前編では「侵入窃盗犯に狙われやすい家のポイントや侵入されにくくするための防犯対策」についてお話ししました。後編は「地域防犯の重要性」「侵入窃盗被害に遭った被害者心理」及び「侵入窃盗犯の心理」などについて考えるきっかけとなり、今後の防犯対策に役立つことを願っています。
1.安全性に対する住民意識
有識者研究会が、自身の居住する地域の安全性に対して、どのような認識をしているのだろうかを調査した結果は次のとおりでした。
〇 特段の危険を感じていない 55%
〇 明確な不安がある 5%
〇 漠然とした不安がある 34%
明確な不安を持つという回答が、5%と非常に低い割合だったことから、体感治安はおおむね良好であると判断できます。各自が実践している防犯対策としてどのようなことを実践していますかとの質問に対しては
〇 玄関にセンサーライトを設置した 22%
〇 犬を飼っている 10%
〇 警備保障会社のシステム導入した 9%
という回答でした。
侵入盗に対する防犯の要諦は、「狙わせないこと」と「侵入させないこと」です。警視庁「データで見る侵入犯罪の脅威」によると、平成14年の338,294件(過去最多)をピークに、平成15年から侵入窃盗の認知件数は減少に転じており、令和4年は36,588件まで改善されました。一方で、それでも発生している侵入窃盗犯罪は悪質・巧妙化してきており、住民の体感治安を守るためにも、生命・身体・財産を守るための防犯対策は絶え間ない改善と研鑽が求められるのです。
2.侵入窃盗被害に遭った被害者の心理
例えば、空き巣被害の現場を目の当たりにした被害者は、ただ茫然とその場に立ちすくむことになります。空き巣などとは全く無縁だったはずの自宅が無残に荒らされ、あらゆる金品が全て持ち去られた現実と向き合うと同時に、ふつふつと湧いてくる恐怖心により、警察に通報する気力さえ喪失しそうになるのです。恐怖心から立ち直った後には、空き巣などありえないと根拠のない安心感の隙を突かれた自分を責めてしまうことも多く、(人的被害がなかったとしても)小さくない心理的被害・精神的被害が以後の生活にも暗い影を落とし、思い出すだけで震えが蘇るトラウマを発生させます。
空き巣被害に遭った恐怖や怒り、諦めなどの挫折感に覆われて、いつまでも引きずり、また空き巣被害に遭ったらどうしよう、家族にもし被害が及んだらなどと考えてしまい、恐怖に怯える暮らしを余儀なくされる被害者が、現実として存在するのです。平穏な日常を脅かす侵入窃盗の実態を知ってもらうことで、防犯に対する明確な意識と防犯対策の必要性を認識していただき、つらい思いをする被害者をひとりでも減らしたいのです。
3.侵入窃盗犯の心理
まず、敵すなわち侵入窃盗犯の心理を知ることで、防犯対策としてより効果的なものを選択できます。侵入窃盗しようとする犯罪企図者(所謂「泥棒」)は、「誰からも見られず」「入りやすく」「逃げやすい」場所の家を下見・物色した上で狙います。
ターゲットは[大金を持っていそうな家]には限らず、[入りやすそうな家]なのです。大金がなくても、ある程度の金品が手に入れば良いと割り切っているため、防犯の手薄な侵入しやすい家が選ばれます。つまり、ローリスクな家を優先するということです。ほんのちょっとした隙を泥棒に狙われていることを決して忘れてはいけません。
泥棒は、徒歩または自転車等で一般通行人を装い、住宅街や集合住宅地をくまなく物色します。玄関・窓・洗濯物・庭の状態、犬の飼育状況及び建物の裏手・周辺状況などから、当該家屋の居住実態(年齢・人数など)及び防犯実態・防犯意識等を把握し、一番入りやすい家屋にターゲットを絞ります。
特に重要なポイントは「死角の存在」です。どこが死角なのか、泥棒にとっての死角とは、家屋敷地内に侵入する際に、誰からも発見されない見つからない場所であり、例えば家屋の裏側、庭の奥まった場所、さらには家屋周囲の清掃・整理整頓状況などから死角(隙あり)ありと判断します。
泥棒の心理の一端がわかれば、日常の防犯対策の在り方が見えてきます。家屋の裏手については、侵入を阻止するために塀を高くする、有刺鉄線の設置などの対策をしてください。また、家の周辺には物を雑然と放置せず、こまめに掃除をするなど美化に努めてほしいのです。美化整頓されている状態を見た泥棒は、家人が清掃のために出てくるかも知れないと思いターゲット候補から外す傾向があります。
庭に植栽がある場合に、プライベート保護の観点から道路から家屋が見えないように密集させて植えていると、一度侵入してしまえば潜む場所にもなるし、外からの視線を一切気にしなくて良い空間となり、泥棒にとって好都合な環境となります。そのため、侵入に利用される植栽の剪定や外部からの視線空間を確保することも検討しましょう。
4.狙われやすい家(振り返り)
泥棒の心理をある程度理解したところで、改めてどのような家が狙われるのかを考えましょう。泥棒になった気持ちで、我が家の「弱点」つまり狙われやすい場所・箇所を調べることで、採用すべき防犯対策が見えてきます。
4-1.自宅直近道路(通り)からの見通しはどうか
玄関・窓・勝手口が見えにくい、あるいは全く見えない家ほど狙われやすく、泥棒の潜む場所としても最適な場所となります。
4-2.交流が盛んな住宅地なのか、交流のない新興住宅地なのか
近隣住民同士の交流がない、あるいは少ない住宅地だと、例え見知らぬ人が通行しても、違和感を持たれにくいため、特に新興住宅地は狙われやすいのです。一方、住民同士の交流が盛んな住宅地は、見知らぬ人に対しても挨拶や声がけをしたりすることから、泥棒からすれば顔を見られた、声をかけられた、ということで犯行意欲を喪失するのです。交流の盛んな住宅地は、結果として防犯意識も高く映るのです。
4-3.2階の窓やベランダに乗り移れる足場があるのか
まさか泥棒が2階から入って来ないなんてことないだろう、というのは大きな間違いです。泥棒は家屋に設置された雨どい・配管や近接する電柱・外塀及び敷地に設置されたカーポートなどから侵入してきます。1階の窓は施錠しても、2階以上は施錠されていないことが多く、泥棒からしてみると窓を壊す労力と察知される危険が少ないのです。
4-4.ワンルームマンション等の集合住宅
ワンルームマンションなどは住民同士の交流がほとんどなく、昼間帯は大半が留守の状態が多いため、連続して侵入し犯行を行いやすい環境です。また、3階以上の集合住宅の場合は、周辺通行人からの視線が遮断されやすいことも併せて一層狙われやすいのです。
4-5.留守にしていることを知らずに表明していないか
留守宅は泥棒にとって最高の獲物です。危険の度合いが格段に落ちるからです。特に長期留守をする場合は、新聞配達を停止し、洗濯物は部屋干しとし、室内照明を点灯しておく、手頃な価格で購入できる機器を使用しテレビのON/OFFを自動操作する、など、留守・不在を悟られにくくする工夫が必要です。
おわりに
侵入窃盗犯(泥棒)は、日常のちょっとした隙を狙っています。このコラムで知識として得たものを、常に意識し、防犯対策を生活習慣として日々実施するようになっていただけたらと思います。一見発生確率が低く無駄だと思えるような対策の積み重ねが、安全を確保することになり、日常生活に安心と余裕を生みます。住まいは、あなたとその家族の生命・身体・財産を守る大切な宝箱です。悪質・巧妙かつ大胆な犯行から大切な宝箱をしっかり守っていきましょう。