
直葬(火葬式)とは、もっとも簡素な葬儀の形態を指す
「直葬(火葬式)」は、葬儀のなかでもっとも簡素な形式をいいます。一般葬では多くの方の弔問を受け入れますが、直葬(火葬式)の場合はごく近しい方だけで故人をお送りすることになります。一般の弔問客は招き入れず、ご家族が声を掛けた方だけが出席します。
この形式は特に「家族葬」と呼ばれるものであり、その意味では直葬(火葬式)もまた家族葬の一種だといえます。ただし一般的な家族葬よりも直葬(火葬式)の方が声を掛ける方の範囲は狭くなりますし、一般的な家族葬が執り行う通夜や葬儀・告別式も行いません。
直葬(火葬式)の場合は、火葬炉の前で簡単なお別れをするだけで終わります。ご家族が強く希望しないかぎりは宗教者も呼びませんし、お別れ自体も非常に簡単に終わります。収骨をした後、そのまま解散となることが多く、会食もしないのが基本です。
なお「直葬(火葬式)」としていますが、日本の法律では死後24時間以内の火葬は禁じられています。そのため、スピーディーなお見送りを希望しても、亡くなった当日に直葬(火葬式)を行うことはできません。
通夜 | 葬儀・告別式 | 一般弔問客 | 宗教的儀式 | |
一般葬 | する | する | 受け入れる | 特段の事情がない限りは行う |
2日間にわたる家族葬 | する | する | 受け入れない | 基本的には行う |
1日で終わる家族葬(一日葬) | しない | する | 受け入れない | 簡素ではあるが、基本的には行う |
直葬(火葬式) | しない | しない | 受け入れない | 基本的には行わない |
※一般葬~1日葬でも、ご家族が希望すれば無宗教の葬儀を行うことはもちろん可能です。
直葬(火葬式)のメリット
直葬(火葬式)のメリットとして、以下のようなものが挙げられます。
- 費用の負担が少ない
- 体力面や時間的な面での負担が少ない
- 弔問客の対応にあたる必要がなくなる
ひとつずつ見ていきましょう。
費用の負担が少ない
直葬(火葬式)のもっとも大きなメリットは、「費用の負担が少ない」という点です。
葬儀の規模が小さいため葬儀にかかる費用自体も抑えられるのですが、宗教者を呼ぶときに必要になる「お布施」も、費用の読みにくい「飲食費」も、直葬(火葬式)の場合は発生しません。
お布施と飲食費は葬儀全体にかかる費用のおよそ2分の1~3分の1程度を占めますから、これがなくなるだけで、葬儀の費用は大きく抑えられます。
ちなみに葬儀会社が出している「葬儀〇円から」の「〇円」は、この直葬(火葬式)を基準にしていることが多いといえます。
体力面や時間的な面での負担が少ない
直葬(火葬式)は、通夜をせず、葬儀・告別式もしない葬送形態です。そのため、時間はほとんどかかりません。翌日に火葬をして、収骨をして、そのまま解散……といった流れを取ることができます。長くても半日程度で終わるため、時間的な負担は少ないといえるでしょう。
また直葬(火葬式)は非常に簡素なスタイルを取りますから、体力面での負担も少なくて済みます。「喪主が高齢である」「家族が、病気を患っている」などの事情がある場合は、直葬(火葬式)は非常に選びやすい選択肢となるでしょう。
弔問客の対応にあたる必要がなくなる
一般葬や家族葬の場合、どうしても喪主は来てくれる弔問客に対応しなければなりません。喪主は決めることが多いうえ、このような対応に時間が取られるため、なかなか故人とゆっくりお別れができない状況に陥ることもあります。
しかし直葬(火葬式)の場合は、弔問客の数は抑えられるので、このような状況になることはほとんどありません。
直葬(火葬式)のデメリット
このようにメリットが多い直葬(火葬式)ですが、以下のようなデメリットもあります。
- 周囲の方から理解が得られないことがある
- 後で弔問に訪れる方が多い
- 入ってくる香典も少なくなる
ひとつずつ紹介していきます。
周囲の方から理解が得られないことがある
直葬(火葬式)は、非常にシンプルな葬儀です。また呼ぶ方の数が限られるため、「あんな小さな葬儀でお見送りをすることになるなんて」「参列したかったのに、参列できなかった」という不満を招くこともあります。
火葬をしてしまえば、もう「肉体を有していた故人」に会うことができなくなるため、このような不満が後を引くこともあります。
後で弔問に訪れる方が多い
直葬(火葬式)は呼ぶ方の数が限られます。そのため、「直葬(火葬式)があったことは知っていたが、呼ばれていなかったので行けなかった」「亡くなったことを後で知った」という方も出てきます。その方たちのなかで故人とお別れをしたいと思う方がいた場合、個別に後日に弔問をしてくれます。
これは非常にありがたいことではありますが、葬儀とは異なり、一組ひと組個別に対応しなければならず、手間と時間がかかります。
入ってくる香典も少なくなる
直葬(火葬式)は葬儀の費用を安く抑えることはできますが、呼ぶ方も限定的です。そのため、入ってくる香典も少なくなります。
もともと香典は相互扶助の精神で出されていますが、これが少なくなることで、持ち出しが大きくなることはあります。
直葬(火葬式)を希望する場合の事前準備と注意点
直葬(火葬式)について知ったところで、最後に、直葬(火葬式)を希望する場合の事前準備と注意点について解説していきます。
直葬(火葬式)の希望は、故人の逝去後でも出すことができます。ご家族から「本人が葬式をしたくないと言っていたから、直葬(火葬式)にしてください」といえば、葬儀会社は直葬(火葬式)のプランを提示します。
ただ、生前にご自身で「葬儀の形態を考えていて、直葬(火葬式)にしようと決めた」という場合は、エンディングノートなどに記しておくとよいでしょう。また、故人の逝去後に葬儀形式や、葬儀社などの指定があるとわかった場合には、ご家族は記された内容に合わせて準備してあげると良いでしょう。
直葬(火葬式)を行うことに、法律的な縛りはありません。ただし、菩提寺があり、そこに先祖代々の遺骨を納めていたという場合、お寺から(私たちを呼ばずに)葬儀をしたから、うちの宗派を信じていないということになる。墓地の利用はやめて欲しいと言われることもあります。
そのため、直葬(火葬式)を希望するのであれば、菩提寺との関係がどうなっているかを確認することが重要です。
お葬式の準備は「セゾンの相続 お葬式サポート」がおすすめ
「葬送」は非日常的なことです。そのため、わからないことも多いことでしょう。「できるだけ簡素にしたいが、直葬(火葬式)のやり方がわからない」「本当にこれらを省略していいか迷っている」という方は、ぜひ「セゾンの相続 お葬式サポート」にご相談ください。 提携専門家のご紹介も可能です。
おわりに
「火葬をしたくない」「葬式をしたくない」「埋葬をしたくない」と考える方は、決して少なくありません。「火葬をしないこと」は日本ではほぼ不可能ですし、「埋葬したくない」と思ってもいつかは何らかの形で故人の遺骨を送る必要があります。しかし「葬式をしたくない」という希望は叶えられます。