iDeCoのメリットは、節税効果があることと少額からでも始められることです。ただし運用状況によっては資産が減ったり、60歳まで引き出せなかったりなどの注意点もあります。このコラムではiDeCoのメリットや注意点、始め方について詳しく解説します。
1.iDeCoとは老後のための個人型確定拠出年金のこと
iDeCoとは、個人型確定拠出年金のことで、簡単にいうと積立投資による年金です。iDeCoには、サラリーマンや個人事業主など、日本在住で公的年金制度に加入している20歳以上60歳未満の方であれば、どなたでも加入できます。
iDeCoと同様に公的年金にプラスできる制度として国民年金基金がありますが、こちらはサラリーマンは加入できません。また、国民年金基金は確定給付型であるため、将来受け取れる金額が決まっています。
iDeCoでの運用は、主に元本確保型商品または投資信託(国内株式型、海外株式型、国内債券型、海外債券型、バランス型など)で行います。投資信託は、集まった資金を投資のプロが運用しています。つまり、iDeCoを利用するということは、プロに資産を預けて資産運用しているのと同じだといえるでしょう。
投資である以上、iDeCoにもリスクはありますが、掛金が全額所得控除になるなどの大きな節税メリットは見逃せません。iDeCoが向いているのは以下のような方です。老後の資産作りを考えているのであれば、個人型確定拠出年金であるiDeCoは、検討に値する制度でしょう。
- 所得が多く、納税額も多い方
- 多少リスクを背負ってでも老後の資産を増やしたい方
- 比較的若い方
逆に向いていない方は、以下のような方です。
- 元本割れを恐れている方
- 収入がない方
- 家計が安定していない方
2.iDeCoの6つのメリット
iDeCoのメリットは、以下の6つです。
- ・拠出時・運用中・受取時の3つの税制メリットがある
- ・転職・退職時しても続けられる
- ・定期預金・保険なども選べる
- ・投資信託のコストが低く、月5,000円から開始できる
- ・運用成績次第で将来受け取るお金が増える
- ・窓口に行かなくても開始できる
iDeCoに加入することで、さまざまな税制メリットを享受できます。また、転職や退職をしても年金資産を持ち運べるため安心です。そして、定期預金や保険なども選べるため、リスクを極力負いたくない方にも向いています。
月々5,000円から始められるiDeCoは加入のハードルが低いことも魅力です。また運用成績次第で、預金しておくよりも将来受け取るお金が増えるでしょう。そして窓口に行かなくても開始できるため、平日が忙しい方でも気軽に始めることが可能です。それぞれのメリットを詳しく解説します。
2-1.拠出時・運用中・受取時の3つの税制メリットがある
iDeCoの税制メリットは、拠出時・運用中・受取時、それぞれにあります。拠出時の税制メリットは、掛金全額が所得控除されるため、課税所得を減らすことで所得税や住民税を軽減できることです。これは、iDeCoの掛金が小規模企業共済等掛金控除の対象であるためです。掛金に上限はあるものの、基本的には掛金が大きくなるほど節税効果も大きくなります。つまり、節税しながら将来のための資産運用ができるのです。
運用中の税制メリットは、利益が全額非課税になることです。通常、定期預金の利息を含む運用益には20.315%の税金がかかりますが、iDeCoでは運用益には課税されません。利益を全額再投資に回すことができるため、複利効果が大きくなり、資産形成にも有利です。
受取時にも一定額の税制優遇があります。iDeCoの受取方法は年金、一時金、年金と一時金の併用から選択できます。年金として受け取る際は公的年金等控除が適用されるため、65歳未満であれば60万円以下まで、65歳以上なら110万円以下までは税金がかかりません。
一時金として受け取る場合は退職所得控除の対象となり、最大で1,500万円まで非課税となります。退職所得控除はiDeCoへの加入年数によって変動します。
加入年数 | 控除額 |
20年以下 | 40万円×加入年数(80万円に満たない場合は80万円) |
20年超 | 70万円×(加入年数-20年)+800万円 |
これらの税制メリットを享受するためには、年末調整や確定申告が必要ですが、いずれにせよ、早期に加入すればするほど節税メリットを享受できるといえるでしょう。節税については「iDeCoに加入して税金を節約しよう!シミュレーションもご紹介」も参考にしてください。
2-2.転職・退職しても続けられる
iDeCoは、転職や退職をしても、年金資産を持ち運べることも大きなメリットです。転職の際は、転職先でもiDeCoを継続することが可能で、企業型確定拠出年金に変更することも可能です。
ただし、転職先がiDeCo加入を認めていないケースがあることに注意しましょう。また、転職先によっては加入条件や月々の掛金の上限額が変わることもあります。これらについては転職前に確認しておくと良いでしょう。
2-3.定期預金・保険なども選べる
iDeCoでは、10〜30程度の金融商品から投資対象を選びますが、そのなかには定期預金や保険も含まれています。より手堅く資産形成したい方にとっては、リスクの低い元本確保商品も選べることはメリットでしょう。元本が保障されている定期預金や、返戻金がある保険タイプは、節税メリットを享受したいが運用リスクは抑えたい方におすすめです。
2-4.投資信託のコストが低く、月5,000円から開始できる
iDeCoは、一般に販売されている投資信託と比較して、信託報酬などのコストが安いというメリットがあります。また、iDeCoでは取り扱っているほとんどの商品において購入手数料はかかりません。
また、iDeCoは月最低5,000円から、1,000円単位で運用できるため、比較的運用資金に余裕がない方でも、無理なく続けられるでしょう。運用を始めるハードルが低いだけでなく、運用コストを抑えた資産運用が可能です。
2-5.運用成績次第で将来受け取るお金が増える
日本は預金金利が非常に低く、単にお金を口座に預けているだけではほとんど増えないとされています。しかし、iDeCoであれば運用成績次第で、将来受け取れるお金を増やすことができます。利回りの高い商品ほどリスクが高い傾向があるため、どこまでリスクを許容できるかは、各個人によりますが、選択した商品や運用期間によっては、資産を大きく増やせる可能性があるのです。
2-6.窓口に行かなくても開始できる
iDeCoの口座開設は金融機関の直接窓口に行かなくても、郵送やインターネットで完結できることが多いです。そのため、平日が忙しく、なかなか金融機関に足を運べない方でも加入できます。加入前に相談をしたい場合は、各金融機関のコールセンターで相談が可能です。金融機関によっては平日であれば夜8時頃まで対応しているところや土日も対応しているところもあるため、忙しい方でも相談できるでしょう。
3.iDeCoの5つの注意点
iDeCoに関する注意点としては、以下の5つが挙げられます。
- ・基本的に60歳まで資産を引き出せない
- ・さまざまな手数料がかかる
- ・掛金に限度がある
- ・受取時に課税される可能性もある
- ・50歳以上でiDeCoを開始すると60歳から受け取れないこともある
iDeCoは、60歳になるまでは資産を引き出せないため、途中で現金が必要になっても、原則換金することはできません。また、運用にあたっては多少の手数料がかかります。そして掛金には限度があるため、大きく資産を増やしたい場合は他の運用方法も併用した方が良いでしょう。
受取時に課税される可能性があることや、加入の時期によっては60歳までに受給要件を満たせない可能性もあります。それぞれの注意点について解説します。
3-1.基本的に60歳まで資産を引き出せない
iDeCoで運用する資産は、基本的に60歳になるまでは引き出せません。なぜなら、iDeCoはあくまで老後のための資産形成を目的とした制度であるためです。iDeCoは、基本的に途中で資産を換金して引き出すことはできないため注意しましょう。
iDeCoの掛金を決める際は、無理なく続けられる金額に設定することが大切です。いくら老後のための資産運用は大切であっても、今の生活を圧迫してしまうようでは本末転倒です。先述のとおり少額からの運用も可能であるため、無理のない範囲で資産運用をしましょう。
どうしても掛金の拠出が難しい場合は、減額や停止という選択肢もあります。iDeCoは年に1回掛金の変更ができるため、経済的に厳しいときは掛金を減額しましょう。月5,000円の出費も難しい状況であれば、所定の手続きにより積み立てを停止することが可能です。
3-2.さまざまな手数料がかかる
iDeCoに加入すると、さまざまな手数料がかかります。iDeCo加入によりかかる手数料の種類は、以下のとおりです。 各種手数料は金融機関によって異なります。手数料をなるべく抑えるためにも、必ず複数の金融機関の各種手数料を比較しましょう。
- 加入時・移換時手数料
- 口座管理手数料(毎月)
- 給付事務手数料
- 還付事務手数料
- 運用管理手数料(毎月)
- 信託報酬(投資信託を選択した場合)
3-3.掛金に限度がある
iDeCoは掛金に限度があります。働き方や、勤務先が確定拠出年金に加入しているかどうかで限度額が変わってきますが、月額12,000円〜68,000円の範囲です。そのため、毎月数十万円もiDeCoで運用することはできません。
しかし、iDeCoと他の資産運用方法は併用可能です。もしiDeCoの限度額以上のお金を運用したい場合は、iDeCoを活用しメリットを享受しつつ、他の資産運用も行うのが良いでしょう。
3-4.受取時に課税される可能性もある
iDeCoで運用した資産を受け取る際は、年金として受け取るか一時所得として受け取るか、もしくは年金と一時金を併用するかを選択することができますが、受取額によっては課税される可能性があります。
ただし、年金として受け取る場合は、65歳未満であれば60万円まで、65歳以上は110万円までは課税されません。また、一時所得として受け取る場合も、受取額によっては税金が課されずに済みます。
年金として受け取るか、一時所得として受け取るか、併用するか、どの方法が課される税金が少なくなるかは、ケースバイケースです。そのため、年金の受取時期が近づいたら、どちらの方法で受け取るか考えましょう。
3-5.50歳以上でiDeCoを開始すると60歳から受け取れないこともある
50歳以上になってからiDeCoに加入した場合、60歳になっても老齢給付金を受け取れない可能性があります。なぜならiDeCoは、通算加入期間が10年に満たない場合、通算加入者等期間に応じて老齢給付金の受給開始可能年齢が決まるからです。
ただし、遅くとも65歳になったら老齢給付金を受け取れるようになります。また、50代の方は一般的に一番収入が高くなる時期であるため、iDeCoで運用できる掛金が大きくなります。高い節税効果が期待できるため、50代からiDeCoに加入してもメリットがあるでしょう。
4.iDeCoの始め方
iDeCoに加入する手順は、以下の2つのステップです。
- ・申込書類を取り寄せて記入し、金融機関に返送する
- ・口座開設が完了し口座情報が届く
iDeCoの加入手続きは、金融機関に足を運ばなくてもできます。まず、申込書類を取り寄せ、書類が来たら必要な情報を記入し、金融機関に返送します。口座開設が完了すると、口座情報が届きます。大切なものであるため、紛失しないように気をつけましょう。
4-1.申込書類を取り寄せて記入し、金融機関に返送する
まずは、iDeCo口座開設を希望する金融機関と、投資をしたい金融商品を選びましょう。金融機関によってiDeCoで取り扱っている金融商品は異なります。もし、購入したい金融商品が決まっているのであれば、その商品を取り扱っているか金融機関を確認しましょう。
金融機関と金融商品が決まったら、iDeCo口座開設を希望する金融機関のWebサイトから申込書を取り寄せます。申込書に記入する際には、以下のものが必要です。
- 年金手帳(基礎年金番号)
- 通帳またはキャッシュカード(掛金を引き落とす口座番号)
- 運転免許証など本人確認書類
申込書が届いたら、以下の情報を記入し、必要書類を添付します。
- 氏名・住所などのお客様情報や引落口座情報
- 事業主の証明書
- 本人確認書類の写し:運転免許証、健康保険証 など
- コース選択や運用方針、運用商品の選択(金融機関による)
事業主の証明書については、会社員や公務員の場合は、勤務先に書いてもらう必要があります。個人事業主や主婦については不要です。すべての書類が用意出来ましたら、申込書類一式を郵送しましょう。
4-2.口座開設が完了し口座情報が届く
申込書類一式が金融機関に到着してから、通常1〜2ヵ月程度でiDeCo口座が開設され、自宅宛てに郵送で口座番号とパスワードが届きます。口座番号とパスワードは、運用状況の確認などに必要であるため、紛失しないよう大切に保管しましょう。
万が一口座番号やパスワードを紛失してしまった際は、コールセンターに問い合わせください。そこで案内された対応方法に従いましょう。
5.iDeCoを活用して節税しながら資産形成をしよう
iDeCoは節税をしながら資産形成ができる制度です。リスクを抑えたい方には元本確保型の商品がありますし、多少のリスクなら許容できるという方に向いている投資信託型も用意されています。月5,000円から始められるため、毎月コツコツと時間をかけた資産運用に向いているといえるでしょう。ぜひiDeCoへの加入を検討してみてはいかがでしょうか。