引きこもりの子どもがいる場合、親が亡くなった後どうなるのか心配になります。引きこもり状態が長い場合は、引きこもりの本人が将来もらえる老齢年金も期待できないこともあり、親は遺産を遺してあげたいと考えるかもしれません。一方で他の兄弟姉妹は不公平に感じる点もあるでしょう。そこでこのコラムでは、引きこもりの子どもがいる場合の相続全般について解説します。家族に引きこもり状態の方がいる場合、ぜひ参考になさってください。
この記事を読んでわかること
- 引きこもりの子どもがいる場合には、親が他の兄弟よりも多く遺産を遺してあげようとするケースがある
- 遺言書等で全財産遺すとした場合でも、実際には他の子どもも遺留分の範囲内で遺産をもらうことが可能
- 遺言で全財産を引きこもりの子どもに渡すことは実質不可能
- 親の相続開始後の手続きや遺産分割協議において、引きこもりの子どもが相続手続きを行うこと自体が難しい場面もある
- 社会とのつながりが希薄な分、もし遺産を相続しても金銭管理がうまくいかないこともある
- 引きこもりの子どもがいる場合には、後見制度の利用や信託制度の活用なども視野に入れ、司法書士や税理士、弁護士など相続に関係する専門家へ早めに相談するのがおすすめ
近年深刻化する引きこもり
近年問題になっている、いわゆる「引きこもり」は、実は若い方より中高年の方が多いというデータがあります。内閣府の調査によると、中高年の引きこもりの半数以上が5年以上引きこもっているという結果です。引きこもりの背景にはさまざまな問題がありますが、このコラムでは特に相続にどう影響するかを考察していきましょう。
相続に影響を与える「8050問題」
「8050問題」とは、80代の親が50代の子どもを扶養しなければならない状態のことを指します。親の死後、引きこもりの子どもが生活できるよう他の兄弟姉妹よりも有利な条件で遺産を遺そうとしますが、そのことが原因で兄弟姉妹間のトラブルに発展しかねません。
長年引きこもり状態ということは、国民年金保険料も支払っていない(または受給資格に満たない)場合も想定されます。そうなると、親の死後本人の老後生活も破綻することが懸念されます。それを防ぐために、親心として遺産分割の割合を多くしたいと考える方もいるでしょう。しかし、他の兄弟姉妹から見るとなぜ引きこもりの兄弟姉妹だけが優遇されるのかと不満を持つのも当然ではないでしょうか。
もし兄弟姉妹がおらずひとりっ子であるとしても、親の相続手続きを長年引きこもりで外部と接触がない方が順当に行うのはハードルが高いです。
いずれにしても、引きこもりの子どもと家族の「8050問題」は、さまざまな方面で影響が懸念されます。
引きこもりの子どもに相続させるリスク
引きこもりの子どもに相続させるリスクについて、以下2点を解説していきます。
- 手続きができない可能性がある
- お金の管理が難しいケースも
手続きができない可能性がある
長い間社会や人とのつながりが希薄な引きこもりの方にとっては、相続の手続きはハードルが高いでしょう。まず相続には手続きに期限がありますので、いつまでに、何をしなければならないということ自体が、引きこもりの方にとっては苦痛と感じるかも知れません。
さらに、相続手続きはどうしても外部との接触が必要です。近年ペーパーレス化やオンライン化が進んでいるとはいえ、相続の手続きにおいては、まだ対面での手続きが必要な場面が多くあります。
これらのことから、相続手続きを期間内に完了することができず、最悪の場合、家や土地などの財産差し押さえになることも懸念されるのです。
お金の管理が難しいケースも
引きこもりの方が遺産相続しても、手にしたお金をうまく管理できず散財してしまう可能性が考えられます。年齢が若い時期から外部との接触が少なく、お金の管理をする場面も少なかった方は特に危険です。
就労している期間がある場合は、お金に関する一般的な価値観を持ち合わせていることもあるでしょう。しかし、ほとんど就労した経験がなく、これまで親のお金で生活してきたような場合は、お金の大切さやいつかお金が尽きてしまう感覚が薄く、遺産を散財してしまうリスクが高いといえます。
子どもに兄弟姉妹がいる場合に起こりうるトラブル
引きこもりの子どもに兄弟姉妹がいる場合の起こりうるトラブルについて、以下2点を解説します。
- 遺言書に「ひとりだけに全財産を相続させる」と書かれている
- 遺産分割協議に応じない
遺言書に「ひとりだけに全財産を相続させる」と書かれている
引きこもりの子どものことが心配なあまり、他の兄弟姉妹に内緒で全財産を相続させようとしている親もいるかもしれません。しかし親が亡くなった後の子どもには遺留分という最低限もらえる金額があります。本来もらえるはずの法定相続分の2分の1相当額を、家庭裁判所に申し立てることで取り戻すことが可能です。
例えば3兄弟姉妹のうち、ひとりが引きこもりだったとします。遺された遺産が3,000万円だったとする場合、本来であれば子ども1人当たり1,000万円ずつ分けることになるでしょう。しかし、親が遺言書で「引きこもりの子どもひとりのみに全額を相続させる」と記していた場合でも、他の2人の子どもは遺留分として法定相続分の2分の1相当である500万円ずつを取り戻すことができます。
この他、兄弟姉妹間で遺産分割協議を提案することも対策のひとつです。しかし、長年引きこもり状態であれば、兄弟姉妹間の話し合いにも応じないことがあるかもしれません。次の項目にて詳しく解説します。
遺産分割協議に応じない
遺産分割協議は全員参加が前提であり、決定事項に関して全員合意は必須です。もし兄弟姉妹のうち誰かが協議に応じない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てることになります。
それでも解決しない時は審判を待つことになります。話し合いが難航したとしても、引きこもりの兄弟姉妹をわざと排除した場合は分割自体が無効になる点に注意が必要です。
兄弟姉妹に相続させない方法
引きこもりの兄弟姉妹がいる場合、その方に相続させない方法として次の2点を紹介します。ケースバイケースですので、あくまで参考としてください。
- 相続人から廃除する
- 相続を放棄させる
相続人から廃除する
引きこもりの本人に非行事実や親を虐待しているなど明らかな問題がある場合、被相続人の意思のもと相続人を廃除することができます。被相続人(親)が家庭裁判所へ申し立てることで、引きこもりの子どもを廃除できるのです。この他、遺言書に明記しておくこともできますが、確実な方法としては家庭裁判所への申し立てが有効になります。
相続の廃除は、あくまでも被相続人(親)が申し立てることで可能な手続きです。兄弟姉妹同士で廃除の手続きをすることはできません。
相続を放棄させる
引きこもりの本人に相続する気がない場合は、あらかじめ相続放棄が可能です。相続放棄は、相続開始から3ヵ月以内に家庭裁判所への申し立てをする必要があります。兄弟姉妹で話し合い、引きこもりの本人に相続の意思がないようであれば、相続放棄について案内し手続きを促すのも方法のひとつです。
トラブルを防ぐための対策とは?
親の死後、兄弟姉妹同士でトラブルにならないための対策について以下4点を紹介します。
- 遺言書を作成する
- 成年後見制度
- 生命保険信託
- 家族信託
遺言書を作成する
引きこもり期間が長く、それまで兄弟間でもあまり会話がなかった場合は、相続の話し合いが難しいことも想定されます。あらかじめ遺言書を作成しておけば、相続発生後の話し合いの負担の軽減にもつながるでしょう。
遺言書の種類には、次の3つがあります。
- 自筆証書遺言
- 秘密証書遺言
- 公正証書遺言
自筆証書遺言とは、一般的な遺言書のイメージです。全文手書きで、記入した日付と記名押印があれば成立します。ただし保管場所は被相続人の自宅や関連先であるため、相続開始前に紛失する恐れや、第三者に開封や改ざんされるリスクがあります。
費用はかかりますが、自筆証書遺言を法務局で保管する制度もあります。自宅等で保管している自筆証書遺言を見つけた場合には家庭裁判所で検認手続きが必要です。
秘密証書遺言は、自筆証書遺言を作成したのち、公証役場で「遺言書が存在している」という証明をしてもらう形式です。費用がかかるうえ、遺言書の保管は自宅等であることからやはり紛失や改ざんのリスクがあります。
公正証書遺言は、被相続人が公正役場にて証人2名の前で遺言内容を口述し、公証人が遺言書を作成します。作成した遺言書はそのまま公証役場にて保管されるため、検認の必要がありません。費用はかかりますが、3つの遺言書の中で最も確実で安全であるといえます。
成年後見制度
親なき後、引きこもり本人の財産管理や生活面をサポートする「成年後見制度」があります。ただし、この制度は精神疾患を抱えているなど、一定の状態である成年被後見人に該当することが要件であり、ただ単に引きこもりというだけでは利用できません。家計管理をしていた親が高齢により認知症などになった場合には、成年後見制度を利用できる可能性があります。
この他「法定後見制度」「任意後見制度」など類似の制度を利用できる場合もあります。後見制度を利用すると、自由に財産の処分ができなくなります。したがって、生前贈与や不動産の投資など柔軟な相続対策はできないなどのリスクがあるのです。
生命保険信託
生命保険のように一括でまとまったお金を受け取ってしまうと、受取人が財産管理できない場合には保険金を一気に浪費してしまうリスクがあります。そのような場合、生命保険信託の利用を検討してみましょう。
生命保険信託とは、死亡後の保険金を毎月設定した金額ずつ受取人に渡せる制度です。引きこもりとなっている子どもがひとりっ子の場合や、後見制度を利用しない場合には有効な対策となります。
家族信託
財産管理を他の家族に託し、引きこもりの本人に定期的に渡してもらう制度を家族信託といいます。後見人制度よりも自由に財産管理ができるため、家族間の柔軟なやりとりに期待できるでしょう。
トラブルに発展しやすい相続問題はプロに相談がおすすめ
引きこもり本人と兄弟姉妹の間でトラブルに発展しやすい相続問題ですが、プロや専門家に相談することでスムーズに進む場合もあります。相続の手続きは何かと期日が決まっているものもあるため、実際に相続が始まる前にある程度の方向性だけでも相談し、道筋を立てておくと安心です。
相談内容によって対応先が異なる
相続の相談を受けているプロや専門家はさまざまです。実際の相談内容によって対応できる専門家やプロは異なるため、その特徴について知っておくと安心です。
- 税理士
相続税など税金全般に関しては税理士へ相談しましょう。相続税の具体的な計算や申告手続きは税理士しかできません。 - 弁護士
兄弟姉妹間の相続に関するトラブルは弁護士へ相談しましょう。遺産分割協議や遺言書のトラブルにも対応できます。 - 司法書士
相続登記は司法書士へ相談しましょう。また、相続放棄の手続きも司法書士へ依頼できます。 - 行政書士
相続に関する銀行の手続きや書類作成は、行政書士に相談するのが良いでしょう。 - 信託銀行
遺産相続に関する手続きをまとめて依頼できるのは信託銀行です。
セゾンの相続も利用してみよう
相続開始前でも開始後でも、相続に関する総合的なサポートが可能なセゾンの相続をぜひご活用ください。司法書士や税理士など専門家と提携しているため、必要に応じて連携を取りながら最適なアドバイスをしています。もちろん相談料は無料ですので、お気軽にご相談ください。
おわりに
中高年の引きこもりが増えているということは、その親世代も高齢化が進んでいるということです。
親の相続はまだ先であると思いたい反面、社会との関係が希薄な引きこもりの兄弟姉妹がいる場合は相続に関して早めに相談し、あらかじめ対策をしておくことをおすすめします。いざ相続開始となった場合に、手立てがないとなるとどうしようもありません。
家族間での協議が難航する前に、セゾンの相続の無料相談を利用してみませんか。相続全般に関する困りごとは、ぜひお気軽にセゾンの相続までご相談ください。