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認知症のテストにはどんなものがある?

認知症のテストにはどんなものがある?
矢島隆二 医師・医学博士

執筆者

医師・医学博士

矢島隆二

新潟大学医学部卒業後、幅広く臨床経験を積み重ね、新潟大学附属脳研究所で認知症研究を行い医学博士となった。現在は認知症や神経難病を中心に、リハビリテーションにも重点をおいた医療を担っている。神経内科専門医・指導医、総合内科専門医、認知症専門医・指導医、認知症サポート医、日本医師会認定産業医、日本リハビリテーション医学会認定臨床医。医学博士。講演や執筆の依頼も積極的に受けている。法曹の方々からの依頼で遺言能力を鑑定し、遺言書の有効性についての鑑定書作成もしている。https://yajima-brain-clinic.com/

認知症について、興味を持っている方も多いと思います。でも、いざ認知症かどうか知りたいと思っても、その測り方がわからずに心配ばかりが強くなってしまっている方もいるかもしれません。もちろん、最終的に信頼できる検査結果を揃えるためには、専門的な医療機関にかかる必要があります。いきなりそんな医療機関を受診するとなるとハードルも高いと思いますので、まずは自宅でできるセルフチェックから始めて、心配であれば身近なかかりつけ医の先生に相談し、そのうえで精密検査が必要と判断されれば、地域の専門医療機関を紹介してもらえれば安心です。

そこで、今回のテーマは、「認知症のテスト」について、掘り下げていきます。認知症かどうかを判断するために、どんなテストがあるのかを一緒に見ていきましょう。

早期発見のための初期症状チェック

早期発見のための初期症状チェック

日常の暮らしの中で、認知症の始まりかどうかを調べるための早期発見の目安として、“家族がつくった「認知症」早期発見のめやす”という指標が公表されています。この指標の特徴は、「公益社団法人 認知症の人と家族の会」の会員の方々の経験からまとめられているということです。医学的な意味での診断基準とは異なるものですが、実生活の体験から、医療の専門家ではない方々の目線でまとめられたものとして、非常になじみやすく、価値のあるものだと思います。もしご自身や身近なご家族様に関して、当てはまる項目が多いようであれば、専門家に相談してみると良いと思います。

ほかに、見落とされがちな症状としては、“幻覚”もあります。その中でも認知症に関連したものとして、視覚にまつわる幻覚である“幻視”に注意が必要です。具体的には、小動物(猫やネズミなど)や虫、人間が家の中に見えることが多いです。いずれの場合も通常は鳴き声や発話を伴わないことが多いです。そのため患者さんは、“誰かがじっとそこにいる”などと訴えることが多いです。患者さん自身が自覚しやすい症状で、“自分でもおかしいと思っている”と理解されている方も少なくありません。飲食物に虫が見えてしまうと、食欲低下・食事拒否の原因になることもあります。

また、“レム睡眠行動異常症”と呼ばれる睡眠障害が、認知症に先行して生じることもあります。この“レム睡眠行動異常症”は、浅い眠りであるレム睡眠期に比較的ありありとした夢を見て、叫びだしたり、手足を動かしたりすることが特徴的な症状です。夢の内容は、災害に遭ったり、何かに追いかけられて必死で逃げるなど、本人にとって好ましくない内容のことが多いとされます。この症状が見られたときは、特に“レビー小体型認知症”という認知症の初期症状であることが多いです。

自分でできる認知症のセルフチェック

自分でできる認知症のセルフチェック

もうひとつ、「公益財団法人 認知症予防財団」が公表している“大友式認知症予測テスト”をご紹介します。このテストは、認知症のごく初期、認知症の始まり、あるいは認知症に進展する可能性のある状態を、ご自身や身近な家族が簡単に予測できるように考案されたものです。20点満点で、0~8点は正常、9~13点は要注意、14~20点は専門医などでの診断が推奨されています。目安となる点数が示されているので、セルフチェックにも適していると思います。

認知症の疑いがある場合にはどこに相談するべき?

自分や身近なご家族様に関して、”認知症かもしれない”と思ったとしても、その次にどこで相談したら良いか、困ってしまう方もいるのではないでしょうか?信頼できるかかりつけ医のお医者さんがいる方は、その先生に相談されると良いでしょう。でも、そうでない方々におすすめなのが、地域包括支援センターで相談することです。

地域包括支援センターとは、各市町村が設置主体となって、保健師・社会福祉士・主任介護支援専門員(主任ケアマネージャー)等が配置された専門施設のことです。これらの3つの職種がチー ムを組んで相談に乗ることによって、地域住民の健康を保持したり、生活を安定させるために必要な援助を行ったりすることで、その保健医療の向上や福祉の増進を包括的に支援することを目的としています。一言でいうと、ご高齢者の健康面や生活全般に関する相談を受け付けている、地域に密着した総合相談窓口です。相談できる内容は、日常生活でのちょっとした心配事から、病気、介護、金銭的な問題、虐待など多岐にわたっています。

認知症の検査とは?(神経心理学検査・脳画像検査・血液検査)

認知症の検査とは?(神経心理学検査・脳画像検査・血液検査)

まず、脳画像検査機器を持たない地域のかかりつけ医の先生に相談された場合、簡単な神経心理学検査を実施されるかもしれません。代表的な簡易スクリーニングとして、改訂長谷川式簡易知能評価スケールや、ミニメンタルステート検査(MMSE)があります。あくまで目安ですけれど、MMSEでは、30点満点で23点以下の場合に認知症を疑うことになっています。また改訂長谷川式簡易知能評価スケールでは、30点満点で20点以下の場合に認知症を疑うことになっています。

これらの検査で認知症の恐れがあると疑われた場合は、より精密な検査を行うために、脳神経領域を専門としたクリニックや、認知症の専門医療機関を紹介されるかもしれません。それらの医療機関では、より詳しい神経心理検査のほか、頭部CTや頭部MRI、脳血流SPECT検査などの頭部画像検査が行われます。

また、認知機能の低下が疑われたときは、血液検査で甲状腺機能、ビタミンB1、ビタミンB12、梅毒感染の有無、HbA1cなども調べます。HbA1cは糖尿病の検査でよく用いられる血液検査です。甲状腺機能が低下していたり、ビタミンB1やビタミンB12が不足していたりすると、認知機能が低下してしまい、一見認知症のように見えてしまうことがあります。また、近年日本でも増加傾向の梅毒に長年感染したままでいると、認知機能が低下する要因になりえます。そして糖尿病を患っていると、アルツハイマー型認知症や血管性認知症を発症するリスクが上昇することがわかっています。糖尿病であっても、どこの医療機関にもかかっておらず、気づかれないままという方も少なからずいるため、検査されることが多い項目です。こういった、治療介入できる要素がないかどうかをチェックすることも、大切なポイントです。

そして、なかなか診断がつかない場合は、脳脊髄液検査(のうせきずいえきけんさ)が行われることもあります。脳脊髄液検査は、梅毒の病原体が中枢神経に感染してしまう神経梅毒や、腫瘍、炎症性疾患の除外を目的として行われます。また、脳脊髄液中のアミロイドβやリン酸化タウというタンパク質の濃度を解析することは、アルツハイマー病かどうかの判断に役立ちます。

近いうちに、アルツハイマー病の新薬が日本でも発売される見込みです。その際は、その薬の適正使用のために、上述の脳脊髄液検査や、さらに専門的な頭部画像検査も保険診療で行われる可能性が高まっています。医学の進歩に応じて、認知症の検査も広がりを見せています。

おわりに

今回は、「認知症の検査」についてまとめてみました。ひとことで認知症の検査といっても、内容はさまざまです。認知症の原因を調べる検査や、認知症の重症度を調べる検査があり、必要に応じて取捨選択されるものです。認知症の新しい薬が世に出る見込みが立ち、認知症の検査もますます進歩していきそうです。「どうせ治らないから」と決めつけることなく、心肺のある方は早めに周囲に相談していくと良いと思います。

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