昨今の新型コロナの影響で在宅ワークを余儀なくされた方も多くいたでしょう。実際にテレワークをしてみた結果、住む場所を考え直した方も少なくありません。総務省統計局のデータによれば、東京都は緊急事態宣言後の2020年5月、集計開始以降初めて転出超過に転じています。同年7月からは6ヵ月連続で、転出超過となったことが示されています。
しかし転出先をよく見ますと、埼玉県・千葉県・神奈川県が4位以下を大きく引き離しています。テレワークが主体になったとはいえ、急に田舎暮らしを始めたわけではないということがデータから読み取れます。
参照元: 総務省統計局HP
ただし今後の傾向として、大都市で働く人の地方への移住は加速していくと考えられます。コロナ禍より前の2020年1月、内閣官房が東京圏(東京、神奈川、千葉、埼玉)に住む20~50代の就労世代を対象に調査を実施しています。その結果、半数の人が「地方暮らし」に関心があると答えています。
では地方暮らしを検討するにあたって、支援制度も踏まえた上で移住先をどこにしたら良いのでしょうか。移住したい都市圏側と、受け入れる地方側、それぞれの支援策をみていきましょう。
参照元:https://www.chisou.go.jp/sousei/pdf/ijuu_chousa_houkokusho_0515.pdf
1.2024年までに移住するとメリット大
先の内閣官房による調査では東京圏在住者(20~59歳)の49.8%が地方暮らしの「意向あり層」でした。これを少し掘り下げて見ますと、東京圏の出身者では45.9%、地方圏の出身者では61.7%とかなり開きがあることも分かります。もともと東京圏の出身者でも少なくありませんが、地方圏出身者により強い回帰傾向が見て取れます。
しかしながら生まれ故郷に帰る(いわゆるUターン)だけが選択肢ではありません。都会で生まれ育った人が地方へ就職・転職する(Iターン)や生まれ育った地方から、進学や就職などのために都会で出てきて、その後に故郷に近い地方の都市に移住する(Jターン)など、ひとくちに地方移住といっても価値観は多岐にわたります。ただしいずれの場合でも、2024年までに実行に移すとメリットが大きいといえるでしょう。
1-1. 移住支援金の対象者
東京一極集中を分散させる目的で、国は2019年度から6年という期間限定で、移住支援金の支給を始めました。地方に移住すると最大で100万円の補助金が受け取れる制度です。支援の対象となるのは、移住直前の10年間のうち通算5年以上、東京23区に在住または通勤していた方です。
しかし制度開始当初、テレワークは対象外でした。各地方自治体が運営しているマッチングサイトに、求人情報を掲載した中小企業などに就職することが前提となっていました。
ところがコロナ禍を受けて制度が変更され、テレワークで東京の仕事を続ける人であっても補助金が支給されることになりました。この変更を受けて、本気で移住を考えたという方も少なくないでしょう。
参照元:内閣府総合サイト
1-2. 対象となる移住先
当然ながら、どこに移住しても支援が受けられるわけではありません。東京圏から大阪、では対象外となります。また沖縄県も対象外で、それ以外の地方となります。
原則として東京圏(東京・埼玉・千葉・神奈川)以外の地域となりますが、例外もあります。条件不利地域という表現をされています。たとえば奥多摩町、秩父市、館山市、真鶴町などが該当します。
NPO法人「ふるさと回帰支援センター」の調べによれば、コロナ禍の2020年に人気だったのは茨城県のつくば市でした。「つくばエクスプレス」を利用すれば都心まで45分なので、充分な通勤圏といえるでしょう。同じ茨城県の取手市も支援対象の地域です。JRの快速電車なら上野駅まで40分ほどです。こういった地域を移住先とされたのは、週に何度かはオフィスに出勤することが前提の会社員などと考えられます。
しかし、実際の移住にあたっては詳しく調べることが必要です。たとえば例にあげたつくば市は支援対象地域ですが、つくばみらい市は対象外となっています。
参照元:ふるさと回帰支援センターHP
1-3. 条件などの縛り
ありがたい支援制度ですが、条件の範囲を逸脱すると支援金を返金しなければいけませんので、これもしっかり理解しておく必要があります。
5年以上の期間、移住先に居住する意思があることが、支援の前提条件です。したがって特段の事情が認められない限り、結果的に5年未満の居住しかしなかった場合は返金しなければなりません。
また移住先に転入後、3ヵ月から1年以内に支援金の申請をすることも条件となっています。
参照元:内閣府総合サイト
2.受け入れ側の支援制度
政府の方針を受けて、積極的な支援策を独自に打ち出している地方自治体も少なくありません。東京圏からの移住者に限定せずに、県外からの移住であれば対象となる制度もあります。先に触れました東京圏から移住する支援制度と合わせれば、500万円以上の補助金を得られるケースもありますので、詳しく見ていきましょう。
2-1. 国の就農支援制度
「農業女子」という言葉も生まれているように、農業に挑戦する若者や女性が増えてきています。こういった動きを支援する、国の制度をまず紹介します。
ひとつめは就農のための研修支援策です。道府県の農業大学校などの研修機関で、研修を受ける就農希望者が対象となります。最長2年間、年間最大150万円が交付されます。就農予定時の年齢が原則49歳以下という条件があります。
ふたつめは就農後の支援策です。農業経営を始めてから経営が安定するまで、時間がかかるケースもあり得ますので、これが就農のネックだと考える人もいるでしょう。そこで農林水産省は新規就農する方を対象に、1~3年目は年間150万円、4~5年目は年間120万円を交付する制度を設けています。これは定額交付です。詳しい情報は農林水産省の公式サイトでご確認ください。
参照元:https://www.maff.go.jp/j/new_farmer/n_syunou/roudou.html
2-2. 地方の就農支援制度
各地方自治体がさまざまな支援策を打ち出しています。そのなかから代表的な例として大分県の支援策を紹介します。ユニークなのは若い世代向けではなく、就農予定時の年齢が50歳以上55歳未満の人が対象となっています。
現地の農協などが運営する研修施設やファーマーズスクールで1年以上、就農前研修を受けることが支援を受けるための条件となっています。研修中の2年間、年に最大で100万円が支給されます。詳細は就業支援ポータルサイト「おおいたで働こう」をご覧ください。
参照元:https://nourinsui-start.oita.jp/
2-3. 起業したい人への支援策
冒頭で紹介しました東京圏からの移住に対する国の支援策では、移住で最大200万円の補助金ですが、起業すれば最大300万円と枠が拡がります。また自治体独自の起業家支援策もあります。
例として宇都宮市にはUJIターン起業家を対象とした、最大300万円を助成する制度があります。たとえば事業拠点の家賃補助として、経費の3/10(最大月額6万円、最長36か月)を、生活拠点の家賃も経費の3/10(最大月額2万円、最長36か月)を助成します。
また新規の法人を設立する際の定款認証費、登録免許税の半額(最大15万円)も助成対象となっています。詳細は「宇都宮ベンチャーズ」公式サイトでご確認ください。
参照元:https://utsunomiya-ventures.com/
おわりに
このコラムでは田舎暮らしを検討し始めた、あるいはこれから検討したい方向けに、さまざまな支援制度をご紹介しました。
他にも林業や漁業への就労支援策、伝統工芸の後継者を目指す方への支援策などさまざまな公的制度が全国各地にありますので、ご自身のやってみたい仕事について、まずリサーチされることをおすすめします。
さらに今回は割愛しましたが、子育て支援策や住宅取得の支援策についても多くの地方自治体が頭をひねって、ユニークな制度を設けています。これから出産・子育てをお考えの若い夫婦の方においても、このような観点からもリサーチしてみると良いでしょう。
田舎暮らしの候補先は、観光旅行で行きたい場所とは訳が違います。見たいものや楽しみたいものを優先する考え方もありますが、まず大事なのは何を仕事にするのかです。田舎でもテレワークが可能であればそれも良し、ですし、思い切って起業するとか就農するという選択肢も、これからの時代にマッチしているのではないでしょうか。