今回はなかなかカテーテルに馴染みのない方でも分かりやすいように、深掘りせずにカテーテル治療全体を浅く広くご紹介し、カテーテルでいかにさまざまな手術が可能になっているかを読者の皆様にお伝えしていきたいと思います。
カテーテルとはなにか
カテーテル治療と外科手術
カテーテルとは血管内や尿道内などに挿入する、主に合成樹脂でできた細い医療用チューブを指します。今回は血管内に挿入するカテーテルについてお話しします。サイズはさまざまありますが、おおよそボールペンの芯くらいを想像していただくと良いと思います。以前は外科手術でしかできなかったことが、現在はカテーテルでできるようになっている手術がたくさんあります。
時代は身体に負担の少ない治療、低侵襲(ていしんしゅう)治療に向かっており、外科手術においても内視鏡手術やロボット手術などの低侵襲手術が増えてきています。従来は「メスで切る」というイメージであった外科手術も、内視鏡手術なら切らずにおなかに3つ穴を開けるだけでできたりします。メスで切る外科手術に対し、カテーテル治療は、血管に「刺す」だけなのです。皮膚に1〜2ミリ程度の穴が開くだけです。
カテーテルでどんな治療ができるのか
血管拡張
血管の狭くなった部分をバルーン(風船)つきカテーテルで膨らませ、場合によってはステントという金属製の筒を入れて、再度狭くならないようにします。心臓の冠動脈(かんどうみゃく)や、脳に行く頚動脈などの拡張術がよく知られています。
血管塞栓(そくせん)
出血している血管を塞栓物質(そくせんぶっしつ=詰め物)を詰めて止血したり、動脈瘤(血管のこぶ)を詰めて破裂を予防したりします。例えば交通外傷での脾臓破裂による出血の止血や、出産後の子宮弛緩出血の止血、子宮筋腫の治療などがあります。私がライフワークとしている喀血(かっけつ=肺出血)の治療、気管支動脈塞栓術(後述)はこれに分類されます。
血栓回収
血管に詰まった血栓を回収します。脳梗塞や急性心筋梗塞などに実施します。
薬剤投与
抗がん剤などを、局所的に投与します。
電気焼灼(でんきしょうしゃく)
電気で焼くことです。心房細動(しんぼうさいどう)という不整脈の治療などに行われます。
弁置換
人工弁の置換術をカテーテルで実施します。
代表的なカテーテル治療の対象臓器と対象疾患
臓器別に多種多様なカテーテル治療のごく簡単な説明をしていきます。
心臓
カテーテルといえば心臓がもっとも有名でしょう。本当に多種多様のカテーテル治療が、おおむね循環期内科医によって行われています。
PCI(経皮的冠動脈形成術)
いまはかつてほどではありませんが、ながらくカテーテル治療の花形ともいうべき存在でした。とくに急性心筋梗塞に対する緊急PCIは、冠動脈の血栓等による急激な閉塞の結果生じる心筋の壊死(えし)を最小限にとどめるために極めて有効な治療です。
カテーテルアブレーション(経皮的血管焼灼術)
脳梗塞の原因のひとつである心房細動(しんぼうさいどう)という不整脈。これを停止し再発を防ぐのがカテーテルアブレーションという技術です。左心房の壁の内側の特定の箇所を焼き異常な電流を遮断します。抗不整脈薬よりも確実な効果が期待できます。電気焼灼という、電流で焼く方法と、クライオアブレーションという冷凍凝固により焼く方法などがあります。
TAVI(径カテーテル的大動脈弁置換術)
心臓外科手術でしか実施できなかった、大動脈弁置換術(だいどみゃくべんちかんじゅつ)をカテーテルを用いて実施します。外科手術のように心臓を停止させて、開胸(かいきょう:胸部をメスで切開して心臓を露出させる)したり開心術(心臓を切開して、大動脈弁の手術操作をする)の必要がなく、非常に低侵襲に人工弁置換が行えます。
左心耳閉鎖術 (WatchmanⓇ)
先述の、心房細動による脳梗塞(脳塞栓症)の原因は、左心房内の左心耳(さしんじ)という部分に血栓ができて、これが脳に飛んでいく(塞栓症)ことによるのですが、カテーテルアブレーションが心房細動をコントロールするのに対し、左心耳閉鎖術は、左心耳にWatchmanⓇというデバイスを留置して、左心耳自体を閉鎖してしまう技術です。
大動脈・大静脈・末梢血管
TEVAR(大動脈ステントグラフト治療)
大動脈瘤の治療は、旧来人工血管置換術という外科手術が行われてきましたが、人工心肺の使用や開胸をすることなく、カテーテルで、膜付きのステントを留置します。循環器内科医でなく心臓外科医が実施することが通常です。
下肢PTA(経皮的血管形成術)
下肢の血管が動脈硬化で細くなる下肢閉塞性動脈硬化症に対するカテーテル治療であり、バルーンカテーテルやステントを使用します。循環器内科医が主体ですが、放射線科医も実施します。
下大静脈フィルター
これは静脈系へのカテーテル治療で、目的は肺塞栓症(はいそくせんしょう:いわゆるエコノミークラス症候群)の予防です。下肢の深部静脈血栓症(脚の太い静脈に血栓ができる病気)の患者さんにおいて、下肢の血栓が肺に飛んで肺塞栓症を起こさないように下大静脈(かだいじょうみゃく)にフィルターを留置します。循環器内科医または放射線科医が実施します。
腎動脈PTA
腎動脈に狭窄病変があると、腎血管性高血圧という二次性の高血圧を発症することがあります。これをバルーンカテーテルやステントなどを用いて治療します。主に循環器内科医が実施します。
透析用シャントPTA
血液透析を受けておられる患者さんは、上肢(手・指~肘~肩を含む部分)に、シャントと呼ばれる、血管穿刺用の人工的な動静脈吻合を作成して、透析中はそこから血液採取し、返す仕組みになっています。透析の都度穿刺しますので狭窄を起こしやすく、これを拡張する手技です。これは専門性の高い技術で、実施するのは透析領域に精通した血管外科医または泌尿器科医・腎臓内科医が通例です。
消化器系
肝癌に対するTAE(血管塞栓術)
肝臓癌に対する塞栓療法は、腫瘍の栄養血管を詰めることによる兵糧攻め的なニュアンスと、抗がん剤を腫瘍に局所的に投与するという2つの意味があります。かつては非常に盛んに実施されており、代表的な塞栓術でした。いまはウイルス性肝炎の減少に加え、他の治療手技も増え、以前ほどには実施されていません。放射線科医が実施することが多いですが、消化器内科医も時に実施します。
脳外科系
脳動脈瘤コイル塞栓術(のうどうみゃくこぶこいるそくせんじゅつ)
脳動脈瘤(のうどうみゃくこぶ)は破裂してくも膜下出血の原因になります。脳ドックなどで見つかった未破裂動脈瘤または、くも膜下出血で救急搬送された破裂動脈瘤に対してプラチナ製コイルなどを詰めます。金属製クリップで根元を挟む外科手術も広く実施されています。どちらがいいかは動脈瘤の形・部位などによります。脳外科領域のカテーテル治療は脳外科医によって実施され、血管内手術と呼ばれています。
脳梗塞超急性期の血管内治療
発症後6時間以内の脳梗塞に対し、薬剤による血栓溶解や血栓破砕、血栓回収などを実施し脳の壊死をできるだけ少なくする重要な治療です。急性心筋梗塞以上に、一刻を争います。
頚動脈ステント留置術(CAS)
頚動脈(けいどうみゃく)の狭窄は脳梗塞につながることがあり、バルーンカテーテルとステントで治療します。
呼吸器系
喀血に対する気管支動脈塞栓術(BAE)
肺からの出血である喀血(かっけつ)を止める手技です。私の20年来のライフワークでもあります。放射線科医によって行われることが多いのですが、私のように呼吸内科医が実施する施設も増えてきました。喀血入院患者さんの死亡率は10%にも及びますが、喀血に対する標準治療であるBAEはまだ8%程度しか実施されておらず、今後のさらなる普及が期待されます。
肺動静脈奇形塞栓術
肺動脈と肺静脈が直接つながってこぶを作る肺動静脈奇形は、高率に脳梗塞を起こしたり、たまに酸素低下をきたします。主にコイルというプラチナ製の塞栓物質によって詰めます。放射線科医が実施することが多いです。以前は外科手術が主体でしたが、現在ではほぼカテーテル治療が中心です。
その他
子宮動脈塞栓術(UAE)
出産後の子宮弛緩出血はしばしば大量出血をきたしますので、その止血のために緊急的に実施される場合と、慢性的経過である子宮筋腫を切らずに直すために待期的(たいきてき)に行われる場合があります。いずれも産婦人科医の関与の元、放射線科医が実施しています。子宮筋腫については、東京と岡山に専門施設があります。UAE実施後でも妊娠可能な場合があります。
関節リウマチ
関節リウマチの痛みを改善するカテーテル治療をやっている施設があります。まだ充分なエビデンスは確立されていませんが、カテーテル治療の多様性と可能性を感じさせる興味深い仕事だと思います。
おわりに
いかがでしたでしょうか。いかに広い分野で多種多様なカテーテル治療が行われているか、驚かれたのではないでしょうか。またカテーテル治療を担当する医師も、放射線科医と循環器内科医を筆頭に、いろんなジャンルの専門医が関与していることも興味深いですね。
カテーテル治療のメリットは、いままでできなかったことができるようになったり、外科手術でしかできなかったことを低侵襲でできるようになったりなどですが、各ジャンルでたくさんの医師が切磋琢磨しています。かつては内科医といえば、薬を使って治療するおとなしいイメージでしたが、特に循環器内科医などはカテーテルでバリバリ治療する時代です。