アパート経営には節税効果があります。所得税のほか相続税や贈与税といったアパート経営で節税できる税金の種類と、効果的な手続きを経ることにより上手に節税するコツをお伝えします。一方でアパート経営の節税面には複数の注意点があります。
そもそも今後のアパート経営にはどれほどの収益性を期待できるのでしょうか。不動産収益と節税効果、どちらを優先させるべきなのでしょうか。時勢も分析したうえで、どのようなポイントがあるのかを確認していきましょう。
この記事を読んでわかること
- アパート経営で節税できる税金は「所得税」「住民税」「相続税」「固定資産税」の5つ
- アパート経営で節税するためのコツ
- アパート経営の節税対策は、専門家の意見を聞きながら無理のない範囲で行う
アパート経営で節税できる税金は?
アパート経営は不動産運用の一種です。所有する土地に上物(建物)を建築することで安定した収入を得ることができます。またアパート建築はとても高価なため、建築費用はキャッシュではなく金融機関からアパートローンを借りることが一般的です。
その際の支払利息を含む借入金も(マイナスの)遺産として計上できます。具体的に個別の税金ごとに見ていきましょう。
所得税
まずは所得税です。複数ある所得税の対象に不動産所得があり、家賃収入から経費を引いたものが課税対象となります。かつ、この不動産所得が赤字となった場合、他の所得と相殺することで「損益通算」できる仕組みがあります。
アパート経営をしている方の中には複数物件を所有している方も多いです。その場合はまず不動産所得の中で損益通算し、ほかの所得に展開します。具体的な計算式を見ていきましょう。
一例として、給与所得が700万円、所得から引くことのできる所得控除額が150万円とします。その他に給与所得控除があり、この場合は190万円とします。
(700万円-190万円-150万円)×20%(所得税率)-427,500円=292,500円
この時に不動産所得でマイナスの100万円があるとします。
(700万円-190万円-150万円-100万円)×10%(所得税率)-97,500円=162,500円
つまり、この場合アパート経営をすることで130,000円の所得税を削減することができます。不動産の損失が100万円出ているため、キャッシュ面ではマイナスではないかという指摘がありますが、建築したアパートは資産にもなるため、税額やキャッシュ単体ではなく、大局的に判断する必要があります。
住民税
同様に住民税の計算にも節税効果があります。給与所得が700万円、アパート経営で100万円の赤字が出ている場合、
(アパート経営あり)(700万円-100万円)×10%+5,000円-2,500円=602,500円
(アパート経営なし)700万円×10%+5,000円-2,500円=702,500円
※住民税の均等割を5,000円、調整控除を2,500円と仮定。
住民税においては100,000円の節税効果があります。住民税が実際に請求されるのは翌年のため、翌年に収入が大幅に落ちた場合にこそ効果があります。
相続税
アパート経営の建設費用を、金融機関からアパートローンを借りて用意する方も多いと思います。この時に借りた借入金も遺産としてカウントされるため、遺産総額から借入金をマイナスして相続税評価額を減らすことができます。
現金で相続するより不動産活用した方が評価が下がり、節税にもなります。特に高齢になってからアパート経営を始める場合は、ローンの残債が残る可能性があるため、相続税の節税効果は重要視したいところです。
固定資産税
人が居住するための家屋の敷地として利用されている土地(住宅用地)に対しては「住宅用地の特例」という優遇措置を受けられるので、固定資産税額が6分の1になります。また都市計画税が3分の1となります。この固定資産税のメリットを目的としてアパート経営をされる方もとても多いです。
一方で空き家の状況が続く場合は優遇措置の対象外となる「空き家特措法」が制定されています。アパート経営として管理ができている場合は問題ないのですが、管理ができていない場合、確実に節税効果があるとは言い切れなくなっていますので留意しましょう。
アパート経営で上手に節税するコツ
アパート経営で上手に節税するためのコツをお伝えします。
青色申告を活用する
第一のポイントは青色申告を活用することです。一般的にアパート経営は、部屋数が10室以上であれば事業的規模として認められるので青色申告をすることができます。青色申告をすると、100,000円または650,000円の青色申告特別控除を受けることができます。
また家族を青色申告専従者として設定することができます。専従者に対する給与は経費計上することができるため、青色申告の節税メリットといえます。
減価償却費も最大限に利用する
また建物自体の節税効果も重要です。新築建物の場合、建物価額を耐用年数で割った金額を減価償却費として経費計上できます。経費となると収入(アパートの家賃収入)に対し、不動産所得を低くすることができます。
税理士などが監修していない場合、確定申告の際、減価償却費は忘れがちなため、意識するようにしましょう。建物のほかに家具家電や共有部分の設備などをオーナー側で用意して提供する物件もありますが、これらも減価償却費の対象です(耐用年数は建物とは異なります)。
経費にできるものの書類は取っておく
確定申告の大きな特徴は、さまざまなものを経費にできることです。ただ、それは確定申告において客観的に証明できるものでなければなりません。一般的には、以下の費用は経費にできる可能性が高いです。
- 物件の清掃費や管理費・修繕費
- 物件の共有する部分の水道光熱費や通信費
- アパート経営において支払った税金(印紙税・固定資産税・都市計画税など)
- 不動産オーナーとして支払っている火災保険などの保険料
これらは1月1日から12月31日の間をひとつの会計基準として、翌年2月の確定申告にて申請します。物件所在地ではなく、オーナーが居住する地の最寄りの税務署にて申請します。申告においては領収書など経費として使用した証明が必要になる場合もあるため、常日頃から保存する習慣をつけておくようにしましょう。
アパート経営で節税対策する際の注意点
アパート経営で節税対策する時の注意点は何でしょうか。
節税効果目的でアパート経営しない
アパート経営においては節税の前に、あくまで利益を生むことが第一目的です。先の計算式で100,000円の節税のために100万円のマイナスの例がありましたが、節税は達成できてもキャッシュとしては100万円損失を生じています。不動産投資で得た上物(建物)が資産になるとはいえ、キャッシュを喰うものでは意味はありません。
継続して利益が生めるようになった次段階として、節税効果の創出を目標としましょう。ただ給与所得など、不動産以外で多額の所得税が予想される場合は、不動産事業単体で利益を生まない場合でも物件に投資をするという考え方はあります。
節税は無理のない範囲で
節税のスキームは誰もが知っている上物を建てることによる固定資産税・都市計画税の削減から、法律に抵触しないのかと疑われるものまでさまざまです。特に不動産関連はさまざまな話が持ち込まれるため、「節税したい!」と躍起になって無理をすると、いつのまにか脱税とみなされてしまう可能性があるので注意しましょう。
アパート経営ではありませんが、相続前後のタワーマンション売買のように、その時々では問題がなくても、後から怪しい流れになる場合もあります。違和感のある話が入ってきたら独断で判断せず、不動産オーナーの仲間や専門家に相談するようにしましょう。
場合によっては節税効果があまり感じられないことも
築年数の経過に伴い設備や躯体の減価償却が終わっていくと、減価償却費が計上されなくなります。それにより物件の持つ節税効果が薄れることになります。木造・鉄骨など建物がどのような素材で建築されているかによって耐用年数は異なります。
減価償却費の計上が切れると、不動産業者から建て替えの話が持ち込まれます。一見魅力的ですが、昨今の少子化や人口減少でアパート経営は今後さらに難易度が上がると見られており、収支のシミュレーションはとても大切です。収支を優先し、次段階として節税効果を計ったうえで意思決定していきましょう。
わからないことは専門家に相談する
アパート経営は長期にわたるものです。専門家のサポートを受けながらできるだけリスク回避することが大切です。もともとアパート経営は安定性の高い資産運用といわれています。ただ、その性質は高い入居率の維持などが前提の話で、少子化や人口減少、賃貸物件の嗜好の変化などで以前よりも専門性の高いコンサルティングを不可欠とするものです。
アパート経営の税金対策においては、「セゾンの相続 相続対策サポート」による専門家の紹介サービスを活用し、経営において信頼できるサポートを受けることができます。協力体制の構築がアパート経営を成功させる大きなポイントになることは間違いありません。
おわりに
アパート経営と税金対策についてお伝えしました。アパート経営はさまざまな税金の削減効果があるものの、前提は安定した不動産収益の確保です。そのうえで効果的な節税効果を求めていきましょう。
土地を所有している方の場合、なかなか一般の方にはわからない知識や判断、先読みを必要とします。信頼できる不動産コンサルタントなどに併走してもらい、可能な限りリスクを減らしていきましょう。