夫婦同然に暮らしているけど、実は入籍していないという内縁の夫婦は珍しくありません。日常生活を送る分にはさほど問題ありませんが、どちらか一方に万が一のことがあった場合、何もしなければ一切財産を相続できないので注意してください。
このコラムでは、内縁の夫婦として暮らしている方が講じておくべき相続対策について解説します。実際に相続が発生した場合に慌てないためにも、コツコツと準備を始めましょう。
この記事を読んでわかること
- 内縁とは「お互いに婚姻の意思があり、共同生活をしているものの、婚姻届は出していない」夫婦をいう
- 内縁の妻は法律上の妻と違い法定相続人にならないため、そのままでは遺産を相続できない
- 内縁の妻が遺産を相続するために、遺言書を作成したり、生前贈与をしたりする方法が考えられる
- 状況が許すようであれば、婚姻関係を結ぶ=婚姻届を出すのも選択肢のひとつである
そもそも「内縁」とは?
そもそも「内縁」が何か正しく理解していないと、この後の話もあまり釈然としないかもしれません。カップル同士が一緒に暮らすことを同棲といいますが、内縁と認められるには、さらに次の2つの条件を満たす必要があります。
- お互いに婚姻の意思がある
- 共同生活をしている
なお、似た言葉に事実婚があります。事実婚をしているカップルのうち、夫に当たる方を「内縁の夫」、妻に当たる方を「内縁の妻」と考えるとわかりやすいでしょう。
お互いに婚姻の意思がある
お互いに婚姻の意思があると認められる、つまり、客観的に夫婦と判断される状況が存在することが必要です。具体的には、以下の状況が考えられます。
- 挙式を済ませた、もしくはその予定がある
- 冠婚葬祭に夫婦として出席している
- 対外的な契約書にお互いの続柄を「(内縁)妻・夫」と書いている
- 住民票上の世帯が同一
- 長期間同居し、家計の財布も同じにしている
共同生活をしている
カップルでも、生計が別だったり、別居していたりする場合は、内縁関係は認められません。内縁関係にあると認められるためには、共同生活を送っていることが必要になります。つまり、目安として以下の条件を満たさなくてはいけません。
- 住居などの賃貸契約書の共同生活者の欄に「妻(未届)」などと明記されている
- 同一世帯の住民票がある
- 3年以上共同生活をしている
内縁の妻は遺産を相続できる?できない?
内縁の妻に遺産を遺すことは、原則として非常に困難です。前述したとおり、内縁の妻は事実上夫婦同然の生活ができるものの、一定の権利は法律上認められないためです。
内縁の妻には相続権がない
内縁の妻には、法定相続権がありません。法律上の妻であれば、夫が死亡した場合、常に法定相続人になります。しかし、内縁の妻は法律上の妻でない以上、長年一緒に暮らしてともに財産を築いたとしても、法律上は受け取る権利がないと考えましょう。
内縁の妻に認められない権利
法律上の妻に認められる権利であっても、内縁の妻には認められない権利には以下のようなものがあります。
氏名の変更 | 妻(夫)の氏に変更は生じない |
相続権 | 内縁の妻は法律上の配偶者ではないため、配偶者の遺産を相続することができない |
子の嫡出性 | 内縁関係の夫婦の間に生まれた子どもは、嫡出子(法律上婚姻関係にある夫婦の間の子ども)として扱われない |
姻族関係 | 事実婚の場合、法律婚とは違い結婚によってつながった親戚関係は発生しない |
夫が死亡した後、内縁の妻に居住権はある?
内縁関係にある夫婦のうち、夫に当たる方が亡くなった場合、妻に当たる方の居住権を以下の2つのケースに分けて解説します。
- 賃貸物件の場合
- 夫名義の住居の場合
まず、賃貸物件の場合は他に相続人がいるかいないかで異なります。
他に相続人がいなかった場合、建物の賃借人であった内縁の夫が死亡したら、同居していた内縁の妻が賃借人としての権利義務を承継(借地借家法第36条)できます。つまり、内縁の妻が夫の代わりに賃借人として家賃を支払い続ければ、退去する必要はありません。
他に相続人がいた場合は、その相続人が賃借人として家賃の支払い義務を負います。このようなケースでは、相続人(例:内縁の夫の実の娘)が内縁の妻に退去を求める可能性があるでしょう。しかし、最高裁では賃貸人の明け渡し請求を否定する判決が出されています(最高裁昭和42年2月21日判決)。
一方、夫名義の住居だった場合、法律婚における妻のように、配偶者居住権は認められません。つまり、夫に子どもがいた場合は、自宅の明け渡し請求をされたら応じないといけない可能性が極めて高いです。
内縁の妻との間に子どもがいる場合は?
内縁の夫婦の間の子に、相続権は原則としてありません。ただし、内縁の夫が子どもを認知すれば、その子どもは相続人となります。
なお、認知された内縁の妻(夫)との子どもの相続分は、実子の場合の相続分と同じです。
内縁の妻が遺産を相続する方法は?
相続権がない内縁の妻でも、生前に準備を進めておけば、万が一のことがあった時に遺産を相続させることは可能です。考えられる以下の方法について詳しく解説します。
- 遺言書を作成し遺贈する
- 生前贈与を行う
- 生命保険の受取人に指定しておく
- 特別縁故者の手続きを行う
- 「内縁」でも主張できる権利を活用する
- 婚姻関係を結ぶ
遺言書を作成し遺贈する
生前に「内縁の妻に財産を遺贈する」旨の遺言書を作成しておけば、万が一のことが起きた時に内縁の妻が財産を受け取れます。内縁の妻は相続人にはなれないものの、受遺者になることは可能だからです。なお、受遺者とは遺言によって財産を受け取る方(法人も含む)のことです。
また、どれだけ財産を受け継ぐかによっても、さらに細かく分類することが可能です。
特定受遺者 | 財産の種類を具体的に特定して譲り受ける方もしくは法人 |
包括受遺者 | 財産の種類を特定せず、全ての財産を譲り受ける方もしくは法人 |
なお、包括受遺者は相続人と同様の権利を有しているため、遺産分割協議にも参加します。また、放棄したい場合は包括受遺者となったことを知ってから3ヵ月以内に家庭裁判所での手続きが必要です。
生前贈与を行う
内縁の妻は、夫から生前贈与を受けることが可能です。なお、生前贈与であっても年間110万円以内であれば贈与税はかかりません(暦年贈与)。
理論上は、毎年110万円を10年間生前贈与すれば合計1,100万円を非課税で贈与できることになりますが、税務署から連年贈与とみなされると贈与税がかかります。連年贈与とは「ひとつの贈与を複数年にまたがって行った状態」のことです。
税務署に暦年贈与と認めてもらうには以下の対策を講じることをおすすめいたします。
- 贈与の都度、確定日付つきの贈与契約書を取り交わす
- 受贈者が管理している口座に振り込む
- 登記や登録の制度のある財産については名義を変更する
生命保険の受取人に指定しておく
生命保険会社によっては条件を満たすことで、内縁の妻を保険金受取人として指定することが可能です。ただし、以下の点を含めた審査が行われます。
- 戸籍上の配偶者の有無
- 同居期間
特別縁故者の手続きを行う
特別縁故者とは、被相続人(内縁の夫など、亡くなった方)と特別親しい関係にあったことを理由に、法定相続人がいないなど一定の条件を満たせば遺産を相続できる方のことを指します。内縁の妻であっても、以下の条件を満たせば特別縁故者として財産を受け取れる可能性が出てくるでしょう。
- 被相続人に相続人がいない
- 被相続人が遺言書を遺していない
- 被相続人と同一生計であった
- 被相続人の療養看護に努めた
- 被相続人と特別の縁故があった
なお、実際に特別縁故者として認めてもらうには、相続人捜索の公示期間の満了から3ヵ月以内に家庭裁判所に財産分与の申し立てをしなくてはいけません。その際、陳述書や医療機関の領収書などの客観的な証拠が必要です。
「内縁」でも主張できる権利を活用する
内縁であっても主張できる権利を活用しましょう。代表的なものが賃貸借契約と遺族年金です。
前述したとおり、亡くなった内縁の夫が借りたマンションに一緒に住んでいたなど賃貸借契約があった場合、内縁の妻は引き続き住む権利を継承したと主張可能です。
また、内縁の妻には遺族年金の受給が認められています。ただし、内縁関係を証明する資料が必要になるため、状況に応じて用意しましょう。
認定対象者の状況 | 提出書類 |
健康保険の被扶養者になっている場合 | 健康保険被保険者証の写し |
給与計算上、扶養手当の対象になっている場合 | 給与簿又は賃金台帳等の写し |
同一人の死亡について、他制度から遺族給付が行われている場合 | 他制度の遺族年金証書等の写し |
挙式、披露宴等が直近(1年以内)に行われている場合 | 結婚式場等の証明書又は挙式、披露宴等の実施を証する書類 |
葬儀の喪主になっている場合 | 葬儀を主催したことを証する書類(会葬御礼の写し等) |
上記のいずれにも該当しない場合 | その他内縁関係の事実を証する書類(連名の郵便物、公共料金の領収証、生命保険の保険証、未納分の税の領収証又は賃貸借契約書の写し等) |
婚姻関係を結ぶ
生前に婚姻関係を結び、法的にも夫婦になれば、相続が発生してもスムーズに進められます。内縁の妻から配偶者に立場が変わるため、自動的に法定相続人になれるからです。
内縁の妻が遺産を相続する場合の注意点
内縁の妻が遺産を相続する場合、以下の点に注意が必要です。
- 相続税が2割加算となる
- 配偶者控除は認められない
- 小規模宅地等の特例制度は利用不可
- 障害者控除の対象外
それぞれについて、詳しく解説します。
相続税が2割加算となる
内縁の妻が遺産を相続する場合、相続税額が2割加算されるため注意が必要。
そもそも、被相続人からみて一親等の血族以外に当たる方(兄弟姉妹・代襲相続人ではない孫・第三者)が相続する場合は、2割加算になります。一親等の血族及び配偶者以外の方が相続財産を受け取るのは偶然性が高いからです。また、亡くなった方の孫が財産を相続すると、次世代である子の相続税を免れることになるからという背景もあります。
配偶者控除は認められない
内縁の妻に配偶者控除は認められません。配偶者控除とは、収入が一定以下の配偶者がいる場合、夫婦のもう一方(納税者)が一定の金額の所得控除を受けられる制度です。つまり、税金の計算に当たって所得から一定額を差し引けることになるため、結果として税金が安くなります。
内縁の妻は配偶者ではないため、配偶者に認められる権利である配偶者控除も使えないと考えましょう。
小規模宅地等の特例制度は利用不可
法定相続人には、「小規模宅地等の特例」として相続税を減額できる制度がありますが、内縁の妻はこの制度を利用できません。
小規模宅地の特例とは、被相続人(例:亡くなった内縁の夫)が自宅や自宅兼事務所として使っていた土地を配偶者や一定の条件に当てはまる親族が相続する際、土地の評価額を最大80%減額できる制度です。
配偶者であればこの制度を使うことで支払う相続税を大幅に安くできますが、内縁の妻の場合、この恩恵には預かれません。
障害者控除の対象外
相続人が障害者である場合は障害者控除が適用されますが、内縁の妻は相続人ではないため障害者であっても制度は利用できません。
なお、障害者控除とは、85歳未満の方が相続人となる場合、一定の条件を満たすことで受けられる控除を指します。控除額は「その方が満85歳になるまでの年数1年につき100,000円(特別障害者であれば200,000円)で計算した額」になります。例えば、45歳かつ障害者である場合は「100,000円×40年=400万円」が控除額になります。
また、障害者控除を受けるためには、以下の3つの条件を満たさなくてはいけません。
- 相続や遺贈で財産を取得した時に日本国内に住所がある
- 相続や遺贈で財産を取得した時に障害者である
- 相続や遺贈で財産を取得した方が法定相続人である
内縁の妻の場合、法定相続人にはならないため、この制度を使えません。
遺言書を作成する時はトラブル回避の対策をしよう
内縁の妻に遺産を遺そうとすると、他の相続人とのトラブルが起こる可能性があります。トラブルを回避するためにも、以下の対策を事前に講じておきましょう。
- 遺言執行者に専門家を選任する
- 「遺留分」の対策をしておく
- 「公正証書遺言」にしておく
遺言執行者に専門家を選任する
遺言執行者には、相続に詳しい司法書士や弁護士などの専門家を選任しましょう。遺言執行者とは、遺言書の内容を実現するために、各種手続きをする人物のことです。
生前に専任しておけば、実際に相続が発生した際に、内縁の妻と法定相続人が共同で相続の手続きを進める必要はなくなります。進め方をめぐるトラブルの発生可能性も下がるでしょう。
「遺留分」の対策をしておく
「遺留分」の対策も重要です。本来、被相続人の配偶者や子どもには、遺産の一部を受け取れる権利が法律で保障されています。これを遺留分といいますが、遺言書の内容より優先されるので注意が必要です。
例えば「自分の財産は、内縁の妻に全て相続させる」といった遺言書を遺した場合、相続が発生したら配偶者や子どもとトラブルになる恐れが極めて高くなります。「最低限、これだけは受け取れるはず」と、配偶者や子どもが内縁の妻に遺留分侵害相当額の金銭を請求してくる可能性があるので、事前に対策を講じましょう。
「公正証書遺言」にしておく
遺言書はなるべく、公正証書遺言にしておきましょう。
公正証書遺言とは、証人2名と公証役場に出向き、公証人とやり取りしながら作成する遺言書のことです。ご自身で作成する自筆証書遺言に比べ、内容に不備が発生しにくく、他の相続人とトラブルになっても被相続人の意思が反映されやすくなる利点があります。
遺言書の作成には「セゾンの相続 遺言サポート」をご利用ください
内縁の妻に当たる方が、内縁の夫に当たる方の遺産をスムーズに相続するためには、遺言書が不可欠です。ただし、内容に不備があったりすると、かえってトラブルの原因になる恐れがあります。早い段階で相続対策を含めて専門家に相談し、落ち着いて準備を進めましょう。
「セゾンの相続 遺言サポート」では、内縁のご夫妻の遺言書など、相応の知識と経験がないと対応が難しいケースにも提携専門家が対応可能です。スムーズな相続に備え、個々のケースに応じた対策をご提案いたします。相談は無料なので、まずはお気軽にご連絡ください。
おわりに
法律婚をしている夫婦に認められている権利であっても、内縁の夫婦の場合には認められていない権利はたくさんあります。
パートナーに相続させたい場合は、他の相続人とのトラブルに巻き込まれないよう、生前から綿密な対策を練りましょう。特に、どちらか一方もしくは両方に配偶者や子どもがいる場合は複雑になりがちなので注意が必要です。
状況が許すようであれば、婚姻届けを出して法律上も夫婦になるのも強力な対策になります。どのような方法が適しているかはケースバイケースのため、一度専門家に相談するのがおすすめです。