相続により不動産を取得し、今後運用したいと考えているものの、具体的な用途や将来的な価値がわからずに悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
そのような方におすすめなのが譲渡型賃貸住宅投資です。このコラムでは譲渡型賃貸住宅投資のメリット・デメリットや始め方、注意点について解説します。不動産の運用方法で悩んでいる方は、このコラムを読むことで、譲渡型賃貸住宅投資の仕組みがわかり、今後の運用方法を定められるでしょう。
この記事を読んでわかること
- 譲渡型賃貸住宅とは、長期の定期借家契約(普通借家契約の場合もある)を用いて賃貸借契約を締結し、賃貸期間満了後に住宅を入居者に譲渡する仕組み
- 支払った家賃が無駄にならない点や、住宅ローンを組まずに住宅を取得できる点が評価され、近年注目されている
- オーナーとしても、都度入居者を探す必要がない点や家賃滞納リスクが低い点から安定的に長期投資できる点がメリット
- 不動産の個別性や時期によって最適な運用方法は異なるため、ご自身の目的やライフプランに合った選択をすべき
譲渡型賃貸住宅について
譲渡型賃貸住宅という言葉を聞き慣れない方も多いでしょう。ここでは譲渡型賃貸住宅の概要や注目されている理由、一般的な賃貸住宅経営との違いについて解説します。
譲渡型賃貸住宅とはどういうものか
譲渡型賃貸住宅とは、長期の定期借家契約(普通借家契約の場合もある)を用いて賃貸借契約を締結し、賃貸期間満了後に住宅を入居者に譲渡する仕組みです。
通常の賃貸物件では家賃を支払い続けても物件はご自身のものになりません。そのため、保険用語を用いて、住宅ローンは積立型、賃貸住宅は掛け捨て型と表現されます。
一方、譲渡型賃貸住宅の入居者は将来的に物件を取得できるため、これまでの賃貸住宅の概念を大きく変える仕組みといえるでしょう。
なぜ譲渡型賃貸住宅が注目されているのか?
譲渡型賃貸住宅が注目されている理由は以下のとおりです。
- 家賃が無駄にならない
- 住宅ローンを組めない方でも住宅を取得できる
- 勤め先によっては家賃補助を受けられる
一般的な賃貸住宅の場合、家賃を支払っていても物件は取得できないため、家賃が無駄になると考える方もいるでしょう。そのため、資産性を求める方は住宅ローンを利用してマイホームを購入する傾向にあります。
しかし、住宅ローンはすべての方が組める訳ではありません。新型コロナの影響で勤務先の業績が低迷し収入が減った方もいるでしょう。住宅ローンの審査結果は外的な要因の影響も受けるため、個人の力だけではどうにもできない場合があります。
一方、譲渡型賃貸住宅であれば、形式は賃貸住宅への入居であるため、住宅ローンほど審査は厳しくありません。さらに、支払うのはローンではなく家賃であるため、勤め先によっては家賃補助を受けられるのがメリットです。自営業者や公務員、大企業に勤める方のなかには、譲渡型賃貸住宅に住んでいる方も増えています。
一般的な賃貸住宅経営と何が違う?
一般的な賃貸住宅経営は、築年数が経過するほど家賃が下落する傾向がありますが、それは築年数の経過によって建物が傷むことに加え、設備も古くなるためです。
リフォームやリノベーションによって家賃を高くすることは可能ですが、その分費用もかかります。新築物件の方が賃貸需要が高い傾向にあるため、中古物件は減少する需要に合わせて家賃を設定しなおす必要があり、運営のための試行錯誤が求められるのです。
また、一般的な賃貸借契約は2年更新であるため、更新のタイミングで退去するケースも少なくありません。次の入居者が決まれば問題ありませんが、入居者が決まらない場合空室期間が発生し、家賃収入を得られなくなります。
一方、譲渡型賃貸住宅の場合は、当初指定した家賃で長期間に渡って収入を得られることに加え、将来の譲渡のために入居し続けることが前提であるため、空室リスクを軽減できるでしょう。
譲渡型賃貸住宅投資のメリット
譲渡型賃貸住宅投資のメリットは以下のとおりです。
- 都度入居者探しをしなくて良い
- 空室対策が不要
- 家賃が下落しない
- 家賃滞納のリスクが低い
- 立地条件が幅広い
- 出口戦略が不要
それぞれについて解説しましょう。
都度入居者探しをしなくて良い
譲渡型賃貸住宅投資は、通常の賃貸住宅経営とスキームが異なります。
- 新築の場合:入居者(将来の所有者)のオーダーをもとに建物を建てる
- 中古の場合:入居者(将来の所有者)のオーダーをもとにリフォームをする
つまり、入居者が決まってから事業がスタートするため、建物を建てたものの入居者が決まらない、リフォームしたものの入居者が決まらないといったリスクを避けられるのです。
また、現在不動産を所有していない場合は、入居者となる方が決まってから具体的な土地を探します。
空室対策が不要
通常の賃貸住宅経営では退去後のリフォームや入居者の募集、ローン返済のための自己資金の確保など空室対策が必要ですが、譲渡型賃貸住宅投資であれば空室対策が不要です。
譲渡型賃貸住宅に入居する方は、将来的にその建物を取得することを前提としていることから、特段の事情がない限り契約期間満了まで入居し続けます。
譲渡型賃貸住宅は空室期間が発生しにくいため、運用効率が高まるのです。
家賃が下落しない
譲渡型賃貸住宅では、貸主と借主の間で定期借家契約を締結するのが一般的です。
定期借家契約は家賃の減額を認めない旨の特約を設定できるため、契約締結から期間満了まで同じ家賃収入を得られます。
通常の賃貸住宅経営では築年数の経過によって家賃が下落する傾向にありますが、譲渡型賃貸住宅では一定の家賃を得られるため、今後の資金計画が立てやすい点がメリットです。
家賃滞納のリスクが低い
譲渡型賃貸住宅に入居する方は、将来的な譲渡を前提としているため、期間内の家賃滞納リスクは低いと考えられます。家賃滞納などにより契約解除(違約)となると、将来的に建物の譲渡を受けられなくなり、本来の目的を達成できないためです。
また、譲渡型賃貸住宅に入居する方は、安定した収入がありマイホームを取得したいと考えているもののやむを得ない事情で住宅ローンを組めない方や、組みたくない方など家賃支払い能力のある方が対象となるため、家賃滞納リスクは低い傾向にあります。
立地条件が幅広い
通常の賃貸住宅経営の場合、賃貸需要の大きい都市部での投資がメインとなりますが、譲渡型賃貸住宅ではその限りではありません。
マイホームを取得したい地域は人によって異なるためです。都市部で生活したい方がいる一方で、自然豊かな環境で生活したい方や、広い庭が欲しい方などもいるでしょう。そのため、郊外や地方の不動産も投資の対象になります。
出口戦略が不要
譲渡型賃貸住宅では、事業着手時に最終的な物件の処分方法が決まっているため、出口戦略を立てる必要がありません。
通常の賃貸住宅経営では、購入や運用よりも出口戦略が難しいとされています。購入から売却までは数年〜数十年の期間があり、不動産市況などの予測が難しいためです。
仮に賃貸経営でプラスの収支だとしても、売却時に購入時よりも大幅に値下がりしていると、最終的に赤字になってしまう恐れがあります。
その点譲渡型賃貸住宅ではあらかじめ出口戦略が決まっており、安定的かつ計画的な投資が可能です。
譲渡型賃貸住宅投資のデメリット
譲渡型賃貸住宅投資にはメリットがある一方で、以下のようなデメリットもあります。
- 退去リスクがある
- 利回りはさほど高くない
- 売却益を得られない
- 認知度が低い
それぞれについて解説しましょう。
退去リスクがある
譲渡型賃貸住宅は定期借家契約を結ぶため、契約期間満了まで同条件で賃貸契約が継続します。
しかし、さまざまな状況の変化で入居者が退去する可能性はゼロではありません。具体的には以下のとおりです。
- 転勤を命じられた
- 病気を患って療養が必要になった
- 家賃を支払えなくなった など
とくに、定期借家契約における「やむを得ない事情」に該当する場合は、中途解約であっても違約金を請求できない可能性があります。
このように、継続的に家賃収入を得られるはずの譲渡型賃貸住宅投資でも、退去リスクがあることは考慮しておきましょう。
なお、やむを得ない事情の判断は貸主や裁判所に委ねられます。
利回りはさほど高くない
譲渡型賃貸住宅投資では、高い家賃を設定すると入居者との諸条件が合わない可能性が高いです。長期的に住む前提であることから、入居者の負担を軽減できる金額に設定する必要があります。
そのため、結果として利回りはさほど高くならないケースもあると考えておきましょう。
ただし、通常の賃貸住宅経営ほど空室リスクは高くないため、両者を比較する際は単月や1年の利回りではなく、長期目線で比較する必要があります。
売却益を得られない
通常の賃貸住宅経営では最終的に売却するため、値上がりしている場合は売却益を得られますが、譲渡型賃貸住宅投資では、期間満了後に無償譲渡するのが一般的です。そのため、仮に物件価格が上がっていたとしても売却益は得られません。
期間満了までに黒字化する家賃設定をするか、有償譲渡の契約にするかを考える必要があります。
認知度が低い
譲渡型賃貸住宅投資は新しい契約形態であり、認知度は高くありません。そのため、取り扱っている不動産会社や建築会社も限られると考えましょう。
また、新しい仕組み故に一般に普及するまでは入居者側が不安に感じ、入居希望者が限られる可能性があります。
譲渡型賃貸住宅投資の始め方
譲渡型賃貸住宅投資のメリット・デメリットがわかったところで、ここからは譲渡型賃貸住宅投資の始め方をご紹介します。具体的な流れは以下のとおりです。
- 譲渡型賃貸住宅を取り扱っている不動産会社に相談する
- 土地代や建築費用を支払うための資金を調達する
- 入居希望者を探す
- 入居希望者の審査や希望物件のヒアリング
- 物件の建築(既存住宅の場合はリフォーム)
- 完成後入居開始
- 毎月家賃収入を得る
- 期間満了後に所有権を譲渡する
なお、不動産の所有者は貸主であるため、土地代や建築費用の他に不動産取得税や登記費用、固定資産税などを支払う必要があります。
譲渡型賃貸住宅投資では、入居希望者とのマッチングが重要です。入居者の探し方はさまざまですが、不動産会社に相談するのが最もスムーズでしょう。
譲渡型賃貸住宅を取り扱っている不動産会社は少ないため、東京都、大阪府、愛知県のように、地名を入れて検索してみるのがおすすめです。
譲渡型賃貸住宅投資の際に注意したいこと
譲渡型賃貸住宅投資を始める際は、以下の点に注意しましょう。
- 万一のことを想定して売却しやすい立地や建物を選ぶ
- 修繕費や諸費用について取り決めておく
- リスク回避できる契約内容にする
- さまざまな土地活用を検討する
それぞれについて解説しましょう。
万が一のことを想定して売却しやすい立地や建物を選ぶ
譲渡型賃貸住宅投資は通常の賃貸住宅経営に比べて空室リスクの低い投資手法ですが、転勤や病気による療養で入居者が退去する場合もあります。
その場合、次の入居者を探すか売却を選択しなければなりません。
仮に売却する場合、需要の低い地域や用途が限られる地域だと、なかなか買手が見つからない恐れがあるでしょう。また、入居者のオーダーに沿った結果、個性的な間取りになり買手から敬遠されることも考えられます。
万が一のことを想定して、売却しやすい立地や建物を選びましょう。
修繕費や諸費用について取り決めておく
一般的な賃貸住宅では、修繕費や設備の取り換え費用はオーナー負担です。
しかし、期間満了直前に修理や設備の取り換えが発生すると、オーナーが損をする恐れがあります。明確な規定を定めなければトラブルになる可能性もあるため、事前に契約書で費用負担や範囲を明確にしておきましょう。
具体的には賃貸開始10年目まではオーナー負担で、それ以降の修繕は入居者負担にするなどです。その他自然災害時の費用負担や、固定資産税などの税金についても明確に定めておきましょう。
リスク回避できる契約内容にする
譲渡型賃貸住宅投資は長期間の契約になるため、なるべくリスクを回避できる契約内容にする必要があります。具体的には途中解約の違約金などです。
入居者の要望に沿って住宅を建てたにもかかわらず、1〜2年など短い期間で退去されてしまうと、オーナー側の負担が大きくなります。
5年以内の退去は違約金が発生する、違約金の額は10年目までの賃料相当分にするなど、工夫が必要です。しかし、明らかに入居者の負担が大きくなるような契約内容の場合、入居してもらえない可能性もあるためバランスが大切になります。
不動産会社などのアドバイスを受けながら契約内容を考えましょう。
さまざまな土地活用を検討する
現在不動産を所有している場合や、相続で不動産を取得した場合は、さまざまな土地活用が検討できます。
譲渡型賃貸住宅投資は長期間安定した家賃収入を得られる可能性がある投資手法ですが、立地条件によっては他の選択肢が適している場合もあるでしょう。
例えば、月極駐車場やコインパーキング、レンタルトランクルームなどです。また、市況によっては売却したほうがまとまった利益を得られる可能性もあるでしょう。
不動産の個別性や時期によって最適な手法は異なるため、ご自身の目的やライフプランに合った選択をする必要があります。
もしご自身だけで考えるのが難しい場合は、専門家への相談がおすすめです。「セゾンの相続 相続不動産の有効活用」では、不動産の専門家のご紹介も可能ですので、個別事情に沿った最適な提案を受けられます。無料で相談できるため、ぜひご活用ください。
おわりに
譲渡型賃貸住宅とは、長期の定期借家契約(普通借家契約の場合もある)を用いて賃貸借契約を締結し、賃貸期間満了後に住宅を入居者に譲渡する仕組みです。
譲渡型賃貸住宅は、支払った家賃が無駄にならない点や住宅ローンを組まずに住宅を取得できる点が評価され、近年注目されています。
オーナー側も空室リスクが低い点や出口戦略が不要な点から、長期的に安定した家賃収入を得られることがメリットです。
しかし、新しい契約形態であり、認知度は高くありません。譲渡型賃貸住宅投資を行う場合は専門家のアドバイスを受けて慎重に進めましょう。