土地を相続した方の中には、別の土地と交換したいと考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。土地に関する手続きは、税金制度を正しく理解したうえで行うことが大切です。
そこで本記事では、相続した土地を交換する際に関係する税金や特例制度の内容、確定申告の方法を詳しく解説します。
最後まで読んでいただければ、相続した土地を交換する際の税金の詳細がわかり、安心して手続きできるでしょう。
この記事を読んでわかること
- 相続した土地は交換できるが、資産譲渡とみなされるため譲渡所得税が課せられる場合がある
- 一定の条件を満たせば固定資産の交換の特例が適用でき、土地を交換する際に譲渡所得税がかからない
- 譲渡所得税の支払いが不要な場合でも確定申告が必要
不動産を交換すると譲渡所得税がかかる場合がある
相続した土地や建物などの不動産は、別の不動産と交換可能です。具体的には、不動産を交換する旨の契約を締結し、登記手続きをすることで互いの不動産の所有権を移転します。
ただし、不動産の交換は所有する不動産を互いに譲渡する(売却する)行為とみなされるため、金銭のやり取りをしていなくても譲渡所得税がかかる場合があります。
譲渡所得税とは、不動産を譲渡・売却した際に発生する利益(譲渡所得)に対して課せられる税金です。所得税と住民税の2つで構成されており、譲渡所得に税率をかけて算出します。
譲渡所得の計算式は以下のとおりです。不動産を交換する場合は、譲渡する不動産の時価を収入金額として計算します。
譲渡所得=収入金額-(不動産の取得金額+譲渡費用)
譲渡所得税の税率は以下のとおりです。
不動産の保有期間 | 譲渡所得税の税率 |
長期保有(5年を超える)の場合 | 20.315%(所得税15.315%+住民税5%) |
短期保有(5年以下)の場合 | 39.63%(所得税30.63%+住民税9%) |
※所得税には復興特別所得税も含む
※保有した期間は譲渡する日ではなく、譲渡する年の1月1日時点で判定
例えば、時価1億円の土地を交換する際は、200万円〜400万円程度の税金がかかる場合があります。不動産は取り扱う金額が高額で税金の負担も大きくなるため、注意が必要です。
不動産を交換しても課税されない「固定資産の交換の特例」
相続した土地などの不動産を交換すると譲渡所得税がかかりますが、特例制度を利用すれば交換時の課税を避けることも可能です。
本章では、固定資産の交換の特例の内容について詳しく解説します。
固定資産の交換の特例とは
固定資産の交換の特例とは、所得税法第58条により定められた税制優遇制度です。
この特例を適用すると、同程度の価値の固有資産を交換する場合は譲渡(売却)行為がなかったものとみなされ、譲渡所得税がかかりません。
交換する固定資産の価格に関わらず価値が同程度であれば税金がかからないため、高額な土地や建物の交換では大きな節税効果が期待できます。
ただし、親族間で不動産を交換する場合は、交換の際に譲渡所得税ではなく贈与税がかかる可能性があります。
例えば、親の方が価値の高い土地を所有していた場合、子の土地と交換することで差額分の資産を贈与したとみなされるためです。
親族間以外にも、法人と関係者の間など、特殊な関係にある場合や利益が生じる関係性の場合は注意しましょう。
特例の対象となる不動産
固定資産の交換の特例で対象となる資産は、以下のとおりです。
- 土地
- 建物(附随する設備や構築物も含む)
- 機械および装置
- 船舶
- 鉱業権(一定の区域において鉱物を採取して取得する権利)
不動産である土地と建物は特例の対象ですが、不動産会社などが販売目的で所有する土地や建物は対象外です。
また、最初から交換目的で資産を取得した場合も特例を適用できません。特例を適用するための条件は、次章で詳しく解説します。
参照元:e-Gov法令検索|所得税法第五十八条(固定資産の交換の場合の譲渡所得の特例)
固定資産の交換の特例が使える条件
前章で紹介した固定資産の交換の特例を適用するためには、以下4つの条件を満たす必要があります。
- 同じ種類の固定資産であること
- 譲渡後も同じ目的で使用する資産であること
- それぞれ1年以上所有している資産であること
- 時価差額が20%以内であること
順番に見ていきましょう。
同じ種類の固定資産であること
固定資産の交換の特例を適用するためには、交換する固定資産が同じ種類であることが必要です。
例えば、土地と土地の交換には適用できますが、土地と建物の交換には特例を適用できません。土地と建物の価格が同じ場合でも、交換する際に譲渡所得税がかかります。
譲渡後も同じ目的で使用する資産であること
固定資産の交換の特例を適用するには、交換した資産を譲り受けたあとも同じ目的(用途)で使用する必要があります。
土地と建物の用途区分は、以下のとおりです。
不動産の種類 | 用途区分 |
土地 | 宅地、田畑、鉱泉地、池沼、山林、牧場または原野、その他 |
建物 | 居住用、店舗または事務所用、工場用、倉庫用、その他用 |
例えば、宅地として譲り受けた土地を田畑に変えて使用すると特例を適用できません。宅地の土地は引き続き宅地として使用する必要があります。
それぞれ1年以上所有している資産であること
交換する資産は、それぞれ1年以上所有していることが特例の条件です。ご自身が所有する土地だけではなく、交換相手の土地も条件を満たしているか確認しておきましょう。
なお、相続した土地や建物の場合は、被相続人の所有期間を合算できます。
例えば、親(被相続人)が10年間所有した土地であれば、子(相続人)が土地を相続してから5ヵ月の時点で交換しても、10年5ヵ月の所有期間とみなされて特例を適用できます。
時価差額が20%以内であること
特例を適用するためには、不動産の交換差額が20%以内であることが条件です。交換する高い方の不動産の時価を基準にします。
例えば、時価5,000万円の土地と時価2,000万円の土地を交換する場合で検討してみましょう。
高い方の土地5,000万円の20%は1,000万円のため、交換する土地は4,000万円(5,000万円-1,000万円)以上であることが特例を適用するための条件です。
2,000万円の土地と交換する場合は特例を適用できず、交換する際に譲渡所得税がかかります。
土地の時価は景気や需要に影響を受け、取り引きする時期によっても変化します。交換差額を確認する際は不動産鑑定士に査定を依頼し、過去の取引価格なども考慮して適切な時価を算出してもらいましょう。
交換特例を受けるためには確定申告が必要
固定資産の交換特例の条件を満たしていても、確定申告をしなければ税制優遇を受けられません。譲渡所得税がかからない場合でも確定申告が必要なため注意しましょう。
確定申告の概要は以下のとおりです。
確定申告の時期 | 申告対象の年度の翌年2月16日から3月15日 |
確定申告書の入手方法 | 税務署で受け取るか、もしくはインターネットからダウンロードして印刷する |
確定申告書の提出先 | 所轄の税務署(一般的には最寄りの税務署) ※e-Tax(国税電子申告・納税システム)を利用する場合は、専用サイトから必要情報を入力して送信する |
確定申告に必要なもの | マイナンバーカード(もしくはマイナンバーがわかる書類と身分証明書) (会社員の場合)源泉徴収票 (事業主の場合)帳簿や領収書などその他、控除証明書など必要な添付書類 |
固定資産の交換の特例を利用する場合は、確定申告書の他に譲渡所得の内訳書(計算明細書)の提出が必要です。
譲渡所得の内訳書のフォーマットや書き方のマニュアルは、国税庁の確定申告サイトから参照できます。
土地を交換する場合の譲渡所得の内訳書の主な記載内容は以下のとおりです。フォーマットに従い、不動産の交換契約書などを確認しながら正確に記入しましょう。
譲渡した土地の情報 | 土地の地番、住居表示、用途、面積、所有期間、 譲渡した相手の住所、氏名、職業売買契約日と引き渡した日、土地の価額 |
取得した土地の情報 | 土地の所在地、交換相手の氏名、取得した日、土地の価額 |
交換にかかった費用 | 仲介手数料や収入印紙代の支払い金額と支払い日 |
譲渡所得の金額 | 短期、長期の区分や収入金額、必要経費、特別控除額などを考慮して計算した金額 |
なお、確定申告書の第三表(分離課税の申告欄)にも譲渡所得の金額を記入する欄があります。譲渡所得の内訳書と整合がとれるよう正確に転記して提出しましょう。
国税庁|譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)【土地・建物用】(1面〜4面)
固定資産の交換の特例を使う時の注意点
相続した土地に固定資産の交換の特例を利用する場合は、以下2点に注意が必要です。
納税免除ではなくいずれ譲渡税がかかる
不動産取得税と登録免許税は課税される
それぞれ詳しく解説します。
納税免除ではなくいずれ譲渡税がかかる
固定資産の交換の特例は、譲渡所得税を免除するのではなく繰り延べる措置です。そのため、交換した資産を改めて譲渡する際に譲渡所得税がかかります。
また、不動産を交換した場合は、のちに譲渡所得を計算する際の取得費用の考え方に注意が必要です。例えば、兄と弟が所有していた土地を、特例を利用して交換した場合を考えましょう。
【兄】
- 5,000万円で取得した土地Aを5,000万円で弟へ譲渡
- 代わりに、4,000万円の土地Bを取得
【弟】
- 4,000万円で取得した土地Bを4,000万円で兄へ譲渡
- 代わりに、5,000万円で土地Aを取得
弟が兄から取得した土地Aを将来的に譲渡する場合、譲渡所得を計算する際の取得費用としては土地Bの取得金額である4,000万円が引き継がれます。仮に、土地Aを6,000万円で譲渡した場合の利益は以下のとおりです。
- 交換せずに土地Aを売却した場合の譲渡益:6,000万円-5,000万円=1,000万円
- 交換後に土地Aを売却した場合の譲渡益:6,000万円-4,000万円=2,000万円
このように、譲渡益が増え、譲渡所得税が高額になるリスクがあることを把握しておきましょう。
参照元:国税庁|買換えなどで取得した資産の取得費と取得の時期
不動産取得税と登録免許税は課税される
固定資産の交換の特例を利用すると譲渡所得税はかかりませんが、不動産取得税と登録免許税がかかります。
不動産取得税とは、不動産を購入や贈与で取得した際に課せられる税金です。不動産取得税は以下の計算式で算出します。
不動産取得税=不動産の価格(課税標準額)×3%(※2024年4月1日以降は4%)
また、登録免許税は、取得した不動産を登記する際に課せられる税金であり、以下の税率を不動産価額にかけて求めます。
登記の種類 | 内容 | 税率 |
所有権保存登記 | 不動産の所有権を新たに登記する (新築住宅の場合) | 0.4%→0.15%(2024年3月31日まで) |
所有権移転登記 | 不動産の売買や相続により所有権が 移転した場合に登記する | 売買:2%→1.5% 相続:0.4%→免税(2026年3月31日まで) |
抵当権設定登記 | 抵当権(住宅ローンなどの担保として 受け取る権利)が設定された場合に登記する | 0.4%→0.1%(2024年3月31日まで) |
なお、土地の売買などに関する登録免許税には軽減措置が設けられており、2024年〜2026年までに登記を行う場合は、上記の軽減税率が適用可能です。
軽減措置により登録免許税の負担は減っていますが、不動産取得税と合わせるとまとまった出費になるため、税金の金額を把握して事前に資金を準備しておきましょう。
参照元:国税庁|登録免許税の税額表
わからなければプロに相談
固定資産の交換の特例は税制面でメリットがありますが、条件の確認や手続きが複雑です。わからないことがあれば、迷わず専門家に相談しましょう。万が一、特例が否認されると、あとから高額な税金の支払いが必要になる可能性があります。手元にまとまった資金がなく、トラブルに発展するケースも少なくありません。
「セゾンの相続 相続税申告サポート」では、経験豊富な提携専門家のご紹介も可能です。初回の相談は無料ですので、お気軽にお問い合わせください。
相続税対策にも使える!交換特例の活用方法
固定資産の交換の特例は、相続税や借金の負担を減らす方法としても活用できます。
- 相続税対策としての活用方法
- 借金返済としての活用方法
本章では、上記2つの活用方法を詳しく紹介します。
相続税対策としての活用方法
固定資産の交換の特例は、相続税対策として活用できます。相続税とは、相続により財産を取得した場合にかかる税金です。
例えば、親子がそれぞれ以下の土地を所有している場合を考えましょう。
【親(被相続人)の所有する土地】
- 時価:6,000万円
- 相続税評価額:4,000万円
【子(相続人)の所有する土地】
- 時価:6,000万円
- 相続税評価額:5,000万円
2つの土地の時価が同じでも、このように相続税評価額(相続税の計算の際に基準となる価格)が異なる場合があります。生前に親子で土地を交換しておくと、相続税の負担を減らせるでしょう。
なお、2018年度の相続税法の改正により、相続開始前の3年間を対象に、不動産の交換や贈与に関する税金の特例が無効になりました。相続税対策をするなら3年以上前から進める必要があります。
このように、相続税の対策は条件や注意事項が多く、また法律の改正にも対応する必要があるため、専門家のサポートを受けましょう。
借金返済としての活用方法
相続した土地を借金返済のために使うことを考えている方は、固定資産の交換の特例を活用しましょう。
例えば、親が所有する土地を売却して得た資金を使い、子が抱えた借金を返済するケースを考えます。この場合、以下2種類の税金がかかります。
- 親の土地を売却する時:譲渡所得税
- 土地を売却して得た資金を子に渡す時:贈与税
そこで、親子で所有する土地を交換してから土地を売却してみましょう。
固定資産の交換特例の条件を満たしていれば、土地を交換する際に譲渡所得税はかかりません。親が子にお金を渡すこともないため、贈与税も不要です。
子は土地の所有者として、売却して得たお金で借金を返済できます。土地の売却時には譲渡所得税がかかりますが、交換せずに売却した場合に比べて贈与税の分を節約できるでしょう。
おわりに
相続した土地を別の土地と交換する際は、譲渡所得税がかかる場合があるため注意が必要です。
固定資産の交換の特例を活用できれば交換時の税金の負担を抑えられるため、特例の条件を満たしているかを確認しておきましょう。
なお、特例を適用した結果、譲渡所得税がかからない場合でも確定申告は必要です。また、将来的に交換した土地を譲渡する場合は改めて譲渡所得税がかかることを覚えておきましょう。
土地の相続や不動産の交換は条件や手続きが複雑です。スムーズに相続を進めるためにもプロの力を借りることをおすすめします。