遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するために必要な手続きをする者のことです。家族や親戚の遺言書を作成するにあたり、遺言執行者とは具体的にどのようなことをするのか知りたい方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、遺言執行者の決め方や業務内容などについて解説します。遺言執行者についての基礎知識が身につき、相続が発生した場合でも安心して手続きを進められるでしょう。
この記事を読んでわかること
- 遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するために必要な手続きをする者のことで、具体的には相続人・相続財産の調査や相続財産目録の作成、預貯金口座の解約、登記手続きなどを行う
- 決め方は「遺言書で指定する」「遺言執行者の選定人を指定し任せる」「家庭裁判所に選任の申し立てを行う」の3つ
- 遺言執行者に選ばれ就任する際には、他の相続人全員に「就任通知書」と「遺言書の写し」を送る
- 断る自由もあり、「仕事が忙しい」「手続きが難しそう」など、どのような理由でも問題ない
- 遺言執行者の業務内容は幅広く、時間的・精神的に負担となるケースもあるため、専門家に依頼するのも良い
遺言執行者とは
遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するために必要な手続きをする者のことです。
家族や親戚が亡くなった場合、基本的には遺言書の内容に沿って預貯金や不動産、株式などの遺産を分割します。
内容に応じて相続人・相続財産の調査や登記手続きなどを行いますが、これら一切の行為の権限を持つ者が遺言執行者です。遺言執行者は未成年者・破産者以外であれば、誰でもなれます。複数人がなることも可能です。
相続税の申告・納税など、相続手続きの多くには期限があります。遺言執行者がいることでスムーズに手続きを進められるため、メリットは大きいでしょう。また他の相続人の負担を軽減できます。
一方で遺言執行者には相当の知識が必要です。指定する場合には事前に話しておくと安心でしょう。
なお全ての遺言書に遺言執行者を定める必要はありませんが、遺言書に「子どもの認知」と「相続人廃除とその取り消し」がある場合には必要です。
「認知」とは、亡くなった方と婚姻関係にない方との間に子どもがいたときに「自分の子ども」と認めて、財産を与えたいときに使われます。また「相続人廃除」とは亡くなった方に対して暴行や侮辱などを行った者に財産を与えたくない場合に、相続人としての権利を剥奪することです。
遺言執行者の決め方は主に3つ
遺言執行者の決め方は次の3つです。
- 遺言書で指定する
- 遺言執行者の選定人を指定し任せる
- 家庭裁判所に選任の申し立てを行う
遺言執行者は相続手続きという重要な任務を果たさなければならないため、慎重に決めることが大切です。執行者を決めることは親族間でのトラブル防止にもつながります。ここでは決め方について具体的に解説します。
遺言書で指定する
遺言書に「遺言執行者に選任する」などと指定しておくことで、遺言書を作成した方は希望する家族や親族に安心して手続きを任せられるでしょう。
遺言書で指定する際には、以下の内容を記載します。
- 遺言執行者の氏名、住所、生年月日
- 遺言執行の範囲
遺言執行の範囲とは、預貯金の解約や土地・建物・株式の登記手続きなど、遺言執行者に行なってもらいたい業務のことです。なお遺言執行者と他の相続人とのトラブルを防止するために報酬を支払いたいときには、金額も記載しましょう。
遺言執行者が亡くなることも踏まえて、第2執行者や複数人の指定も可能です。その旨を遺言書に記載しましょう。
遺言執行者の選定人を指定し任せる
遺言執行者の選任人を遺言書で指定しておく方法もあります。遺言書作成の時期と実際に相続が発生するときの家族構成や関係性などは変わる場合もあるため、相続が発生したときに信頼できる者に選任してもらうのもおすすめです。
速やかに遺言執行者に相続手続きを任せるためにも、事前に指定する者に話し、選んでもらうようお願いすると良いでしょう。
家庭裁判所に選任の申し立てを行う
遺言書に遺言執行者や選定人の指定がない場合や遺言執行者が認知症になった・死亡した・拒否したとき、選定人が決めようとしたが全員に拒否されたときなどであれば、候補者を決めた上で家庭裁判所に選任の申し立てが可能です。
相続人などの利害関係人(申立人)が、亡くなった方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てることで、家庭裁判所側が選任してくれます。申立人の住所地の裁判所ではないため、注意が必要です。
家庭裁判所に申し立てる際の主な書類は、以下のとおりです。
- 申立書
- 亡くなった方の死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 遺言執行者の候補者の住民票または戸籍附票
- 遺言書の写しまたは遺言書の検認調書謄本の写し
- 戸籍謄本などの利害関係を証明する資料
申立書には、申立人・遺言者(亡くなる方)の住所や氏名、生年月日、職業、申し立ての趣旨や理由などを書き、収入印紙800円分(遺言書1通につき)を貼ります。その他連絡用の郵便切手が必要です。必要書類については、あらかじめ家庭裁判所に問い合わせておくと安心でしょう。
遺言執行者に選任されたらどうする?
遺言書にご自身が遺言執行者に指定する旨が記載されていても、就任するかどうかは本人の自由です。就任する場合には直ちに手続きに入らなければならないため、注意が必要です。ここでは遺言執行者に就任する場合と断りたい場合の進め方について紹介します。
遺言執行者に就任する場合
民法では遺言執行者について、「就職を承諾したら直ちに任務を行わなければならない」と定めています。そのため就任したら、「自分が遺言執行者になったこと」を通知するために、他の相続人全員に「就任通知書」と「遺言書の写し」を送りましょう。
その後、相続財産の調査や不動産・株式などの登記手続きなどに入ります。
遺言執行者になるのを断りたい場合
突然遺言執行者になり戸惑ったり、事情があり遺言執行者になれなかったりすることもあるでしょう。遺言執行者を断りたい場合には、口頭よりも書面で伝えるほうが安心です。
断る理由には相応の理由は必要なく、「仕事が忙しい」「手続きが難しそう」などどのような理由でも構いません。
なお、他の相続人や利害関係者は遺言執行者に指定された者に対して期限を設けて、就任職を承諾するか返答をもらう催促ができます。期限内に確答をしない場合には、遺言執行者に選ばれてしまうため注意しましょう。
遺言執行者の業務内容
遺言執行者の主な業務内容は以下のとおりです。
- 相続人を調査する
- 相続財産を調査する
- 相続財産目録を作成・交付する
- 遺言内容に従って執行する
- 業務の終了を報告する
民法では遺言執行者に、「相続財産目録を作成・交付する義務」を定めています。そして相続財産目録を作成するためには、相続人や相続財産の調査が必要です。自筆証書遺言を作成し法務局に預けていない場合には、家庭裁判所で検認(相続人に遺言書の存在や内容を知らせて、内容を明確にし、偽造を防止する手続き)をします。
なお、遺言書の内容に不満を持つ相続人がいれば、遺産分割協議や調停、審判で分割方法を決めることになります。
相続人を調査する
はじめに亡くなった方の相続人を調査します。多くの方が全ての相続人を把握していると思いますが、中には離婚歴があり前夫・前妻との間に子どもがいるなど、把握できていない可能性もあります。
具体的には亡くなった方の出生から死亡までの全ての戸籍謄本や、相続人全員の現在の戸籍謄本などが必要です。「子どもが死亡している」など状況によって必要な書類は異なります。
相続人を正確に把握しないと、後からその相続人とトラブルが発生する可能性もあります。また相続財産の名義変更の際に、各機関に相続関係を証明しなければなりません。円滑に相続手続きを進めるためにも、確実に調査しましょう。なお司法書士などの専門家に依頼するのも効果的です。
相続財産を調査する
次に相続財産を調査します。相続財産には預貯金・土地・建物・株式などがあり、プラスの財産だけではなく、借金・未払い家賃・医療費といったマイナスの財産も含まれます。中には相続人が把握していなかった財産が出てくることもあるでしょう。
例えば預貯金であれば金融機関で残高を、亡くなった方が「株式を持っていたかもしれない」とわかれば、証券会社に照会します。
相続財産の調査は、相続税の計算や相続放棄の必要性などを検討する上で重要な業務です。借金が後から見つかってしまった場合には、借金まで相続しなければならない可能性もあります。貸金庫や契約書類なども見て、隅々まで把握しましょう。
なお相続財産の調査についても司法書士などの専門家にお願いするのも良いでしょう。
相続財産目録を作成して交付する
調査した相続人と相続財産をもとに相続財産目録を作成します。相続財産目録とは相続財産の一覧表のようなものです。財産目録を作成したら、遺言書の写しと合わせて相続人全員に交付しましょう。
遺言内容に従って執行する
次に遺言書の内容に従って相続財産を分割し、財産を引き渡します。預貯金や土地、建物、株式などを分割するためには、各相続財産に合わせた手続きが必要です。
内容によっては必要書類を揃えたり時間がかかったりと、遺言執行者の負担になることもあります。以下では、預貯金口座の解約と株式の名義変更手続きについて詳しく解説します。
預貯金口座を解約する
遺言執行者は、銀行口座の解約手続きを単独でできます。遺言書がある場合には、主に以下の書類を用意します。
- 遺言書
- 検認調書または検認済証明書(公正証書以外の場合)
- 亡くなった方の戸籍謄本
- 遺言執行者の印鑑証明書
- 遺言執行者の選任審判書謄本(家庭裁判所で選任された場合)
状況によって必要な書類は異なるため、詳しくは銀行に問い合わせましょう。
株式を持っている場合の名義変更について
株式の名義変更に当たっては、上場会社の株式と非上場会社の株式で手続きが異なるため、注意が必要です。それぞれの名義変更について具体的に解説します。
【上場会社の株式の場合】
上場会社の株式を名義変更する際には、遺言執行者名で口座を開設し、移管手続きをします。そして現金化し、相続人に振り込みます。主な必要書類は以下のとおりです。
- 遺言書
- 亡くなった方の戸籍謄本
- 遺言執行者の印鑑証明書
状況によって必要な書類は異なります。証券会社に事前に確認しておくことでスムーズに進められるでしょう。
【非上場会社の株式の場合】
非上場会社の株式であれば、その会社に連絡して株主名簿を書き換えてもらいましょう。会社によって手続き方法は異なるため、しっかりと確認した上で進めると安心です。
業務の終了を報告する
全ての業務が終わったら、相続人全員に書面で終了したことを報告します。
遺言執行者の辞退について
一度遺言執行者になったものの、さまざまな事情で辞任を検討するケースもあるでしょう。ここでは遺言執行者の辞任について詳しく解説します。
遺言執行者を辞任したい場合
遺言執行者は、正当な事由がなければ、自由に辞任できません。ここでいう「正当な事由」とは長期の病気や多忙な職務などとされます。
辞任する場合には、相続が開始した場所を管轄する家庭裁判所の許可を得ることが必要です。辞任の許可が得られたら、全ての相続人に辞任の許可通知を送り、相続人に書類などを引き渡し、結果や経過を報告します。
遺言執行者の業務を専門家に任せるのもおすすめ
遺言執行者はさまざまな業務を確実に行わなければならず、専門的な知識が必要になるケースもあります。時間的・精神的な負担を軽減するために、専門家に依頼するのもおすすめです。
複雑な相続手続きにお悩みの方は「セゾンの相続 相続手続きサポート」にご相談ください。相続手続きに精通した司法書士と連携しているため、皆さまのお悩みをトータルでサポートいたします。初回の相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
おわりに
遺言執行者は相続人の調査や名義変更手続きなど、相続に関する一切の行為の権限を持ちます。決め方は「遺言書で指定する」「遺言執行者の選定人を指定し任せる」「家庭裁判所に選任の申し立てを行う」の3つです。就任した場合には、他の相続人全員に「就任通知書」と「遺言書の写し」を送ります。
遺言執行者の業務は専門的な知識が必要になるため、司法書士などの専門家に依頼することで、安心して手続きを進められるでしょう。