ご自身で書いて作成する遺言書のことを自筆証書遺言といいます。費用もかからず、一見簡単に作れそうですが、定められた様式を守らないと無効になるため注意が必要です。
このコラムでは、これから自筆証書遺言を作成する予定の方のために、無効にならないための注意点について解説しましょう。最後まで読めば、有効な自筆証書遺言を作成できるようになるはずです。
この記事を読んでわかること
自筆証書遺言とは、ご自身で文章を書いて作成する遺言書のこと。書く内容を秘密にできるうえに費用がかからないというメリットがある一方、形式や内容の不備が原因で無効になったり、そもそも遺言書自体を発見してもらえなかったりというデメリットもあるのです。
状況に応じて公正証書遺言の作成を検討したり、自筆証書遺言保管制度を利用したりする方法もあります。また、自力での遺言書の作成が難しい場合は、司法書士や弁護士などの専門家に相談しながら進めましょう。
遺言書の種類について
一口に遺言といっても、どのように作成するかによってさらに細かく分類できます。
病気で亡くなる寸前だったり、船舶の遭難事故に巻き込まれたりなど、極めて特殊な状況で作られる遺言(特別方式)もありますが、大部分は相続が発生する前(亡くなる前)事前に作成しておくのが一般的。
遺言書を事前に文書として作成する方法を普通方式といい、以下の3つに分類できます。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
それぞれについて、詳しく解説します。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、文字どおりご自身で書いて作る遺言書のことです。誰にも知られずに作成できるうえ、専門家などに頼むわけではないため費用も安価に抑えられます。
ただし、自己流で作成してしまうと法的に無効な遺言書になってしまうため注意が必要。また、ご家族に遺言書を作成したことを秘密にしていた場合は、相続が発生しても見つけてもらえないリスクがあります。
自筆証書遺言書保管制度を利用して作成した遺言書を法務局で保管してもらったり、万が一のことが起きた時のために遺言書が置いてある場所をご家族に知らせておいたりなどの配慮が必要でしょう。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、証人2名以上と公証役場に出向き、公証人とやり取りをしながら公正証書形式の遺言書を作成する方法です。
プロが作成する遺言書であるため、信頼性が高く、争いになりづらいのが大きなメリットでしょう。相続が発生したとしても、公正証書遺言であれば検認する必要もありません。
ただし、相応の費用がかかるうえ、誰に証人を頼むかが問題になる点には注意しましょう。未成年者やご家族・ご親族など相続が起きた場合の利害関係者になりうる方は証人にはなれません。
そのため、信頼できるお知り合いの方に頼むことになりますが、難しい場合は弁護士・司法書士・行政書士などの専門家に依頼しましょう。公証人役場で紹介してもらうこともできます。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言書自体はご自身で書き、その存在を公証人や証人に証明してもらう形で作る遺言書を指します。
遺言書の内容を秘密にできるうえ、遺言書があること自体は相続が発生した後、ご家族に証人を通じて伝えてもらえるのがメリット。
ただし、あくまで公証人や証人が保証してくれるのは「遺言書があること」だけです。ご自身で書いた遺言書に不備があれば法的に無効になってしまう点には注意しましょう。
自筆証書遺言が無効になるケース
自筆証書遺言や秘密証書遺言は、書き方を間違うと無効になるケースがあるため注意が必要です。無効になる具体的なケースとして、以下の8つを紹介します。
- 自筆していない
- 日付が書かれていない
- 署名や押印がない
- 正しい訂正方法ではない
- 内容が曖昧
- 2人以上で書かれた遺言書
- 判断能力が不十分な方が作成
- 偽造された遺言書
自筆していない
自筆証書遺言や秘密証書遺言の場合、遺言書自体を自筆していなかったら無効になります。
2019年の民法改正により、財産目録に関してはパソコンなど自筆以外での作成が認められるようになりました。不動産登記事項証明書や通帳のコピーを添付してもかまいません。
しかし、遺言書本体はすべてを自筆しないといけないため注意が必要です。文章だけでなく、日付や氏名も含まれます。
日付が書かれていない
ご自身で遺言書を作成した場合にありがちな間違いのひとつが「日付の書き忘れ」です。作成日が特定できない遺言書は無効になるため、書き忘れには注意しましょう。
また「年月のみ記載」「日付の部分を吉日にする」のも、作成日が特定できないため無効になります。例えば「2023年6月吉日」と書いた場合、6月何日のことなのかわかりません。
なお、一般的には日付を遺言書の末尾に記載しますが、封筒に記載する形にもできます。その際、西暦と和暦のどちらを使ってもかまいません。
署名や押印がない
自筆証書遺言には遺言者の署名および押印が必要になります。つまり、ご自身でお名前を手書きし、そのうえで押印しなくてはいけません。
なお、遺言書自体の中であれば署名・押印をする場所は自由です。基本的には、署名した部分の横か下に押印をすればかまいません。
また、押印をする際は印鑑ではなく、拇印も認められています。ただし、特に理由がなければ実印で押印しておいた方が無難でしょう。
正しい訂正方法ではない
遺言書を書き間違えても、訂正すること自体に問題はありません。ただし、書き間違えた場合の訂正方法が適切でなかった場合、遺言書は無効になってしまいます。修正液を使ったり、間違えた場所を黒く塗りつぶしたりする方法は認められません。
なお、適切な訂正方法は以下のとおりです。
- 訂正箇所を、元の文字が見えるように二重線で取り消す
- 横書きの場合は二重線の上部に、縦書きの場合は二重線の右側に、正しい文字や数字を記入する
- 訂正した行近くの余白に、削除や加えた文字数を書き、署名する
- 二重線に重なるように、元の文字や数字が見えるように訂正印を押す
内容が曖昧
遺言書の内容が不明瞭であることが原因で無効となる可能性があります。
最高裁判所では不明瞭な内容の遺言であっても、さまざまな情報を勘案し、真意を探求すべきという見解を示しています(最高裁昭和58年3月18日第二小法廷判決)。
つまり、基本的には「できるだけ遺言書の内容を読み解けるよう努力する」ことになりますが、不明瞭の程度によっては難しい場合もあります。
わかりやすく書くのが基本と考えて遺言書を作成し、遺言書の内容に不安を感じているなら、一度司法書士や行政書士、弁護士などの専門家に内容をチェックしてもらいましょう。
2人以上で書かれた遺言書
夫婦であっても遺言書は1人1通ずつ書く必要があり、2人以上の方が1通の遺言書を使って連名で遺言を残すこと(共同遺言)は認められません(民法975条)。共同遺言を認めてしまうと、撤回が自由にできなくなるためです。
つまり、一度遺言書を書いた後になって考え方や事情が変わったとしても、相手がいることだけに内容を変更しづらくなります。そのような事態を避けるために、共同遺言はできないと考えましょう。
判断能力が不十分な方が作成
認知症などで判断能力が不十分な方が書いた遺言書は無効になります。厳密には、以下の条件を満たしていれば有効ですが、そうでない場合は無効です。
- 一時的にでも判断能力を回復している状態である
- 遺言の内容を理解できる状態である
- 2名以上の医師が立ち会っている
後々トラブルにならないためにも、できるだけ判断能力が十分なうちに遺言書は作成しておきましょう。
偽造された遺言書
偽造を疑わせる遺言書は無効になるケースがあります。例えば、脳梗塞を発症した場合、判断能力が低下するうえ、手が自由に動かせなくなるため文字も上手に書けません。
そのため、脳梗塞発症後に作成した遺言書の場合、本人以外の誰かが書いたものとして偽造を疑われるのは珍しくないでしょう。過去にはこのような理由で遺言書が無効と判断された事件もありました。また、2通の遺言書間で筆跡が大きく食い違っている場合も、偽造を疑われるため要注意です。
遺言書の内容に納得できない!無効にする方法は?
仮に遺言書の内容に不満があったとしても、相続人や受贈者全員の合意があれば、遺言書とは異なる方法で遺産分割を成立させることは可能です。
つまり、当事者全員が話し合いをして納得できれば問題ありませんが、そういかなかった場合でも、遺言書を無効にする方法はあります。
ここでは具体的な方法として、以下の2つについて解説しましょう。
- 遺言無効確認調停を行う
- 遺言無効確認訴訟を行う
遺言無効確認調停を行う
まず、家庭裁判所に遺言無効確認調停を申し立てることが考えられます。これは調停委員が仲介者となり、関係者間での合意が得られる方法を模索する手続きです。簡単にいうと調停委員を交えた話し合いですが、合意ができなければ訴訟に移行します。
原則として、調停をせずにいきなり訴訟は起こせない点に注意が必要です(調停前置主義)。ただし、合意成立の見込みがないと判断される場合は、最初から訴訟を起こすことが認められるケースもあります。
遺言無効確認訴訟を行う
話し合いや調停で合意ができなかった場合は、遺言無効確認訴訟に移行します。この場合、家庭裁判所ではなく地方裁判所に提起することになるため注意してください。訴訟は裁判であるため、原告と被告がお互いに主張や立証を重ねていきます。十分な主張や立証がなされた段階で、裁判官が判断を下すのが一連の流れです。
なお、訴訟の途中で当事者間での折り合いが付けられそうなら、和解の提案がなされるのも珍しくありません。逆に、裁判官の判決に納得がいかなければ控訴し、控訴審(高等裁判所で争う)や上告審(最高裁判所で争う)へと進んでいきます。
自筆証書遺言の作成時に注意すること
自筆証書遺言はお金もかからずご自身のペースで作成できるため非常に便利です。しかし、誤った方法で進めると後々トラブルを招きやすい方法でもあるため、以下の点に注意して進めましょう。
- 遺言書作成ルールを守る
- 公正証書遺言を検討する
- 早めに作成しておく
- 専門家に相談する
遺言書作成ルールを守る
遺言書を作成する場合、ルールに沿った様式で進めることが重要です。以下の点に留意して進めましょう。
- 財産目録以外は必ず自筆する
- 財産目録をパソコンや代筆で作成した場合は全てのページに署名押印する
- 遺言書には必ず署名押印する
- 訂正が生じた場合は正しい方法で対応する
- 日付は必ず入れる
公正証書遺言を検討する
予算と時間に余裕があるなら、公正証書遺言も検討しましょう。
自筆証書遺言であっても、形式に則って正しく書けていれば特段問題ありません。しかし、間違いがあると無効になる可能性もあります。
公正証書であれば、法律のエキスパートである公証人が作成するため、間違いが起きる可能性は極めて低いです。
なお、公正証書遺言の作成手数料は相続財産の金額によって異なります。だいたい20,000円~50,000円程度と考えておきましょう。
早めに作成しておく
遺言書は判断能力が保たれているうちに、早めに作成しましょう。前述したとおり、判断能力が低下した後に作成した遺言書は無効になる可能性が出てきます。
今は元気でも、後々認知症などで判断能力に影響を及ぼす病気にかかることもあるため、早めに着手する方が安心です。
専門家に相談する
遺言書に不備があると無効になります。遺産分割協議など相続が起きた後の話し合いにも影響するため、トラブルを避けるためには専門家のサポートを受けましょう。
遺言書を作成するうえで起こりがちな以下の疑問点についても答えてもらえます。
- 自筆証書遺言と公正証書遺言のどちらが良いのか
- 誰にまで遺言書があることを伝えれば良いのか
- 財産目録はどうやって書いたら良いのか
- そもそもなぜ遺言書を作成しないといけないのか
ご家族やお知り合いを通じて専門家の当てがあるなら構いませんが、ない場合は「セゾンの相続 遺言サポート」をご利用ください。遺言書の作成はもちろん、生前の相続対策や相続発生後のサポートなど、専門家がシームレスに対応いたします。まずはお気軽にご相談ください。
おわりに
自筆証書遺言はすぐに作成し始めることができる上に費用もかかりません。便利な方法ではあるものの、内容の不備が原因で無効と判断されたり、遺言書自体を見つけてもらえなかったりなどトラブルも頻発しています。「ご家族に遺す」ための文書である以上、細心の注意を払って作成しましょう。
日付を必ず入れて、自筆で書いたものに署名押印するなどの基本的なルールを守るのは必須条件です。状況次第では専門家に相談しながら進めるのもおすすめします。