相続した不動産を売却したいと考えていても、どこに相談すれば良いかわからない方も多いでしょう。不動産売却の相談先は、相続の手続きによって異なります。
本記事では、不動産を相続してから売却するまでの流れや相談先、注意点を解説します。最後まで読んでいただければ、不動産売却に関する悩みが解消し、スムーズに相続手続きを進められるでしょう。
この記事を読んでわかること
- 相続手続きは期限が設けられているものがあるため、早めに進める
- 不動産相続に関する相談をする前に、遺言書や相続財産を調査する
- 相続不動産の売却は不動産会社、名義変更は法務局や司法書士に相談する
- 相続した不動産を売却する前に遺産分割協議を進め、名義変更をしなければならない
相続手続きには期限がある
不動産に関する相続手続きのなかには、期限が設けられているものも少なくありません。
期限内に手続きしなければ、ペナルティとして余計な税金が課される可能性があります。相続手続きを進める順番に沿って解説します。
【3ヵ月以内】相続放棄・限定承認
相続放棄と限定承認の手続きは、自己のために相続が開始したと知った日から3ヵ月以内に完了しなければなりません。相続放棄とは、亡くなった方の財産を相続する権利をすべて放棄することです。プラスの財産よりも借金などマイナスの財産が多いときに、相続放棄の制度が利用されます。
限定承認とは、マイナスの財産をプラスの財産の範囲内で相続する方法です。マイナスの財産を受け継ぎたくないけれども、実家を相続したい場合などに利用されます。
相続放棄と限定承認は3ヵ月以内に手続きを済ませる必要があるため、すぐに動き出しましょう。
【4ヵ月以内】準確定申告
亡くなった方の確定申告である準確定申告は、相続が発生したと知った日の翌日から4ヵ月以内に手続きをする必要があります。準確定申告は、複数の企業から給料を受け取っている場合や、不動産所得があった場合などに手続きが必要です。
準確定申告は、相続人が連名で書類を提出しなければなりません。適用される控除は、亡くなった日の状況によって決まります。生命保険料や社会保険料の控除の対象は、亡くなった日時点で支払いが完了しているものです。
参照元:国税庁 | No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)
遺産分割協議
遺産分割協議とは、相続人全員で遺産を受け継ぐ割合を決定する話し合いです。期限は決められていませんが、相続税の申告が必要な方は遺産分割協議を早めに進めておきましょう。
遺産分割協議が終わらなくとも相続税申告はできますが、協議がまとまった後に、少なく納税した方から多く納税をした方に対して、差額を支払う手間がかかります。
話し合いが完了したら遺産分割協議書を作成し、署名と押印をします。遺産分割協議書は、パソコンで作成しても問題ありません。
不動産売却
相続税の納税で現金が不足する場合は、申告の前に不動産を売却しましょう。
なお、売却するまでに、不動産の名義変更を済ませておかなければなりません。被相続人(亡くなった方)の名義のままでは、売却ができないためです。名義変更には遺産分割協議書が必要になるため、事前に相続人同士話し合っておく必要があります。
相続税の納税が不安な場合は、早めに相続手続きを進めておきましょう。
【10ヵ月以内】相続税の申告・納税
被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヵ月以内に、被相続人の住所を管轄する税務署に相続税申告をしなければなりません。相続税申告が必要な方は、遺産総額が基礎控除を上回る方です。基礎控除は、以下の計算式で求められます。
- 相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の人数
例えば、法律で定められた相続人である法定相続人が配偶者と、子ども2人の合計3人の場合は、4,800万円が基礎控除額になります。この場合、遺産総額が4,800万円を上回らなければ、相続税の申告は必要ありません。
また、生命保険の非課税枠や未成年者の税額控除などを利用し、基礎控除を越えない場合も申告不要です。ただし、配偶者控除や小規模宅地等の特例など利用する特例によって、申告が必要となる場合があるため、注意が必要です。
不動産相続相談前にチェックすること
不動産相続に関する相談をスムーズに進めるために、以下のポイントを確認しましょう。
- 遺言書の有無を確認する
- 相続財産を把握する
- 相続人の確認
それぞれ詳しく解説します。
遺言書の有無を確認する
相続手続きを進める前に、遺言書があるか確認しましょう。遺言書は被相続人の意思を反映した書類であり、遺産分割において優先されるためです。
遺言書を探すときは、自宅や公証役場、法務局で探しましょう。公証役場とは、公正証書遺言の作成や企業の定款を作成する役場です。法務局は、遺言書の保管や不動産の名義変更を担う公的機関を指します。
もし自宅で見つかった場合は、遺言書を開封してはいけません。家庭裁判所の検認を受けずに勝手に開封してしまった場合、法律上、5万円以下の過料が科せられます。開封せずに、家庭裁判所で遺言書の内容を確認する検認の手続きをしましょう。
相続財産を把握する
不動産相続の相談をする前に、被相続人の相続財産を確認してください。財産によって相続放棄や相続税の申告の有無など、どのような手続きが必要か判断するためです。
確認しておきたい財産と探すものは以下のとおりです。
財産の種類 | 探すもの |
預貯金 | クレジットカード、通帳、郵送物 |
株式 | 証券会社からの郵送物 |
不動産 | 固定資産税の納税通知書、名寄帳 |
借金 | 郵送物 |
もし不動産を確認するときに、毎年春頃に届く固定資産税の納税通知書が手元になければ、不動産を管轄する役所で名寄帳を取得しましょう。名寄帳とは、市区町村内で個人が所有している不動産を一覧にまとめたものです。書類に掲載されている地番や家屋番号を基に、相続税の申告の有無を判断します。
相続人の確認
遺言書や財産の確認のほかに、被相続人の遺産を受け継ぐ法定相続人を確認しましょう。
被相続人の配偶者は常に法定相続人となり、第1順位、第2順位の方が続いて法定相続人となります。
例えば、被相続人に配偶者と子どもがひとりいたときの法定相続人は、配偶者と子どもの合計2人です。
もし、遺言書で法定相続人以外に知人や遠縁の親族などが指定されていた場合、受遺者として遺産を受け取れます。しかし、遺留分を侵害する取り分だった場合、法定相続人から受遺者に対して遺留分侵害請求がされる場合があります。遺留分とは、一定の相続人に対して、遺言によっても奪うことのできない遺産の一定割合の留保分のことです。
【ケース別】遺産相続の相談先
遺産相続の相談先は内容によって、異なります。本章では、相談内容ごとの相談先を解説します。
【不動産売却】不動産会社
相続した不動産を売却したい場合は、不動産会社に相談しましょう。まずいくらで売却できるか、無料査定を依頼します。
相続税の納税費用に充てるために不動産の売却を考えている場合は、費用や売却時期の目安などを相談しましょう。売却が遅くなると納税のタイミングに間に合わない可能性があるため、注意が必要です。
不動産会社によって得意なエリアや売却仲介の手法が異なるため、複数社に査定を依頼しましょう。不動産会社によっては、数百万円もの金額の差が出ることもあります。査定金額だけでなく、担当者の対応や売却期間、各社のサービス内容などを確認することも大切です。
【名義変更】法務局または司法書士
不動産の名義変更の相談は、法務局か司法書士に相談しましょう。法務局は電話だけでなく、対面でも相談を受けています。お住まいの近くの法務局は、一覧から確認してください。
ただし、法務局は予約制の相談窓口が多いため、予約が必要かどうか確認してから行きましょう。また相談できる時間帯が限られており、予約が取りにくいこともあります。
予約が取りにくい場合は、司法書士事務所に相談することも方法のひとつです。司法書士事務所の場合、無料の電話相談や、Zoom・Google Meetなどを使ったオンライン相談を行っています。予約が必要な事務所がほとんどのため、確認してから行きましょう。司法書士会のアンケート調査によると、名義変更を依頼する費用は、関東地区で平均65,800円です(条件等は参照元を確認ください)。
なお、相続不動産の名義変更は、2024年4月に義務化される予定です。相続が発生したら、速やかに名義変更を行いましょう。
参照元:日本司法書士連合会 | 報酬アンケート結果(2018年1月実施)P.6
宇都宮地方法務局 | 知っていますか?相続登記の申請義務化について
【遺産分割協議】弁護士または司法書士
遺産分割協議は、専門家である司法書士か弁護士に相談しましょう。司法書士と弁護士は業務範囲が異なり、どちらに相談するかは、相続人にトラブルが発生しているかどうかで判断してください。
遺産分割協議で揉めてしまい、トラブルになった場合は弁護士に依頼しましょう。弁護士であれば、裁判になった場合も対応できます。
弁護士は遺産分割協議書の相談だけでなく、作成を依頼することも可能です。しかし、費用が高額になる傾向にあります。相続手続きの費用を抑えたい場合、司法書士に依頼しましょう。
司法書士は登記に関するために限定した遺産分割協議書の作成や、相続人や相続財産の調査、不動産の名義変更などトラブルになっていない相続に関する全般を相談できます。
【相続税】税理士
相続税を相談するときには、相続に強い税理士に相談しましょう。税理士は企業の決算や顧問を仕事としている事務所がほとんどであり、相続を得意としている事務所が少ないためです。ホームページに掲載されている口コミや実績数を探して、安心して相談できる事務所を探しましょう。
税理士に依頼する費用は、税理士事務所ごと報酬体系も異なり、遺産相続に応じた基本報酬を設定し、そのうえで難易度等に応じて加算報酬を設定しているところが多い印象です。
なお、相続税の申告期限は10ヵ月以内のため、早めに相談しましょう。申告期限が迫っているときに税理士に依頼しようとすると、加算報酬がかかったり、依頼を断られたりする恐れがあります。
どこに相談すれば良いかわからない場合
相談先がわからない場合は、以下の相談窓口で相談しましょう。
- 市役所
- 金融機関
- セゾンの相続
詳しく解説します。
市役所
市役所では、無料の法律相談窓口を開設しており、弁護士や司法書士などに相談できます。ただし、常に開催しているわけではないため、開催日時を確認しましょう。人気の窓口は、予約制になっていることが多いため、あらかじめ確認しておくのがおすすめです。
なお、市役所の相談窓口は誰でも利用できるわけではありません。市役所の管轄する住所に住んでいる方や勤務している方などに限られます。
また、一般的な相談には役所の職員が対応し、内容が専門的な場合は専門家に繋ぐ場合もあります。15~20分程度の制限時間が設けられている場合もあるため、質問内容をあらかじめまとめておくことをおすすめします。
金融機関
相談先に迷った場合、口座がある金融機関に相談するのも方法のひとつです。金融機関は、相続の専門家との繋がりがあるため、どこに相談すれば良いのかアドバイスをもらえる可能性があります。
ただし、あくまで専門家を紹介するだけで、その場で専門的な内容のアドバイスは受けられません。
なお、金融機関に相談すると、被相続人の口座は凍結されます。被相続人の口座から光熱費や通信費の支払いをしていた場合には、金融機関に相談する前に引き落とし口座を変更しましょう。
セゾンの相続
相続全般の相談をしたい場合は「セゾンの相続 相続手続きサポート」に相談しましょう。相続の専門家である司法書士のご紹介が可能ですので、以下のような相続手続きをトータルでサポートします。
- 戸籍の収集
- 相続財産の調査
- 遺産分割協議書の作成
- 不動産の名義変更
- 預金の解約
専門家に依頼すれば、数多くの書類を用意する手間もかかりません。オンラインで相続の手続きが完結するサービスもあり、時間を取れない方にもおすすめです。
相続した不動産を売却する場合の注意点
相続した不動産を売却する際は、注意すべきポイントが2つあります。
- 遺産分割協議・相続登記をして売却する
- 税金の申告を忘れない
それぞれのポイントを解説します。
遺産分割協議・相続登記をして売却する
不動産売却をする前に、遺産分割協議で不動産の相続人を決め、名義変更をする必要があります。不動産を被相続人の名義から変更しないままでは、売却ができません。
また、売却をしない場合でも、早めに名義変更をしておくことをおすすめします。相続登記による名義変更をしないうちに新たな相続が発生すると、芋づる式に相続人が増える可能性があるためです。相続人が増えるほど関係性が複雑になり、遺産分割協議がまとまりにくくなります。
最悪の場合、裁判となって親族関係が崩れ、相続に関する費用が膨らんでしまう恐れがあります。2024年4月に相続登記による名義変更が義務化されるため、早めに手続きをしましょう。
税金の申告を忘れない
不動産を売却して利益が出ると、税金が課されます。必ず不動産を売却した翌年に、確定申告をしましょう。申告漏れがあると、無申告加算税や延滞税などの余計な税金を支払わなければならないためです。
また、相続した不動産は、被相続人が不動産を購入したときの取得費や、所有期間を引き継ぎます。確定申告で税金を計算する際に必要となるため、被相続人が購入したときの売買契約書を探しましょう。
もし見つからないときは、以下の方法があります。
- 不動産会社や売主から売買契約書の写しをもらう
- 通帳の出金履歴から購入金額を推測する
- 住宅ローンの金銭消費賃貸契約書から購入金額を推測する
用意した書類や推測した取得費で確定申告が認められるか、事前に税務署に相談しておきましょう。
おわりに
相続手続きは期限が設けられているものが多いため、手続きを早めに進めましょう。特に相続放棄と限定承認の期限は3ヵ月のため、期限内に手続きが終わるように四十九日を待たずに、準備を始めることが大切です。
不動産の相続を相談する前には、遺言書や財産、法定相続人を調査しておくとスムーズです。また、相談先はケースに応じて使い分けましょう。