住まない実家を相続すると維持管理や固定資産税の納付などをしなければならず、負担になるのではないかと思う方は多いことでしょう。しかし、対処法もあるため、使い方によっては有効活用も可能です。
本記事では住まない実家を相続すると負担になる理由、相続放棄について、相続時の対処法について解説します。実家の相続についての基礎知識を解説していますので、実家を相続するか悩んでいる方はぜひ内容を参考にしてください。
この記事を読んでわかること
- 住まない実家を相続してはいけない理由は「維持管理や税金の納付が負担」だから
- 相続放棄はすべての遺産を放棄しなければいけないため「実家だけ相続しない」ことはできない
- 住まない実家を相続した場合にも対処法がある
「住まない実家は相続してはいけない」とされる5つの理由
住まなくなった実家は相続してはいけない、といわれているのには理由があります。
実家がいらないといわれる主な理由は、次のとおりです。
- 税金
- 管理の負担
- トラブルの発生
誰も継がないからといって、実家を所有してしまうとさまざまな問題が発生します。実家を相続するときには、所有するリスクを理解しておくことが大切です。
ここからは、住まなくなった実家を相続したときのリスクについて解説していきます。
自分が実家に住んでいないと相続税が高くなる
自分が実家として住んでいない家を相続すると、相続税が高くなります。相続税が高くなる理由は「小規模宅地等の特例」が利用できないからです。
小規模宅地の特例とは、一定条件を満たした土地を相続した場合、相続した土地の評価額が下がる特例です。自宅として住んでいた実家を相続し小規模宅地等の特例を利用すると、330㎡までの土地の評価が80%下がります。
例えば、敷地200㎡・土地評価5,000万円の土地を相続したときに小規模宅地等の特例の適用を受けると、土地の評価が1,000万円として相続税が計算されます。
なお、小規模宅地等の特例の対象者や対象物は、次のとおりです。
【対象者】
- 被相続人の配偶者
- 被相続人と同居していた親族(1.に該当する方がいない場合)
- 被相続人と別居している3年以上借家に住んでいる親族(1.と2.に該当する方がいない場合)
被相続人に配偶者や同居人がいない場合、相続前の3年間借家住まいの相続人が取得する
【対象物件】
- 被相続人が自宅として使っていた土地
- 介護保険法の要支援や要介護認定を受けた被相続人が、特定の介護施設に入居する直前に住んでいた自宅の土地
参照元:国税庁|No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
なお、上記は住宅地の内容であり、事業用の土地でも小規模宅地等の特例が利用できます。ただし、適用要件や評価割合は、居住用とは異なります。
実家を維持管理する負担が大きい
実家を相続すると維持管理をしなければならず、大きな負担がかかります。
維持管理とは、建物の定期的な換気や庭の手入れなどです。建物は換気をしないと湿気が溜まり、痛みが進行し急激に老化してしまいます。また、庭の管理をしないと草木が生い茂り、建物の入り口に近づけなくなるということも珍しくありません。
しかし、これらの作業を常に行うのはかなりの負担となり、放置してしまう方も多くいらっしゃいます。特に相続した実家が遠方にある場合の維持管理は、難しいと考えたほうが良いでしょう。
放置しておくとさまざまなトラブルに発展する
実家の維持管理をせず放置すると、トラブルになってしまうことがあります。
よくあるトラブルの内容は、次のとおりです。
- 庭の雑草が伸びて隣地に越境した
- 屋根がはがれ落ちて通行人に当たった
- 害獣が住み着き近隣に危害を加えた
- ゴミが不法投棄された
- 放火された
- 空き家に知らない方が出入りするようになった など
上記のように空き家となった実家を放置すると、さまざまなトラブルを引き起こします。いったんトラブルになってしまうと、解決にお金がかかったり裁判所に出廷したりするなど、かなりの負担がかかります。
そのため、維持管理が負担であっても、放置するのは避けなければいけません。
固定資産税や維持管理費がかかる
実家を空き家にしていても、固定資産税や維持管理費がかかります。
固定資産税は空き家にしているかどうかは関係なく、土地や建物などの固定資産を所有しているだけで課税され続けます。
また、実家を維持管理するには、電気と水が必要となるためライフラインを通しておかなければいけません。ライフラインを通せば、使用していなくても基本料金がかかります。
そのため、実家を維持するだけでもランニングコストがかかってしまいます。
「特定空家」になるリスクがある
実家を空き家のまま放置してしまうと、自治体から「特定空家」と指定されるリスクが発生します。
特定空家とは、次のような項目に該当する空き家です。
- 建物が崩壊や倒壊などを起こし近隣に危害を与えてしまう恐れがある
- 動物が住み着くなどして悪臭を発生させるような衛生上よくない状態になっている
- 落書きなどで周辺の美観を損なっている など
自治体から特定空家に指定された後も放置をしていると、次のような措置を取られます。
- 空き家の状態を改善するための助言や指導
- 状態を改善するための勧告
- 固定資産税の減税特例である「小規模住宅用地の特例」が受けられなくなる
- 状態を改善するよう命令される
- 500,000円以下の過料が科せられる
- 行政代執行により建物が強制撤去される(撤去費用は建物所有者の負担)
1.~5.の流れの中で特に気をつけなければいけないのは、3.の「固定資産税の特例が受けられなくなる」です。固定資産税は小規模住宅用地の特例が適用されると、土地面積200㎡までの土地の固定資産税が1/6になります。
小規模住宅用地の特例は、敷地の上に住宅が建築されていれば適用される制度です。しかし、特定空家の改善勧告を無視すると特例が利用できなくなり、固定資産税が最大6倍になってしまいます。
参照元:国土交通省|空家の除却等を促進するための土地に係る固定資産税等に関する所要の措置(固定資産税等)
【注意!】住まない実家だけの相続放棄はできない
住まない実家を相続したくないといっても、実家だけを相続放棄することはできません。
相続放棄をするときには、実家だけでなく現金や株などの遺産を一切相続できなくなります。
仮に一切の遺産を相続しないとしても、相続放棄をするときには注意点が数多くあります。
相続放棄をする場合には、注意点を理解してから放棄しましょう。
相続人全員が実家の相続を放棄すると管理責任が生じる
相続人全員が実家の相続を放棄すると、相続人全員に管理責任が生じるため注意しなければいけません。
実家の所有権を放棄しても、管理責任までは放棄できません。そして、管理者がいない場合は、相続財産清算人が選任されるまでは相続人全員で実家を管理する必要があります。
相続財産清算人とは、相続財産を清算するまで管理してくれる方です。相続放棄すると裁判所が相続財産清算人を選定します。そして、相続放棄された実家を相続財産清算人が清算します。
しかし、相続放棄の申請が家庭裁判所に受理されてから相続財産清算人が選任されるまでは、管理者不在になってしまうわけです。そのため、相続放棄から少しの期間は、相続人全員で実家の適正な維持管理が必要になります。
相続放棄するなら3ヵ月以内に手続きを
相続放棄をするには、相続があったことを知ってから3ヵ月以内に所定の手続きをしなければいけません。
3ヵ月というのはかなり短い期間であり、その間に被相続人の遺産の種類や金額を確定して放棄するか判断する必要があります。期間内に家庭裁判所に対して相続放棄の申し立てをしなかった場合は、自動的に法定相続人が実家を相続することになります。
なお、3ヵ月で遺産の範囲を確定できないなどの理由があるときは、家庭裁判所へ相続放棄の考慮期間を延長してもらうことも可能です。
住まない実家を相続する・しないは総合的に判断しよう
住まない実家を相続するか、しないのかについては総合的に判断しましょう。住まない実家を相続した場合、管理したりランニングコストがかかったりとデメリットがあります。
しかし、いったん相続して国に実家の土地を帰属させたり、土地を活用したりする方法もあります。そのため、実家を相続するかどうかは、相続放棄のデメリットや相続してからの対処法を把握し、総合的に判断することが大切です。
住まない実家を相続した場合の対処法
住まない実家を相続した場合でも、多くの対処法があります。
例えば、次のような方法で対処します。
- 国に土地を帰属させる
- 親の死後すぐに売却する
- 田舎の実家なら空き家バンクを利用する
- 欲しい方や団体に譲る
- 自治体や会社に寄付する
- 土地活用して不動産収入を得る
- 相続のプロに相談する など
ここからは、住まない実家を相続した場合に、特に効果的な対処法について解説します。
相続土地国庫帰属制度を活用する
実家を相続し手放す手段として、相続土地国庫帰属制度があります。
相続土地国庫帰属制度とは、2023年4月27日からスタートした制度であり、相続した土地を手放して国庫に帰属させる方法です。
相続土地国庫帰属制度の申請時点で却下されてしまう土地の要件は、次のとおりです。
- 建物がある土地
- 抵当権や地上権などの担保権・使用収益権が設定されている土地
- 土地所有者以外の他人が予定している・予定されている土地
- 土壌汚染対策法に規定される物質により土壌汚染されている土地
- 境界が明らかになっていない土地
- 所有権の有無や所有権の範囲について争いがある土地
つまり、上記の条件に該当しなければ、申請が可能ということです。
ただし、申請をしても審査によって不承認になるケースがあることには注意しなければいけません。
また、相続土地国庫帰属制度を利用するときには、審査手数料や負担金が発生します。
具体的な金額は、次の表のとおりです。
審査手数料 | 土地1筆につき14,000円 |
宅地 | 面積にかかわらず200,000円 ただし、都市計画法の市街化区域または用途地域が指定されている地域内にある宅地は面積に応じて算定される |
田・畑 | 面積にかかわらず200,000円 ただし、次の田・畑については面積に応じて算定される ・都市計画法の市街化区域または用途地域内にある農地 ・農業振興法の農用地区域内にある農地 ・土地改良事業などの施行区域内にある農地 |
森林 | 面積に応じ算定される |
その他※雑種地、原野等 | 面積にかかわらず200,000円 |
上記のように相続土地国庫帰属制度には適用要件があり費用がかかります。
しかし、不要な土地を引き取ってもらえるというメリットがあります。
相続後すぐに売却して実家を手放す
相続後すぐに実家を売却すれば、実家にまつわる悩みから解放されます。実家を相続して所有している限り、維持管理をしたり固定資産税を納税したりしなければいけません。
使わない物に対して手間や金銭がかかるのは、非常に負担となってしまうため、実家を手放してしまうのもひとつの手段です。
また、相続後すぐに実家が売却できれば、遺産分割もスムーズに進むというメリットもあります。
不動産は相続人が複数いると、トラブルのもとになるケースがあります。現金と違い分割しにくく、不動産の価値に相当する現金がない場合、特定の相続人の相続財産が多くなってしまうからです。
相続はトラブルがおきやすく売却も難しいため、実家を手放すときには不動産の専門家に相談しましょう。
自治体の空き家バンクに登録する
実家が郊外や地方にあり不動産会社が取り扱ってくれない場合は、自治体の空き家バンクに登録して手放しましょう。
空き家バンクとは、自治体や民間会社が協力しあい、郊外の不動産流通を活発化させるために行っている不動産事業です。空き家バンクの成功例は多くあり、郊外の古民家をカフェにする、仕事場にするなどの目的で購入者が見つかっています。
空き家バンクに登録して実家を売却できれば、維持管理の負担が減るだけでなく、移住者の促進・地域活性化につながります。
欲しい方や団体に譲る
「実家を売りに出すならぜひ欲しい」という人や企業があれば、その方に譲るのも方法のひとつです。
実家が郊外や地方にあり通常であればなかなか売れない場合でも、実家の隣地の企業が事業拡大のために土地を求めていることもあります。そのような方であれば良い条件で購入してくれる可能性があるため、譲渡の相談をしてみるのもよいでしょう。
自治体・個人・法人に寄付する
さまざまな対処法を実施しても、立地や老朽化が原因で買い手が見つからないときには寄付という手段があります。
実家を寄付する先として考えられるのは、次のとおりです。
- 自治体
- 一般個人
- 法人
ただし、自治体への寄付はハードルが高いと考えておきましょう。自治体は、固定資産の所有者から固定資産税の納税を受けています。しかし、寄付を簡単に受け付けてしまうと、固定資産税の税収が減ってしまうからです。
自治体への寄付を検討するときには、関係部署の方に相談したうえで進めていきましょう。
土地活用して不動産収入を得る
実家の立地が良ければ、土地活用をして不動産収入を得ましょう。
主な土地活用の方法は、次のとおりです。
- 建物をリフォームして賃貸住宅にする
- アパートなどを経営する
- 更地にして駐車場経営する
- 高齢者施設を建設する
- 家庭菜園や農地として貸し出す
- 資材置き場として貸し出す
上記のように実家の立地状況によっては、さまざまな活用方法が考えられます。
ただし、支出をともなう活用方法を選択するときには、専門家に相談しながら進めていきましょう。
多額の費用をかけると収入も多くなりますが、その分リスクが高まります。
リスク回避のためには専門的な知識と、慎重な判断が不可欠です。
最適なプランをプロに相談する
実家を相続したときには、手放すなどの対処法を選択するとしてもプロに相談してから行うことが大切です。
実家の相続や売却は専門的な知識が必要で、判断を間違えると損害を受ける可能性があります。
特に不動産活用は投資用のお金が必要になるケースがあり、判断を間違えると大きな損害が出てしまいます。
そのため、不動産活用を選択するのであれば、プロに相談するのが良いでしょう。
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おわりに
住まない実家を相続してはいけないといわれる理由は、維持管理の負担や課税などがあるからです。
使わない家に対して、維持管理をしたり金銭を負担したりするのは大きな負担となります。
しかし、実家を貸したり、売却したりするなど対処法も存在します。どのように対処していくかは、実家の立地や状態で決めていかなければならず、不動産の知識がない方には判断できないこともあるでしょう。
そのようなときは不動産の専門家に相談して進めていきましょう。不動産の専門家であれば最適なプランを提示して、実家の相続についての悩みを解決してくれるはずです。