不動産を共有名義で所有しているものの、単独名義に変更したいと考えている方も多いのではないでしょうか。共有名義の不動産は単独で売却や改築、賃貸ができないため、共有者との関係によっては不便に感じることもあるでしょう。
そこでこのコラムでは不動産を単独名義にする方法や費用について解説します。このコラムを読んでいただければ、ご自身や家族に適した方法が分かり、スムーズに単独名義に変更できるでしょう。
- 共有名義の不動産は単独で売却や改築、賃貸ができません。また、共有者がローンや固定資産税を滞納すると、他の共有者が被害を受ける恐れがあります。
- 不動産の管理に手間がかかる場合は、共有名義から単独名義への変更がおすすめです。
- 名義変更の方法は贈与、売却、放棄の3つに分けられます。それぞれかかる費用や手続きの方法が異なるため、共有者同士で相談してどの方法が適しているかを考えましょう。
- 専門的な手続きも多いため、スムーズに進めるためにも司法書士などの専門家への依頼がおすすめです。
不動産の共有名義を単独名義に変更する場面とは
不動産を共有名義から単独名義に変更する代表的な場面は以下のとおりです。
- 離婚のため夫婦共同名義の不動産を単独名義にしたい
- 親子の共有名義を子ども単独名義にしたい
- 相続の際に共有名義にしたが単独名義にしたい
それぞれについて詳しく解説します。
離婚のため夫婦共同名義の不動産を単独名義にしたい
夫婦のペアローンや収入合算で住宅ローンを組み、共有名義で住宅を所有している方も多いですが、離婚後に名義の変更手続きをせずにそのままの状態にしていると、トラブルの原因になることがあるため注意が必要です。
例えば、どちらかがローンの支払いを滞納すると連帯債務者が負担しなければなりません。また、固定資産税の支払いも同様です。住宅ローンや固定資産税を滞納すると、最悪の場合家を競売されたり差し押さえられる恐れがあるため、離婚時に共有名義を解消しておく必要があります。
離婚時に住宅を売却するのが最もシンプルな方法ですが、慣れ親しんだ地域から離れたくないと考える方も多いでしょう。そのような場合は、引き続き住宅に住む方の単独名義にするのが一般的です。
住まない方の名義にすると、各種支払いの遅延で現在住んでいる方が被害を受ける可能性があるためです。
なお、離婚時の名義変更は財産分与の対象となるため、贈与税や譲渡所得税の負担はありません。住宅ローンが残っている場合は、一括返済や債務者変更、借り換えなどを行う必要があります。
親子の共有名義を子ども単独名義にしたい
親子で費用を出し合い二世帯住宅を建てた場合は、親子の共有名義となります。しかし、親が病気や認知症になった場合など、将来のことに備えて子どもの単独名義にしておきたいと考える方も少なくありません。
この場合、贈与や譲渡(売却)の扱いとなり、贈与税や不動産取得税の対象になると考えましょう。また、住宅ローンが残っている場合は、ローンの名義変更も必要になります。
生前贈与と相続では課される税金が異なるため、あえて生前贈与を行う必要があるのかを親子で考えましょう。
相続の際に共有名義にしたが単独名義にしたい
相続の際に法定相続分に従って遺産分割し共有名義で登記したものの、その後の管理がしにくいケースもあります。
例えば、共有名義人の兄弟が遠方に住んでいる場合や、相続の後にさらに相続が発生し遠い親戚と共有名義になっている場合などです。
このような状況で放置すると、さらに関係が複雑になり収集がつかなくなる恐れもあるため、なるべく早い段階で所有権移転を行い、管理している方の名義に変更しましょう。
次章からは具体的な名義変更の方法をご紹介します。
共有名義を単独名義にする方法その1|贈与
共有名義を単独名義にする方法の1つ目は贈与です。
ここからは贈与の概要や手続き方法について解説します。
贈与の概要
不動産の贈与とは、不動産の所有者が対象不動産を無償で他人に譲ることです。
例えば、親と子どもが不動産を共有しており、子どもの単独名義にしたい場合は、親の持ち分を子どもに贈与します。
しかし、贈与は不動産を受け取った側(受贈者)に贈与税が課される点に注意しましょう。
贈与の場合の手続き
贈与の手続きの流れは以下のとおりです。
- 関係者と話し合う
- 贈与契約書を作る
- 登記をする
それぞれについて解説します。
関係者と話し合う
贈与を行う場合は関係者と話し合いましょう。
贈与は無償で行うものですが、双方の合意が必要です。共有名義人が多いほど話し合いは複雑になるため、なるべく全員で揃って話し合う場を設けます。
贈与契約書を作る
関係者同士で話し合った内容をもとに贈与契約書を作成しましょう。
共有名義人が複数いる場合は、各々で贈与契約書を作成する必要があります。なお、民法の規定では口約束でも贈与は成立しますが、言った言わないのトラブルを避けるためにも、贈与契約書を作成しておくのがおすすめです。
また、税務関係の手続きや調査の際も契約書が証拠となるため、書面を用いて取引をしたほうが安心でしょう。
登記をする
贈与契約を締結した後は、速やかに所有権移転登記を行い正式に名義を変更します。
不動産は登記をしなければ、第三者に所有権を主張できないためです。権利関係によるトラブルから身を守るためにも、贈与契約完了後は速やかに登記を行いましょう。
共有名義を単独名義にする方法その2|売却
共有名義を単独名義にする方法の2つ目は売却(譲渡)です。
ここからは売却の概要や手続き方法について解説します。
売却の概要
売却とは、単独名義にしたい方に他の共有者が持ち分を売却する方法です。
一般的な不動産売買と仕組みは同じですが、売却価格は話し合いで自由に決められます。しかし、不動産の時価よりも明らかに低い価格で取引すると、贈与とみなされて贈与税が課される可能性がある点に注意しましょう。
なお、売却によって利益が出た場合、売却した方は譲渡所得税を納めなければなりません。
売却の場合の手続き
売却の手続きの流れは以下のとおりです。
- 不動産売却の相場を調査
- 話し合い・売買契約を締結
- 清算・登記
それぞれについて解説します。
不動産売却の相場を調査
不動産の売却価格が時価よりも明らかに低い場合、贈与税が課される可能性があるため、事前に不動産の相場を調べておきましょう。
国土交通省が運営する土地総合情報システムや不動産流通機構が運営するレインズマーケットインフォメーションで過去の成約事例を調べることができます。
ご自身での調査が難しい場合は不動産会社に査定を依頼しましょう。
話し合い・売買契約を締結
不動産の相場価格が把握できた後は、当事者同士で話し合いをして売買価格を決めましょう。
双方の同意が得られた後は、売買契約を締結します。なお、個人間で現金取引を行う場合は、専門家に依頼する必要はありません。住宅ローンを使用する場合や、当事者間での取引が不安な場合は専門家に相談しましょう。
清算・登記
売買契約書に署名捺印をしたあとは、代金の清算を行います。
売買代金の支払いだけでなく、固定資産税の日割り清算も行うのが一般的です。また、売買代金を受領した日が所有権移転日となるため、併せて登記手続きを行いましょう。
登記書類に不備があると名義変更できない恐れがあるため、安心して取引するためにも司法書士に登記を依頼するのがおすすめです。
共有持ち分の買取資金には「遺産分割ローン」の利用がおすすめ
不動産が高額な場合、共有持ち分を売買する際に買取資金が足りないケースも多くあります。
そのような際におすすめなのが、セゾンファンデックスの遺産分割ローンです。遺産分割ローンは親族間・親子間売買でも利用できます。他の金融機関で断わられてしまった方などは、ぜひお気軽にご相談ください。
共有名義を単独名義にする方法その3|放棄
共有名義を単独名義にする方法の3つ目は放棄です。
本章では放棄の概要や手続き方法について解説します。
放棄の概要
共有持ち分を放棄すると、他の所有者に持ち分が帰属します。そのため、2人の共有名義の場合、どちらか片方が放棄することで単独名義になります。
贈与や売却と異なる点は、放棄は共有者の単独で行えることです。ただし、登記は共有者と一緒に行う必要があります。
また、税務上ではみなし贈与に該当し、単独名義になった受贈者が贈与税を課されるため、事前に税理士などにも相談しておきましょう。
放棄の場合の手続き
放棄の基本的な流れは所有権移転登記と同じです。
- 話し合い・通知
- 登記
それぞれについて解説します。
話し合い・通知
持ち分の放棄は単独で行えますが、トラブルにならないためにも事前に共有者と話し合っておきましょう。また、言った言わないのトラブルを避けるためにも、内容証明郵便で通知するのが無難です。
内容証明郵便に記載する内容は定められていませんが、最低限以下の内容は記載しておきましょう。
- 氏名、住所、連絡先
- 共有持ち分を放棄する旨
- 放棄する共有持ち分の詳細(不動産の所在や持ち分割合)
登記
放棄は単独で行えますが、持ち分が帰属する方(単独名義になる方)と共同で登記する必要があります。
登記手続きは専門家に依頼せずとも行えますが、不備なくスムーズに行いたい場合は司法書士に依頼しましょう。
共有名義から単独名義への変更に必要な費用
不動産を共有名義から単独名義に変更する際に必要な費用・税金は以下のとおりです。
- 司法書士への報酬
- 登録免許税
- 印紙税
- 不動産取得税
- 譲渡所得税
- 贈与税
それぞれについて解説します。
司法書士への報酬
司法書士報酬とは、登記を依頼する司法書士に支払う費用。司法書士によって費用は異なりますが、目安は以下の表のとおりです。
項目 | 費用 |
所有権移転登記 | 20,000〜100,000円 |
抵当権抹消登記 | 10,000〜30,000円 |
住所変更登記 | 10,000〜30,000円 |
ご自身で手続きすることで上記費用は削減できます。しかし、不備が生じないためにも司法書士に依頼するのがおすすめです。
登録免許税
登録免許税とは、登記をする際にかかる税金です。登記の種類によって計算方法が異なる点に注意しましょう。
項目 | 計算方法 |
売買による土地の所有権移転登記 | 固定資産税評価額×1.5% (軽減税率適用:令和8年3月31日まで) |
売買による土地以外の不動産の所有権移転登記 | 固定資産税評価額×2% |
贈与による所有権移転登記 | |
財産分与による所有権移転登記 | |
放棄による所有権移転登記 | |
抵当権設定登記 | 固定資産税評価額×0.1% |
抵当権抹消登記・住所変更登記 | 不動産1つにつき1,000円 |
印紙税
印紙税とは売買契約書に貼付する印紙代のことです。不動産の売買契約書は印紙税法に定める課税文書に該当するため、売買金額に応じた所定の印紙を貼付する必要があります。
売買契約書に記載された金額 | 税額 | 税額(軽減措置) |
10万円超え50万円以下 | 400円 | 200円 |
50万円超え100万円以下 | 1,000円 | 500円 |
100万円超え500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 |
500万円超え1,000万円以下 | 10,000円 | 5,000円 |
1,000万円超え5,000万円以下 | 20,000円 | 10,000円 |
5,000万円超え1億円以下 | 60,000円 | 30,000円 |
1億円超え5億円以下 | 100,000円 | 60,000円 |
5億円超え10億円以下 | 200,000円 | 160,000円 |
10億円超え50億円 | 400,000円 | 320,000円 |
50億円を超えるもの | 600,000円 | 480,000円 |
参照元:国税庁「不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」
不動産取得税
不動産取得税とは、贈与や売買によって不動産を取得した際に課される税金です。土地と家屋によって計算方法が異なります。
【土地】
当初税額=固定資産税評価額×3%
納税額=当初税額ー軽減額
住宅新築予定土地もしくは中古住宅(耐震基準適合既存住宅)用土地の場合、以下A、Bのいずれか低い額が軽減されます。
A:45,000円
B:(土地1㎡当たりの固定資産税評価額×1/2 ×(課税床面積×2)※×税率3%
※ 200㎡限度
【家屋】
住宅の納税額=(固定資産税評価額-特別控除額)×3%
非住宅の納税額=固定資産税評価額×4%
家屋に関しては、一定要件を満たした住宅の場合、築年数に応じて以下の額が控除されます。
新築された日 | 控除額 |
昭和51年1月1日~昭和56年6月30日 | 350万円 |
昭和56年7月1日~昭和60年6月30日 | 420万円 |
昭和60年7月1日~平成元年3月31日 | 450万円 |
平成元年4月1日~平成9年3月31日 | 1,000万円 |
平成9年4月1日以後 | 1,200万円 |
譲渡所得税
譲渡所得税とは、購入時よりも高値で売れて利益が出た際に課される税金。計算式は以下のとおりです。
- 譲渡所得=収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除
- 譲渡所得税=譲渡所得×税率
取得費とは、不動産の購入価格や購入時にかかった諸費用のこと。税率は所有期間によって異なる点に注意しましょう。
所得税(復興特別所得税含む) | 住民税 | 合計 | |
短期譲渡所得(所有期間5年以下) | 30.63% | 9% | 39.63% |
長期譲渡所得(所有期間5年超え) | 15.315% | 5% | 20.315% |
贈与税
贈与を受けた場合、贈与された不動産の時価をもとに贈与税が課されます。贈与税の計算式は以下のとおりです。
- 基礎控除後の課税価格:不動産価格-110万円(基礎控除)
- 贈与税額:基礎控除後の課税価格×税率-控除額
また、税率は一般税率と特例税率に分けられます。
- 一般税率:特例税率に該当しない場合
- 特例税率:18歳以上の方(贈与を受けた年の1月1日時点)が直系尊属から贈与を受ける場合
【一般税率】
基礎控除後の課税課価格 | 200万円以下 | 300万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 3,000万円超え |
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ― | 10万円 | 25万円 | 65万円 | 125万円 | 175万円 | 250万円 | 400万円 |
【特例税率】
基礎控除後の課税課価格 | 200万円以下 | 400万円以下 | 600万円以下 | 1,000万円以下 | 1,500万円以下 | 3,000万円以下 | 4,500万円以下 | 4,500万円超え |
税率 | 10% | 15% | 20% | 30% | 40% | 45% | 50% | 55% |
控除額 | ― | 10万円 | 30万円 | 90万円 | 190万円 | 265万円 | 415万円 | 640万円 |
不動産の活用は専門家に相談を
共有名義を単独名義に変更する方法や費用について解説しましたが、不動産活用をどうしたらいいか悩んでしまう場合は、専門家への相談がおすすめです。
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おわりに
共有名義の不動産は単独では売却や改築、賃貸ができません。共有者が遠方に住んでいる場合や、不仲な場合はやり取りがスムーズにできず不満を感じている方も多いでしょう。
そのような場合は、共有名義を単独名義にするのがおすすめです。共有名義を単独名義にする方法は、贈与、売却、放棄の3つに分けられます。
いずれも金銭の授受や納税、登記など複雑なやり取りが発生するため、当事者同士で話し合うのはもちろんのことながら、専門家に依頼するのがおすすめです。
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