かつては「夫婦は、一緒に夫の実家のお墓に入るもの」という共通認識がありました。しかし現在は埋葬の形態や方法も多様化していて、「義理の実家のお墓に入りたくない」「ひとりでのんびり眠りたい」と考える方の希望も通りやすくなっています。ここでは、この希望に沿うべく、さまざまな選択肢を紹介しましょう。
この記事を読んでわかること
結婚されている方がお墓のことを考える時、「配偶者と同じお墓や、義理の実家のお墓に入らなければならないのか」という疑問をお持ちになる方もいらっしゃるでしょう。このコラムを読むことで、その答えがわかります。
また、婚家のお墓に入りたくない場合に取るべき行動やその選択肢について知ることができるでしょう。加えて、特例として「死後離婚」のことにも言及します。
感情面の話と法的な話、そして慣習の話を、それぞれ別個に分けて解説していますので、是非ご覧ください。
絶対に夫や義実家のお墓に入らなければならない?
「偕老同穴(一緒に暮らして、一緒に年老いて、一緒のお墓に入ること)」という考え方は、現在でも廃れきってはいません。しかし「婚家のお墓のお墓には入りたくない」「配偶者とは別のお墓で眠りたい」と考える方もいます。
ここではまず、「そもそもこの選択肢を取ることは可能かどうか」について解説しましょう。
夫や義実家のお墓に入りたくない方が増えている
婚家のお墓や配偶者と一緒のお墓を拒絶する理由は、人によって大きく異なります。
- ひとりでのんびり休みたい
- 義実家との関係が良くなかったので、一緒に眠りたくない
- 信仰する宗教が違う
- 理想とする埋葬方法が違う
など、その理由はさまざまです。
少し古いデータではありますが、2014年に第一生命経済研究所が取ったデータでは、年齢が高ければ高いほど「夫婦は同じお墓に入るべきである」と考えている方が多いことが示唆されています。
このデータは60~79歳までの方を4歳ずつの年齢層で区切ったものですが、これによれば、75~79歳のうちの72%が「夫婦は同じお墓に入るべきだ」と答えているのです。
対して70~74歳ではこの割合が61.5%、65~69歳では51.5%、60~64歳では40%と5割を割り込んでいます。おそらく60歳以下の世代では、この割合はもっと少なくなるでしょう。
そもそもなぜ同じお墓に入らなければならない?
「婚家のお墓や、配偶者と一緒のお墓に入ること」は、昔からの慣習でした。言い方を変えれば、これには法的な根拠はないといえます。結婚=嫁ぎ先の家に入る、という概念が薄れてきた今では、「婚家のお墓や、配偶者と一緒のお墓に入ること」を拒否しても全く問題はありません。
もちろん、夫婦間での話し合いや、祭祀継承者との話し合いは必要です。しかし「同じお墓に入りたくない」という気持ちが明確なものであるのなら、それを表明することにためらいを感じる必要はないでしょう。
また、当然のことではありますが、「2人で話し合いが済んでいるので、夫の実家ではなく、妻側の実家のお墓で眠りたい」という選択肢を取ることも可能です。
婚家のお墓に入らないために行うこと
婚家のお墓や配偶者と一緒のお墓に入りたくない場合には、事前の準備を行っておくことをおすすめします。
祭祀承継者に伝えておく
祭祀継承者(仏壇やお墓などを引き継ぐ方。子どもが務めることが多い)に対して、日頃からご自身の意志を伝えておくことで、婚家のお墓、配偶者と一緒のお墓に入れられる確率を下げることができます。
なおその際は、口頭で述べるよりも書面で残しておいた方が良いでしょう。普段から口で伝えるようにしつつ、エンディングノートなどにも記しておくと良いかもしれません。
祭祀承継者以外の関係者にも伝えておく
祭祀継承者にご自身の意志を伝えるのと並行して、祭祀継承者以外の親族、関係者にもご自身の意向を示しておくと良いでしょう。
祭祀継承者のみにしかご自身の意志を伝えていない場合、亡くなった後に他の親族・関係者が祭祀継承者を婚家のお墓や配偶者と一緒のお墓に入れるように説き伏せる可能性があるからです。
法的効力はないが遺言書に残す
上記では、「エンディングノートにご自身の意向を記すのが良い」としましたが、遺言書に「婚家のお墓、配偶者と一緒のお墓に入りたくないこと」を記しておくのも有効です。
ただし、「死後の埋葬方法」については、たとえ遺言書に記していたとしても法的な拘束力を発揮しないという点には注意してください。
遺言書は財産や子どもの認知、また祭祀継承者の指定などの11の項目において法的拘束力を発揮するものですが、財産とは関わりのない死語の埋葬方法については法的拘束力を発揮しません。そのため、たとえ遺言書にこれを記していたとしても、残された方が違う埋葬方法を選ぶ可能性はあります。
もっとも、この点を考慮してなお、「遺言書に記す」という手段は、口頭やエンディングノートで意向を伝えるよりも心情的な面から見て有効性が高いでしょう。
夫や義実家のお墓に入らない場合の対処法
上記では、「婚家のお墓、配偶者と一緒のお墓に入りたくない場合の事前準備」について解説してきました。
ここからは特に「婚家のお墓に入りたくない場合」を取りあげて、そのときに取り得る選択肢について解説していきます。
実家のお墓に入る
まず初めの選択肢として挙げられるのが、「結婚前のご自身の家(=実家)のお墓に入る」というものです。結婚をした女性であっても、本人が希望し、また実家の祭祀継承者が許可する場合は、結婚前の家のお墓に入ることが可能です。
ただし、慣習から考えれば、結婚後の女性は婚家のお墓に入ることが多いといえます。そのため、「結婚前の実家のお墓に入りたい」と希望する場合は、特にきちんとそれを伝えておく必要があるでしょう。また念のため、実家のお墓の墓地管理規約なども確認してください。
夫婦だけのお墓やご自身だけのお墓を購入しておく
「婚家のお墓には入りたくないけれど、配偶者とは一緒に眠りたい」と考える場合は、夫婦だけのお墓を新しく買い直すのもおすすめです。この選択肢は、「実家が遠方にあって帰ることが難しい」というご家庭にもよく選ばれる選択肢であるため、ご家族、ご親族の理解も得られやすいでしょう。
また、「婚家のお墓に入りたくないのはもちろん、配偶者とも一緒に眠りたくない」という場合は、ご自身だけの個別のお墓を購入することも選択肢に入ってきます。
永代供養墓や合葬墓などを検討する
「残していく方に迷惑をかけたくない」ということであれば、永代供養墓や合葬墓を検討することをおすすめします。
永代供養墓とは、「一定の期間は個別で埋葬し、一定期間経過後は他のご遺骨と一緒にする」という方法であり、合葬墓とは「個別の期間を設けず、初めから他のご遺骨と一緒に埋葬する」という方法です。
前者の場合、しばらくはゆっくりご自身ひとりだけあるいは配偶者と2人だけで眠れるといったメリットがありますし、後者は埋葬費用が非常に安く済むといったメリットがあります。
いずれの場合でも祭祀継承者を必要としませんから、祭祀継承者がいないあるいは祭祀継承者の説得が難しい場合は、この方法が非常に有用な選択肢でしょう。
なお、納骨堂のなかにもこのようなプランを打ち出しているところが多くみられます。
また、ご遺骨を土に埋めて自然に返す樹木葬もおすすめです。
散骨
「海洋葬」とも呼ばれる「散骨」も、非常に有用な選択肢です。パウダー状に砕いたご遺骨を海に撒くものである海洋葬・散骨を行えば、「婚家のお墓に入らなければならない」というプレッシャーから解放されるでしょう。
またこの方法は、「海で静かに眠りたい」と考える方にも向いています。ただし全てのご遺骨を散骨してしまうと、一般的な「墓参り」が非常にしにくくなる点には注意してください。
海洋葬を選択したご家族が手を合わせようとすると、その都度海に出なければならないからです。
手元供養を依頼する
遺族が納得してくれれば、手元供養という方法もあります。これはご遺骨を埋葬することなく、手元に置き供養していく方法をいいます。
「婚家のお墓には入りたくないが、自分たちでお墓を買う経済的な余裕がない」という方におすすめの選択肢です。
ただし、手元供養をしていたご遺骨は、どこかのタイミングで埋葬しなければなりません。そのためどこかのタイミングで、「どのように埋葬をするか」の問題がまた出てくることになります。
婚姻関係修了届や死後事務委任契約を利用する方法
ここまで、「死後に婚家のお墓に入りたくない場合の選択肢」について解説してきました。しかしこれらの方法は、法的な拘束力を持つものではありません。
言い方を変えれば、「どれだけきちんと伝えていたとしても、祭祀継承者の考えによっては反故にされてしまうもの」でもあります。
そのためここからは、法的な拘束力を持つ2つの選択肢について解説していきましょう。
姻族関係終了届を利用する
「配偶者が生きている間は婚家と関係を続けるが、配偶者が亡くなった後はすっぱりと縁を切りたい」と考えている方は、「姻族関係終了届」を出すことをおすすめします。
「姻族関係終了届」とは、婚家との関係を終了するための届け出です。これを出すことによって法的に婚家との関係が終了するため、当然に婚家のお墓に入る必要もなくなります。
またこの届出はあくまで「配偶者の死後に、婚家との関係性を切るためのもの」であるため、配偶者の残した遺産の相続などには影響はありません。また、遺族年金もそのまま受け取れます。また姻族関係終了届は、残された配偶者の一存で出すことが可能で、他者の許可を必要としません。
すでに述べたとおり、たとえ姻族関係終了届を出さなかったとしても、婚家のお墓に埋葬されることを拒否できます。ただそれでも、「やはり結婚しているのだから」と、死後に周りの方が言いだす可能性があるでしょう。しかし姻族関係終了届を出しておけば、このような事態も避けられます。
死後事務委任契約を利用する
「遺言書は遺産関係のことに対して法的拘束力を持つものだが、埋葬方法に関してはこれを持ちえない」としました。しかし遺産関係以外の死後の話に対して、法的拘束力を持たせられる契約もあります。
それが、「死後事務委任契約」です。
死後事務委任契約は、ご自身が亡くなった際の手続きや納骨手続きなどを生前に第三者に依頼しておく契約です。これは、生前に委任者と受任者の間で、双方の合意をもって締結されます。そのため、受任した方には法的な責任が生じます。
ただし、この死後事務委任契約の内容が遺言書の内容と相反する場合はトラブルになる可能性がありますし、受任した相手が委任者に先駆けて亡くなった場合は契約が実行されません。
そのため、この方法を選ぶのであれば、法的な知識を持つ専門家にアドバイスを受けることをおすすめします。
お墓のことで困ったら専門家に相談を
「お墓に関する悩み」はなかなか根が深いもので、解決が難しいものでもあります。そのため、困ったことがあったのなら、早い段階で専門家に相談しましょう。
セゾンの相続
お墓のことや亡くなった後のことなどにお悩みがあれば、「セゾンの相続」へご相談ください。
「セゾンの相続 お墓お探しサポート」では、お墓の悩みや死後の埋葬方法についての相談からお墓選びのお手伝いまで、ご相談いただけます。提携専門家のご紹介も可能ですので、お気軽にお問い合わせください。
おわりに
「死んだ後にまで、周りの人に気を遣いたくない」「婚家のお墓に入りたくない」として、他の埋葬方法を探す方は増えてきています。ただこの方法を選ぶ場合は、事前の準備が必要です。お墓の生前購入も視野に入れつつ、考えられる対策を取っておくと良いでしょう。場合によっては、専門家に相談をしたり、専門家からのアドバイスを受けたりすることも考えるべきです。