近年、資産運用サービスのひとつとして注目を浴びているもののひとつがファンドラップです。証券会社等の金融機関に資産運用を一任するものです。どのような人に向いているのか。また、敢えてファンドラップを利用するメリットはどこにあるのか。ファイナンシャルプランナー(CFP・一級FP技能士)で、自らも資産運用のひとつとしてファンドラップを利用している株式会社アイポス代表の森拓哉氏が解説します。
ファンドラップとは
ファンドラップとは、投資家がある程度まとまった額の資産を運用するうえで、信託銀行や証券会社等の金融機関に資金を預け、長期間の資産運用や資産管理を任せるサービスのことをいいます。
利用するには「投資一任契約」を締結します。
金融機関は、顧客から運用方針についてヒアリングを行い、それに基づき、その顧客に合わせた資産配分を提案します。
そして、投資する投資信託の選定、売買から、資産配分のリバランス等の維持管理まで、すべて金融機関が担当してくれます。
ファンドラップは、世界経済の成長を取り込むという視点から、長期の運用を前提としています。世界経済は短期的な騰落を繰り返しながら、長期的には大きく成長してきているので、時間を味方につけて資産を増やしていこうというものです。
投資の専門家による運用だけでなく、AIによる「ロボアドバイザー」、さらに、対面によるサポートとロボアドバイザーを組み合わせたハイブリッド型など、選択の幅があります。
ファンドラップには手数料がかかります。投資先の投資信託自体の信託報酬等に加え、投資一任契約を結んだ金融機関に対する「投資顧問報酬」を支払うことになります。
手数料体系はサービス提供会社によって、固定報酬型、成功報酬型(低廉な固定報酬+運用益×〇%)と分かれており、ご自身の好みに合わせてサービスを選択することができます。なお、人の手を介さないロボアドバイザーの方が、手数料が割安に設定されています。
近年、金融機関はファンドラップの預かりに力を入れています。必ずしも富裕層だけではなく、幅広い層を対象としています。
ファンドラップは、ここ数年広がりを見せています。日本投資顧問業協会統計によると、ラップ口座の件数及び預かり金額は2017年3月時点で564,622件、6兆5,702億円ほどだったものが、2022年12月には1,497,467件、14兆907億円まで件数・預かり金額ともに数字を伸ばしています。
ファンドラップが向いているのはどのような人か
ファンドラップが向いているのはどのような人でしょうか。
予め結論をお伝えすると、最も向いているのは、以下の2つの条件をみたす人だといえます。
- 相続等により獲得した多額の財産がある
- 投資に馴染みがなく、投資用語にストレスを感じ、主体的に運用できる自信がない
以下、それぞれについて解説します。
相続等により獲得したまとまった額の財産がある
第一に、相続等により獲得したまとまった額の財産があるということです。
人生100年時代と言われる時代のライフプラン(人生の収支計画)を考えるうえで将来の収入を知っておくということは大切な一歩です。お勤めの方の場合、定年まで勤めた場合の給与の推移、定年後の年金、この辺りは非常に予想しやすく、金額の見込みも大きく外れることはありません。
老後のことも考え、余剰資金の一部を、毎月、iDeCoやNISAなど、税制優遇を受けられる制度を利用した「つみたて投資」に回している方も多いのではないでしょうか。この計算できる収入以外に、大きな収入が入る可能性があるとしたら、それは、もっぱら相続財産ということになります。
相続等によりまとまった額の財産を得ても、多くの場合、どうすれば良いかが分かりません。かといって、特に現金は、銀行口座に預けておいても定期預金でさえほとんど利息がつきません。
そこで、ファンドラップ等を活用して長期間運用するという選択肢が考えられるのです。
ファンドラップが最も向いている人の第一条件は、このように、相続等、偶発的な事情により多額の財産を得ることになった人です。
投資に馴染みが薄く、投資用語にストレスを感じ、主体的に運用できる自信がない
しかし、多額の財産を保有しているとしても、投資にある程度のリテラシーがあり、自ら主体的に運用できるという自信があるならば、敢えてファンドラップを利用する必要性は乏しいといえます。
なぜなら、先述したように、ファンドラップには手数料がかかるからです。それを受け入れてなお、メリットを見出せることが大切です。
自分で投資をするうえでは、本来は投資銘柄の選定や売買、値動きの確認や運用状況の定期的なチェック、それらを踏まえてリバランスといった銘柄の入れ替えを自身の判断で行っていく必要があります。
情報があふれる今の時代、投資の勉強に時間を充てることができる方や、自分で良いものを選ばないと気が済まない方であれば、資産運用の勉強を行い、それに基づき自ら運用することは十分可能です。
一方で、投資や資産運用とは全く縁なく過ごされてきた方も多くおられます。たとえば、主婦として子育てに奔走、夫の仕事を縁の下で支えてきた方などは、一般的に資産運用とは縁のない生活を送ってこられています。
このような場合、資産運用の話をどれだけ聞いてもピンとこない方を多くお見受けします。資産運用になじみがない方の場合、ファンドラップはひとつの選択肢になります。
FPの視点からみたファンドラップのメリット
実は、ファンドラップについては、肯定的でない声があるのも確かです。なぜなら、自ら運用するのと比べて手数料が余計にかかるからです。筆者もそのような考え方をしていた時期がありました。
しかし、現時点では、親からの相続等によってまとまった額の資産を得ただけで、運用にさして興味がなく、どのように運用をすれば良いのか分からない、今から特段勉強したいわけでもないという方には、ファンドラップは適切な答えのひとつと捉えるに至っています。
どういうことか、3つの観点から説明します。
資産運用に伴うストレスから解放される
第一に、資産運用に伴うストレスから解放されるということが挙げられます。
個別の株や投資信託を取引する場合、選ぶ際に何を基準に選べば良いのか見定めるストレスが一定かかることになります。
このストレスを何とも思わず楽しめる方は、ファンドラップを選ぶ必要は全くなく、ご自身の責任で株やファンドを選んでいけば良いのですが、そのストレスを受ける心の余裕や時間もない場合は、ファンドラップはひとつの有力な選択肢になってきます。
コストが高いという指摘には、コストをかけることによって、ストレスからの解放と時間を買っていると解釈すれば費用対効果は悪いものではありません。筆者自身も、試してみる意味合いでファンドラップを一部使ってみているのですが、結果は上々です。
なお、ファンドラップの利用を始めたは良いものの、他から雑音が聞こえてくることもありえます。「ファンドラップではなく、こういうやり方がある。こうした方が良いのに」という声や情報です。それはそれで、始める前でストレスを一定自身で担うかどうかを判断する段階であれば一理ありますが、ファンドラップの選択とは投資一任契約を結ぶことです。「任せた」という選択を最初にしたのであれば、その後に聞こえてくるのは基本的に雑音です。
「任せた」のであれば任せた責任は負う必要があり、定期的に結果を検証する事は必要ですが、必要以上に日々ストレスをかけてチェックをする必要はありません。
投資は一任して、浮いた時間を自分の本来の人生のやりたい事、趣味や好きな事に充てる。ファンドラップを選ぶとは、コストをかけて「ストレスからの解放」「本来自分が使いたいことに時間を使う」そういう選択ではないでしょうか。
実は公的年金の運用方法と類似の手法である
第二に、ファンドラップが、実は公的年金の運用方法と類似の手法だということです。
前述の日本投資顧問業協会統計によると、ファンドラップ以外の投資一任業の契約資産は国内で485兆6,274億円にも及びます。うち435 兆 2,354 億円が「投資一任契約」です。
いったい、どんな投資家がファンドラップ以外の「投資一任契約」を利用しているのか。
筆者はその内訳について、日本投資顧問業協会に直接電話で問い合わせて確認しました。すると、驚くことに、435 兆 2,354 億円の「投資一任契約」の大部分がGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)や年金基金であるとの回答を得ました(正確な数字は回答してもらえませんでしたが)。
GPIFや年金基金は、みずから投資・運用をしているわけではありません。複数の信託銀行や証券会社等の金融機関(運用受託機関)と「投資一任契約」を結び、委託しているのです。
つまり、ファンドラップを選ぶことは、手法としては、国の年金運用方法と類似の選択をしていることになります。
ちなみに、GPIFは過去2001年~2022年に年率+3.38%という実績を挙げています。
公的年金と類似の手法を選んでいる。それ以上は考えない。そう思える方にはファンドラップは良い選択肢と言えるのではないでしょうか。
手数料目的の「回転売買」に巻き込まれるリスクが低い
第三に、金融機関の担当者による手数料目的の「回転売買」に巻き込まれるリスクが低いということが挙げられます。
証券会社等の金融機関の担当者がついて、個別に取引のアドバイスを受けるということになると、そこには、「回転売買」のリスクがあります。
「回転売買」は証券業界の用語で、短期的に商品の売買を繰り返すことを指します。これが、金融機関による手数料の獲得目当てに行われてきたのではないかという考えがあります。
この点について、監督官庁である金融庁も、金融機関における投資信託の販売額や収益が増加してきた一方、残高や保有顧客数が伸びていない状況を見るにあたり、回転売買が手数料目的で行われていると推測して、手数料目的の回転売買の抑止に努めてきています。
ところが手数料目当ての販売の抑止が十分に働いているかと言うと、金融サービス利用者の声を聞くと、どうもそうでもない様子が垣間見えてくるように感じることがあります。たとえばこのような声です。
「保険を解約して銀行に入金があった途端、すぐに電話がかかってきて、すすめられるがままに投資信託を購入してしまった」
「担当者が頻繁に入れ替わり、そのたびにAファンドを売って、新しく出たBファンドを買うよう強く勧められた。しつこくすすめられるので、根負けして買い換えた」
手数料目当てということを断定できるわけではないまでも、どこか金融サービス利用者は金融機関の言いなりとなった取引をしてしまい、本当にこれで良かったかどうかは「分からない。勧められるがままだった」という疑問を持たれています。
それに加え、証券会社の担当者は途中で入れ替わることが大半です。利用者の声を聞いていると、「前の担当者は良かったけれど、新しい担当者は新人で何を言っているのかさっぱり分からない」という声を聞くこともあります。
その点、ファンドラップは、資産運用の方向性が定まっていて一貫性があるというメリットがあります。
このようなことから、私は、ファンドラップは選択肢のひとつとして検討してもよいものであると考えます。私も資産運用のひとつとして活用しています。
ファンドラップの選び方
最後に、ファンドラップの選び方についてお伝えします。
ファンドラップの選び方は、過去の実績リターン、ファンドラップ内で選択されるファンドの預かり残高、手数料等を総合的に勘案して、判断することをおすすめします。
特におすすめなのが、ロボアドバイザーです。運用方針に従って自動的に資産バランスの調整をしてくれるので、担当者の恣意によって左右されることがありません。また、人の手がかからないので手数料も比較的割安です。
筆者自身もロボアドバイザーを採用しています。
まとめ
ファンドラップは、信託銀行や証券会社と「投資一任契約」を結び、利用者のニーズにマッチした運用方針のもと、資産運用・資産管理を行ってもらうしくみです。専門家が担当するものはもちろん、AIによる「ロボアドバイザー」、専門家とロボアドバイザーのハイブリッド型もあります。
再度の説明になりますが、最も向いているのは、以下の条件をみたす人です。
- 相続等により獲得したまとまった額の財産がある
- 投資に馴染みが薄く、投資用語にストレスを感じ、主体的に運用できる自信がない
自ら株式や投資信託を運用するのと比べ、余分に手数料がかかります。しかし、資産運用に伴うストレスから解放されること、公的年金の運用方法と類似の手法であること、金融機関の担当者による手数料目的の「回転売買」に巻き込まれるリスクが低いことを考慮に入れれば、有効な選択肢のひとつであるといえます。
これから資産運用を考える方は、ぜひファンドラップも選択肢のひとつとして検討してみてください。