不動産を相続する必要が発生した際に、相続せずに売却したいと思う方も多いのではないでしょうか。
不動産を相続せずに売却できれば、相続の手間が軽減されると思いがちですが、実は不動産を相続せずに売却することは原則できません。
そこでこのコラムでは、不動産を相続せずに売却することのリスクや、不動産を相続して売却するまでの流れについてご紹介します。
このコラムを読めば相続登記の重要性がわかり、不動産を相続してから売却するまでスムーズに進められるでしょう。
この記事を読んでわかること
- 不動産を相続せずに売却するのは原則不可能
- 不動産を相続して売却するには相続登記が必須
- 相続した不動産を名義変更しないとトラブルにつながる
相続せずに売却を検討する場面とは
本章では、相続せずに売却を検討する主な場面についてご紹介します。
- 相続した不動産を利用する予定がない
- 「換価分割」による遺産分割を行いたい
- 清算型遺贈を行いたい
それぞれ順番に見ていきましょう。
相続した不動産を利用する予定がない
相続した不動産を利用する予定がない場合、売却を検討する方が多いでしょう。不動産を所有しているだけで、固定資産税などの税金を毎年支払う必要がある他、定期的に清掃や点検などの維持管理が必要で、手間がかかります。
相続人が既にマイホームを所有している場合や、相続した土地が遠方で管理が難しい場合は、不動産を相続せずに売却することで管理の負担から解放されるでしょう。
「換価分割」による遺産分割を行いたい
換価分割とは、不動産などの相続財産を売却し、現金化してから相続人で分配する方法です。
相続人が複数人いる場合、相続した不動産を公平に分配するのは困難でしょう。相続人全員で不動産を共有することも可能ですが、不動産の運用や管理が難しくなるためおすすめできません。
不動産を売却して現金化できれば、相続人で公平に分配できます。換価分割による遺産分割を行いたい場合は、相続した不動産をすぐに売却するのが良いでしょう。
清算型遺贈を行いたい
清算型遺贈とは、被相続人が亡くなった後に不動産などの相続財産を現金化し、そのお金を受遺者に遺贈することをあらかじめ遺言書に明記しておく遺贈方法です。遺言執行者は、遺言書に基づき相続財産を売却して受遺者に売却代金を渡します。
被相続人が清算型遺贈を希望する場合、相続財産は速やかに売却されることになるため、相続人にかかる遺産分割協議の手間が軽減されるでしょう。
不動産は相続せずに売却できる?
不動産を相続せずに売却を検討する主な場面についてご紹介しましたが、ここからは実際に不動産を相続せずに売却できるのかについて解説します。
相続せずに売却は原則不可能
原則として不動産は相続せずに売却できません。不動産の売却は所有者でなければできないためです。所有者である被相続人が亡くなった後は、所有者が定まっていないため、売却の判断をできる方がいない状態となります。
しかし、遺産分割協議さえ完了していれば、被相続人からの名義変更や、相続登記を終えていない不動産の売買契約を締結することは可能です。その際は、所有権移転登記までに遺産分割をして相続登記を完了させる必要があると覚えておきましょう。
引き渡しの期限までに相続登記が完了できない場合は、違約金を請求される恐れがあります。
売却を検討している最中のリスク
不動産の売却を検討している最中に考えられるリスクが、相続人の誰かがご自身の法定相続分である不動産遺産共有持分を勝手に売却してしまうことです。共有持分買取事業者が相続人から安く共有持分を買い取り、他の相続人に対して安値で不動産の売却を求めるケースがあるため注意が必要です。
不動産の相続を共有名義ではなく単独名義にする、共有名義の場合は共有者全員で売却するなど、事前に相談して方向性を定めておきましょう。
相続人の間でトラブルが発生した場合は、弁護士に相談して紛争の解決に努めることをおすすめします。
不動産は相続してから売却
相続した不動産を売却するためには、相続手続きの完了が必須です。ここからは、不動産を相続した際に必須となる相続登記や、不動産の名義変更の重要性などについてご紹介します。
まずは相続登記が必須
相続した不動産を売却するためには相続登記をしなければなりません。相続登記とは、被相続人名義で登記されている土地や建物を、相続人の名義に変更する手続きです。
相続登記の申請は任意でしたが、所有者不明土地の発生を予防する目的で、2024年4月1日から相続登記の申請が義務化されます。相続により所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請が必要です。正当な理由なく期限までに申請しなかった場合は、100,000円以下の過料が科される恐れがあるため、忘れずに申請しましょう。
相続登記が済む前でも不動産売却を始められますが、相続登記に時間がかかると売買契約が締結できず、売却のチャンスを逃してしまう事態になりかねません。また、売買契約を締結できても期限までに相続登記が完了しなかった場合、違約金を支払わなければならないリスクがあるため、相続登記が済んでから不動産売却を依頼するのが無難です。
不動産の名義変更をしないともめやすい
相続した不動産を名義変更しないでいると、相続人の間でもめる原因となります。不動産の名義が被相続人のままだと不動産を売却できず、いつまでも具体的な行動に移せないためです。その間に相続人の誰かが亡くなった場合は、新たな相続人と協議する必要があります。このように新たな相続が発生すると所有者が増えるため、会ったことのない方とも協議しなければならない可能性があるでしょう。
なお、相続した不動産を法定相続人全員で共有名義にすることは可能です。しかし、不動産が共有名義の場合、法定相続人全員が同意しないと売却できません。スムーズに不動産を運用するのが難しくなるため、共有者はできる限り少なくするのが無難です。
不動産の相続が発生したら、早い段階で協議を行い不動産の名義変更を済ませましょう。
不動産を相続してから売却するまでの流れ
不動産を相続してから売却するまでの流れは以下のとおりです。
- 遺産分割協議
- 相続登記
- 売却・不動産の引き渡し・買主への所有権移転登記
通常の不動産売却とは流れが異なるため、ポイントを押さえておきましょう。ここからは、遺産分割協議や相続登記など各手続きの流れや、相続した不動産の活用について相談できる相談先などをご紹介します。
ステップ1|遺産分割協議
被相続人が遺言を残している場合は、遺言に従い遺産を分配するのが一般的です。遺言がない場合は、相続人全員で遺産分割協議を行います。
遺産分割協議の主な流れは以下のとおりです。
- 法定相続人の確認
- 法定相続分の確認
- 相続財産の確定
- 財産目録の作成
- 遺産分割協議
- 遺産分割協議書の作成
財産目録とは、全ての相続財産を一覧表にしたものです。財産目録は作成しなくても問題ありませんが、相続手続きをスムーズに進めるには欠かせない書類です。
財産目録などを基にして相続財産の所有者を遺産分割協議で決め、協議がまとまれば遺産分割協議書に協議内容を記載します。
最後に相続人全員が署名し、実印を押印して印鑑証明書を添付すると完了です。
遺産分割協議書の記載内容
遺産分割協議書に記載する主な内容は以下のとおりになります。
- 被相続人の最後の住所・氏名・死亡日
- 相続人全員が財産の分割方法や割合に合意している旨の内容
- 分割する相続財産の具体的な内容
- 相続人全員の住所・氏名・実印での押印
遺産分割協議書の形式や書式は特に決まっていないため、手書きやパソコンどちらで作成しても問題ありません。遺産分割協議書のひな形は、法務局のホームページからダウンロードできます。
遺産分割協議の期限
遺産分割協議の期限はありませんが、相続税の申告および納税の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10ヵ月以内です。期限を過ぎると税金の控除を受けられなくなるため、早めに遺産分割協議を進めましょう。
遺産分割協議書をスムーズに作成するには、税理士や弁護士などの専門家にアドバイスをもらうこともおすすめの方法です。
ステップ2|相続登記
遺産分割協議書の作成が終わり、不動産の相続人が確定した後は相続登記を法務局へ申請します。法務局に登記申請書を提出後、約1週間で相続登記手続きが完了することが多いです。申請書の不備や必要書類の不足があった場合は再提出が必要になるため、余裕を持って手続きをしましょう。
相続登記は単独で申請できますが、必要書類や手続きが複雑なため、司法書士などの専門家に依頼するのがおすすめです。
遺産分割協議による相続登記の必要書類
遺産分割協議による相続登記の主な必要書類は以下のとおりになります。
遺産分割協議による相続登記の必要書類 | 取得場所 |
登記申請書 | 法務局のホームページでひな形を入手可能 |
遺産分割協議書 | 相続人が作成 |
相続人全員の印鑑証明書 | 住所地の市区町村役場 |
不動産の固定資産評価証明書 | 不動産所在地の市区町村役場 |
被相続人の住民票の除票または戸籍の附票 | 住民票の除票:最後の住所地の市区町村役場 戸籍の附票:最後の本籍地の市区町村役場 |
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本 | 本籍地の市区町村役場 |
相続人全員の戸籍謄本 | 本籍地の市区町村役場 |
不動産を取得する相続人の住民票または戸籍の附票 | 住民票:住所地の市区町村役場 戸籍の附票:本籍地の市区町村役場 |
不動産の固定資産評価証明書 | 不動産所在地の市区町村役場 |
相続関係説明図 | 申請人が作成 |
遺言書による相続の場合は、必要書類が異なるため注意しましょう。
相続登記にかかる費用
相続登記の申請には、登録免許税の納付が必要です。登録免許税の税額は、不動産の固定資産評価証明書に記載している評価額に、税率1,000分の4をかけて算出します。
例えば、不動産の評価額が4,000万円の場合、登録免許税は以下のとおりです。
登録免許税:4,000万円×0.4%=160,000円 |
ただし、相続人が相続登記を受ける前に亡くなった場合や、不動産の評価額が100万円以下である場合は、登録免許税が令和7年3月31日まで免税されます。
司法書士に相続登記を依頼する場合は、司法書士の報酬が別途必要です。司法書士の報酬は、不動産評価額や不動産と相続人の数・依頼する司法書士によって変動するため、あらかじめ確認しておきましょう。
ステップ3|売却
相続登記が完了すると、不動産会社に売却活動を依頼し、買主を探してもらいます。買主が見つかれば、売買契約を締結して手付金を受け取るという流れです。
契約後は、不動産に関する書類や不用品の整理などを行います。引き渡し日当日に不動産の引き渡しおよび買主へ所有権の移転登記を済ませれば取引完了です。
ただし、不動産売却によって利益が発生した場合や、税金の控除を活用する場合は確定申告が必要な点に注意しましょう。確定申告は、不動産を売却した翌年の2月16日から3月15日の間に、管轄の税務署に提出します。
確定申告について不安な場合は、税理士や税務署に相談しましょう。
不安があれば専門家へ相談を
相続した不動産の売却や活用について悩む場合は、専門家に相談するのがおすすめです。
「セゾンの相続 相続不動産の有効活用」では、相続不動産の有効活用に詳しい専門企業と提携しており、専門家との無料相談や最適なプランの提案を受けられます。
「セゾンの相続」では、生前対策から相続後の手続きまで幅広く対応しているため、将来に備えて早めに相続対策を考えたい方や、すでに相続が発生した方までさまざまな悩みに対応可能です。
セミナーの参加や相談は全て無料です。相続についてひとりで悩まずに、専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
おわりに
不動産の相続が発生した場合、原則として相続せずに売却できません。相続した不動産の名義変更をしなければトラブルのリスクが高まるため、早めに相続登記などの手続きを済ませることが重要です。
相続した不動産の売却や活用でお悩みの方は、「セゾンの相続」を活用して専門家に相談するのがおすすめです。いつ相続が発生してもスムーズに対応できるように、早いうちに準備をしておきましょう。